2018年12月15日 土曜日

居酒屋のM&Aを実施する前に考えておきたいこと

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

景気自体は回復傾向にあり、居酒屋業界も徐々に回復が見られてはいます。しかし、実際には業界が抱えている問題は非常に深刻です。格安居酒屋の値上げ、人材不足、過酷な労働環境など、ニュースでもその厳しい状況の一端を耳にすることが多いのではないでしょうか。さらによく耳にする若者のアルコール離れといった風潮も居酒屋業界に影響が出ています。

それらの問題を解決するための企業の選択肢の1つがM&Aなのです。今回はそんな居酒屋業界の現状からM&Aが居酒屋業界でどのような効果をもたらすのか、その説明をしていきたいと思います。

 

居酒屋のM&A

今、居酒屋業界ではM&Aが活発化してきているといえます。それは居酒屋業界が厳しい状態に置かれているからに他なりません。では何故その状態を打破するための戦略としてM&Aが考えられるのでしょうか。それを理解するためには居酒屋業界の状態を知ることが大切です。

まずは、今居酒屋業界が陥っている問題や状況などを説明していきたいと思います。

 

人材不足

まず、居酒屋業界において問題となっている事のひとつが人材不足です。これから就職を控えている大学生を対象に行われた第4回「就職したい企業・業種ランキング」調査の中の就職したくない業種ランキングにおいて「小売・外食」は全体で23.2%におよび、トップになってしまっています。居酒屋に限らず飲食業界において非常に深刻な問題となっているのです。未来ある若者に「就職したくない」と思われてしまっていることは業界にとって大きな痛手です。報道などでは居酒屋業界の過酷な労働環境や低賃金などについて報じられ、いわゆるブラック業界としてのイメージが強くついてしまったのも原因の1つともいえるでしょう。

 

酒税法改正、大手各社のビール値上げ

2017年6月に酒税法が改正されました。また、アサヒビール、キリンビール、サッポロビール、サントリービールの大手ビールメーカーは2018年3~4月出荷分から業務用中心に値上げに踏み切りました。これにより、居酒屋業界、特に格安居酒屋に大きな影響が出ています。実際に均一価格が売りの格安居酒屋も値上げに踏み切り、苦戦を強いられています。

 

若者のアルコール離れ、家飲みなど飲酒形態にも変化

近年では若年層のアルコール離れの傾向も出ています。2016年に実施された「国民健康・栄養調査」の「飲酒の状況」で飲酒慣習のある人は男性50~59歳が46.1%なのに対して、20~29歳では10.9%となっています。非正規雇用で低所得の若年層が増えたため、嗜好品である酒代は真っ先に削られ、会社関係で飲む、という習慣も減っているのです。近年ではファミリーレストランなどでの酒類の提供や、家飲みの流行りなどの傾向も見られます。飲酒の形態が最近変化してきているのです。

 

SNSや口コミサイトによる嗜好の変化

近年ではSNSや口コミサイトにおいて顧客同士の活発な情報交換が行われるようになりました。その事で顧客の嗜好に変化が生まれています。以前は安定の味、安心の品質であるチェーン店は「同一業態同一名称」を強みとしてきました。しかし、近年では今までどのようなお店かわからず入りにくかった「個店」の情報を入手しやすくなり、SNSや口コミサイト経由での来店が増えました。個店はかなり身近な存在になってきたといえるでしょう。さらに、SNS映えなどの観点からも個性のないチェーン店が避けられるケースも出てきました。この変化により、今まで通りの戦略では生き残るのが難しくなってきているのが現状です。

 

居酒屋のM&Aを行う理由は?

ここまで居酒屋業界の現状について見てきました。業界そのものが抱える問題にとどまらず、時代の流れ自体が居酒屋業界にとって、逆風となっていることがよくわかると思います。

では、この現状を踏まえたうえで居酒屋業界にとってM&Aを行う理由というのはどこにあるのでしょうか。次はそのメリットについて説明していきたいと思います。

 

人材不足対策

先ほど説明した通り、人材不足は居酒屋業界のみならず、飲食業界全体の問題となっています。この問題は後継者不足や労働環境の改善だけにとどまりません。人材がなければ新店舗を出したくても出すことができなくなってしまいます。人材不足は企業の発展の根本的な問題となってきてしまうのです。そこで、すでに店舗と人材のある企業をM&Aを実施することで、そのどちらも解決することができます。

