2019年3月12日 火曜日

事業譲渡の事例から読み解く潮流《旅行代理店》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

旅行代理店事業の今後をどうしていくべきか、頭を抱えている経営者の方は少なくないのではないでしょうか。元々参入障壁の低い旅行代理店業界ですが、オンライン型の旅行代理店の台頭もあり、その競争は激しさを増しています。社員や信頼関係のあるお客様を考えると、何とか良い形で事業を存続させたいと願うのが経営者の本音でしょう。

そんな中で注目されているのが、事業譲渡という手段です。
廃業させることなく事業を買い手企業に譲渡できるので、実際に事業譲渡を選択する企業も増えています。今回はそんな事業譲渡について、事例も交えながら詳しく紹介します。

 

旅行代理店における事業譲渡の動き


早速ですが、旅行代理店における事業譲渡の動向はどうなっているのでしょうか。
まずは旅行代理店の現状と事業譲渡という言葉についておさえた上で、事業譲渡の動きについて考えていきましょう。

 

旅行代理店の現状

時代が進み、人々の動向が変わっていくのと同様に旅行代理店業界も変化しています。
まず大きな影響を与えているのが、インターネットの存在です。インターネット、そしてスマートフォンの登場は旅行者の生活を大きく変えました。今までは旅行代理店に頼っていた旅行の計画の大部分が、自分自身で気軽に行えるようになったからです。ホテルや航空券の予約、さらには旅先での美味しいグルメなどの情報収集を自宅や移動中に行えます。
これにより旅行代理店としては、今の旅行者が求める+αの付加価値を提供する必要が出てきました。改革に向けた動きも活発で、大手旅行代理店は地域に根差したアクティビティをお客様に提供しようと、体制を強化しています。

インターネットの存在は旅行代理店自体の在り方も変え、実店舗を持たないオンライン専門の旅行代理店が増加しました。オンライン型店舗の大きな特徴は、人件費など店舗にまつわるコストを大きくカットでき、その分を価格に反映させている事です。
元々、価格競争の激しかった旅行代理店業界ですが、近年はさらに熾烈な争いが起こっています。特に、資本の大きくない中小の旅行代理店は、経営に苦しんでいるケースが目立ちます。

苦戦しているのは旅行代理店の関連企業も同様で、旅行代理店が収入の柱としていたコミッションにも影響が出ています。ホテルや旅館、航空会社の経営が良好でないために、コミッションを減額しようとする動きが出ています。旅行代理店としては、今までのビジネスモデルを見直す必要があり、大きな舵取りを迫られている経営者が増えています。

 

事業譲渡とは

M&Aの方法の一つで、会社の事業を第三者の企業に売却する行為を事業譲渡と言います。単に事業というと、何が売却の対象となっているのか少し不明瞭ですが、以下に挙げる様々な要素が含まれます。
 ・人材
 ・有形の財産
 ・無形の財産
 ・事業組織
 ・ブランド
 ・取引先との関係
 ・債務
つまり事業譲渡は、契約によって個別の利権関係や債務、財産などを移転させる手続きと言えます。譲渡する事業の範囲も細かく設定可能なので、会社で営んでいる事業の一部を譲渡したり、全てを譲渡したり出来ます。同時に契約の範囲も調整できるので、債務を必要に応じて遮断しても平気です。
注意点としては、事業を譲渡した企業は今後同じ事業を行うのが制限されるので、よく検討した上で事業譲渡を行うようにしましょう。

 

旅行代理店における事業譲渡の動向

上述したように、旅行代理店の経営環境は厳しくなっています。そのため、経営の強化や方向転換のために事業譲渡を選択する旅行代理店も増えています。大企業だけではなく、中小企業が事業譲渡を選択するケースも珍しくありません。
事業譲渡を選択した背景には、コア事業に集中したいという理由の他にも、後継者問題の解決も含まれます。少子高齢化の影響で後任の経営者について悩む経営者は、特に中小規模の旅行代理店に目立ちます。
様々な要因で行き詰まる経営の打開策として、事業譲渡は活発に用いられていると言えます。

 

最近の旅行代理店の事業譲渡事例


続いては実際の旅行代理店の事業譲渡の事例を3つご紹介します。なぜ事業譲渡を選択したのか、その背景についても詳しく迫ります。

 

