2019年3月15日 金曜日

事業承継の事例から読み解く潮流《旅行代理店》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

体力の衰えも感じてきているし、そろそろ事業承継について考えなければまずい。地元のお客様との繋がりを大切になんとか今までやってこれたものの、事業を継続させるべきかどうか悩んでいる。そんな焦りや不安を抱えている旅行代理店の経営者の方も少なくないのではないでしょうか。
今回は、事業承継で悩んでいる経営者の方の参考になるであろう情報をお届けします。事例も交えながら、旅行代理店の現状や事業承継について読み解いていきたいと思います。

 

旅行代理店における事業承継の動き


旅行代理店業界における事業承継の動向を解説するために、まずは先に旅行代理店の現状や事業承継の基本についておさえておきましょう。これらを理解する事で、事業承継を考えるに至る他の経営者の背景も見えてくるはずです。

 

旅行代理店業界の現状

まず旅行代理店業界の現状について詳しく分析したいと思います。ここでは3つの切り口に分けてそれぞれ解説します。

1.旅行のセルフプランニングの主流化
インターネットと旅行の親和性は大変高いです。多くの人は、旅行の計画の際に、旅先の情報をスマホで収集したり、ホテルや航空券の予約をインターネットで済ませたりすることが多くなってきています。旅行者にとってはインターネットの登場で利便性が高まっているといえますが、旅行代理店としてインターネットの存在は脅威でもあります。一昔前であれば旅行のプランであれば何でも一括して旅行のプロである旅行代理店に任せていましたが、近年では難しくなってきています。便利になった今でも旅行者が欲するサービスを旅行代理店は生み出し提供していかなければなりません。

2.オンライン旅行会社の増加:
インターネットを活用して、実店舗を持たずにオンラインにて旅行代理店のサービスを提供する会社も多数登場しています。インターネットを活用して旅行代理店業務を行えば、人件費などのコストをカットできます。そしてその分を価格に反映できる強みがあります。そうした背景を受け、各種旅行サービスの価格競争はますます激しくなっています。格安を売りにするか、付加価値を付けて発見のある旅を提供するか、旅行代理店の手腕が問われています。

3.コミッションの減少:
旅行代理店が販売を斡旋した航空券や宿泊施設、さらには各種旅先でのサービスにはそれぞれコミッション(手数料)が発生します。このコミッションを柱とした旅行代理店のビジネスですが、少し陰りが見え始めています。原因はコミッションを支払っていた航空会社やホテル、旅館などの経営が難航し始めたためです。現状のコミッションの支払額を見直そうという動きも出てきています。コミッションに頼らない新たなビジネスモデルが必要とされています。

【旅行代理店業界の現状まとめ】
オリンピックなどが追い風となる一方で、旅行代理店業界の競争は激しくなっていることが分かります。生き残っていくためには、旅行者のニーズの変化に合わせて、よりしっかりした強みを持つサービスへと変化させていかなければならないでしょう。地域に根差したアクティビティーの体験に目を付けて、いち早く動き出している大手企業も目立ちます。
旅行者を引き付けられる独自のサービスを提供できるかが勝負となってきそうです

 

事業承継とは

続いては事業承継について解説します。事業承継とは簡単に言うと、会社を誰かに引き継ぐ事を指します。誰に会社を引き継ぐかによって、事業承継は以下の3つの方法に分類できます。

【親族内承継】
古くから親しみのある方法なので、ある程度は言葉からイメージがつくかもしれません。親族内承継とは経営者の子供や兄弟など、親族の者に会社の経営を承継することを指します
この親族内承継のメリットは、早期から次の経営者候補に対して教育などの準備が行える点です。経営者ならではの考え方や視点といったものを身につけることは容易ではありませんが、時間的なアドバンテージが親族内承継にはあります。また周囲の者から反感を買いにくいという点も親族内承継の良いところです。

【社内承継】
親族外の会社の社員や役員に会社を承継するのが、社内承継です。成績が優秀で行動規範も優れいている社員や、共に経営を考えてきた役員が選出されるケースが多いです。この社内承継のメリットは、新たに教育などで時間をかける必要があまりない点です。承継の候補となるような人物なので、当然ながら会社の文化や全体の業務の流れは把握しているでしょう。そのため、いちから時間をかけて教えることは少ないはずです。逆に新たな視点で経営を考えてくれる可能性も大いにあり、人選によっては経営の好転も期待できます。
一方で企業の買取が必要になるので、それなりの資金が承継者に必要になる点は注意しましょう

