2018年12月15日 土曜日

事業承継の事例から読み解く潮流《タクシー業界》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

多くの中小企業にとって事業承継が重要な課題となっています。これまでのように、親族や、従業員の中から後継者を選ぶことが難しい場合も少なくありません。

後継者問題を解決する手段として、M&Aを活用した事業承継を選択する中小企業が増えています。2018年版の中小企業白書によると、中小企業のM&A成約件数は、2012年から、2017年度にかけて、3倍強の伸びを見せています。こうした傾向は、大手企業と中小企業の間で二極化が進むタクシー業界にも見られます。

タクシー業界のM&Aを活用した事業承継について読み解いていきましょう。

 

タクシー業界における事業承継の動き

タクシー業界においてもM&Aを活用した事業承継が活発化しています。その背景、事業承継のパターン、事業承継を行う時期について考えてみましょう。

 

タクシー業界の特徴

▼タクシー業界の経済規模は縮小を続けている

タクシー業界はかなり以前から縮小を続けています。1990年代から縮小が始まっているので、人口減少以外の要因も働いていることがわかります。今世紀に入ってからの売上の推移を見ると、2001年の約1.9兆円から、2013年の約1.5兆円まで、10年余りの期間で20パーセント以上減少したことがわかります。

 

▼タクシー業界は規制が緩和されたり強化されたりしている

タクシー業界は政府による規制の影響を受けやすい業界です。2002年に規制緩和が行われた後、タクシーの台数が増加しピークを迎えますが、2009年と2014年の2回にわたり規制が強化されました。その結果、現在は新規参入や増車が難しい状態が続いています。

 

▼タクシードライバーの年収は低く、労働時間は長い

タクシードライバーの年間所得は全産業平均の約半分で300万円前後です。労働時間は減少しつつありますが、それでも産業平均より長くなっています。ドライバーの高齢化が進み、2014年には58.7歳になりました。全産業平均の42.9歳と比較して、約16歳もの開きがあります。そうした厳しい条件のなか、タクシー業界では人材の確保・定着が難しくなっています。

 

タクシー業界は業界再編の真っただ中にある

タクシー業界では業界再編が進んでいます。その要因を見ていくことにしましょう。

 

▼大手タクシー会社はIT化とサービスの多様化に成功した

今世紀に入ると、大手タクシー会社はIT化とサービスの多様化を推進しました。ドライブレコーダー、デジタル無線、配車アプリ、オンライン決済などの導入に成功した大手タクシー会社は、スケールメリットを求めて企業規模を拡大しようとしています。

もう一つの動きとして、サービスの多様化をあげることができます。介護タクシー、マタニティータクシー、キッズタクシー、観光タクシーなど、個別の需要に対応することで利用を増やそうとする動きがみられます。

 

▼大手と中小の間で二極化が進行している

IT化とサービスの多様化のためには潤沢な資金を必要とします。設備投資の余裕のない中小タクシー会社は、先端的なサービスを導入することができず、全体のパイが縮小する中、苦戦を強いられています。

 

▼中小のタクシー会社の間でフランチャイズ化する動きが活発化している

中小のタクシー会社にとって、大手タクシー会社とフランチャイズ契約を結ぶことは非常に合理的な選択肢です。大手タクシー会社の資金をバックに設備とサービスを一気に現代化できます。大手としても、規制の中、M&Aを活用しなければ事業を拡大しにくい状態です。

 

いまがタクシー会社の事業承継を行う好機

タクシー会社の事業承継を行う時期としてはいまが最適です。その理由をご説明いたしましょう。

 

▼事業承継は売り手市場

大手タクシー会社が積極的に買収に取り組んでいる現在、タクシー業界のM&A市場は売り手優位です。いま事業承継を行えば、よりよい売却益を獲得できることでしょう。

 

▼規制行政が不透明

しかし、こうした状況がずっと続くかどうかは不透明です。その理由の一つにタクシー業界に対する規制の方向性が不透明なことがあげられます。今世紀に入ってからも、規制は一度緩和された後、急に強められています。その時々の政治状況に影響を受けるため、将来の規制を見通すことは容易ではありません。

 