【事例1:旅ウェブの事業譲受】
売り手企業:旅ウェブ株式会社
買い手企業:株式会社旅キャピタル
実施年度:2008年

譲渡対象事業の概要:
旅ウェブ株式会社が営んでいた旅ウェブ旅行事業が譲渡対象です。旅ウェブ旅行事業では、海外航空券、海外ホテル、海外オプショナルツアーを含むオンライン型の旅行代理店事業を行っていました。

目的:
株式会社旅キャピタルは、今までに独自に構築してきたインターネットを活用した事業のノウハウがありました。その技術や経験を生かして、オンライン型の旅行事業や投資業を主に展開しています。特にオンライン型の旅行事業については、新領域についても積極的に取り組んでいました。
そんな中、株式会社旅キャピタルは旅ウェブ株式会社の運営する海外旅行サイトが持つ以下の強みに目を付けました。
 ・リアルタイム空席照会・即時予約・即時決済のワンストップサービス
 ・複数の仕入先から最安値を一発検索可能なマルチサプライヤーシステム
 ・長年の営業で培った安定した個人会員様という強み
お互いのノウハウを融合すれば、さらなるシナジー効果も見込めると判断し、事業の譲受に至っています。

 

【事例2:京急グループの事業譲渡】
売り手企業:京浜急行電鉄株式会社
買い手企業:株式会社日本旅行
実施年度:2018年

譲渡対象事業の概要:
京急電鉄の100%子会社である京急観光株式会社の以下の事業が譲渡対象です。
・店舗事業(川崎アゼリア、金沢文庫、横浜ポルタ、久里浜、上大岡、横須賀の計6店舗)
・外販事業(法人・団体営業部門)

目的:
日本旅行グループは、「地域の魅力を磨き上げ、幅広く発信していく」ことを”目指す姿”として掲げており、インバウンドを含めた地方創生事業(地域活性化、地域誘客等)への取組み強化を進めていました。京急グループとの連携及び事業譲渡には主に以下の目的がありました。
 ・京急線沿線の観光素材や施設を活用した商品造成や販売展開
 ・日本国外を含めたエリア外での誘客プロモーション
 ・西日本方面をはじめとした各商品の沿線顧客への提案強化
他エリアとの相互交流の拡大に取り組むとともに、京急グループへの旅行関連をはじめとしたサービスの拡充を推進する狙いです。またネット販売の拡大などにより、事業環境の厳しさが増している現状も、京急観光の店舗事業および外販事業を日本旅行に譲渡した要因として挙がっていました。

 

【事例3:京阪交通社の事業譲受】
売り手企業:京阪電気鉄道株式会社
買い手企業:株式会社JTB西日本
※譲渡先は株式会社JTB京阪トラベル(株式会社ジェイティービーと京阪電気鉄道株式会社の共同出資会社)
実施年度:2011年

譲渡対象事業の概要:
大阪、守口、京橋、樟葉、寝屋川、香里園、枚方、京都、淀屋橋、丹波橋の各営業所、SSOK旅行センターおよび京都女子大学トラベルサロンで行っている旅行事業およびこれに付随する事業

目的:
売り手企業の京阪電気鉄道株式会社の連結子会社である株式会社京阪交通社は、昭和28年に京阪沿線を中心とした沿線住民への駅サービスの一環として設立された会社を母体として誕生しました。旅行業に特化して京阪沿線をはじめとする優れた観光資源をベースに成長してきました。
しかしながら現在、旅行業界においては、お客様のニーズの多様化やオンライン型の店舗の拡大等により、極めて厳しい経営環境が広がりを見せています。
この中で、会社としてさらなる飛躍を目指すためには、京阪グループとJTBグループとが強く結びつき、お互いの有する経営資源を最大限に活用する道が最善の方法であると判断し事業譲渡に至っています。これにより、両グループが総力を結集し、インバウンド等の諸施策を推進する事で関西全体の活性化に寄与したいとの狙いがあります。

 

旅行代理店の事業譲渡を実施する上でのポイント


最後に実際に事業譲渡を行うにあたっての6つのポイントをご紹介します。事業譲渡を行うには多岐に及ぶ手続きが必要です。様々な検討事項がありますが、ここでは厳選したポイントを取り上げます。

1.譲渡の目的を明確にする
事業譲渡を考える際は、まず譲渡の目的を明確にしましょう。
事業の整理を行って主力となる事業に集中したいのか、後継者問題を解決したいのか、それとも単に資金を調達したいのか、様々な目的が考えられます。目的によって、事業譲渡の進め方も異なってくるので、自社が重要視する目的を洗い出しましょう。
複数の目的があっても構わないので、目的の優先順位と必須項目をはっきりさせておくと良いです。

