2018年12月4日 火曜日

事業売却の事例から読み解く潮流《タクシー業界》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

2010年代に入り、中小企業のM&Aや事業売却が増えています。タクシー業界ではそうした流れがとくに顕著です。タクシー業界における事業売却の事例を検討してみましょう。

タクシー業界における事業売却の動き

現在、タクシー業界においても業界再編が進んでいます。業界再編にともないM&Aや事業売却も頻繁に行われるようになりました。タクシービジネスの仕組みと、2000年以後に顕在化してきた動きをみることで、そうした現状を理解することができます。

タクシービジネスとは

タクシービジネスとはどのようなビジネスなのでしょうか?タクシー事業は法人タクシーと個人タクシーに大別されます。比較的最近の統計を見ると、法人タクシーのタクシードライバーは約32万人、個人タクシーのドライバーは約4万人です。売上はそれぞれ約1.5兆円、約1400億円です。タクシー業界は、個人事業者や小規模事業者が多い業界だと言えます。

タクシー会社の経費の中で、もっとも多くを占めるのは人件費です。人件費は70パーセント以上を占めます。人件費の大部分はドライバーに支払う給料ですから、タクシー会社はドライバーで持っていることになります。

そのドライバーですが、年間収入は日本の平均の半分程度の300万円程度であり、労働時間は日本の平均より少し長くなるなど、厳しい状態に置かれています。このような状態が続いた結果、ドライバーの高齢化が進み、59歳前後にまできています。タクシー業界は、ドライバーの確保が難しい業界でもあります。

タクシー業界の最近の動き

このように何かと厳しい状況下にあるタクシー業界ですが、今世紀入ると、いくつかの注目に値する動きが出ました。そうした動きの中で、とくに覚えておきたいトピックをご紹介いたしましょう。

▼最近の規制の動き

タクシー業界を考える上で、規制の動きを無視することはできません。戦後しばらくして最初に規制が行われて以来、政府は、かなり直接的な形で、タクシー業界の需給に介入してきました。戦後の昭和期、かなり長い間規制が厳しい状態が続いたのち、規制緩和の議論がたかまり、2002年(平成14年)の規制緩和に結実します。これを受けてタクシー台数が増加しますが、2008年のリーマンショックを受け、タクシー1台当たりの売上が落ち込む中、政府は再規制に踏み切ります。2009年と2014年の2回にわたる規制強化の結果、タクシー業界は再び新規参入や増車が難しい状態に戻りました。

▼最近の売上の推移

タクシー業界の売上規模は下落を続けています。2001年の1.9兆円から2013年の1.5兆円まで、リーマンショック時の大きな落ち込みをはさみ、20パーセント以上の減少を経験しています。

▼IT化とサービスの多様化が進展

今世紀に入ると、大手タクシー会社を中心としてIT化とサービスの多様化が進みました。IT化が進展した結果、大手タクシー会社は、配車アプリを中心に、ネット決済その他のITシステムを連携させた、規模の大きなビジネスを展開するようになりました。その一方で、地方の足としての乗合タクシーや、要介護者が車いすやストレッチャーのまま利用できる介護タクシー、子供の送り迎えのためのタクシーといった、個別的な需要を取り込むタクシーサービスが展開されています。

▼進む二極化

IT化は多額の設備投資を必要とします。IT化が可能な大手タクシー会社とそれができない中小タクシー会社の間で二極化が進みました。

1.3タクシー業界に事業売却のチャンスが来ている

それでは、続いてタクシー業界における事業売却のトレンドをみていきましょう。

▼大手タクシー会社が事業拡大に乗り出している

配車アプリなどのITシステムは多くの利用者が使えば使うほど価値が高まります。IT化に成功した大手タクシー会社は、必然的に事業拡大に乗り出すことになりました。規制が厳しい中、事業を拡大する手段としてフランチャイズ化や子会社化に焦点があたっています。

▼大手タクシー会社と中小がフランチャイズ契約を結ぶ動き

今日、大手タクシー会社が中小をフランチャイズ化する動きが目立っています。フランチャイズ契約を結ぶと、大手はシステム使用料などを得ることができ、配車アプリの利便性を高めることもできます。一方中小は、高度なシステムを導入できたり、大手のイメージもとで人材獲得能力を高めたりすることができます。

