2019年6月4日 火曜日

M&Aの事例から読み解く潮流《web制作会社》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

web制作会社は、クライアントからの依頼を受け、webサイトの新規構築や既存のwebサイトのリニューアル、コンテンツの追加などを行う会社です。web制作には、webプロデューサーやwebデザイナーなど、多くの専門職が携わりますが、技術の進歩がとても速い業界であり、常に最新の専門知識が要求される仕事です。

web制作会社の業界ではM&Aが活発に行われており、今後もその勢いはとどまらないと考えられています。高値の取引も増え、web制作会社には大きなチャンスが転がっています。
web制作会社を買収し、ITの技術力を高めたいと考えている買収候補企業は多くいます。またweb制作会社が直接保有しているwebサービスに関心がある買収候補企業もいるでしょう。
本稿では、web制作会社のM&A事例と、実施するポイントをご紹介します。

web制作会社におけるM&Aの動き

web制作会社は、クライアントの意向に沿ったwebサイトを制作します。
webサイトの構成プランを考え、クライアントと内容をすり合わせた後、具体的なデザインを練っていきます。PC上でデザインが固まったら、そのデザイン通りにweb上で動かせるようにサイトをコーディングします。必要なシステムを追加し、webサイトが完成します。
昨今のweb制作会社の仕事は新規にwebサイトを制作するだけにとどまりません。既存のwebサイトの効率的な運用を任される場合もあります。対象となる既存のwebサイトに流入しているユーザーのデータを分析し、サイトの改善策を提案します。

ここ数年で、IT業界内のM&Aは増加傾向にあります。
IT業界内のM&Aは、2018年の11月末時点で979件実施されました。過去最多となった2017年の748件を大きく上回ります。同年内の全M&A件数の35%を占め、M&Aが盛んな業界の一つと言えるでしょう。買収ニーズが高く、売却側企業は最適な買収先を探しやすくなっています。買収側企業も、希望条件を満たすweb制作会社を買収できる可能性が高まっています。

売却を行うケースとしては、売却益の獲得を目的として実施する経営者が増えています。売却先はIT系企業である事が一般的で、買収する企業は、IT技術の獲得を目的としていることが多いです。買収によって、売却側企業の技術力をそのまま買い取ることが狙いの一つになっています。

最近のweb制作会社のM&A事例

具体的なweb制作会社のM&A事例をみていきましょう。

ファウンダー株式会社による「資金調達プロ」の事業譲渡

運営しているwebサイト自体も大きな資産となり得ます。
2018年1月、ファウンダー株式会社は6億2000万円で、webサイト「資金調達プロ」を東証一部上場の株式会社セレスに事業譲渡しました。「資金調達プロ」は法人・個人向けの融資に特化したサイトです。高額なアフィリエイト収入を得ており、その収益性の高さから、事業譲渡に成功しました。サイトの運営期間は3年間で、業務委託スタッフのみでサイト運営を行っていました。アフィリエイト収入は月収1000万円ほどだったようです。

ニッチイノベーション社の事業譲渡事例

2018年11月にニッチイノベーション社は株式会社これからに事業承継しました。
株式売社これからは、web制作を中心にコンサルティングや運用代行などを行う企業です。お笑い芸人「にゃんこスター」のアンゴラ村長が勤務していることで有名です。株式会社これからは、売り上げ増進のためにM&Aを用いた事業成長を志向していました。ニッチイノベーションは、EC事業者を対象とした商品ベータベースの構築や、ショッピングカートへの誘導などに実績とノウハウがありました。
M&Aによって両社は、お互いの経営資源を結集させ、Eコマース市場における事業基盤を強化しました。

web制作会社のM&Aを実施するうえでのポイント

web制作会社のM&Aを実施するうえでのポイントをご紹介します

売却側のポイント

売却の目的を明確にする

売却を行う際には、売却によってどのような効果を期待しているのかを明確にしましょう。そして売却には、具体的に何が必要なのか検討することで、M&Aを実施する目的がはっきりします。
売却の目的が資金を得ることであれば、売却金額があがるように財務データを整える準備が必要です。
売却金額のすり合わせの際にも多くの時間を使った方がいいでしょう。一方で、従業員の雇用の確保が目的であれば、売却金額の交渉以上に、売却後の従業員の雇用条件についてすり合わせを行いましょう。
売却の目的を明確にすることでM&A実施際に気を付ける点も明確になります。