最近のタクシー業界の事業承継事例

現在、大手タクシー会社は活発な買収活動を展開しています。中小のタクシー会社がM&Aを活用して事業承継を行う場合、承継先は、このような大手タクシー会社になることが多くなっています。そこで、大手タクシー会社として、国際自動車と、日本交通の概要や事業戦略をご紹介したうえで、2社の事業承継の事例をご紹介いたします(ここでは、事業承継として業務提携の例も含むことといたします)。

 

国際自動車への事業承継事例

▼国際自動車とは

国際自動車は、東京を拠点として、タクシー、ハイヤー、バスなどの事業を行うkmグループの総称です。その創業は早く、1920年(大正9年)に国際自動車株式会社として、東京都でハイヤー事業を開始しました。第二次世界大戦後すぐにバス事業に進出し、1960年には自動車教習所を開設しています。平成に入ると、買収や合併などにより事業組織を整えていきます。最近の10年間では、電子マネーの導入などのサービスのデジタル化、「ホスピタリティ・ドライビングkm」のモットーのもと、陣痛搬送マタニティ・マイタクシーなど、サービスの多様化に取り組んでいます。

 

▼国際自動車の採用戦略

人財教育を重視する国際自動車は、採用活動にも積極的に取り組んでいます。グループのウェブサイトから、新卒、女性、一般の三種類別々の採用サイトに移動することができます。そうした取り組みの結果、2014年から2017年までの4年間では、平均すると毎年100人以上の新卒採用に成功しています。ドライバーの平均年齢は業界全体の平均より6歳以上若く、少しずつですが年々若年齢化しています。

 

▼国際自動車と東京太陽が業務提携

2018年4月、国際自動車株式会社(kmグループ)と東京太陽株式会社はタクシー事業において業務提携契約を締結しました。東京太陽株式会社は、東京都葛飾区に本拠を構える、タクシー44台を保有するタクシー会社です。東京太陽はkmブランドでの営業を開始します。kmグループは、東京太陽とともに、kmグループのモットーである「ホスピタリティ・ドライビングkm~お客さまの笑顔を私たちの喜びとして」を実践し、顧客満足を追求していくとのことです。

 

▼国際自動車が株式会社夢交通を子会社化

また2017年7月、国際自動車株式会社は株式会社夢交通の全発行済株式を取得しました。夢交通は、東京都足立区に本拠を構える、車両55台を保有するタクシー会社です。従業員に「夢」を持ち続けてほしいという創業者の願いのもとで設立された夢交通は、社員第一主義を貫いてきた国際自動車と理念を共にするという点から、グループ化することとなりました。両社は、経営基盤や事業のノウハウなどを相互活用することで、サービス水準と効率を向上させ、顧客満足度の向上に努めるとのことです。

 

日本交通への事業承継事例

▼日本交通とは

日本交通の歴史は1928年(昭和3年)に一台のハイヤーで営業を開始したときに始まります。戦後すぐに「日本交通株式会社」に名称を変更した同社は、今世紀に入るとIT化、サービスの多様化、M&Aを活用した事業拡大に積極的に取り組みます。2018年時点でハイヤー約1,300台、タクシー約6,000台を擁する大タクシーグループに成長しました。

 

▼日本交通のIT戦略

日本交通は今世紀に入ると積極的なIT投資に乗り出します。ドライブレコーダー、電子マネー決済、GPS無線システム、配車アプリ、「日本交通タクシー配車」、「全国タクシー配車」、ネット決済サービスを導入しています。日本交通はIT技術を中核として、複雑で規模の大きなビジネスを展開しています。

 

▼日本交通のサービス多様化戦略

日本交通はサービスの多様化にも取り組んでいます。2001年にはビジネスクラスのタクシー「黒タク」の運行を開始しました。東日本大震災のときの「救護タクシー」、都内初となる「陣痛タクシー」、「東京観光タクシー」、介護のための「サポートタクシー」、学校の送迎のための「キッズタクシー」など多様なサービスを展開しています。

 

▼日本交通グループに飛鳥交通が加盟

2016年10月、日本交通株式会社は業界大手の飛鳥交通グループとフランチャイズ提携を結びました。飛鳥交通は、東京23区、武蔵野市、三鷹市エリアで事業を展開する7社、664台を保有するタクシー会社のグループです。配車アプリ「全国タクシー」に飛鳥交通グループが参加したことから交流を深めた両社は、移動サービスとして安全、安心を確保しつつサービスの質を高めていくためにはグループ化が必要と判断しました。飛鳥交通は2017年1月から順次、日本交通仕様の車両による営業に切り替えていくとのことです。

