2019年3月9日 土曜日

事業売却の事例から読み解く潮流《旅行代理店》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

経営の方針転換が求められている業界は多くありますが、旅行代理店業界も例外ではありません。今までのビジネスモデルからの脱却が求められており、特に中小規模の旅行代理店は苦戦を強いられています。
そんな中なんとか経営を立て直そうとする動きも活発で、その方法の一つとして事業売却が注目されています。
今回はそんな事業売却について、実際の事例も紹介しながら解説します。今の潮流を読み解いて、厳しい現代を生き抜くヒントを見つけましょう。

 

旅行代理店における事業売却の動き


早速ですが、旅行代理店における事業売却の動向はどうなっているのでしょうか。
まずは旅行代理店の現状を押さえた上で、事業売却の動きについてみていきます。

 

旅行代理店の現状

人々の生活が変われば新たなビジネスが次々と誕生するように、旅行代理店業界にも変化が生まれています。今ではもう当たり前ですが、店舗という考え方も大きく変わりました。インターネットの存在が当たり前になっているので、オンライン型の旅行代理店はその勢力を更に大きく拡大しています。店舗を低コストで運用できるメリットを生かし、お客様へは販売価格で還元しています。
利用者としては恩恵が大きいですが、旅行代理店業界としては価格競争が厳しくなり、体力のない中小の旅行代理店は経営が苦しくなっています。

従来の旅行代理店としてのビジネスモデルも変えていこうとする動きも活発です。
昔はホテルから飛行機の予約まで旅行代理店のお世話になる場合が多かったですが、今はスマホがあれば誰でも簡単に手配が出来てしまいます。これにより旅行代理店は、今の旅行者が求める+αの付加価値を提供する必要が出てきました。
資本の豊かな大手旅行代理店は先手を打とうと必死です。旅先で更なる感動や発見をお客様に体験して頂こうと、地域に根差したアクティビティを提供するために体制強化を図っています。

このように、厳しい競争を生き残っていくために、旅行代理店各社は様々な動きを見せています。コミッションの収入も陰りが見えているため、昔ながら方法を貫いて経営していくのは厳しいです。
大きな舵取りを迫られている旅行代理店の経営者が増えていると言えます。

 

事業売却とは

会社が抱えている事業を売却する行為を「事業売却」と言います。
売却対象の事業は単一の場合も複数の場合もあります。
事業売却の傾向としては、会社売却に比べると売却の規模は小さくなる場合が多いです。よって買い手企業としては比較的小さな出費で事業を買えるのが特徴です。

事業売却の手段ですが「事業譲渡」を用いるのが一般的です。
事業譲渡に似た手法としては「会社分割」がありますが、意味合いは少し異なるので注意しましょう。会社分割は組織再編行為に類しており、会社内の事業を整理し、事業を独立させる際に使われます。事業売却と混同しないようにしましょう。

 

旅行代理店における事業売却の動向

旅行代理店業界の経営環境は決して楽観視できるものではありません。何も手を打たずにいれば、ますます状況は厳しくなるでしょう。お客様の動向の変化に敏感で行動力がなければ、業界で生き残っていくのは困難です。
そのため、方向転換をしようと考え、経営を強化しようと動く旅行代理店が増えています。
その中の一つの手段として事業売却を決断する経営者の方は珍しくありません

旅行代理店事業は参入障壁も低いため、競争の激しい業界でしたが、インターネットの登場でさらに争いは激化しています。資本の大きくない中小規模の旅行代理店の経営者は苦境に立たされている場合が多いです。
さらに少子高齢化の影響で、後継者問題にも悩まされているケースも目立ちます。このように様々な要因で行き詰まる経営の打開策として、事業売却は注目されています。

 

最近の旅行代理店の事業売却事例


続いては実際の旅行代理店の事業売却の事例を3つご紹介します。なぜ事業売却を選択したのか、その背景についても詳しく迫ります。旅行代理店業界の潮流も見えてくるのではないでしょうか。

 

【事例1:京急グループの事業売却】
事業売却年度:2018年
売り手企業:京浜急行電鉄株式会社
買い手企業:株式会社日本旅行

売却対象事業の概要:
京急観光株式会社(京急電鉄の100%子会社)の以下の事業が売却対象です。
・外販事業(法人・団体営業部門)
・店舗事業(川崎アゼリア、横須賀、久里浜、金沢文庫、横浜ポルタ、上大岡の計6店舗)