売却のタイミングを明確にする

必ずしも狙ったタイミングで事業売却ができるとは限りません。M&Aにおいて、タイミングは非常に大切な要素といえます。
また、買い手候補が見つかっても交渉が破綻することもあります。売却には少なくとも6カ月ほどの期間が必要だと考えておくといいでしょう。タイミングを逃さないために、できる限り早く準備をすませておくといいでしょう。
また、市場環境が変化していることにも留意が必要です。web制作会社のM&Aは追い風にありますが、いつまでも好況が続くとは限りません。買収側企業も買収に躊躇するタイミングが来るかもしれません。売却を完了したいのであれば、売却できる際に迅速な判断することが得策です。

M&Aの事実は社員に秘密にする

M&Aの秘密保持には気を付けましょう。売却の計画が漏れると、その事実を不安視して、中心となる従業員が会社を退職することもあります。特にweb制作会社は人が資産です。事業の中心となる従業員が退職してしまっては、売却時の交渉で不利になってしまいます。最悪の場合、交渉そのものが破綻になってしまうことも考えられるので、M&Aを進めていることが社員に漏洩しないよう注意しましょう。

売却先とのシナジーを考える

事業売却が成立する上で、会社の相性は非常に重要です。
買収企業は事業シナジーが見込める会社を買収したいと考えています。一方、売却側としては、売却後も手塩にかけて育ててきた企業が、成長を続けていくことを願っています。

トップ同士がしっかりと信頼関係を築き、それぞれの会社の長期的な成長に共通認識を持つことができれば、事業売却後の経営統合作業も、円満に進むでしょう。
売却の交渉において、意固地になって自分の条件にこだわりすぎていては、話がうまくまとまりませんし、売却が成立したとしてもその後の統合がうまく進まないでしょう。

買収側のポイント

買収の目的を明確にする

目的の明確が重要なのは、買収側企業も同様です。どのような経営資源(人材、顧客、商材、情報、技術、ブランド等)を獲得したいのかをしっかり検討する必要があります。
現在のweb制作会社は、webサイトの制作だけではなく、ブランディングやプランニングを行うことで差別化を図っています。例えば、買収により、提案力、プランニング力の向上が目的の一つになるでしょう。
M&Aの目的は、以下のような様々なものが考えられます。

  • シナジーのある事業を獲得する
  • 規模の経済を追求する
  • 新しい事業の柱を作る
  • 多角化によって経営の安定をはかる 等

売却側と同様に目的が不明確なままではうまい交渉も進められません。

正当な評価を行う

情報不足から、ニーズに合致しない会社を買収してしまったり、条件の合う企業を買いそびれてしまうことが起こります。幅広く案件情報は集め、各社の情報についてもしっかりと収集し、適正な判断を行えるようにしましょう。

正当な評価には、シナジーも含みます。M&Aで2社が合わさることにより、単純な2社の足し算以上に大きな価値が生まれます。シナジーには、収益向上のシナジーもあれば、コスト削減のシナジーもあります。
web制作会社の場合は、その会社がどのようなスキルを持ち、どのような制作案件に対応できるかをしっかり見極めておくことが重要です。
また、web制作会社は人材が最も大きな資産になるので、社員数を確認の上、社員が急に辞めるリスクがないか、確認しておきましょう。
実績の評価という観点では、どのぐらい取引先数があるか、安定した集客力を持つのかという点も重要な視点になるでしょう。大手の取引先がいる企業であれば実力も折り紙つきかもしれません。
また、顧客のリピート率は収益力を示す一つの指標になります。

