2018年12月5日 水曜日

居酒屋の事業譲渡を検討する際のチェック項目

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

平成24年以降、円高の是正や株価上昇などをきっかけに居酒屋業界は成長傾向にあります。日本の経済動向を受け、消費者の消費マインドも改善傾向にあります。一方、実際には深刻な問題も抱えています。昔に比べ若年層はアルコール離れしています。酒類の販売数量は平成13年をピークに減少傾向にあります。また、ファミレスがアルコールの提供を始めるなど、他業種の参入も目立っています。そんな市場環境を受けて、事業撤退を考える居酒屋店も多くあります。一方、事業者としては、店をたたむのは、従業員の解雇などもあり、気が進まないものです。

そんな中、営んだ居酒屋店を別の事業者に渡す事業譲渡を選択する事業者も登場してきました。事業譲渡は企業買収と異なり、会社全体ではなく、特定の事業のみを売却します。複数事業を展開する事業者であれば、居酒屋以外の業態に経営資源をフォーカスすることもできます。今回は、居酒屋店が事業譲渡を行う場合、どの様なメリットがあるのか、その際の注意点についてまとめていきます。

居酒屋の事業譲渡を検討してみては?

居酒屋業界ではM&Aが活発化しています。「人材不足」「酒税法改正」「大手各社のビール値上げ」など、居酒屋業界は近年、苦境に立たされています。

そんな中、なぜ居酒屋業界ではM&Aが活発化しているのでしょうか。条件が合えば、M&Aは買収側にとっても被買収側にとっても、メリットのある話です。

まず、買収側は人材不足を解消することができます。人材不足は居酒屋業界のみでなく、飲食業界全体の課題です。どれだけ経営がうまくいっていても、人材がいなければ新店舗の展開もできません。すでに店舗と人材のある店舗をM&Aすることで、人材の問題を確保できます。また、M&Aによって、地域展開のスピードをあげることができます。外食産業は立地条件が非常に重要です。一方、自社で1から展開しようと思っても、既に別の店舗が入っており、いい場所を確保できないケースもあります。M&Aであれば、条件に合う立地を確保することも可能です。また、直近は、SNSや口コミサイトの普及により、個店ニーズが強い傾向にあります。同じフォーマットの店ではなく、オリジナリティあふれる店を出すことが求められます。M&Aを行えば、その店の個性をそのまま獲得することが可能です。

もし、事業譲渡を検討しているのであれば、昨今の居酒屋業界のトレンドは売却側にとっても追い風といえます。これを機に事業譲渡を検討してみてはいかがでしょうか。

居酒屋を事業譲渡するメリット

では、居酒屋店を事業譲渡するメリットはどこにあるのでしょうか。売却側の視点にたって、事業譲渡の主なメリットを整理していきましょう。

▼現金の獲得

事業譲渡に限らず、M&Aのメリットと言えば、現金の獲得です。今まで育ててきた事業を売却することで収入を生むことができます。もちろん、利益がでるかどうかは事業価値によるので、注意が必要です。交渉の中で、売却側と買収側の双方が満足できる事業価値をすり合わせる必要があります。

▼事業ポートフォリオの再編

複数事業を展開する企業であれば、事業譲渡により、選択と集中ができます。伸ばしていきたい別の事業があっても、居酒屋経営が忙しく、なかなか時間を割けないということもあると思います。必要な事業を残し、不要な事業を渡すことにより、経営の効率をあげることができます。

▼後継者問題の解消

少子高齢化により、オーナーがリタイアしたくても後継者が見つからないケースが多々あります。事業の経営を引き継げる人がなかなか現れない際、事業譲渡によって、優秀な企業に経営を引き継ぐことが可能です。

▼事業の継続

経営を行ってきたのであれば、不採算であっても思い出のある店舗の閉店は避けたいものです。事業譲渡を行うことによって、買収側企業とのシナジーによって、その事業の経営が改善されるケースもあります。例えば、シナジーとして地域の補完関係があります。外食産業は立地条件が非常に重要です。買収側が得意としない地域で売却側が居酒屋店を経営している場合、買収側の経営ノウハウをその地域に渡すことで、経営が改善されるかもしれません。買収側としては今まで進出できていなかった地域にスピード早く参入することが可能です。

▼従業員を解雇しなくて済む

不採算を理由に店を閉めると、従業員の解雇が伴います。会社に貢献してくれた従業員を解雇するのは、どんな経営者でも気が引けるものです。事業譲渡であれば、買収側の企業が事業を伸ばし、従業員の雇用を継続してくれる可能性があります。

