2018年12月5日 水曜日

事業譲渡の事例から読み解く潮流《居酒屋業界》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

居酒屋業界においてもM&Aが積極的に進むようになってきました。背景には、業界における環境変化があります。酒税の改正、人材不足、消費者の嗜好の変化など、居酒屋業界の市場環境は更なる激化をたどっています。若者のアルコール離れについては皆さんもよく耳にするのではないでしょうか。それらの市場環境に対応するための一手段として、M&Aは活用されています。今回はそんな居酒屋業界の事業譲渡の事例から、トレンドを読み解いていきたいと思います。

居酒屋業界における事業譲渡の動き

事業譲渡の件数は増加傾向にあります。レコフ株式会社の統計によると、2017年のM&Aの実施件数は3,050件と、2006年の2,775件を上回り、過去最高を記録しました。2012年のM&Aの実施件数が、1,848件と比べると、50%以上の成長を見せています。

では、なぜ居酒屋業界において、事業譲渡が増えているのでしょうか。まず、居酒屋業界に限らず、ビジネススピードが加速している中、事業の展開が早い事業買収を選択する企業が増えています。居酒屋業界に限って言えば、以下の様な理由が挙げられます。

▼後継者不足

居酒屋業界でも経営者の少子高齢化が進んでいます。誰かに経営を引き継ぎたくても引き継げず、廃業を選ぶ居酒屋店も多くあります。ただし、廃業を選ぶ場合は従業員の解雇なども伴います。また、店舗の固定客も離れていってしまいます。事業譲渡によって、後継者問題の解決を図ることができます。

▼選択と集中

コア事業を見極め、ノンコア事業を切り離し、経営資源をコア事業に集中させることを選択と集中と呼びます。グループ全体の経営効率をあげる経営戦略です。複数事業を展開する企業は、事業譲渡により事業ポートフォリオの見直しを行うケースがあります。伸ばしていきたい事業を見極めた結果として、居酒屋事業を事業譲渡します。居酒屋店を売却して獲得した現金でコア事業に投資をすることができます。また、時間の面でも、成長事業に集中できることも選択と集中のメリットの一つです。

▼現金の獲得

債務の返済や、新規事業への投資など、急に現金が必要になることがあります。その際の現金の獲得手法としても事業譲渡は活用可能です。ただし、事業の譲渡によって、必要な金額が確保できるかどうかはわかりません。事業譲渡のデューデリジェンスの際に、資料やデータの準備をしっかり行い、満足のいく事業価値になるようにすり合わせをしましょう。

最近の居酒屋業界の事業譲渡事例

実際に直近で起こった居酒屋業界の事業譲渡、M&Aの事例をみてみましょう。居酒屋に限らず外食業界は、人材不足による採用コストの高騰、消費者の節約志向の高騰など、依然として厳しい状況が続いております。そういった環境下で、ブランド力の向上、地域に根差した戦略強化、 価格競争力の強化、サービス品質の強化などを目的に積極的なM&Aが増えています。

▼アスラポート・ダイニングによるジェイアンドジェイの海鮮居酒屋事業の買収

2018年5月、アスラポート・ダイニングは、子会社十徳を通じて、ジェイアンドジェイの海鮮居酒屋の事業の買収を発表しました。

アスラポート・ダイニングは、連結子会社19社と関連会社4社を持つ外食大手です。「牛角」「どさん子」などを中心に、買収当時は全国で820店舗を展開していました。外食事業だけでなく、流通、生産事業まで、多角的にビジネスを展開していることが特徴といえます。ジェイアンドジェイは、熊本、福岡を中心に九州で「さかな市場」「十徳や」「寿里庵」といった、海鮮居酒屋を展開しています。買収当時は合計61店舗を運営していました。

事業譲渡により、アスラポート・ダイニングは両社の共同での購買、調達、物流を実現し、仕入れ値の削減など、スケールメリットを効かせた効率化を狙っています。海鮮系の仕入れルート、ノウハウを得ることによって、既存店舗のメニューの充実も見越しています。

▼トリドールによるアクティブソースの買収

2017年10月、丸亀製麺を運営するトリドールホールディングスが東京都内を中心に首都圏で「立呑み 晩杯屋」を展開するアクティブソースを買収しました。アクティブソースが運営する「立呑み 晩杯屋」は、リーマンショック後に増えた立ち飲み形式の居酒屋です。トリドールホールディングスには、事業ポートフォリオを多角化し、流行りの業態をいち早く取り入れる狙いがありました。

