2018年12月4日 火曜日

タクシー会社の事業売却のポイントとは?

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

日本国内の企業を対象としたM&Aの件数は、2006年ころ一度ピークをむかえたあと減少に転じました。2011年ころに再び増加に転じ今日に至っています。2018年の件数は2006年のピークを超えると見られ、現在M&A市場は活況を呈しています。2000年代のM&Aブームは、主として大企業で行われた業界再編にともなうものでしたが、2010年代のブームは、中小企業の業界再編が進んでいることを反映していると考えられます。

当然、タクシー業界においても、こうした業界再編にともなうM&Aの活発化の動きを見ることができます。しかし、そればかりではなく、今世紀以後にタクシー業界で起こった様々な変化もまた、タクシー業界におけるM&Aの活発化に寄与しています。そうした変化を一つ一つ見ていくと、タクシー会社経営者にとって、今まさに事業売却の好機が訪れていることがわかります。タクシー会社の事業売却のチャンスが訪れている要因と、実際に事業売却を行う上でのポイントを解説いたします。

タクシー会社の事業売却で次のステージへ

タクシー業界の特質と、最近の動きを見ると、現在タクシー会社を売却するチャンスが訪れていることがわかります。タクシー会社の事業売却で次のステージへと進みましょう!

タクシー業界はどんな業界か

タクシー業界はそもそもどのような業界なのでしょうか?その特質を押さえましょう。

▼タクシー業界は年々縮小している

タクシー業界は年々縮小しています。タクシー利用者の数は1989年の約33億人から、2016年の約15億人までほぼ毎年減少を続けてきました。2008のリーマンショック前後に大きな落ち込みを経験した後になっても、ゆるやかな減少を続けています。売上も、2001年の約1.9兆円から2013年の約1.5兆円まで、利用者数と同じような経緯をたどっています。タクシー業界の経済規模は、20年足らずの間に、利用者数は半減以下に減り、売上は2割以上減りました。

▼タクシー事業の費用構造

タクシー事業の営業費用のうち、ドライバーに支払う給料などの人件費が70パーセント以上をしめています。次に多いのはガソリン代などの燃料費ですが、それでも10パーセントを超えません。自動車を購入したり修繕したりといった車両関係に費やされる経費は、意外ですが5パーセントもありません。タクシー事業の主役は自動車ではなくドライバーなのです。

▼タクシードライバーという仕事

タクシードライバーはどのような仕事なのでしょうか?まず収入を見てみます。年収は300万円前後であり、すべての仕事の平均の約半分です。にもかかわらず労働時間は平均よりも長くなっています。2014年の統計では、タクシードライバーが2304時間働いたのに対して、全平均は2172時間となっています。つまり、5パーセント強の開きがあります。

▼ドライバーの高齢化と求人難

このように厳しい状況が続く結果、タクシー業界は、ドライバーの高齢化と求人難に見舞われています。2014年のドライバーの平均年齢は58.7歳で、全産業の平均より15歳以上も高齢になっています。

▼タクシー業界は規制業界

タクシー業界は規制業界です。これはタクシー業界を考える上で外すことができないポイントです。戦後に最初に行われた大きな規制は、1955年に行われた「同一地域同一運賃」原則のもとでの新規免許と増車の規制です。以後、比較的最近までこの規制が維持されてきました。

2000年代以後のタクシー業界

今世紀に入り、日本の経済界に大きな変化が訪れています。こうした大きな変化は、いまだ落ち着く気配を見せませんが、そんな状況からはタクシー業界も例外ではありません。タクシー業界において、今世紀に以後に生じた重要な変化を見ていきます。

▼規制行政の変遷

昭和の間、長期にわたり「同一地域同一運賃」原則が維持されましたが、平成に入ると規制緩和の議論が活発になります。そうした議論は2002年に行われた規制緩和に結実します。規制緩和の結果、免許制が許認可制になったり、運賃がある程度自由化されたりしました。その結果タクシーの台数が増加していきます。その後リーマンショックで業界が冷え込むと、一転して規制が強化されます。2009年と2014年の2回に渡って行われた規制強化の結果、ふたたび新規参入や増車が難しい状態になっています。