居酒屋を事業譲渡する際のチェック項目

事業譲渡に関するメリットをみてきましたが、事業譲渡はうまく進めないと失敗もします。思ったより事業価値があがらず、獲得した現金に満足できないケースもあります。資料が不十分で交渉が途中で破綻する場合もあります。そこで、居酒屋を事業譲渡する際に気を付けるべきことをまとめていきたいと思います。

▼譲渡の目的

先に説明した通り、事業譲渡には様々なメリットがあります。何を目的に事業譲渡をするかは、経営者次第です。事業譲渡の交渉では、事業価値だけでなく、従業員の雇用の問題など、あらゆる点について条件をすり合わせていく必要があります。その際、この事業譲渡の目的がはっきりしていないと、判断を誤るケースがあります。取引を円滑に進めるためにも、なぜ事業譲渡をするのか、交渉において譲れない条件は何か、を先にまとめておきましょう。

従業員の雇用確保が目的であれば、事業価値にはあまりこだわらず、譲渡後の従業員の雇用条件をしっかりすり合わせし、とにかく円滑に話がまとまるように尽力すべきです。一方で現金を得ることが目的なのであれば、事業価値評価については買収側の意向をよく加味しながらも、売却側に有利になる情報をどんどん提示しなくてはなりません。譲渡の目的を加味すると、事業譲渡の各プロセスにおける対応も変わってくるのです。

▼譲渡先

事業譲渡を希望するのであれば、必ず譲渡先の企業を見つけなくてはいけません。しかし、事業譲渡は従業員への影響も大きいため、進んでいない段階で情報をオープンにすることが難しいです。そのため、事業譲渡を望む企業は、ひっそりと譲渡先企業を探す必要があります。

事業譲渡で譲渡先を見つける方法としては、

  • M&Aの仲介会社を活用する
  • M&Aのマッチングサイトを活用する
  • 知人、取引、競合企業先など、元から持っているネットワークを活用する

などが挙げられます。候補企業の数が多ければ、その分、良い取引につながる可能性も増えます。なるべく幅広に候補企業を探しておくことが重要といえます。候補企業が見つかっても、すぐにコンタクトするのではなく、その企業についてもよく調べておきましょう。

▼仲介業者の選定

事業譲渡を行う際、多くのケースで仲介業者に相談をします。経営者が抱えるネットワークで買収側企業が見つかるケースもあります。一方、実際には、売買企業のマッチングは譲渡側企業のネットワークだけでは難しい場合が多いです。特に、秘密保持を行いながらの売却先選定することを考えると、既に案件情報を多く保有している仲介業者のサポートを得た方が円滑に事業譲渡を進めることができます。

加えて、譲渡時に必要になる事業価値算定の作業には専門家のサポートが必要です。参考書などを読みながら見様見真似でできるものではありません。経営者は居酒屋の経営の専門家であって、会計や法務に精通しているとは限りません。仲介業者はそういった専門家も擁しています。事業譲渡のプロセス全体をスムーズにワンストップでサポートすることができます。

事業価値の選定方法は業界によっても様々です。居酒屋の事業譲渡では、居酒屋事業のビジネスモデルを理解し、事業価値を正しく算定する必要があります。そのため、仲介業者を選定する際も居酒屋業界における事業譲渡のノウハウを持つか、見極めておく必要があります。経験がない業者よりは、居酒屋業界の事業譲渡の実績を多く積んでいる業者を選ぶべきです。

仲介事業者の中には案件を横流しだけしてマージンを取るような悪質業者も存在しています。悪質業者に依頼してしまうと売却計画が漏れるリスクまであります。信頼できる業者を選定する方法として同業他社の口コミを頼るのみいいかもしれません。また、取引先銀行や商工会議所から紹介を受ける方法もあります。

▼事業価値

事業価値は最も重要な要素と言えるかもしれません。事業譲渡の際、ベースとなる価格は売却側から提示するケースも、買収側が提示するケースもあります。事業価値を決める方法にはいくつかの種類がありますが、どれも複雑で、事業譲渡の専門家の力が必要です。

企業価値は将来の収益性も加味して試算されます。居酒屋の企業価値であれば、現在持っている資産(設備など)や、現在の収益性だけでなく、立地や従業員の質など、あらゆる要素を加味して、企業価値が算出されます。取り扱っているメニューは、市場において人気があるのか否かなど、買収側は様々なポイントから対象となる居酒屋店を評価します。

