2019年5月31日 金曜日

事業承継の事例から読み解く潮流《web制作会社》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

この記事では、M&Aによって事業承継を図る経営者が増加している背景を解説した後、web制作会社の事業内容と業界構造についてご紹介します。

また、web制作会社がM&Aで事業承継を実施した事例を紹介するとともに、今後事業承継を検討しているweb制作会社の経営者が注意しておきたいポイントに関しても解説していきます。

 

web制作会社における事業承継の動き

近年は、国内人口の減少によって後継者不足に悩む中小企業が増え続けており、将来的に多くの会社が後継者不在で廃業を選択するリスクが高くなっています。経営者の親族が別の業種に就いていたり、資金が不足していることを理由に社員から承継を断られるケースも増加しており、従来の主流である親族内承継や社員への親族外承継が近年では困難となっています。

しかし、M&Aを行なうことによって他の企業へ会社を売却・引継ぎが可能なため、後継者問題を抱える中小企業の経営者がM&Aを検討、実施することが増加しつつあります。

現代におけるweb制作会社は、webサイトのデザイン、開発から運営までを主に実施する事業者であり、担当する工程ごとに元請け、下請け、孫請けの企業が存在している業界構造となっています。

従来のweb制作会社は、プログラミング技術を重視しており、Flashが流行していた2000年代半ば頃には、デザイン案をweb上で実現することを主な事業内容としていた時期がありました。しかし、現代では制作技術よりもマーケティング力や、ブランドイメージの強化に繋がる知識が求められる機会が増加しており、マーケティングをコア事業とするweb開発会社も出てきています。

既に保有している技術を伸ばしていく企業も存在する一方、webサイト制作技術を応用してアプリ開発やIoTなどに進出していく企業も出てきており、web制作会社が担う業務内容が多様化している事がピラミッド型の業界構造を形作る要因となっています。

web制作会社を含むIT業界でのM&A件数は毎年増加しており、2018年にはIT業界のみで1000件を上回るM&Aが実施されています。事業拡大を目的としてweb制作会社を取得しようとする企業が増え、サイト運営によって多額の広告収入を得ている個人事業者が出てきていることもM&A件数増加の理由として挙げられます。

個人事業者が売り手となった場合は取引額が数十万円ほどのスモールM&Aとなるケースもあり、中小規模の事業者でもM&Aを実施しやすい環境が整っていると言えます。

IT業界でM&Aが活発化している流れを受けて、特に市場需要が高い業種の一つである、web制作会社を中心的に取り扱うM&A業者も増加しつつあります。

 

最近のweb制作会社の事業承継事例

・事例1:ホームページ制作会社がデザイン会社へ事業承継

千葉県のホームページ制作会社であるA社は、デザイン会社であるB社へ株式を譲渡することによって、事業承継を実施しました。

B社はIT関連事業への新規展開を目指しており、安定した経営実績を持つA社の譲受を希望していました。A社の事情によって事業承継を実施する日時が決められていたので、非常に時間的な余裕がないM&Aだったとされます。

A社の譲受を希望する企業は多かったが、特に強く譲受を希望するB社への承継が決まってからは、スムーズに手続きが進んだとされています。

 

・事例2:web制作会社が大手ソフトウェア会社へ事業承継

web制作を展開しているC社は、大手ソフトウェア業者であるD社へ株式を譲渡することによって、web制作事業を譲り渡しました。

C社は多数の上場企業から直接依頼を受けているブランド力の高い企業であり、業績は右肩上がりを続けていましたが、社長は株式譲渡でweb制作業を売却し、新事業に挑戦したいとの理由からM&A代行業者へ相談をしたとされます。

C社の保有するデザイン力と、顧客の事業内容を理解したうえでコンサルティング営業を行い、有名企業との取引を成立させた実績が評価され、複数社が買収を希望したとされます。

最終的に買収先となったのは、事業領域の拡大を目的とする上場企業のD社。事業を統合することによって高いシナジーが得られると確信し、当初の予定よりスムーズに話が進んだとされています。