目的:
日本旅行グループは、「地域の魅力を磨き上げ、幅広く発信していく」をあるべき姿に掲げていました。具体的には、更なる地域活性化や地域誘客といった地方創生事業への取組強化を進めています。
その上で京急グループとの連携強化、そして京急観光株式会社からの事業譲受には以下の目的があります。
・日本国外を含めたエリア外での誘客プロモーション
・京急線沿線の観光素材や施設を活用した商品造成や販売展開
・西日本方面をはじめとした各商品の沿線顧客への提案強化
他エリアとの相互交流の拡大に取り組むとともに、京急グループへの旅行関連をはじめとしたサービスの拡充を推進する狙いです。
またネット販売の拡大などにより、事業環境の厳しさが増している現状も、日本旅行に事業売却した要因として挙がっていました。

 

【事例2:京阪交通社の事業売却】
事業売却年度:2011年
売り手企業:京阪電気鉄道株式会社
買い手企業:株式会社JTB西日本
※売却先は株式会社JTB京阪トラベル(株式会社ジェイティービーと京阪電気鉄道株式会社の共同出資会社)

売却対象事業の概要:
大阪、京都、守口、寝屋川、香里園、丹波橋、枚方、京橋、樟葉、淀屋橋の各営業所、SSOK旅行センターおよび京都女子大学トラベルサロンで行っている旅行事業およびこれに付随する事業

目的:
株式会社京阪交通社(京阪電気鉄道株式会社の連結子会社)は、昭和28年に設立されました。京阪沿線を中心とした沿線住民への駅サービスの一環として設立された会社を母体としています。その後は旅行業に特化して京阪沿線をはじめとする優れた観光資源をベースに成長してきました。
しかしながら特に旅行業界においては苦しい経営環境が続いていました。お客様のニーズの多様化やオンライン型の店舗の拡大等により経営にも変化が求められていました。そんな中で会社としてさらなる飛躍を目指すためには、京阪グループとJTBグループとが強く結びつき、お互いの有する経営資源を最大限に活用する道が最善の方法であると判断し事業売却をするに至っています。
これにより、両グループが総力を結集し、インバウンド等の諸施策を推進して関西全体の活性化に寄与したいとの狙いがあります。

 

【事例3:旅ウェブの事業売却】
事業売却年度:2008年
売り手企業:旅ウェブ株式会社
買い手企業:株式会社旅キャピタル

売却対象事業の概要:
旅ウェブ旅行事業が売却対象です。旅ウェブ旅行事業はオンライン型の旅行代理店事業(海外航空券、海外ホテル、海外オプショナルツアーなど)を行っていました。

目的:
株式会社旅キャピタルは、今までに独自に構築してきたインターネットを活用した事業のノウハウがありました。その技術や経験を生かして、オンライン型の旅行事業や投資業を主に展開しています。特にオンライン型の旅行事業については、新領域についても積極的に取り組んでいました。
そんな中、株式会社旅キャピタルは旅ウェブ株式会社の運営する海外旅行サイトが持つ以下の強みに目を付けました。
・複数の仕入先から最安値を一発検索可能なマルチサプライヤーシステム
・リアルタイム空席照会・即時予約・即時決済のワンストップサービス
・長年の営業で培った安定した個人会員様という強み
両社のノウハウを融合すれば更なるシナジー効果も見込めると判断し、事業を譲受するに至っています。

 

旅行代理店の事業売却を実施するうえでのポイント


最後に、事業売却を実施する上での6つのポイントをお伝えします。
事業売却を無事に完了するまでには複雑な手続きが必要です。検討項目も多岐に渡りますが、その中でも特に留意して頂きたいポイントを厳選しました。
実際に事業売却を計画する際はチェックしてみて下さい。

①売却の目的を明確にする
事業を売却するといっても、その目的は企業によって異なります。売却で得た資金で負債を返済して経営を正常化したい、後継者問題を解決したい、選択と集中を行なって事業ポートフォリオを見直したいなど、様々な目的が考えられます。
自社の事業売却の目的はなんなのか、まずは明確にしましょう。そして複数の目的がある場合は優先順位をつけましょう。目的によって事業売却の方向性も変わってくるので、関係者の意思は統一しておくと良いです。