友好的な交渉

売り手企業の社長は当然、今まで運営を行ってきた会社・社員に強い思い入れを持っています。買収を成功させるには、売り手社長の心情に十分配慮して交渉することも重要です。
売り手企業の思いを理解せず、上から目線の高圧的な態度で接したり、自分に有利な条件ばかり提示すると、信頼関係が築けず、交渉が破綻してしまいます。
売り手社長の売却目的は様々あります。「高い価格で売却したい」、「正当に評価されたい」、「従業員や取引先にとって良いM&Aでありたい」、「個人保証をはずしたい」など、様々なインセンティブが働いているので、それらの目的を踏まえた上で、交渉をする必要があります。

交渉で最も重要なトピックといえるのが買収価格でしょう。
買収価格は、現状の業績、財務内容、事業シナジーだけでなく、将来の事業価値も含めて検討を行います。楽観的な事業計画を鵜呑みにしては、大きな失敗につながりかねません。
一方で、正当な評価ができずに安い金額を提示してしまうと、交渉自体が破綻してしまいます。特に魅力ある売り手企業であれば、複数の買い手が競合している場合がほとんどです。相場価格を大きく下回る金額での買収は非現実的です。過去の成長が将来の成長を約束するわけではないので、企業価値の評価は単純ではありません。例えM&Aの専門家が同時に企業価値の評価を行ったとしても同じ企業価値評価になるとは限らないのです。適切な提示価格は売り手がどこまで価格に拘りがあるかにもよります。センシティブな条件であるが故に、相場価格前後の金額を正しく提示することが重要です。

買収後の役割を明確にする

M&Aは買収が成立すれば、成功という訳ではありません。むしろ、買収後の事業の成績がM&Aの成功を表しているといえるでしょう。
買収の際にも、買収後の経営統合について考えと計画をまとめておくことが重要です。M&Aを検討する部門と、買収後の経営統合を担う部門の間に認識の差が生まれると、上手く事業統合が進みません。
買収の検討段階で、収後の経営責任を持つ部門がしっかりとコミットして、買収の検討やデューデリジェンスに関わるとよいでしょう。

まとめ

具体的な事例を踏まえて、web制作会社のM&Aの潮流を見ていきました。
web制作会社は、クライアントからの依頼にも柔軟対応できるコミュニケーション力と、最新のwebサイトを構築できる技術力の双方が求められる仕事です。
特に技術については、昨今のwebの進歩が、とても早いこともあり、身につけることが困難です。webプロデューサーやwebデザイナーなど、多くの専門職が携わりますが、企業が0からその体制を整えていくのは難しいことです。
そのため、web制作会社のM&Aは実行しやすい環境にあります。高額で取引されるケースも増え、web業界には大きなビジネスチャンスが転がっています。web制作会社を買収し、ITの技術力を高めたいと考えている企業は多くいます。またweb制作会社が直接保有しているwebサービスに目を付ける企業もいるでしょう。
一方で、小さなweb制作会社であれば、M&Aを活用して、資金を得たいと考えている経営者が多くいます。今後もweb制作会社のM&Aは盛んに行われることでしょう。

web制作会社のM&Aに興味のある方は、本稿を参考にぜひ前向きな検討をしてみてはいかがでしょうか。

事業売却の事例から読み解く潮流《web制作会社》
この記事では、まずweb制作会社の事業内容に関してご紹介した後に、M&A市場におけるweb制作会社の動向について解説します。
次に、個人事業主による事業売却や大手事業者の動向が話題となっているweb制作事業において、実際に行われた事例を紹介した後に、これから事業売却を検討しているweb制作会社の経営者が注意するべきポイントに関しても解説します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年6月4日
事業承継の事例から読み解く潮流《web制作会社》
WEBからお問い合わせ
当社はお客様の事を最優先で考える成果報酬型エージェントです。
匿名をご希望されるお客様には、会社情報など一切公開せずにお問い合わせ頂く事が可能です。

お問い合わせ内容

氏名

電話番号

メールアドレス

メールアドレス(確認)

業種

会社名

お問い合わせ内容