結果として、経営者同士によるトップ面談から1ヶ月半という短期間で事業承継が成立したとされます。

 

・事例3:インターネット広告業者Eがマーケティング業者Fへ事業承継

ネット広告関連のサービスを手掛けるE社は同事業の黎明期から参入しており、業界内では相応に名が知れていて、実績も積み重ねている企業です。しかし、人手および資金が不足していることから業績が停滞していたとされます。

問題を解決する手段として、E社の経営者は同事業を自社より豊富な経営リソースを持つ企業へ売却し、獲得した対価を他の事業へ使うことを決断したとされます。

買収先となったのはwebマーケティングに関連するサービスを提供している上場企業のF社であり、

ネット広告業へ進出することを以前から検討していたとされます。双方のニーズが一致したことによって手続きはスムーズに進み、経営者同士が最初に対面してから半年弱で事業譲渡が成立したとされます。

 

web制作会社の事業承継を実施するうえでのポイント

・幅広い業務に対応できるか

一般公開したwebサイトは、幅広い層の人々が閲覧するコンテンツです。さまざまな人に購読されるwebサイトを制作するには、ユーザー目線でページを開く目的を考えて、収益に繋げられるようにページを設計する必要があります。

現代ではユーザーが情報を見分ける手段も増えているので、web制作業者はプログラミングが得意なだけではなく、高度なマーケティング技術や営業力を兼ね備えていることが望ましいと言えます。

webサイトの開発・設計ができる社員は高い事業価値を持ちますが、エンジニア以外にも多様な人材を揃えている企業は一層高い売却利益を獲得でき、大手事業者へ事業承継を行える可能性があります。

 

・技術者の人数と質

web制作会社は大手・中小を問わず、web制作会社で必要な業務スキルを一から習得するには多くの時間とコストが掛かりますが、事業譲受で社員を引き継ぐことによって、実務経験を積んだ社員を複数人同時に雇用できるのは大きなメリットです。

ただし、相手にとって需要のある社員を引き継がなければ事業承継が成立する可能性は低くなります。売却側企業が100名単位の従業員を雇用していたとしても、買収側企業が探していることが多い、「webサイト制作全般に精通した人材」が居なければ承継を断られる、あるいは安い金額で買収を提案される可能性があります。

10名ほどの少人数でサイトの設計開発から運用までを実施している場合は、社員一人一人が優れているとも解釈できるので、少人数でも技術力が評価されるケースも想定されます。

しかし、経営維持に手一杯で技術開発や社員教育が進んでいないと相手企業に推測されやすいので、小規模なweb制作会社を売却する際には従業員が保有している技能や資格の他に、負担を軽減するために一部工程を外注しているといった取り組み実績をデータとして準備しておく必要があります。

 

・複数の取引先があるか

web制作会社をM&Aで売却する場合、「取引先の引継ぎ」は重要なポイントになります。

定期的に受注がある取引先を複数社持っていれば安定した収益が見込めるので、買収に掛かったコストを回収できるまでの期間も分かりやすく、将来的に事業拡大に貢献できる可能性が高いと言えます。特に、取引先から直接受注を受けている場合は余分な手数料も掛からないので、元請けのweb制作会社は高い事業価値があると言えます。

大手事業者との取引実績があったとしても散発的で、他に取引先がない状況である場合は、唐突に収入がストップする可能性もあるので、安定していない企業と言えます。

1社の大手事業者と取引をしているよりも、幅広い業種の会社と継続的に取引をしているweb制作会社の方が収益力は高く、安定した企業であると言えます。

 

・独自の強みを持っているか

web制作会社を売却しようとする経営者は多く、売却を検討している事業と似通った案件が既に出回っている可能性もあります。

買収側企業の注目を引きつけるには、自社が展開している事業をしっかりと把握したうえで、他社にはない事業ノウハウや有力な企業との取引実績であるなど、自社独自の強みを見出して適切にアピールしていく必要があります。