 

▼日本交通が大阪のタクシー会社さくらタクシーを傘下に

2016年3月、日本交通株式会社はさくらタクシー株式会社及び同グループ会社の全発行済株式を取得しました。さくらタクシーは、大阪を拠点とする、タクシー388台、ハイヤー13台、計401台を保有する老舗のタクシー会社です。これにより大阪府内における日本交通グループは510台体制となりました。さくらタクシーの株式取得を機に、東京に次ぐ市場規模である大阪での本格的な事業展開に取り組んでいくとのことです。大阪の顧客に対して快適な移動サービスを提供するとともに、タクシー業界の更なる発展に取り組んでいけそうですね。

 

タクシー会社の事業承継を実施するうえでのポイント

ドライバーの引継ぎをスムーズに

タクシー会社の事業承継を円滑に実施する上での第一のポイントは、従業員、とくにドライバーをどれだけ安定的に買い手企業に引き継いでもらうかにあります。タクシー会社の経費の大部分が人件費であることからわかるように、タクシー業界は労働集約型産業です。その一方個人事業主が多いことからも分かりますが、タクシードライバーはより良い待遇を求めて移動しやすい人材です。買い手企業との間で、労働条件、労働環境について現場を考慮した確認とすり合わせを行い、ドライバーに対して事業承継のメリットを説明できるようにしておかなければなりません。

 

営業エリアが重要になってくる場合がある

タクシー業界は規制が厳しい業界です。事業を拡大したり、新しい地域に進出したりといったことが、簡単にはできません。大手タクシー会社にとって、買収は、新しい地域への進出のための有力な手段です。このような事情から、事業承継にあたっても、営業エリアが重要なポイントとなる場合があります。

 

適切なM&A仲介会社を選ぶ

M&Aを活用して事業承継を実行しようとする場合、さまざまな段階を経る必要があり、その中には専門的な知識を必要とする手続きも存在します。M&Aを自力で行うのは適切ではありません。M&A仲介会社を活用しましょう。

 

▼仲介会社の選び方

世の中には多数のM&A仲介会社があります。質はピンからキリまであり、得意分野もいろいろです。タクシー会社の事業承継に適した仲介会社を選びましょう。仲介会社のウェブサイトを開き、得意分野や、仲介実績を確認します。よさそうな仲介会社を見つけることができたら、直接問い合わせて、自社の状況に適しているか確認しましょう。仲介手数料が安いだけで選んでしまうと失敗につながりやすくなります

 

▼仲介会社を活用した事業承継の流れ

仲介会社による違いはありますが、ここではひとつの典型的なパターンをご紹介いたします。仲介会社と契約を済ませると、秘密保持契約を結んだうえで、仲介会社が会社の基本的な情報を調査します。この調査結果や、希望売却価格、売却条件などの情報にもとづき、仲介会社の助けを借りながら買い手企業を選びます。売却企業、買収企業両者のトップ会談などを経て、売却に向けて基本的な事項を合意し、書類の形で残します。その後、デューデリジェンスと呼ばれる買取のための詳細な調査が実施され、調査結果にもとづき譲渡契約が結ばれます。事業が譲渡され、引継ぎが終わると、事業承継が終わったことになります。仲介会社はこうした流れをすべてに渡ってサポートします。

 

まとめ

現在、タクシー業界は業界再編の真っただ中にあります。大手タクシー会社が積極的に買収に取り組む現在が、M&Aを活用して事業承継を行う好機です。具体的な事例を読み解いてみると、多くの企業がこの好機を利用する様子が見えてきます。

事業承継の事例から読み解く潮流《タクシー業界》
多くの中小企業にとって事業承継が重要な課題となっています。これまでのように、親族や、従業員の中から後継者を選ぶことが難しい場合も少なくありません。
後継者問題を解決する手段として、M&Aを活用した事業承継を選択する中小企業が増えています。2018年版の中小企業白書によると、中小企業のM&A成約件数は、2012年から、2017年度にかけて、3倍強の伸びを見せています。こうした傾向は、大手企業と中小企業の間で二極化が進むタクシー業界にも見られます。
タクシー業界のM&Aを活用した事業承継について読み解いていきましょう。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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