2018年12月5日 水曜日

事業承継の事例から読み解く潮流《居酒屋業界》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

居酒屋店の事業承継にお困りではないでしょうか。消費者の低価格志向、人材不足、厳しい労働環境など、飲食業界は全般的に厳しい環境に立たされています。SNSの普及を起点に個店ニーズが高まっており、そうした消費者のニーズの変化にも臨機応変にこたえていかなければなりません。また、オーナーの高齢化も大きな問題です。リタイアしたい飲食店のオーナーが、後継者が見つからないことを原因に廃業するケースもあります。後継者問題の解決や、事業の選択と集中を目的にした戦略の一つが、事情承継です。今回は事業承継の事例から、居酒屋業界のトレンドを見ていきたいと思います。

居酒屋業界における事業承継の動き

中小企業庁のデータによると、中小企業庁の事業引継ぎ支援センターで請け負った事業承継の案件数が増加傾向にあります。平成24度、平成25年度の案件数はそれぞれ17件、33件だったのに対し、平成27年度には209件まで増加しています。

なぜ事業承継は増えているのでしょうか。居酒屋業界特有の理由をみていきたいと思います。

▼後継者の不在

団塊世代のリタイアと少子化の2つが進み、労働人口は縮小の一途をたどっています。人材不足は居酒屋業界のみならず、飲食業界全体の問題です。リタイアして、運営を引き継ぎたいと思っても、引き継げる相手が見つからず、廃業を選ぶ居酒屋店もあります。事業譲渡や株式譲渡はこの後継者問題を解決する一手として、活用されています。

創業オーナーにとって、長年運営してきた居酒屋店は、将来にわたっても続いていってほしいものです。ただし、元気な内に身内に後継者が見つからないのであれば、運営ができる事業者に引き継ぐという決断がなされています。

▼長期的な居酒屋店の継続

冒頭にも説明した通り、居酒屋店も楽に経営できる環境ではありません。消費者の嗜好の変化、酒税の改定など、あらゆる環境変化に対応しなくてはなりません。

居酒屋店を継続して運営したいと思った際に、今の運営体制では、競争に負けてしまうと考えるオーナーもいます。異なる運営ノウハウを持つ居酒屋店と一緒になることで、居酒屋店の競争力を強化し、長期的な経営の継続に備えることができます。

▼店舗の拡大

長期的な経営に向けて競争力を強化するのと同様に、財務基盤が安定している会社、資本力の会社に事業を売却すれば、そのリソースを活用して、より事業を拡大できるかもしれません。小さな会社では、自力で店舗を拡大するのは難しいです。お金は会っても、拡大するための人が足りないケースもあります。

▼アーリーリタイア

株式譲渡のメリットの一つに買収金額の獲得があります。早期にリタイアしたい居酒屋店のオーナーであれば、資産運用に回すなど、獲得したお金をリタイア後の生活資金にすることも可能です。どの程度のお金が手に入るかは事業価値の評価によります。一方で、事業をたたむことの経費に比べれば、プラスになるケースが多いでしょう。

最近の居酒屋業界の事業承継事例

では続いて、実際の居酒屋業界で起こっている事業承継の事例をみていきましょう。

▼「つぼ八」による「やまや」への事業売却

2018年10月、酒類販売のやまやが居酒屋を行うつぼ八を買収する発表をしました。つぼ八は日鉄住金物産の傘下企業でしたが、日鉄住金物産はこのM&Aにより、つぼ八を手放した形になりました。やまやは、傘下の居酒屋のチムニーと共同でつぼ八の株式の87.8%を取得しました。

やまやはつぼ八とやまやの持つ業態、調達ルートを生かして経営の効率化を進める方針です。北海道を中心に展開する「つぼ八」は、肉料理が中心です。関東中心に「はなの舞」を展開するチムニーは魚料理を得意としています。展開するメニューに被りがないため、それぞれの業態の強みを活かしていけると判断しました。この事業売却により、10月時点でのグループの合計店舗数は988店となっています。