 

自社が展開していない地域をフォローする

居酒屋のみに限らず外食産業は、立地条件が非常に重要になってきます。基本的には実際に足を運んでもらわないと成り立たない業界だからです。そのため、出店地域の拡大は居酒屋業界にとって大きな企業成長につながります。しかし、店舗を拡大したいと考えた場合、人材不足を解決させたうえでさらにその地域で展開する別企業との競争も視野に入れなければなりません。これは非常にリスクがあるということが予想できるかと思います。そこで、有効な戦略となってくるのがM&Aなのです。厳しい競争を避けつつ店舗数・エリア拡大を見込め、お互いの強みを活かすことが出来るのです。

 

顧客のニーズに応える

SNSや口コミサイトの普及により、顧客のニーズに変化が生じました。この流れの中で総合居酒屋は非常に厳しい立場となっており、チェーン店の持つ強みだけでは企業が生き残れなくなってきています。そこで考えられる戦略の1つにM&Aがあるのです。チェーン店の持つスケールメリットと個店の持つ個性を上手く掛け合わせ、お互いの強みを活かすようなM&Aを行えば、その意義はただの店舗拡大だけにとどまることはなくなるのです。

 

居酒屋のM&Aを行うタイミングは?

もし、居酒屋業界においてM&Aを考えているのであれば今すぐ行動に移すべきです。景気動向の影響が大きく、ニーズの変化も出てきているので、それらを敏感に感じ取る必要が出てきています。また、ファミレスなど他業種からの参入も目立ってきています。若者のアルコール離れや酒税引き上げなど時代の逆風もあります。居酒屋業界で生き残るにはこの逆境を乗り越えていく必要があり、M&Aを考えているのであれば今すぐにでも行動に移していくべきです。

 

居酒屋のM&Aを実施するのは誰か?

ここまで、居酒屋業界のM&Aについて説明してきました。法律改正や顧客の嗜好などの時代の流れなどを考慮すると闇雲にM&Aを行えばよいというわけではありません。

では、お互いの企業の関係がどのようなものが望ましいのでしょうか。その鍵は「補完関係」にあります。

次は居酒屋業界においてM&Aを行うのに適しているのはどのような企業なのか、実例も交えながら説明していきます。

 

地域の補完関係にある企業同士

まず考えられるのは、地域の補完関係です。外食産業は立地条件が非常に重要で、店舗の拡大は企業の大きな成長につながることは先ほど説明した通りです。売り手側、買い手側ともにお互いがどのような地域に店舗展開をしているか、それによるシナジーはどうなのかというのを考慮することが大切です。

 

地域補完の実例

これは広義の意味でのM&Aとなりますが、関東圏に強い大手企業A社と関西圏や郊外に強い大手企業B社が資本業務提携を結んだという事例があります。また、このA社を子会社とする企業は北海道や郊外に店舗があるC社の買収も行い、両者の運営する店舗は約990店舗となりました。これにより、国内居酒屋チェーンの中では有数となっています。

 

「強み」の補完

また、強みを持った企業同士が手を組むことも大切です。今は「個店」が強い時代になっています。こだわりの食材、料理など個性を持った居酒屋が生き残りやすい時代です。自社の独自のルートや自社農園などで新鮮な食材が手に入ったり、地域に根差した経営をしていたりなど店舗によって様々な強みがあります。もし、中小企業の経営する居酒屋が売り手側に回る場合、その個性を売りにし、買い手側はそれを活かし、さらにネームバリューでブランド力の向上を図ることが成功の秘訣ともいえるかもしれません。

 

「強み」を補完の実例

地域補完関係にあるA社とC社。この2社はお互いの強みの補完関係にもあります。A社の居酒屋チェーンは漁業権や買参権(セリに参加する権利)を多数保有しています。それらにより新鮮で豊富な種類の魚の提供が可能になっています。他にも自社農園を持ち、安定した野菜の提供ができます。

一方でC社は業態に強みを持たない総合居酒屋チェーンです。C社はA社の持つ食材提供網を利用することができ、個性を持たせることが出来ます。別の例では大手外食企業D社が地域密着型の寿司居酒屋、海鮮居酒屋を経営する企業E社を買収しました。E社は長年地域密着の営業をしており、地域の漁港の買参権を保有することにより新鮮な魚を店舗で提供できるノウハウを持っています。地域に根差した店舗の展開、収益力の向上、価格競争力の強化を実現などといった、お互いのシナジーが考えられるのです。

 

居酒屋のM&Aの相談先は?

