2019年1月19日 土曜日

タクシー会社の事業譲渡を検討する際のチェック項目

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

経営者が高齢化している中小企業にとって、後継者選びは悩ましい問題です。1995年の段階では、経営者の年齢の分布のピークが47歳であったのに対して、2015年のピークは66歳になりました。高齢化した経営者にとって、後継者選びは重要な課題であるにもかかわらず、数多くの企業が、後継者の不在を報告しています。

こうした後継者問題を解決する手段として、M&Aの活用が一般化してきました。実際、中小企業のM&A件数は、2012年に比べて2017年では3倍超となっています。タクシー業界では、IT化を軌道に乗せた大手タクシー会社が積極的に買収活動を行っています。大手タクシー会社に対して事業譲渡を行うチャンスが訪れているのです。タクシー会社の事業譲渡を検討する際のチェックポイントをご紹介いたします。

 

タクシー会社の事業譲渡を検討してみては?

タクシー会社の事業譲渡を行うチャンスが訪れています。タクシービジネスの現状を把握すると、なぜいまチャンスが訪れているのかを理解することができます。

 

タクシービジネスはどのようなビジネスか

最初に、タクシービジネスの特徴を考えてみましょう。

 

▼中小企業と個人事業主が支えてきたタクシー業界

タクシー業界はこれまで数多くの中小タクシー会社と、個人タクシーとによって支えられてきました。法人タクシーと個人タクシーの割合を年間の輸送人員で比較すると、法人タクシーが約15億人、個人タクシーが約1億人となっています。また、法人タクシーの多くは中小零細企業です。車両数30両以下が全法人数の約85パーセントを占め、101両以上を保有する法人は、2.8パーセントを占めるにすぎません。

 

▼タクシービジネスの営業費用の大半は人件費

タクシー会社の営業費用のうち、人件費が70パーセント以上を占めています。燃料費の割合は10パーセント以下であり、車両関係の費用は3パーセント強です。つまり、タクシー産業は労働集約型の産業です。

 

▼規模縮小が続くタクシー業界

タクシー業界の経済規模は年々縮小しています。この傾向は30年以上前から始まっています。必ずしも人口減少だけが要因となっているわけではありません。最近十年ほどをみても、売上規模が1.9兆円から1.5兆円へと、20パーセント以上下落しています。やはり景気が悪くなればタクシーに乗車する余裕が企業にも個人にもなくなってしまいます。

 

▼猫の目の規制行政

タクシー業界を考える上では、規制の影響を無視することはできません。今世紀初めに規制緩和が行われた時には車両数がピークを迎えましたが、その後10年ほどすると、規制が強化されました。その結果現在では、新しい地域に進出したり、車両を増やしたりすることがかなり難しくなっています。その時々の政治情勢の影響を受けるため、規制の方向性は不透明です。

 

▼ドライバーの高齢化が進んでいる

タクシードライバーの年間所得は全ての産業の平均の約半分ですが、労働時間はむしろ長くなっています。このような厳しい状況が続く中、タクシードライバーの高齢化が進行しています。2014年時点でのドライバーの平均年齢は58.7歳であり、全産業の平均に比べ15歳以上高齢化しています。若いドライバーの確保が非常に難しい状況が続いています。

 

大手タクシー会社の動き

タクシー業界では、厳しい状況が続いています。そうした状況にもかかわらず、今、大手タクシー会社は急速にビジネスを拡大しています。

 

▼ビジネスのIT化に成功し、ビッグビジネスを展開している

大手タクシー会社はビジネスのデジタル化に取り組んでいます。ドライブレコーダー、デジタル無線といった、業務用のIT機能に加え、配車アプリ、オンライン決済などユーザーに直接利便性を提供する機能の開発に成功した大手タクシー会社は、IT企業、ファイナンス企業、自動車会社などと連携してサービスを展開しています。

 

▼サービスの多様化に取り組んでいる

大手タクシー会社を中心として、利用者の個別の事情に対応したきめの細かいサービスが始まっています。各社、高齢者介護、マタニティ、キッズ送迎などそれぞれの特殊な事情をすくい取ったサービスを用意しています。

 

