2019年5月21日 火曜日

事業売却の事例から読み解く潮流《web制作会社》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

この記事では、まずweb制作会社の事業内容に関してご紹介した後に、M&A市場におけるweb制作会社の動向について解説します。

次に、個人事業主による事業売却や大手事業者の動向が話題となっているweb制作事業において、実際に行われた事例を紹介した後に、これから事業売却を検討しているweb制作会社の経営者が注意するべきポイントに関しても解説します。

 

web制作会社における事業売却の動き

事業売却に関する解説を行う前に、まずweb制作会社の事業内容についてご紹介します。webサイトの構成やデザイン、プログラミングなどを実施することによってwebサイトを製作する会社をweb制作会社と言います。しかし、webサイトを自社制作する以外にも、webサイトの運用方法を考え、利用状況をデータ化してwebサイトの管理者へ提供するといった事業も存在します。

近年では制作から運用までを併せて提供することで増収を図る企業が多く、事業領域を拡大する手段として事業売却を実施するweb制作会社が増加しています。IT業界で2018年に実施されたM&A件数は1070件であり、国内全体で実施されたM&Aの約1/3を占めています。

IT業界でのM&Aが増加している背景として、自社webサイトで商品を宣伝・提供して収益を確保しようとする企業が増加していることが挙げられます。また、制作技術を持った個人事業主が増加していることもIT業界におけるM&Aが活発である理由と言えます。

 

従来のM&Aは大規模案件が中心となっていましたが、近年では中小規模の案件が増加傾向にあります。取引対象が個人サイトである場合は、数十万円単位の小規模なM&Aになる事例も存在します。個人を除いても、web制作事業を売却する法人は中小業者であることが多い傾向にあります。M&Aが活発化していることを受けて、web制作会社を中心的に取り扱うM&A代行業者も増加しています。

 

・M&Aとは

M&Aは「Mergers and Acquisitions」の略称です。正式名称を直訳すると「合併と買収」という意味になります。2社以上の企業による吸収合併、資本による企業買収が行われた際に用いられます。

企業の買収だけではなく、提携が実施された場合にもM&Aとして分類されます。

大手企業による買収というイメージが強いかと思われますが、近年では後継者問題の解決を図る中小企業がM&Aを実施することが増加しています。また、大手企業のグループ傘下に入る方法としてM&Aを実施するというケースも近年増加しつつあります。

 

最近のweb制作会社の事業売却事例

・事例1:「Peing」がジラフに事業譲渡

株式会社ジラフは、個人事業主であるせせり氏が運営する匿名質問サービス「Peing – 質問箱」を買収することについて、せせり氏との間で事業譲渡契約を締結しました。「Peing」は2017年11月にリリースされ、事業譲渡が実施された同年12月時点で月間2億PVを達成するサービスへと急成長しています。急速にコンテンツが巨大化したことで、せせり氏が個人開発という体制に限界を感じたことが事業譲渡のきっかけであるとされます。

ジラフはインターネットサービスの設計・開発・管理を主力事業としており、急速に発展していることから、サービスの移管先として最適であるとの判断で譲受先が決定したとされます。

当事業譲渡に伴ってジラフが「Peing」の事業を引き継ぎ、せせり氏はアドバイザーとして参画していくとされています。

 

・事例2:スタートトゥデイがVASILY社を完全子会社化

株式会社スタートトゥデイは、ファッションコーディネートアプリを提供する株式会社VASILYの全株式を取得し、完全子会社化することに合意したことを2017年10月19日に発表しました。

スタートトゥデイは、ファッションサイト「ZOZOTOWN」を運営する企業であり、2018年6月26日に社名を「株式会社ZOZO」に変更しています。

当案件により、スタートトゥデイが手掛ける事業に同社の開発技術を応用することによって企業のさらなる成長を実現できるとしています。なお、VASILYは2018年4月にグループ企業と統合することにより、「ZOZOテクノロジーズ」に会社名を変更しています。