トリドールホールディングスは早い段階で晩杯屋の国内500店展開を目指すと発表しています。トリドールが開拓してきた出店候補地の情報を活用することで、早期の展開を狙う見込みです。

▼ジー・テイストによる湯佐和の買収

2018年9月にジー・テイストは、湯佐和の株式を取得し、子会社化すると発表しました。ジー・テイストは、「平禄寿司」を中心に複数の飲食業態を運営し、日本の食文化への貢献を続けている企業です。過去にもM&Aを活用して、 「焼肉屋さかい」、「村さ来」、「とりあえず吾平」といった様々な業態に多角化してきました。湯佐和は地域密着型の企業で、神奈川県を中心に寿司居酒屋、海鮮居酒屋を展開していました。地域における知名度、好立地の確保を強みしています。この事業譲渡では、湯佐和が展開する13店舗の内、10店舗の経営をジー・テイストが引き受ける形になりました。まず、3店舗は元の株主に株式を分割し継承し、 残りの10 店舗の湯佐和の株式を 100%引受けています。

ジー・テイストにとっての湯佐和の魅力は、「地域密着の経営」、「三崎漁港と長井漁 港の買参権の保有」、「魚の仕入れの際の目利きのノウハウ」などが挙げられます。これらの強みをシナジーとして活用し、収益力、競争力の強化を実現します。

▼チムニーによるマルシェの株式の取得

2017年6月、「はなの舞」「さかな屋道場」などの魚介を中心に取り扱う居酒屋チェーンを展開するチムニーは、「酔虎伝」「八剣伝」などを運営するマルシェの株式を11.2%取得し、筆頭株主となると発表しました。チムニーは資本提携の狙いを、人手不足が深刻化し人件費が上昇するなか、食材の仕入れや物流面に大きなシナジーがあるとしています。関東で強いチムニーと関西圏で強いマルシェの提携は、互いの地域の強みを補完する効果があります。株式取得にあたった出資額は8億円で、これにより両社の合計の店舗数は、約1220店となりました。

▼ダイヤモンドダイニングによる商業藝術の買収

ダイヤモンドダイニングは、はちきん地鶏などの藁焼きを売りにする「わらやき屋」を運営する企業です。2017年4月に商業藝術の完全子会社化を発表しました。商業藝術は中国地方を中心に飲食店経営を行っています。ダイヤモンドダイニングは、商業藝術を傘下におさめることでエリア展開の拡大を狙っているようです。

居酒屋の事業譲渡を実施するうえでのポイント

事業譲渡は成功するとは限りません。買収企業が見つかっても、話がまとまらず、コストばかりがかかってしまうこともあります。買収完了後の事業統合がうまくいかず、手放した居酒屋店が経営不振になることもあります。居酒屋店を事業売却する際、どの様なポイントに気を付けるべきか、考えてみましょう。

▼譲渡の目的が明確になっているか

何を目的に事業譲渡を行うは、企業によって変わります。先に説明した通り、短期的な現金の獲得を目的にするケースもあれば、後継者問題の解決を目的にするケースもあります。事業譲渡の交渉では、従業員の雇用の問題など、様々な点について交渉を行う必要があります。その際に事業譲渡の目的がはっきりしていないと、判断を誤ってしまいます。取引を円滑に進め、成功に導くためにも、なぜ事業譲渡をするのか、事前に明確にしておきましょう。

▼事業譲渡をスムーズに進められるか

事業譲渡を行う方針を固めたら、準備や手続きはできるだけ早く済ませるようにしましょう。事業譲渡には時間がかかり、そもそも、希望のスケジュールで譲渡ができないケースも多くあります。買収側の候補企業を見つけても、交渉段階で取引が破綻することもあります。

M&Aは増加傾向にありますが、この状況もいつまで続くかわかりません。不況に陥り、M&Aの件数が落ち込む可能性もあります。現在の流れに乗って好条件で取引を勧めるためにも、準備が早いに越したことはないのです。

