2018年12月4日 火曜日

事業譲渡の事例から読み解く潮流《タクシー業界》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

中小企業の後継者問題が深刻化する中、M&Aを活用した事業譲渡が増えています。そうした流れは、タクシー業界も例外ではありません。本記事では、いくつかの事例を見ながら、タクシー業界の事業譲渡の動向を整理します。

タクシー業界における事業譲渡の動き

タクシー業界での事業譲渡はなぜ起こっているのでしょうか。タクシー産業全体の特徴、直近の業界トレンドも合わせて動向を整理していきます。

タクシー産業概観

タクシー業界における事業譲渡の動きを抑えていくにあたって、まずは産業の概観を掴みましょう。

▼タクシー産業は労働集約型産業

タクシー事業の営業費用を見ると、人件費が全体の7割以上を占めていることがわかります。車両の減価償却費や修繕など、車両にかかる経費は、意外なことかもしれませんが全体の4パーセントにすぎません。タクシー事業は設備投資費用があまりかからない産業なのです。また燃料費も全体の1割を切ります、タクシー産業は労働集約型産業だといえるでしょう。タクシードライバーこそが、タクシー事業におけるもっとも重要な経営資産なのです。

▼タクシー産業の経済規模は縮小を続けている

タクシー産業の経済規模は、かれこれ30年近くの長きに渡り縮小を続けています。1989年(平成元年)に約33億人利用していましたが、2016年(平成28年)になると約15億人しか利用していません。半減以上の減少です。営業収入で見ると、1989年(平成元年)の約2.6兆円が、2015年(平成27年)になると1.7兆円にまで落ちてきています。金額ベースでみても約35パーセントの減少です。日本の人口減少が始まったのは、2008年(平成20年)であり比較的最近のことです。人口減少はタクシー産業の規模縮小に影響を与えていますが、それ以外の要因も働いています。

▼ドライバーの高齢化と採用難の問題

タクシードライバーは年々高齢化しています。2001年(平成13年)の平均年齢は52.9歳でしたが、これが2016年(平成28年)になると58.7歳にまで高齢化しました。全産業平均の42.9歳とくらべ、15歳以上高齢です。こうした高齢化の背景には、タクシードライバーの厳しい労働条件があります。タクシードライバーの年間所得は300万円前後で、全産業平均の半分以下ですが、労働時間は全産業平均よりも長いのです。こうした厳しい条件が、ドライバーの高齢化と各企業の採用難に拍車をかけています。

▼規制が厳しいタクシー産業

タクシー産業の歴史は、政府による規制の歴史です。戦後最初の大きな規制は1955年(昭和30年)にまでさかのぼります。タクシー不況に直面した運輸省は、同一地域同一運賃原則を掲げ、新規免許と増車の停止による需給調整に乗り出しました。タクシー会社の経営に対して、規制は多大な影響を与えます。最近の規制の動きについては次節で述べます。

最近の動き

続いて直近の業界動向を整理してみましょう。

▼今世紀に入ってからの規制の動向

今世紀に入ってからの約20年間の規制の動きを見ていきましょう。2002年(平成14年)に規制緩和が行われると、車両の台数が増加しピークを迎えます。2008年のリーマンショックにより収入が大きく落ち込んだことを受け、2009年と2014年の2度にわたり、規制が強化されます。これによりふたたび新規参入や増車が難しくなりました。

▼大手タクシー会社がサービスの多様化に取り組んでいる

今世紀に入ると、大手タクシー会社を中心にサービスの多様化が始まります。陣痛時や入退院の送迎などのマタニティタクシー、塾や習い事への送迎などのキッズタクシー、要介護者が利用できるように、車いすやストレッチャーのまま乗車できる介護タクシーなど、多様なサービスが始まっています。

▼大手タクシー会社が事業のIT化に取り組んでいる

今世紀のもう一つの動きとして、大手タクシー会社がビジネスのIT化に取り組んだことがあげられます。デジタル無線やドライブレコーダーなどの業務用のシステムに加えて、配車アプリやオンライン決済といった利用者の利便性に直結するシステムが導入されました。現在、大手タクシー会社は、そうした高度なシステムを中心に、関連各社と手を組み、複雑で大規模なビジネスを展開しています。