 

・事例3:ユーザベースがアメリカの経済メディア「Quartz」を譲受

株式会社ユーザベースは、アメリカの経済情報メディアであるQuartz社の全株式を取得し、子会社化することを2018年7月2日に発表しました。Quartz社は2012年に設立されて以降、優れたデザインとインターフェース、コンテンツを持ったメディアとして市場から高い支持を受けています。

ユーザベースは、ソーシャル経済メディア「NewsPicks」をコア事業としている企業であり、2017年に同メディアのアメリカ版をリリースしています。Quartz社を買収することによって、アメリカ方面を主とした事業拡大を促進できるとしています。

 

・事例4:グリーが3ミニッツを子会社化

グリー株式会社は、動画マーケティングやインフルエンサーマーケティングなどを展開している株式会社3ミニッツの株式を取得し、子会社化することについて2017年2月2日の取締役会で決議しました。

グリーはゲーム事業に加えて、インターネット上におけるライフスタイル事業、および広告・動画事業を推進しています。当株式取得により、グリーの持つインターネット事業に精通した人材と安定した財務基盤を対象企業へ投入することで、動画広告市場において更なる成長を実現できるとしています。

 

web制作会社の事業売却を実施するうえでのポイント

・優れた技術者が在籍しているかどうか

事業売却における買収価額は、売却側企業の企業価値をもとに決定されます。企業価値から事業に用いない株式や現金、金融商品などを差し引いたものが事業価値であり、売却側企業の経営者は事業価値を向上させることで買収価額を高くできます。

事業価値を大きく左右する要素として、コンテンツを制作する従業員が挙げられます。web制作を含むIT業界では技術者不足が問題となっており、web制作の技術を持った人員は高い事業価値を持つ存在と言えます。引き継げる技術者が多いほど売却側企業が短期的に節減できるコストは大きく、受注できる業務量が増加することによって将来的な収益も多く見込めます。

ただし、専門技術を持っていることを対外的に証明するには、従業員の経歴や保有している資格、得意な作業といった各種データを記録した上で保管しておく必要があります。実際にM&Aを実施する時に具体的なデータを提示できれば、従業員の技能に見合った評価金額を得ながらスムーズに引継ぎを行うことができます。

 

・取引先が分散しているかどうか

web制作会社の安定性を図る要素として、取引先の数や内容が挙げられます。定期的に取引を行う企業が複数ある場合、安定した収益力を持っていると言えます。

大手企業を取引先に持つ場合も収益力は高いですが、他に有力な取引先がなければ、もし大手企業から取引を打ち切られた場合に収入が急減することになってしまいます。大手企業を取引先に持っている事よりも、複数の取引先から安定して依頼が来ているかどうかを重視して事業価値を判断する必要があります。

 

・シナジー効果を考える

web制作会社の業務はサイト制作から管理、運用まで多岐にわたりますが、webサイト制作の工程を細分化しているという業務特性上、担当できる工程が増えるほど多くの収益を確保しやすくなります。

M&Aによって自社と異なる事業内容を持つ企業を買収した場合、新たに事業ノウハウを蓄積するよりも少ない時間とコストで事業領域を拡大することができます。相手企業が保有している事業設備や取引先を共有することにより、初期段階におけるリスクを大幅に低減できる効果も見込めます。

特に新技術が頻繁に開発されているIT業界では開発コストや社員教育に係るコストが膨れ上がりやすく、自社開発を行うよりも新技術を保有している他社を買収する方が低コスト、短時間で同じ成果を得られるケースが多く存在します。

当時における最新技術であれば、事業売却を実施してからも中長期的に収益に貢献してくれる可能性が高く、買収側企業にとっては高いコストを支払っても取得したい技術であると言えます。売却側企業は、新技術を習得した従業員の雇用や必要な事業設備などを売却することによって、投資した費用を短期間で回収することが可能になります。

 