▼大手タクシー会社が中小を子会社化する動き

もうひとつ目立つ動きは、大手タクシー会社が中小を子会社化する動きです。株式取得により、中小タクシー会社の経営権は大手に移りますが、必ずしも経営者が交代するわけではなく、中小タクシー会社の経営者がそのまま子会社の経営を続ける場合も多いです。経営の質を高めるために子会社化を受け入れるケースと考えることができます。

▼タクシー会社の事業売却はいまがチャンス

大手タクシー会社は買収の動きを強めています。一方、規制産業であるため、業界の環境は簡単にかわりやすいです、いつまでこの状況が続くかはわかりません。タクシー会社の事業売却を考える場合、いま、チャンスが訪れていると考えることができます。

 

最近のタクシー業界の事業売却事例

大手タクシー会社が買収の動きを強めています。そうした事例として、今日特に活発に事業拡大に努めている2社、第一交通グループと日本交通グループへの事業売却事例をご紹介いたします。

第一交通への事業売却事例

▼第一交通グループとは

第一交通産業株式会社は、福岡県北九州市小倉北区本社を置く、タクシー事業を中心とした多角的事業体です。中核のタクシー、ハイヤー事業に加えて、貸切バス、霊柩車、乗合タクシーなどの事業も展開しています。「総合生活産業」の理念を掲げる同社は、多角的に事業を展開しており、マンションや住宅販売を中心とした住宅販売・不動産事業、不動産担保ローンなどを扱うファイナンス事業、訪問介護、居宅介護、介護老人ホームなどの医療・介護福祉事業、その他の事業を展開しています。

▼事業の多角化に取り組む第一交通

第一交通グループの事業の多角化は、2代目経営者で現在社長を務める田中亮一郎氏によって行われました。創業者一族の一員である同氏は、1994年に第一交通産業に入社し、2001年に社長に就任します。同氏は、就任以前から続いたM&Aによる事業拡大に加えて、事業の多角化に取り組みます。沖縄のバス会社を譲り受けて以来、事業の相乗効果による沖縄本島での地域密着の実現をめざして、バス事業に加え、那覇バスターミナルの再開発、不動産の分譲と賃貸、多様なサービスを提供するタクシー事業など、総合的・多角的な事業を展開しています。

▼第一交通のタクシー会社買収戦略

第一交通は、M&Aを活用した事業拡大にも積極的に取り組んでいます。田中社長はその理由として、規制の中で事業拡大の速度を速めるためにはM&Aしかないと考えたと語っています。M&Aにあたって、第一交通がもっとも重視しているのは、タクシードライバーの定着です。独自の情報網をもち、より良い環境を求めて会社を渡り歩くドライバーをつなぎとめるためには、「第一交通」という会社自体が顧客を獲得する必要があると考えています。事業の多角化を考えているので、M&Aをおこなうときには、売り手のタクシー会社が営業を行っている地域について、綿密な調査を行っています。

▼地方におけるタクシー事業

第一交通は、過疎地域でのタクシー事業にも取り組んでいます。こうした地域では、タクシーは公共的な通機関です。乗合タクシーを起点として、買い物代行、お届け代行などの代行サービスにつなげていけるのではないかと考えています。

▼第一交通が松本市の相互タクシーを子会社化

2016年2月、第一交通産業株式会社の連結孫会社である第一交通株式会社(松本)は、相互タクシー株式会社の自己株式を除く全発行済株式を取得しました。相互タクシー株式会社は、長野県松本市に本店を置き、タクシー事業とバス事業を営む会社です。タクシー50台、バス4台、従業員64名を擁しています。これにより第一交通グループの長野県内におけるタクシー台数は312台に、グループ全体としてのタクシー台数は8344台となりました。

▼第一交通が松山市のすみれタクシーを子会社化

2016年1月、第一交通産業株式会社の連結孫会社である松山第一交通株式会社は、すみれタクシー株式会社の全発行済株式を取得しました。すみれタクシー株式会社は、愛媛県松山市に本店を置く、タクシー台数9台、従業員14名を擁するタクシー会社です。これにより第一交通グループの愛媛県内におけるタクシー台数は100台に、グループ全体のタクシー保有台数は8276台となりました。

 