【社外承継(M&A)】
社外継承は、外部の企業に会社の承継をすることを指しています。M&Aによって会社の承継をすることと表現した方が分かりやすいかもしれません。
親族にも社内にも会社の承継が難しいとなると、今後に不安を感じる経営者の方も少なくないと思います。
しかし、近年では第3の方法として社外承継(M&A)を選択される経営者も増えています。そんな社外承継の大きなメリットは、幅広い選択肢の中から会社の後継者を決められる事です。それは全国にある自社に興味を持ってもらえた企業の中から、事業承継の交渉が可能だからです。親族内承継も社内承継も厳しいという方は、社外承継(M&A)を検討してみましょう。

 

旅行代理店の事業承継の動向

中小企業の事業承継を考えると、1990年代であれば8割は親族内承継でした。それが現在、親族内承継は4割を切っています。この状況は旅行代理店業界も一緒で、社内に継ぐか社外に継ぐ(M&A)かという2パターンが増えてきています。

なぜ親族内承継が減ってしまったのか。主な原因は3つです。
まず一つ目は、少子高齢化の影響です。高齢になってしまったけれど子供に恵まれなかったという経営者も珍しくありません。
2つ目の原因は負債を子どもにつがせたくないと経営者が考えるパターンです。事業が順調なら良いですが、見通しが悪く売上規模の半分程度の負債を子供に背負わせるのは申し訳ないと考えるのもうなずけます。
3つ目は子供が他にやりたい道がある場合です。職業選択の自由も当たり前になっており、自分の手で自分の未来を決めることを応援したいと考える経営者も増えています。

時代に合わせて事業承継の形も変化しており、今後も現在の動向はより顕著になっていくと考えられます。自社の状況を冷静に見極め、最善の選択をしていくことが旅行代理店の経営者には求められると言えるでしょう。

 

最近の旅行代理店の事業承継事例


続いては事業承継の事例をみていきましょう。ここでは事業承継の中でも社内承継を成功させた旅行代理店を紹介したいと思います。
新旧二人の経営者の思いや、事業承継に至るまでの経緯など、詳しく迫っていきたいと思います。

会社名:株式会社ジータック
事業承継の方法:社内承継

事業内容について:
ジータックは1996年創業で、業務渡航の手配を主に行っている会社です。ジータックの強みは航空系で、一部上場企業から食品の小売業者まで、幅広いお客様の支持を集めています。最近では海外実習生の渡航手配も増加しているそうです。

事業承継に至る背景:
社長のAさんの高齢が一つのきっかけです。60歳を超えたあたりから事業承継について考え始め、漠然とではあったそうですが「65歳までには引退したい」との思いも湧いてきたそうです。また周囲を見渡すと、同じように事業承継で悩んでいる経営者は多かったそうで、中には廃業してしまった方も少なくないそうです。
しかし、簡単に廃業してしまっては、今まで信頼を寄せてくださったお客様に申し訳ないと、何とか事業承継する道をAさんは模索しました。

後継者について:
社外承継という道も考えたそうですが、社内にも適任者がいることにAさんは気が付きました。それが現社長のBさんです。AさんはBさんと同じ会社の仲間であると同時に、同じ飛行機ファンクラブのメンバー同士でもありました。AさんがBさんを後継者に選んだ理由は、飛行機や旅行に対する情熱もそうですが、一番はやはり心から信頼できると自然に思えたからだそうです。公私含めて人柄が分かっていたことも判断材料としては大きかったそうです。

今後の経営について:
今後の経営についてBさんは、今まで築き上げてきたお客様との信頼は大切にしていきたいと語っています。業務渡航という分野は大きな柱として引き続き取り組んでいくとのことです。一方で、旅行者自身が旅の手配ができる時代に対しては、ジータックなりの付加価値をお客様に提供し勝負していきたいと前向きな姿勢を見せていました。

 

旅行代理店の事業承継を実施する上でのポイント


最後にお伝えしたいのは、実際に旅行代理店の経営者の方が事業承継を行う際のポイントです。同じ事業承継といっても、親族に事業承継するのかM&Aを用いるのかによって、その際の注意すべき項目は異なってきます。
ここでは事業承継の種類に関わらず共通のポイントと、事業継承の種類それぞれの重視すべきポイントを解説します。

 