2.適した専門家を選定する
事業譲渡を実施するには、多くの専門的な手続きが必要です。特に契約の締結では、売り手企業と買い手企業で交渉を行うため、議論が長引くことも珍しくありません。よって円滑で納得のいく事業譲渡にするためには、第三者の専門家の協力が不可欠です。
会計士や仲介業者を雇うことが一般的ですが、専門家を選定する上での注意点があります。それは、専門性がマッチした相手を選ぶという事です。例えば、旅行代理店の事業譲渡の経験が豊富な専門家であれば、安心感も増すのではないでしょうか。また中小規模の旅行代理店であれば、同等な規模の事業譲渡を経験している専門家を選ぶと良いです。

3.情報漏洩のリスクを認識する
事業譲渡を考え実行に移す際に、最も注意を払う必要があるのが情報漏洩です。事業譲渡を考えているという事実は、大変センシティブな情報です。不用意に情報が漏れてしまうと、事業譲渡の条件も悪くなってしまいますし、社員からの印象も落ちてしまいます。最悪の場合、会社の業績の悪化を招くこともあります。
事業譲渡の情報を他者に伝える場合は、いつ誰に何の目的で話したのか、はっきりと記録しておきましょう。譲渡先を探す際も、知人や知り合いを経由するよりも仲介業者にマッチングをお願いした方が安全です。

4.事業譲渡を行うタイミングを検討する
事業譲渡は、行うタイミングによって理想的な譲渡先に巡り合える確率も変わってきます。最も条件の良いタイミングは、会社の業績も良くて経営者の意欲も高い時です。このタイミングで事業譲渡を考える経営者はめったにいないはずですが、業績が悪くなればそれに比例して譲渡の条件も悪くなりますし、相手探しも苦しくなります。
事業譲渡は契約締結までには時間もかかるので、会社の状態を見極めつつ、スケジュール感を持って行動するようにしましょう

5.社員への伝達を適切に行う
前述したとおり、事業譲渡を考えているという情報は慎重に扱うべきです。しかしながら、全く誰にも伝えないという訳にはいきません。社員に対してもしかるべきタイミングで、事実を伝えるべきです。
特に、キーマンとなる人物には少し早い段階で情報を開示しても良いでしょう。キーマンとは業務を行う上で軸となっている社員を指しています。旅行代理店でいえば、営業成績が優れており、業務も熟知してるような方がそれに当たります。彼らは譲渡先の会社にとっても大切な存在で、事業価値にも影響があります。
誰に何をどのタイミングで伝えるべきか、検討しておきましょう。

6.デューデリジェンスへの準備をする
聞きなれない言葉かもしれませんが、譲渡対象の事業に対して行われる調査のことを「デューデリジェンス」といいます。デューデリジェンスは事業譲渡の交渉も終盤に差し掛かかった、最終契約の直前に行われます。
譲渡する事業に対して売り手企業が虚偽の申告をしていないか、大きなリスクを抱えていないかなど、買い手側企業が不利益を被らないように、綿密な調査が行われます。
調査にあたっては、会社概要、労務管理状況、財務諸表、契約書類資料の提出も求められます。ここで資料の内容に不備があると、せっかくの交渉がこじれかねません。
必要に応じて専門家の力を借りるなどして、抜かりなく準備しておきましょう

 

まとめ

旅行代理店の事業譲渡の動向について、事例も交えながらみてきましたが、いかがでしたでしょうか。
ご紹介したように、現状に適応するために多くの旅行代理店が先手を打って行動しています。事業譲渡の決断は簡単な事ではありませんが、何も行動せずに経営が破綻し、廃業を選択するよりも未来が開ける一手です。より良い経営、そしてなによりも多くの社員のより良い未来ために最善の選択をしましょう。

事業譲渡の事例から読み解く潮流《旅行代理店》
旅行代理店事業の今後をどうしていくべきか、頭を抱えている経営者の方は少なくないのではないでしょうか。元々参入障壁の低い旅行代理店業界ですが、オンライン型の旅行代理店の台頭もあり、その競争は激しさを増しています。社員や信頼関係のあるお客様を考えると、何とか良い形で事業を存続させたいと願うのが経営者の本音でしょう。
そんな中で注目されているのが、事業譲渡という手段です。
廃業させることなく事業を買い手企業に譲渡できるので、実際に事業譲渡を選択する企業も増えています。今回はそんな事業譲渡について、事例も交えながら詳しく紹介します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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