日本交通への事業売却事例

▼日本交通とは

日本交通株式会社は、東京を拠点として、タクシーとハイヤー事業を行う企業です。2018年5月期のグループ全体の売上高約960億円は業界トップです。大和自動車、帝都自動車、国際自動車とともにいわゆる「東京四社」を組織しています。桜にNのマークが目印です。

▼新社長川鍋一朗氏が1900億円の負債を返済

現在安定した経営状態にある日本交通ですが、2005年に川鍋一郎氏が社長に就任した当時、グループは1900億円もの負債を抱えていました。事業や資産のうち、売却できるものは売却した後で、会社の収益構造の改善に乗り出します。不採算顧客に対して値上げを受け入れてもらうなどの努力の結果、経営は持ち直します。経営のポイントとして、川鍋氏は視野を広げてアイデアを出すこと、たくさんのアイデアを試すこと、批判を気にしないこと、うまくいったことを広く伝えること、現場に出ること、風通しのよい環境を作ることが重要だと述べています。

▼日本交通のIT戦略

2000年以降、日本交通はビジネスのIT化に向けて積極的に取り組み始めます。ドライブレコーダーの導入、無線システム、電子マネーSuicaへの対応、配車アプリ「全国タクシー配車」のリリース、インターネット決済サービス導入など、ITを活用したサービスの高度化に取り組みました。

▼日本交通のサービス多角化戦略

日本交通は、サービスの多様化にも取り組んでいます。ビジネスクラスのタクシー「黒タク」、東日本大震災のときの「救援タクシー」の活躍、「陣痛タクシー」、「東京観光タクシー」、「サポートタクシー」、「キッズタクシー」などの専門性を備えたタクシーサービスを展開しています。

▼日本交通が兵庫県のタクシー会社2社を傘下に

2018年4月、日本交通株式会社は、尼崎工都タクシー株式会社および株式会社川西オーシャン交通の全発行済み株式を取得し、運営を引き継ぎました。尼崎工都タクシーと川西オーシャン交通はともに尼崎市に本店を置く、車両台数それぞれ36台、25台をようするタクシー会社です。日本交通グループの兵庫県における車両台数は、これにより180台となりました。日本交通は、阪神エリアの顧客のみならず、阪神地域を訪れる顧客に対しても快適な移動サービスの提供に努めます。

▼日本交通が神戸市のタクシー会社2社を傘下に

2017年5月、日本交通株式会社は東亜タクシー株式会社および株式会社オーシャン交通の全発行済株式を取得し、運営を引き継ぎました。東亜タクシーとオーシャン交通はともに神戸市に本店を置く、車両数それぞれ38台、46台のタクシー会社です。これにより日本交通は神戸市において119台のタクシー車両を所有することになりました。この買収は、日本交通の関西圏での事業強化の一環です。日本交通は、今後、神戸の利用者により快適な移動空間を提供することと、タクシー業界全体の更なる発展に努めます。

 

タクシー会社の事業売却を実施するうえでのポイント

ドライバーの処遇

タクシー会社の事業売却を実施する上では、ドライバーの処遇に特に気をつけなければなりません。タクシードライバーは、会社の従業員ではありますが、独立に営業する側面も多々ある職業です。独自の情報アンテナを持ち、よりよい処遇を求めて移動するドライバーも少なくありません。事業売却の前後で処遇が大きく落ちるようなことがあれば、ドライバーの流出につながりかねません。現場のドライバーの処遇をよく確認したうえで、買い手との調整を進めましょう。

仲介会社の活用

広く買い手を求めて事業売却を行う場合、ほぼ必然的に仲介会社を活用することになります。仲介会社を活用すれば、複雑な売却交渉プロセスのなかで落とし穴にはまることを避けられます。また、仲介会社がプールしている多数の買い手候補から、売却交渉の相手を選べるという利点もあります。タクシー会社の事業売却について、実績のある仲介会社を選びましょう。

 

まとめ

以上、事例の側面から、タクシー会社の事業売却を読み解いてみました。事例からも、今まさに事業売却チャンスが訪れていることがわかります。事業売却を検討する際に参考にしていただければ幸いです。

事業売却の事例から読み解く潮流《タクシー業界》
2010年代に入り、中小企業のM&Aや事業売却が増えています。タクシー業界ではそうした流れがとくに顕著です。タクシー業界における事業売却の事例を検討してみましょう。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2018年12月4日
タクシー会社の事業売却のポイントとは?
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