【共通するポイント】

引退後の体制を整える:
中小規模の旅行代理店にありがちなのが、社長ありきで経営が成り立っているケースです。仕事のノウハウからお客様とのネットワークまで、社長を中心に全て回っている場合がそうです。事業承継を考えなければ、それでも問題はないのかもしれませんが、経営を他者に委ねるとなると少々問題があります。社長がいなくなったら何もできませんという状態では、次のステップへ進めないからです。
そのような事態を回避するためにも、なるべく早い段階から、引退後も考えた体制作りを進めておきましょう。例えば社長がいなくても仕事を円滑に回す仕組みが浸透していて、能動的に行動する文化がいきわたっていると良いでしょう。自分が欠けても事業が育っていくイメージを持てるように準備してみましょう。

相手の気持ちを考えて行動する:
日々の旅行代理店の業務で特に大切にしていることはなんでしょうか。一つには相手の気持ちを思いやることが挙げられるのではないでしょうか。店舗型の旅行代理店であれば、お客様が来店して下さったことに感謝して、お客様が求めるもの+αの提案ができるように努めると思います。
これは事業承継を行う際も同様に大切なポイントです。
相手が誰であっても、自分の思い込みで相手の考えを判断するのは止めましょう。きっとこう思われているに違いない、この部分は説明しなくても理解しているだろう。こういった決めつけは危険です。お客様に接する時のように、傾聴する心構えと、相手を思いやって行動する気持ちを大切にしましょう。相手をより理解して歩み寄ることが出来れば、それは今後の会社の経営を考えた際の大きな一歩に繋がります。

 

【親族内・社内承継のポイント】

事業承継候補者に経験を積ませる:
親族か自社の社員かによって多少状況は異なると思いますが、どのようにして後継者候補に経験を積ませるかという課題は共通していると思います。親族内承継の場合であれば、いきなり自社に入社させずに、他社にて経験させるケースも多くあります。他社に行くことで視野も広がりますし、社会人としての経験を効率的に積めます。自社だとどうしても社長の親族ということで、扱いが変わってしまうこともあるでしょう。
他には勉強会やセミナーの利用も有効です。無料のものから有料のものまで様々ですが、内容に応じて積極的に参加させましょう。特に同じ後継者候補の方が多く参加されるようなセミナーに参加できれば、刺激にもなりますし将来の人脈作りにも役立ちます。最終的には経営企画を実際に任せてみても良いでしょう。そこまでの道のりは様々だと思いますが、実際の社長の業務の一端を担当させるのは、これ以上ない経験になりますし、実力を見極めるいい機会です。経営企画の業務は一見すると現場から離れているようですが、現場を含め各部門の業務を把握していないと適した判断は下せません。将来を見据えて、事業承継候補者には段階的に経験を積ませましょう

 

【社外承継(M&A)のポイント】

旅行代理店業界に詳しい専門家を起用する:
M&Aの知識が不足しいると、はたして自社はM&Aを実施できるだろうかと、不安を感じるかと思います。そんな際にカギを握るのがM&Aの専門家の存在です。代表的なところではM&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザーと呼ばれる方達がいます。彼らを起用すれば、M&Aに関わる業務を一貫して引き受けてくれます。M&Aの相手企業をピックアップするところから、契約の締結まで力強くサポートしてくれます。円滑にM&Aを行うためにはなくてはならない存在ともいえるでしょう。
そんなM&Aの専門家を雇う際にも1つ注意点があります。それはM&Aの専門家の専門領域は何かということです。例えば過去に旅行代理店のM&Aの成功実績が多い専門家の方がより安心できるのではないでしょうか?またM&Aの中でも事業承継の経験がある方の方が、話が通じやすいはずです。相手の経験を見極めて、適した専門家を選定するようにしましょう。

 

まとめ

今回は、旅行代理店の事業承継について事例も交えながら紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。親族や社内で後継者が見つかるケースがある一方で、M&Aを用いて社外に活路を求める旅行代理店も増えていることが分かって頂けたかと思います。旅行代理店業界の競争は激しさを増していますし、尚更に事業承継の問題は重要な決断です。悔いのない判断をするためにも、自社の状況を冷静に見極めて、事業承継を成功させましょう。

事業承継の事例から読み解く潮流《旅行代理店》
体力の衰えも感じてきているし、そろそろ事業承継について考えなければまずい。地元のお客様との繋がりを大切になんとか今までやってこれたものの、事業を継続させるべきかどうか悩んでいる。そんな焦りや不安を抱えている旅行代理店の経営者の方も少なくないのではないでしょうか。
今回は、事業承継で悩んでいる経営者の方の参考になるであろう情報をお届けします。事例も交えながら、旅行代理店の現状や事業承継について読み解いていきたいと思います。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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