具体的なデータに基づいたアピールであるほど、直接交渉の時にも有力な情報として用いることができます。採算性が低い事業である場合でも、用いられている技術によっては買収を希望する企業が現れる可能性もあります。

資金や技術者といった経営リソースを投入することによって収益力が大きく向上するケースは存在するので、承継する事業のデータを揃えておくことは重要です。

 

・事業承継を始めるタイミング

web制作会社のM&Aを検討する場合、経営者の体力面や会社の経営状況に余裕がある間に準備を進めておくことをおすすめします。

M&Aに必要な期間として、1社目でスムーズに成約した場合で半年~1年ほど掛かることが一般的です。親族内承継や社員への親族外承継に比べれば短期間で実施可能ですが、交渉過程でトラブルが起こり、売却先を探す過程で時間が掛かると成約までの期間は延びます。

M&Aの成約率は平均して3~5割とされており、1社目と交渉決裂した場合は次の相手企業を探す期間も必要になります。時間的な余裕がない状況でM&Aを進めようとしてもトラブルが起こりやすく、仮に成約できたとしても相場より安い額で売却することになるリスクが高くなります。

 

・事業承継の計画は機密性を保っておく

M&Aによる事業承継では、社員や取引先にはM&Aを進めていることは公表せずに手続きを行うことを強く推奨します。各過程では従業員に事務作業やデューデリジェンス用のインタビューを依頼する場面も出てきますが、M&Aの準備であることは伝えずに、「財務調査や現場の業務を把握したい」といった理由付けをしておくのが良いでしょう。

見通しが立っていない段階でM&Aの話が従業員へ知られた場合、実際の理由に関わらず経営難であると認識されやすく、従業員への求心力が低下する要因になります。M&Aを上手くまとめるには従業員の理解と協力を得ることが重要ですが、計画を公表した後にM&Aが破談になってしまうと、先行きを不安に感じた従業員が離職する可能性があります。

また、従業員を経由して取引先に話が伝わった場合も余計な不安を与えやすく、契約を打ち切られるリスクが高くなります。実際に取引先が減ってしまうと今後の経営に影響することに加え、M&Aの話が難航するケースも想定されます。

信用できる役員に対してM&Aの補佐を依頼する場合を除き、成約するまではM&Aの情報を外部へ公開せずに手続きを進める必要があります。

 

・M&A代行業者のサポートを受ける

事業承継を検討するweb制作会社は中小企業である事が多いと思われます。大手企業のM&Aは世間一般まで伝わることも多いですが、実際に行われているM&A件数の内の多くは、中小企業によるものです。

同じweb制作会社でも、事業内容は企業によって異なることが珍しくないです。売却側企業にとっては採算が取れない事業でも、相手から見れば成長性が高い事業である可能性はあります。

多くの事業者から需要と供給が一致する相手企業を探し出すのは困難ですが、M&A代行業者へサポートを依頼することによって、短期間で買収先を探せる可能性が高くなります。

近年では、事業承継を目的とした中小規模のM&Aが増加しており、優れた技術を保有しているweb開発会社をM&Aによって統合しようとする大手事業者も増えつつあります。

実際に代行業者へ相談する際には、web開発業界に関して詳しく、多くのM&Aを成立させていることを重視して、サポートを受ける代行業者を選ぶことをおすすめします。

 

まとめ

近年ではweb制作会社を獲得しようとする企業が多く、売却側企業は多数の候補から買収先を選べる状況です。

事業承継を目的としたM&Aは今後増加していくと予測されており、これから事業承継を検討するweb制作業者が最適な買収先を探し出すには、M&A代行業者のサポートを受けて、可能な限りさまざまな案件に目を通すことが重要です。

事業承継の事例から読み解く潮流《web制作会社》
この記事では、M&Aによって事業承継を図る経営者が増加している背景を解説した後、web制作会社の事業内容と業界構造についてご紹介します。
また、web制作会社がM&Aで事業承継を実施した事例を紹介するとともに、今後事業承継を検討しているweb制作会社の経営者が注意しておきたいポイントに関しても解説していきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年5月31日
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