▼人材採用に力を入れている

大手タクシー会社は人材採用にも積極的です。採用サイトの開設はもちろんのことですが、なかには新卒、女性、一般の三種類の採用サイトを用意している会社もあります。その結果ドライバーの平均年齢が年々若くなっている会社も出てきています。

 

業界再編が進展している

▼大手と中小の間で二極化が進んでいる

全体の規模が縮小する中、積極的にビジネスを拡大する大手と、それ以外の中小零細のタクシー会社の間で二極化が進んでいます。大手タクシー会社が中小を買収する動きが強まっています。

 

▼大手タクシー会社が中小をフランチャイズ化している

タクシー業界では、大手タクシー会社が中小をフランチャイズ化する動きが顕著になっています。これは、事業を拡大したい大手と、資本やシステムを増強したい中小タクシー会社の双方の利益が一致した結果です。中小のタクシー会社が設備を近代化する方法は、これ以外にないと考えてもよいでしょう。

 

▼大手タクシー会社が中小を子会社化している

もう一つ、事例としてよくあるのは、大手タクシー会社が中小を子会社化するケースです。この場合、経営権は親会社に移りますが、これまでの経営者が引き続き子会社を指揮することができます。

 

タクシー会社の事業譲渡を検討してみては?

大手タクシー会社は買収の動きを強めています。事業譲渡を検討しているタクシー会社の経営者にとって、現在のチャンスを逃す手はありません。将来についていくつかの不透明性があるために、この状況がいつまでも続くとは限りません。

 

▼規制行政の先行きが不透明

タクシー業界の規制の方向を見極めることは容易ではありません。現在規制が強められているために、買収が事業拡大の重要な手段となっていますが、規制が緩和されれば、買収以外の手段で事業を拡大する動きも出てくるでしょう。

 

▼ライドシェアによる破壊的イノベーション

一般のドライバーがアプリを使って乗客を移動させる「ライドシェア」は日本では「白タク行為」として禁止されています。米国や中国で合法であることから、将来的に日本でも解禁になる可能性があります。ライドシェアが解禁されると、タクシー業界は大きなな影響を被ることでしょう。

 

▼「いま」が事業譲渡のタイミング

現在の有利な状況と、将来の不透明性を考えに入れると、「いま」が事業譲渡の最適なタイミングと考えることができます。

 

タクシー会社を事業譲渡するメリット

タクシー業界の全体的な動向と、大手タクシー会社が買収を強めていることを考えに入れると、タクシー会社の事業を譲渡するチャンスが訪れていることがわかりました。そこで、タクシー会社を譲渡することで得られるメリットについて、一つ一つ考えてみることにしましょう。

 

後継者問題を解決できる

とくに経営者が高齢化している場合など、深刻な後継者問題を抱えているタクシー会社が少なくありません。親族に事業を任せたいと思っても、本人にその気がなかったり、経営者としての能力が不足していたり、債務を引き継がせたくないといった事情が考えられます。従業員や役員の中から後継者を選ぼうとしても、上記のような能力ややる気の問題に加えて、従業員に会社を買い取る資金がないといった問題も立ちはだかります。M&Aを活用して事業譲渡を行えば、後継者問題を根本的に解決することができます。

 

従業員の雇用を守ることができる

後継者がいない、事業がうまくいかない、といった理由で廃業してしまえば、従業員は職を失い、中高年の従業員やその家族は苦境に立たされます。大手タクシー会社に事業を譲渡すれば、そうした人々の立場が守られ、処遇が改善することもあります。中小のタクシー会社の経営者は最後の段階になっても、経営者に課せられた社会的な責任を全うすることができます。

 

創業者利益を獲得し、老後の資金にできる

廃業ではなく事業譲渡を選択すれば、経営者は創業者利益を獲得することができます。会社の株式を売却し、現金を手に入れることができるので、それをもとに新しい事業や試みに挑戦することができたり、リタイア後の生活費などを増強したりすることができます。

 

大手のITシステムを導入できる

事業譲渡にはいろいろな形態があり、一部譲渡のように一定の経営権を手元に残す形での事業譲渡もあります。また、形式上全ての株式を売却しても、子会社で一定の立場を確保することなどにより、実質的な指揮権を維持することもあります。そのような形の事業譲渡を行うことのメリットとして、大手タクシー会社が保有するITシステムを導入することで、サービス水準を一気に上げられることがあげられます。