いざM&Aをしようと思っても、どうすれば良いかというのはいきなりわかるものではないと思います。また、必ず企業だけでは解決できない問題も発生してくるでしょう。トラブルが起きてからでは遅いのです。そのため、専門家に相談するのが一番よいと言えるでしょう。相談先は以下のように様々あります。

 

会計士や税理士への相談

M&Aの相談先の中でも会計士は財務状態、税理士は税務に関する相談に乗ってもらえます。決算に関する業務なども行えます。会計士や税理士は定期的に会社を訪問しますので、信頼関係を築きやすいのがメリットです。しかし、会計士や税理士が持っているネットワークや関連あるエリアが限定されるデメリットがあり、取引先が限られた範囲になってしまう可能性があります。

そのため、M&Aに特化した会計士や税理士に相談するのが望ましいです。特化しているからこそ、M&Aに関する広いネットワークを持っています。

 

金融機関への相談

普段から取引している銀行、証券会社など金融機関への相談もできます。会社の資金面の相談などは専門家であるため最適となります。金融機関も、担当者が会社に定期的に訪問してくれる場合があり、信頼関係を築く事もできます。何より、金融機関の強みは広範囲に取引先・顧客などの大きなネットワークがあり、M&Aの際に活用できるメリットがあります。しかし、デメリットとしては銀行や証券会社は大きな組織であるため、相談には高額な手数料と時間がかかります。

 

M&A仲介会社への相談

M&Aの相談については、仲介会社に相談する経営者が多いです。実行、アフターフォローなどを一貫して相談に乗ってもらうことが出来ます。専門的な知識、業界の意向など理解もあるため相談相手としては適切です。そのうえ、幅広いネットワークも利用することができます。しかし、仲介というスタイルの場合、利益相反の問題が出てしまうことがあります。買い手側と売り手側の間を取り持ち、両者から成功報酬を受け取ります。高く売りたい企業と、安く買いたい企業の利益が相容れなくなり、利益相反の関係になってしまいます。対策として、第三者からセカンドオピニオンとして価格算定をとるなどがあります。

 

相談先を選ぶ際に大切なポイント

上記では3パターンの相談先を紹介しました。これらのどこに相談するかは会社の規模や資金面、また居酒屋業界にとって大切なエリアの範囲など考慮して決めていくのがよいでしょう。

また、どの相談先を選んでも実績、対応の早さ、業界の知識、相性など考慮していくことが重要となってきます。何より信頼できる相手であるかをしっかり見極めていく必要があります。

 

まとめ

今回は居酒屋業界の現状、M&Aを行う理由やそのメリットなどについて紹介しました。人材確保に加え、エリアの拡大や店舗の増加、そしてお互いの持つ個性をそれぞれ補完しあう事ができる居酒屋業界ならではのM&Aのメリットも見えてきたと思います。SNSなどの流行による嗜好の変化や若年層のアルコール離れ、酒税の上昇など居酒屋業界は時代の流れによる逆風が吹き荒れ、転換期ともいえるでしょう。そんな中で生き残りをかけ今各企業が試行錯誤の最中なのです。時代の流れをしっかり把握し、今自社に必要な事を見極めたうえで適切なM&Aを行う事が大切です。

居酒屋のM&Aを実施する前に考えておきたいこと
景気自体は回復傾向にあり、居酒屋業界も徐々に回復が見られてはいます。しかし、実際には業界が抱えている問題は非常に深刻です。格安居酒屋の値上げ、人材不足、過酷な労働環境など、ニュースでもその厳しい状況の一端を耳にすることが多いのではないでしょうか。さらによく耳にする若者のアルコール離れといった風潮も居酒屋業界に影響が出ています。
それらの問題を解決するための企業の選択肢の1つがM&Aなのです。今回はそんな居酒屋業界の現状からM&Aが居酒屋業界でどのような効果をもたらすのか、その説明をしていきたいと思います。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2018年12月15日
事業売却の事例から読み解く潮流《居酒屋業界》
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