▼買収側の企業はサービスの質を維持できるか

事業譲渡を希望するのであれば、譲渡先の企業は幅広く探しておきましょう。候補企業の数が多いほど、良い取引につながる可能性も増えます。

事業譲渡をした居酒屋店が継続して、安定した経営を続けられるように、買収側企業の経営ノウハウ、経営方針について、しっかり確認しておきましょう。事業譲渡後にサービスの質を維持できず、常連客が離れるケースもあります。新しいオーナーはどの様な経営方針、戦略で、買収した居酒屋の利益を伸ばしていくのか、議論しておくことが大切です。

利益率の向上を目的に食材の仕入先やメニューを変更し、結果として食事の味が落ちる場合もあります。同様に従業員を減らし、食事の提供スピードが落ちる場合もあります。品質を落とさないための対策として、長めの引継ぎ期間を設けてもいいかもしれません。新旧の双方のオーナーが同時に店舗運営に携わる機会を持つことで、ノウハウを引継ぎ、サービスの品質が崩れる危険性を回避できます。

▼買収側の企業は十分な事業価値をつけてくれるか

事業価値を算定する方法にはいくつかの種類があります。一方、買収側の企業によって最終的に提示される事業価値は様々です。提示される事業価値に開きがある理由の一つに、事業価値は将来の収益性も加味して試算されることが挙げられます。

将来の収益性は、取り扱っているメニュー、サービス提供の業態、従業員の質など、あらゆる要素を加味して、算出されます。例えば、取り扱っているメニューであれば、市場において人気のあるメニューなのか、その人気はいつまで続くのかなど、を確認します。様々なポイントから将来にわたって収益を生み出す居酒屋店なのかを確認するのです。

買収する企業の企業価値の算定を含む、事業譲渡のリスクを精査する一連のプロセスをデューデリジェンスといいます。高い事業価値を狙うのであれば、このデューデリジェンスにしっかりと準備して臨みましょう。デューデリジェンスでは、法務、財務、労務など、あらゆる観点を監査するために、買収側から売却側にあらゆる企業データの請求が来ます。この際、必要な書類、データをしっかり揃えましょう。データが不十分であれば、信用の問題から契約が先に進まないこともあります。高い事業価値を獲得するためにも、注意しましょう。

▼良い専門家のサポートを受けられるか

事業譲渡を行うのであれば、M&Aアドバイザーなどの専門家を活用するのが一般的です。事業譲渡を行うには高い専門性が必要です。経営的な視点だけでなく、財務、労務、法務などの知識も必要です。これらの知識やノウハウなしにM&Aを行うのは困難です。もちろん、アドバイザーに業務委託をすれば、費用は発生します。一方、知識がない状態で無理やり居酒屋店の事業譲渡を行っても、成功しません。

専門家を選ぶ際は過去の実績をみて、居酒屋店のM&Aに精通している業者を選びましょう。M&Aアドバイザーにも得意、不得意はあります。デューデリジェンスにおいて問題になるポイントも業種ごとに異なります。

▼事業シナジーが生まれるか

事例でも見てきた通り、買収側は事業譲渡によって何かしらの相乗効果を得ることを目的にしています。地域の補完はわかりやすい事業シナジーです。人材不足で新規出店も思うようにはできない中、買収することで展開のスピードを高めています。グループ内で宣伝しあうことで、全国レベルでブランド力をあげることもできます。また、居酒屋店の場合によく考えられるシナジーに、調達コストの削減があります。一括で食材の調達をした場合に、発注量の観点から価格交渉力があがり、調達コストを下げられる場合があります。規模の経済を働かせることで経営効率があがります。

まとめ

今回は居酒屋業界の事業譲渡の事例から、業界のトレンドを整理していきました。居酒屋業界ならではの事業譲渡のメリットも見えてきたと思います。業界に転換期が訪れる中、居酒屋店は生き残りをかけた試行錯誤をしています。M&Aは生き残るための手法としても、活用が増えています。後継者不足や選択と集中に悩んでいる方は事業譲渡を前向きに検討してみてはいかがでしょうか。

事業譲渡の事例から読み解く潮流《居酒屋業界》
居酒屋業界においてもM&Aが積極的に進むようになってきました。背景には、業界における環境変化があります。酒税の改正、人材不足、消費者の嗜好の変化など、居酒屋業界の市場環境は更なる激化をたどっています。若者のアルコール離れについては皆さんもよく耳にするのではないでしょうか。それらの市場環境に対応するための一手段として、M&Aは活用されています。今回はそんな居酒屋業界の事業譲渡の事例から、トレンドを読み解いていきたいと思います。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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