 

大手の信用をバックに人材を獲得できる

中小のタクシー会社を、大手タクシー会社に譲渡することにより、大手の信用力を背景として、人材獲得力を増強することができます。人手不足の状態が続く現在、大手タクシー会社への事業譲渡は採用力を高める有力な手段です。

 

タクシー会社を事業譲渡する際のチェック項目

次に、タクシー会社を事業譲渡するときに注意するべきポイント、チェックするべき項目をご紹介いたします。

 

事業譲渡を行う目的と必要性を再検討する

すべてのビジネス上の決定について言えることですが、なんらかの行動を起こす前に、なぜその行動が必要なのか、なにを目的としているのかを明確にする必要があります。事業譲渡をおこなうメリットをいくつか挙げましたが、それらのうちどのメリットを得ようとして事業譲渡を行うのかを明確にしましょう。現金を得るためであれば自身は売却後の経営に一切関わらなくてもいいのか、自身が経営を続けていきたいが事業規模の拡大のためには大手企業の資本力が必要、など何を目的にするかで優先すべきことが異なるからです。

またその目的を達成するために、本当に事業譲渡をすべきかについても考えましょう。事業譲渡以外の方法で達成可能であれば、譲渡後に後悔してしまう可能性もあります。

 

適切な仲介会社を選択する

M&Aを活用して事業譲渡を行う場合、もっとも重要なことは適切な仲介会社を選択することです。

事業譲渡の手続きが複雑なため、経営者が独力手続きを進めるのは得策ではありません。専門的な知識とノウハウを備えたM&A仲介会社を選択しましょう。仲介会社にはそれぞれ得意分野があり、また提供するサービスの質もさまざまです。タクシー会社の事業譲渡に適した仲介会社を選択しましょう。仲介会社のウェブサイトを見たり問い合わせたりしてみて、タクシー会社について解説があるか、タクシー会社を扱った実績があるかなどを確認します。自分の会社の状況にマッチしているのか、具体的にどのようなサービスが提供されるのかも確認ポイントです。価格だけで選んではいけません

 

ドライバーの処遇について詰める

タクシー産業は労働集約型産業であり、もっとも重要な経営資産はドライバーです。ドライバーは、よりよい労働条件を求めて移動しやすい存在でもあります。事業譲渡のあとでドライバーの労働条件が大幅に悪化するようなことになれば、事業譲渡の後でドライバーがいなくなってしまう事態になりかねません。事業譲渡にあたって、ドライバーの処遇について、売り手と買い手の間で十分に詰めておく必要があります。現場の労働条件を確認したうえで、売り手と買い手が譲渡前後の処遇について細かく調整します。

 

譲渡価格を知る

タクシー会社に限らず、すべての事業譲渡について言えることですが、やはり、譲渡価格を知ることはとくに重要です。事業の売り手として、希望する譲渡価格をはっきりと伝えましょう。その上で、仲介会社の評価をよく理解し、妥当な譲渡価格を設定します。買い手との譲渡交渉の中でも、柔軟な対応が必要です。

 

まとめ

以上、事業譲渡を考えているタクシー会社経営者の皆様のために、事業譲渡を検討するにあたってチェックするべきポイントをご紹介しました。大手タクシー会社が買収の動きを強めるいまが事業譲渡のタイミングです。ポイントを外さずにご検討ください。

タクシー会社の事業譲渡を検討する際のチェック項目
経営者が高齢化している中小企業にとって、後継者選びは悩ましい問題です。1995年の段階では、経営者の年齢の分布のピークが47歳であったのに対して、2015年のピークは66歳になりました。高齢化した経営者にとって、後継者選びは重要な課題であるにもかかわらず、数多くの企業が、後継者の不在を報告しています。
こうした後継者問題を解決する手段として、M&Aの活用が一般化してきました。実際、中小企業のM&A件数は、2012年に比べて2017年では3倍超となっています。タクシー業界では、IT化を軌道に乗せた大手タクシー会社が積極的に買収活動を行っています。大手タクシー会社に対して事業譲渡を行うチャンスが訪れているのです。タクシー会社の事業譲渡を検討する際のチェックポイントをご紹介いたします。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年1月19日
事業承継の事例から読み解く潮流《タクシー業界》
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