▼IT化の進展

ビジネスのデジタル化は日本経済のあらゆる側面に対して影響を与えています。今世紀に入ると、大手タクシー会社はビジネスのIT化に乗り出しました。デジタル無線やドライブレコーダーのような業務システムに加えて、配車アプリや決済システムといった、スマートフォンを持つ利用者に直接利便性を提供するシステムが開発されました。現在、大手タクシー会社は、そうしたシステムと、それに関連する企業を連携させた、複雑で規模の大きなビジネスを展開しています。

▼サービス多様化の進展

今世紀のもう一つの変化として、サービスの多様化をあげることができます。妊婦の病院への送迎、こどもの塾や習い事への送迎、要介護者の利用できるようにするためにストレッチャーや車いすで乗り込めるようにするなど、個別の需要に対応したタクシーが運行されるようになりました。また、地方を中心として乗り合いタクシーなどの仕組みも出てきました。

タクシー会社の事業売却で次のステージへ

今世紀以後に生じた様々な変化の結果、タクシー事業を売却して次のステージへ進むチャンスが訪れています。実際、数多くの事業売却が行われています。そのあたりの事情を見ていきましょう。

▼進む大手と中小の間の二極化

タクシー事業をIT化するためには、多額の設備投資が必要です。設備投資が可能な大手タクシー会社と、設備投資ができない中小との間で二極化が進んでいます。業界規模が縮小する中、サービスをアップデートできない中小タクシー会社の中には業績不振に陥る会社も増えてきました。

▼大手が積極的に事業拡大に取り組んでいる

IT化やサービスの多様化に成功した大手タクシー会社は積極的に事業拡大に取り組んでいます。配車アプリケーションのようなシステムは、利用者が少ない間はあまり効果を発揮しませんが、利用者が増えれば増えるほど効果を発揮します。また、ITシステムは、利用者が増えても追加コストはあまり発生しません。大手タクシー会社は、必然的に事業拡大に乗り出すことになりました。

▼大手と中小がフランチャイズ契約を結ぶ

事業拡大の手段として特に目立っているのが、フランチャイズ契約によるグループ拡大です。大手にとってはロイヤリティ収入とスケールメリットが、中小にとってはシステムアップデートとブランドイメージが手に入ります。

▼大手が中小を子会社化する

事業拡大のもう一つの手段は、大手による中小の子会社化です。経営権は大手に移りますが、中小の経営陣は引き続き子会社を経営することが多く、中小から見れば経営をブラッシュアップする手段になっています。

タクシー会社を事業売却する目的にはこんなものがあります

現在はタクシー会社を売却する好機です。タクシー会社を事業売却する目的、事業売却でなにが実現できるのかを見ていきましょう。

売却企業の目的

はじめに売却企業の目的、売却企業経営者が実現できることを見ていきます。

▼後継者問題を解決したい

中小企業経営者の高齢化が進んでいて、後継者に事業を引き継ぐことが課題となっています。以前であれば、身内や従業員の中から後継者を選ぶことが一般的でしたが、息子が引き継ぎたがらない、有能な従業員はいるが株式を取得する資金を用意できない、などの理由があり、なかなかうまくいきません。M&Aなどのしくみをつかって事業を売却すれば、後継者問題を一度に解決することができます。

▼従業員の雇用を確保したい

中小のタクシー会社経営者は、長年にわたり、地域に公共的な交通手段を提供するとともに、従業員に生活の手段を提供してきました。経営者が引退するときに、廃業を選択せずに売却を選択すれば、こうした責任を次の雇用主に引き継ぐことができます。

▼創業者利益を獲得したい

事業売却により創業者利益を獲得することができます。株式を現金に換えることができるわけです。

▼老後の資金を確保したい、次のステージへの挑戦したい

そのようにして獲得した創業者利益を、さまざまな形で活用することができます。高齢の経営者の場合、創業者利益を老後の生活資金を補充するために使うことができますし、新しい試みにあてることもできます。売却により次のステージのための資金を作ることができます。

買収企業の目的

つぎに買収企業の目的、買収企業が実現できることを見ていきます。

▼スケールメリットを追求したい

タクシー会社の買収において、買収企業は主に大手タクシー会社です。ビジネスのIT化に成功した結果、大手タクシー会社は事業拡大によりスケールメリットを追求するインセンティブを持っています。その結果たとえば大手の第一交通グループは、1989年の約1600台から2018年の約8400台へと、飛躍的にグループを拡大しています。