また、従来の事業方針を引き継ぎ、同じ経営者が事業売却後も留任するなど、買収側企業と対等に近い条件での引継ぎを実施できる可能性があります。売却側、買収側企業の経営資源や事業ノウハウを共有することにより、シナジー効果を形成することがweb制作会社の事業売却を行うときには重要になります。

 

・必要な書類やデータを揃えておく

事業売却の過程にはデューデリジェンスというものがあります。売却側企業の企業価値につながる財務状況、労務関係、取引先との契約関係などを監査する過程であり、買収側企業から直接担当者が訪れて監査を実施します。簿外債務や潜在的な訴訟リスクなどもこの過程で調査されます。

事業売却の成否に大きく影響する過程であり、一般的なデューデリジェンスでは売却側企業の情報が徹底的に調査されます。調査対象となる資料には数年前から準備を進めておく必要があるものが多く、売却側企業の経営者は日頃から財務状況や売上高などに関するデータを把握しておく必要があります。実際に資料を揃える過程では、顧問税理士や取引先銀行に相談して正確な内容で作成する必要があります。

 

・事業売却を実施するタイミング

事業売却に必要なデータが揃っている場合、web制作事業を売却するタイミングは今が最適であると言えます。2018年にはIT業界におけるM&A実施件数が2000年以来の統計で最多件数を更新しており、成約率も高い状況です。

M&A実施件数が多い状況では、売却側企業は買収先を探しやすい状況と言えます。買収側企業から見ても、売却案件が多いほど自社の希望条件に沿ったWeb制作会社が市場に出ている可能性が高くなります。M&Aが活発に実施されている現在は、売却、買収ともにM&Aを実施するには最適なタイミングであると言えます。

 

・M&A代行業者の力を借りる

事業売却を完了させるまでには複雑な手続きが必要であり、短期間でトラブルなく実行するにはM&Aの実施を支援してくれる専門業者へサポートを依頼することが最も確実です。web制作会社のM&Aで売却側になる企業はM&Aの実施経験が無いことが珍しくなく、買収側企業との間でスムーズに取引を進めることは多くの場合困難です。

事業売却に必要な相手企業の仲介や書類作成、相手企業との直接交渉をサポート、あるいは代行することがM&A代行業者の役割です。web制作業界の現状に詳しく、web制作会社のM&Aを多く成立させている実績を持つ代行業者であるほど、事業売却を成立させるサポートを確実に実施してくれるといえます。

近年では完全成功報酬制であることが一般的ですが、代行業者によっては相談料や月間報酬、基本合意時における中間報酬などが必要になる場合もあるので、成約するまでのコストを抑えたい場合は報酬制度について最初に確認しておくことを推奨します。

 

まとめ

web制作会社をM&Aによって買収、売却する事業者は近年増加しており、個人事業主から大手企業まで多様な規模のweb制作会社が事業売却を実施しています。事業内容が多岐にわたる特性上、経営資源や事業ノウハウの統合によって得られるシナジー効果は特に重要になります。

高い売却利益を得るには新技術の導入に向けた設備投資や社員教育に集中的に取り組むことが重要です。その上で該当する新技術を導入しようとしている買収先を探す必要があるので、短期間で事業売却を完了させるにはM&A代行業者の協力を得ることが不可欠です。

事業売却の実施に必要な資料を揃えるまでには時間が掛かるので、今後web制作会社の事業売却を検討している経営者は出来るだけ早いうちから準備を進めることによって目的に沿った事業売却を実施しやすくなると思われます。

事業売却の事例から読み解く潮流《web制作会社》
この記事では、まずweb制作会社の事業内容に関してご紹介した後に、M&A市場におけるweb制作会社の動向について解説します。
次に、個人事業主による事業売却や大手事業者の動向が話題となっているweb制作事業において、実際に行われた事例を紹介した後に、これから事業売却を検討しているweb制作会社の経営者が注意するべきポイントに関しても解説します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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