事業譲渡のチャンス

業界の特徴、トレンドを整理していきました。最後になぜタクシー業界において事業譲渡が増えてきているのか、事業譲渡のトレンドをみていきましょう。

▼大手タクシー会社が積極的にM&Aとフランチャイズ化に取り組んでいる

こうした取り組みの結果、現在大手タクシー会社はスケールメリットを求めて積極的に事業拡大に乗り出しています。

▼フランチャイズ化の動き

大手タクシー会社の事業拡大の手法として、もっとも目立つのは、フランチャイズ化の動きです。事業譲渡とは少し異なりますが、フランチャイズ契約は、大手には事業拡大のメリットがあり、中小タクシー会社にはシステムのアップデートや大手の信用を背景とした採用活動の強化などのメリットがあります。

▼子会社化の動き

事業拡大のもう一つの方法は子会社化です。こちらは株式の売買を伴い、経営権は親会社に移ります。子会社化しても旧経営陣がすぐに退陣することは少なく、買収された会社の経営陣がそのまま子会社を経営するケースが多くなっています。

▼事業譲渡のチャンスは「いま」

全体のパイが縮小する中でも、大手タクシー会社は拡大に取り組んでいます。現在、事業譲渡にとって好都合な状況にあります。

最近のタクシー業界の事業譲渡事例

続いて、具体的なタクシー業界の事業譲渡の事例をみていきましょう。

第一交通への事業譲渡事例

▼第一交通とは

第一交通株式会社は、福岡県北九州市に本社を置く、タクシー・ハイヤー事業を中心とした多角的事業体です。「総合生活産業」を標榜する同社は、現在、タクシー・ハイヤー事業に加えて、貸切バス、霊柩車、乗り合いタクシー、住宅販売、不動産、ベンチャー支援、自動車整備、不動産担保ローンなどのファイナンス事業、訪問介護、居宅介護支援などの医療・介護福祉、その他の事業を展開しています。

▼第一交通のビジネスモデル

「地域密着の総合生活産業」をキーワードとして、多角的に展開された事業のシナジーをねらうのが、第一交通の基本的なビジネスモデルです。タクシー事業については積極的にM&Aと事業の譲受けに取り組んだ結果、グループが保有するタクシーは、1989年(平成元年)の1580台から、2017年(平成29年)の8468台にまで増加しました。全国タクシー予約センター、自動配車アプリ「モタク」、ママサポートタクシー、子どもサポートタクシー、タクシーチケットネットワーク、多言語通訳サービスなど、ITシステム化とサービスの多様化に取り組んできました。

▼第一交通が三和交通を子会社化

2016年5月、第一交通産業株式会社の連結孫会社である仙台第一交通株式会社は、三和交通株式会社の全発行済株式を取得しました。三和交通株式会社は、新潟県新潟市に本店を置く、車両台数32台、従業員数32名を数えるタクシー会社です。この株式取得は、第一交通グループにとって、新潟県への初めての事業進出となります。グループ全体のタクシー保有台数は、8356台となりました。

▼第一交通が株式会社第一を子会社化

2016年10月、第一交通産業株式会社の連結孫会社である松山第一交通株式会社は、株式会社第一の全発行済株式を取得しました。株式会社第一は、愛媛県松山市に本拠を置く、車両台数20台、従業員34名を擁するタクシー会社です。これにより第一交通グループの愛媛県内におけるタクシー台数は、既存の3社100台と併せて120台となり、グループ全体のタクシー保有台数は8375台となりました。

みちのりホールディングスへの事業譲渡事例

▼みちのりホールディングスとは

みちのりホールディングスとは、東京都に拠点を置く、2009年3月に設立された株式会社です。設立目的として、「傘下の公共交通事業体の持株機能及び長期的・持続的な事業価値の向上」を掲げています。みちのりホールディングスは、株式会社経営共創基盤の100パーセント子会社です。経営共創基盤(英語名 Industrial Growth Platform, Inc.、略称: IGPI)は、2007年4月に設立された、ハンズオンの経営支援、つまり支援先にIGPIのスタッフを派遣し、協業することで組織全体の変革を目指す事業を中心として、多角的な経営支援やコンサルティングを行う会社です。産業再生機構の元の最高執行責任者である冨山和彦氏が代表取締役最高経営責任者を務め、様々な専門性をもったスタッフが集まっています。

▼みちのりホールディングスの事業戦略

みちのりホールディングスは、2009年の発足当初は経営が悪化した公共交通機関、その中でも主として路線バス事業の買収と再生を手掛けてきました。近年は経営的には問題がないものの、親会社の構想から外れた企業を買収するケースが増えています。みちのりホールディングスの傘下には、福島交通、茨城交通、関東自動車、会津乗合自動車、湘南モノレール、日立電鉄交通サービス、東日本交通といった地方の交通機関が入っています。