▼規制のもとで事業を拡大したい

大手タクシー会社が積極的に買収を行う背景に、タクシー業界に対する規制があります。2002年に行われた規制緩和の結果、車両数が増加しましたが、リーマンショック後に行われた2回の規制強化の結果、タクシー業界は再び新規参入や増車が難しい業界になりました。事業拡大をねらう大手タクシー会社が取りうる手段として、買収やフランチャイズ化以外の方法があまりない状況です。

▼ドライバーや車両・設備を一挙に獲得したい

買収は、ドライバーや設備を一挙に獲得する手段としても魅力的です。求人難の中、ドライバーを獲得できる魅力はとくに大きいと言えるでしょう。

タクシー会社の事業売却を行う上での注意点

最後に、タクシー会社の事業売却を行う上での注意点、ポイントをご紹介いたします。

▼仲介会社に相談しよう

広く買い手を募って事業を売却したいと考えた場合、M&A仲介会社のサポートを受けるのが適切です。これには主に二つの理由があります。事業売却をスムーズに行うためには、買い手を探す段階と探した買い手と交渉をおこなう段階の各ステップを確実にこなす必要があります。そうしたステップの中には専門的な知識を必要とするものも少なくありません。売却をスムーズに進めるために、専門家の助けが必要です。M&A仲介会社のサポートを受けるもう一つのメリットは、広い範囲の企業から買い手を選択できることです。M&A仲介会社のサポートを受けることで、売却益を増加させたり、交渉をまとめたりする可能性を高めることができます。

▼仲介会社の見つけ方

M&A仲介会社はそれぞれ得意分野を持っています。また、提供するサービスの質にもバラツキがあります。タクシー会社の事業売却に適した仲介会社を選ぶ必要があります。仲介会社のウェブサイトを見てみましょう。タクシー業界について解説があったり、仲介実績があったりするとポイントが高いですね。よさそうな業者を見つけたら、問い合わせて、自社の目的に合うか細かく確認します。くれぐれも、仲介手数料だけで選ぶようなことはやめましょう。

▼ドライバーの処遇を調整する

買い手との交渉に際して、売却価格以外で特に重要なポイントとなるのは、所属ドライバーの処遇です。タクシー産業は労働集約型産業であり、ドライバーはもっとも重要な経営資産です。求人難の中、一度失ったドライバーを補充するのは、容易なことではありません。ドライバーの引継ぎは、交渉の上でとくに大きなポイントです。買い手企業との間でドライバーの処遇について綿密に交渉を重ね、売却後に処遇が大幅に落ちるようなことのないようにしましょう。

まとめ

以上、タクシー会社の事業売却のポイントをご紹介しました。大手タクシー会社が積極的に買収に取り組んでいる「いま」、事業売却の好機が到来しています。規制行政の不透明性、業界規模の縮小、米国や中国では合法化されている「ライドシェア」が解禁される可能性などを考えると、この好機がいつまで続くかわかりません。目の前にあるチャンスを無駄にしないように気をつけたいものです。

タクシー会社の事業売却のポイントとは?
日本国内の企業を対象としたM&Aの件数は、2006年ころ一度ピークをむかえたあと減少に転じました。2011年ころに再び増加に転じ今日に至っています。2018年の件数は2006年のピークを超えると見られ、現在M&A市場は活況を呈しています。2000年代のM&Aブームは、主として大企業で行われた業界再編にともなうものでしたが、2010年代のブームは、中小企業の業界再編が進んでいることを反映していると考えられます。
当然、タクシー業界においても、こうした業界再編にともなうM&Aの活発化の動きを見ることができます。しかし、そればかりではなく、今世紀以後にタクシー業界で起こった様々な変化もまた、タクシー業界におけるM&Aの活発化に寄与しています。そうした変化を一つ一つ見ていくと、タクシー会社経営者にとって、今まさに事業売却の好機が訪れていることがわかります。タクシー会社の事業売却のチャンスが訪れている要因と、実際に事業売却を行う上でのポイントを解説いたします。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2018年12月4日
事業売却の事例から読み解く潮流《タクシー業界》
2018年12月4日
事業譲渡の事例から読み解く潮流《タクシー業界》
WEBからお問い合わせ
当社はお客様の事を最優先で考える成果報酬型エージェントです。
匿名をご希望されるお客様には、会社情報など一切公開せずにお問い合わせ頂く事が可能です。

お問い合わせ内容

氏名

電話番号

メールアドレス

メールアドレス(確認)

業種

会社名

お問い合わせ内容