②事業売却を行うタイミングを検討する
会社を最も売りやすいタイミングは、どんなタイミングでしょうか。
「業績」と「経営者の意欲」という2つのベクトルから考えると、それぞれが良好な状態が会社の売却もしやすいです。でも残念ながら、そのタイミングで会社の売却を検討する経営者はほとんどいないでしょう。
しかし、業績も経営者の意欲も下がっていってしまえば、それだけ良い相手企業に巡り会える確率も減ってしまいます。自社の状態を冷静に分析しながら、最適な売却のタイミングを見極めましょう。

③適した専門家を選定する
事業売却を行う際は、専門家の力を借りるのが一般的です。
事業の売却は複雑な手続きも多く、日々の経営と両立しながら経営者が事業売却も行うのは現実的ではないからです。
専門家としては、M&A仲介業者・ファイナンシャルアドバイザー・会計士・弁護士などから選定されます。
ここで専門家を選ぶ際のポイントなのですが、専門性がマッチした相手を選ぶようにしましょう。例えば、自社が中小規模の旅行代理店で事業売却を検討しているのであれば、同じような案件の経験が豊富にある専門家の方が心強いはずです。
成功事例が多いという謳い文句だけで専門家を選んでしまわない様に注意しましょう。

④デューデリジェンスへの準備をする
事業売却をする際に、売却対象の事業に対して行われる調査をデューデリジェンスと言います。これは売り手企業・買い手企業、双方にとってとても重要な意味を持つ調査です。
このデューデリジェンスにて、売却対象の事業に未申告の問題が含まれていないか、入念にチェックを行います。必要に応じて社員への聞き取り調査も行われますし、会社概要、財務諸表、契約書類資料、労務管理状況の提出も求められます。
専門家にも協力して頂きながら、抜かりなく準備しておきましょう。デューデリジェンスにて問題が出なければ、その後の交渉もスムーズに進む場合が多いです。

⑤情報漏洩のリスクを認識する
旅行代理店を運営していても、情報の取り扱いには細心の注意を払うはずです。特にお客様情報は厳重に管理しているのではないでしょうか。情報漏洩が発生してしまっては、会社の信用にも影響がありますよね。
同様に事業売却に関する情報も慎重に取り扱いましょう。不用意に情報が漏れてしまうと、事業売却の条件も悪くなってしまいますし、社員からの印象も悪くなります。確実に管理するためにも、事業売却の情報は誰にいつ話したのか、全て記録しておくと良いです。
誰がどこまで知っているのか把握しておきましょう。

⑥社員への伝達を適切に行う
事業売却するという情報は不必要に話すべきではありませんが、例外もあります。タイミングを考えて会社のキーマンには伝達しておいても良いかもしれません。
キーマンとは会社で仕事を行う上で軸となっている人物です。旅行代理店であれば、常連の顧客を何人も抱えており、業務も熟知している様な社員がキーマンと言えるでしょう。
このような社員は事業売却の価値にも直結します。買い手企業の経営者も、即戦力としてキーマンの力を必要としています。よって事業売却後も会社に残ってもらえるように、段階に分けて情報を伝えておくと良いでしょう。
何もケアをしないと思わぬ混乱を招く原因になります。

 

まとめ

複数の事例も交えながら旅行代理店の事業売却についてみてきましたが、いかがでしたでしょうか。
会社ごとに目的も様々ですが、競争で勝ち残るために事業売却を選択する旅行代理店は増えています。今後について悩まれている旅行代理店の経営者の方は、事業売却という手段も選択肢に加えて将来を考えてみてください。もしかしたら思いもよらぬ理想的な買い手企業との出会いもあるかもしれません。
より良い未来のために、事業売却という少し大胆な方法も検討してみましょう。

事業売却の事例から読み解く潮流《旅行代理店》
経営の方針転換が求められている業界は多くありますが、旅行代理店業界も例外ではありません。
今までのビジネスモデルからの脱却が求められており、特に中小規模の旅行代理店は苦戦を強いられています。
そんな中なんとか経営を立て直そうとする動きも活発で、その方法の一つとして事業売却が注目されています。
今回はそんな事業売却について、実際の事例も紹介しながら解説します。今の潮流を読み解いて、厳しい現代を生き抜くヒントを見つけましょう。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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