事業価値を正しく算定するのは困難な作業です。居酒屋のM&A・事業譲渡に明るい業者の力を借りることになるでしょう。

買収する企業の企業価値の算定や、運営を引き継ぐことのリスクを精査する一連の作業をデューデリジェンスといいます。買収側企業は問題のある居酒屋を買収してしまって、買収後に経営に悪影響を受けることを避けたいと考えています。一般的に事業譲渡の場合、簿外債務や問題のある契約を引き継いでしまうリスクは低くなります。それでもデューデリジェンスは欠かせないプロセスです。

事業譲渡で、高い事業価値を狙うのであれば、しっかりとこのデューデリジェンスに備えるようにしましょう。デューデリジェンスは弁護士による法務デューデリジェンス、会計士や税理士による財務デューデリジェンス、経営コンサルタントによるビジネスデューデリジェンスなど、いくつか種類があります。

譲渡側は、必要な書類、データをしっかり揃えて臨む必要があります。後で、問題が発覚すると思わぬトラブルになるケースもあります。また、データが不十分であれば、信用の問題から契約自体が破綻することもあります。適切な事業価値を確保するためにも、注意しましょう。

▼譲渡タイミング

譲渡のタイミングも重要な事項です。準備はできるだけ早く済ませるようにしましょう。事業譲渡には時間がかかります。譲渡をしたいと思っても、希望のタイミングで譲渡ができるとは限りません。先に説明した通り、買収側の候補企業が見つかっても、交渉が破綻するケースもあります。タイミングが差し迫ると売却側に不利な条件であってもその条件を飲まざるを得ない場合もあります。譲渡に最適なタイミングで余裕をもって挑むようにしましょう。

また、市場環境は常に変わり続けていることにも留意しなくてはなりません。直近の数年間の居酒屋業界は回復を見せているものの、不況に転じるリスクはあります。そうなると、買収側企業も積極的な姿勢は見せられなくなります。現在の流れに乗って好条件で事業を譲渡するためにも、準備は早めが望ましいと言えます。

また、譲渡の検討期間が長くなる場合は秘密保持に注意しましょう。譲渡の計画が漏れてしまうと、交渉条件の悪化を招きます。雇用している従業員が不安により辞めていく場合もあります。そうなると、交渉そのものが流れてしまうケースもあります。

まとめ

今回は居酒屋業界における事業譲渡を検討する上でのチェック項目について紹介しました。若年層のアルコール離れ、酒税の上昇、SNSなどの流行による嗜好の変化やなど、居酒屋業界は大きな転換期にあるのかもしれません。多くの企業がその転換期を乗り越えるべく、試行錯誤しています。事業譲渡は買収側企業にとっても苦境を乗り越えるべく、選択する前向きな一手といえます。

売却側によっても、居酒屋店を切り離して経営をスリム化し、コア事業に集中したい場合や、早期に現金を手にしたい場合、事業譲渡は有効な選択肢と言えます。また、人材確保、エリアの拡大、個性の補完など、居酒屋業界ならではの事業譲渡のメリットがあります。メリットデメリットを見極め、前向きな検討をしてみてはいかがでしょうか。

居酒屋の事業譲渡を検討する際のチェック項目
平成24年以降、円高の是正や株価上昇などをきっかけに居酒屋業界は成長傾向にあります。日本の経済動向を受け、消費者の消費マインドも改善傾向にあります。一方、実際には深刻な問題も抱えています。昔に比べ若年層はアルコール離れしています。酒類の販売数量は平成13年をピークに減少傾向にあります。また、ファミレスがアルコールの提供を始めるなど、他業種の参入も目立っています。そんな市場環境を受けて、事業撤退を考える居酒屋店も多くあります。一方、事業者としては、店をたたむのは、従業員の解雇などもあり、気が進まないものです。
そんな中、営んだ居酒屋店を別の事業者に渡す事業譲渡を選択する事業者も登場してきました。事業譲渡は企業買収と異なり、会社全体ではなく、特定の事業のみを売却します。複数事業を展開する事業者であれば、居酒屋以外の業態に経営資源をフォーカスすることもできます。今回は、居酒屋店が事業譲渡を行う場合、どの様なメリットがあるのか、その際の注意点についてまとめていきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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