▼みちのりホールディングスが会津乗合自動車を子会社化

2013年8月、株式会社みちのりホールディングスは、株式会社地域経済活性化支援機構との間で、会津乗合自動車株式会社(以下会津バス)の全株式を譲受ける株式譲渡契約を締結しました。会津バスはみちのりホールディングスのグループ会社となります。会津バスは、会津地域を広くカバーする乗り合いバス、会津若松市と福島市・郡山市・いわき市、仙台市、新潟市および首都圏を結ぶ高速バス事業に加え、地域住民や観光客に対して移動手段を提供するタクシー事業に取り組む交通会社です。今後みちのりホールディングスは会津バスとグループ他社の広域連携に取り組みます。またバスのICカード「NORUCA」を導入します。タクシー事業についても地域住民の日ごろの足としてのサービスの拡張と、観光客向けのサービスの強化に取り組みます。

▼みちのりホールディングスが日立電鉄交通サービスを子会社化

2017年10月、株式会社みちのりホールディングスは、株式会社日立製作所との間で、日立電鉄交通サービス株式会社の全株式を譲り受ける株式譲受契約を締結しました。日立電鉄交通サービスはみちのりホールディングスの子会社となりました。日立電鉄交通サービスは、茨城県県北エリアを広くカバーする、乗り合いバス事業、貸切観光バス・旅行事業、自動車運行管理事業、レンタカー事業、タクシー事業を含む、地域を代表する交通・観光事業会社です。みちのりホールディングスは今後、傘下のグループ各社との広域連携を推進し、該当エリアの交通ネットワークの機能向上や、インバウンド需要の取り込みに取り組みます。

タクシー会社の事業譲渡を実施するうえでのポイント

では、タクシー会社の事業譲渡をおこなっていく上ではどの様なことに気を付ければいいのでしょうか。おさえておくべきポイントを整理します。

ドライバーの処遇

タクシー事業は労働集約型産業であり、ドライバーは最も重要な経営資産です。譲渡にあたってドライバーの処遇が大幅に下がるようなことがあれば、流出につながるおそれもあります。ドライバーの処遇について、買い取り先と入念に打ち合わせをする必要があります。現場の状況を確認したうえで、新しい職場環境に引き継いでいく必要があります。

仲介会社を活用する

身内や知り合いに譲渡する場合は別として、広く買い手を求める場合は、M&A仲介会社を活用しましょう。仲介会社を活用するメリットとして以下二つをあげることができます。第一に、仲介会社が持っている買い取り先会社のリストを活用できるので、より広い範囲から買い取り先を選択することができます。第二に、M&Aを活用した事業譲渡には、必要となる手続きが多く専門性が要求される場面も多いため、専門家の手助けがあったほうが成果を上げやすいことがあげられます。

適切な仲介会社を選択する

仲介会社を選ぶときには、タクシー会社の事業譲渡についての実績があるところを選ぶのがよいでしょう。ウェブサイトに実績が記載されている仲介会社も多くあるので、確認するようにしましょう。業界についての解説があるところであればなおよいです。ウェブサイトを活用してよさそうな仲介会社を見つけたら、問い合わせて自社の目的や条件に合うか確認します。

仲介会社を活用した事情譲渡の流れ

仲介会社を活用した事業譲渡の流れを確認しましょう。仲介会社と契約すると、秘密保持契約が結ばれ、仲介会社が自社の事業を評価します。そうした評価や、自社の希望売却価格、従業員の処遇その他の条件を踏まえ、仲介会社が買い手企業を探します。これをマッチングと呼びますが、マッチングの結果買い手として交渉を行う企業が選ばれ、事業譲渡の交渉が始まります。トップ会談などを経て基本合意書が作成され、デューデリジェンスと呼ばれる、売り手企業に対する詳細な調査が行われます。その結果最終的な譲渡価格や条件が決定され、売り手と買い手の間で最終的な譲渡契約が結ばれます。

まとめ

以上、タクシー会社の事業譲渡についていくつかの事例をご紹介しました。事業譲渡を検討する際に参考にしていただければ幸いです。

事業譲渡の事例から読み解く潮流《タクシー業界》
中小企業の後継者問題が深刻化する中、M&Aを活用した事業譲渡が増えています。そうした流れは、タクシー業界も例外ではありません。本記事では、いくつかの事例を見ながら、タクシー業界の事業譲渡の動向を整理します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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