▼「イクスピアリ」による「クリエイト・レストランツ・ホールディングス」へのレストラン事業の売却

2018年1月、クリエイト・レストランツ・ホールディングスは、オリエンタルランドの子会社であるイクスピアリから飲食事業を買収しました。

イクスピアリ社は、千葉県の舞浜にある商業施設、イクスピアリ内で飲食店事業を直接経営していました。イクスピアリの親会社のオリエンタルランドとしては、東京ディズニーリゾートの施設運営に経営資源を集中させる意向があったようです。イクスピアリの飲食事業を非中核事業と位置付けています。まさに選択と集中の結果としての事業承継です。

クリエイト・レストランツ・ホールディングスは幅広い業態の飲食店を運営する企業です。過去にも居酒屋「磯丸水産」「鳥良商店」を展開するSFPホールディングスを買収するなど、M&Aを活用した多角化を行っています。

▼ジェイアンドジェイによるアスラポート・ダイニングへの海鮮居酒屋事業の承継

2018年5月、アスラポート・ダイニングは、子会社十徳を通じたジェイアンドジェイの海鮮居酒屋の事業の買収を行いました。

ジェイアンドジェイは、九州を中心に「さかな市場」「十徳や」「寿里庵」などの海鮮居酒屋事業を展開しています。買収当時で、合計61店舗を展開していました。対するアスラポート・ダイニングは、「牛角」「どさん子」などを中心に運営する外食企業です。買収当時は、全国で820店舗を展開していました。店舗運営だけでなく、流通、生産事業まで、ビジネスを広げる大手企業です。事業承継の目的は、スケールメリットを効かせた効率化にあります。両社の共同での購買、調達、物流を行い、仕入れコストの削減など、を狙っています。

▼湯佐和によるジー・テイストへの事業承継

2018年9月にジー・テイストは、湯佐和の株式を取得することを発表しました。ジー・テイストは、「平禄寿司」など、複数の飲食業態を運営する企業です。過去にもM&Aを活用した多角化を行っています。対する湯佐和は神奈川県の地域密着型の企業です。神奈川県を中心に寿司居酒屋、海鮮居酒屋を展開していました。この事業承継では、湯佐和が展開する13店舗の内、10店舗の経営をジー・テイストが引き受けました。3店舗については元の株主に株式を分割し、継承を行い、 残りの10 店舗の株式をジー・テイストが100%引受けています。ジー・テイストにとっての湯佐和の魅力は、「神奈川県におけるプレゼンス」、「漁港の買参権の保有」、「仕入れの目利きノウハウ」などです。ジー・テイストは、これらの強みをシナジーとして活用し、更なる事業展開を目指します。

居酒屋の事業承継を実施するうえでのポイント

居酒屋業界における事業承継の事例をみていく中で事情承継のメリットがよりクリアになったと思います。では、実際に事業承継を進めたいと思った際にはどんなことに気を付ければいいのでしょうか。

事業承継は成功するとは限りません。買い手企業が現れても、買収価格などの交渉の末、取引が破綻する場合もあります。承継後の事業の継続を願っても、承継後の事業統合に失敗し、手放した居酒屋店が経営不振になる場合もあります。事業承継を実施する上でのポイントを整理していきましょう。

▼事業承継の目的を明確にする

事例でも見てきた通り、事情承継の狙いは様々です。事業を継続させたいのか、アーリーリタイアの資金が欲しいのか、目的によって買収側企業との交渉のポイントも変わってきます。事業承継の交渉は、財務、法務、労務など、様々なポイントについて整理をした上で、買収金額を含む承継の条件についてすり合わせをしていきます。この際、事業承継の目的が曖昧になっていると、うまく交渉をまとめられません。具体的な検討に入る前に、事業承継の目的は明確にしておきましょう。

事業承継の目的が明確になると、売却時の条件が明確になります。譲れない条件は先にリストアップしておきましょう。メニューの味は変えたくない、商標は変えたくない、従業員の待遇を改善してほしいなど、事業承継する際の希望がでてくると思います。もちろん、それらの条件を飲むかどうかは、買収側企業の都合次第です。ただし、事前にしっかりと希望を伝えておくことは、信頼関係を築き、より円滑な交渉へと繋がります。

▼早めの準備を行う

事業承継は想定通りに進むとは限りません。基本的にM&Aは長い時間がかかるものです。事業承継にあたった準備は早めに行うようにしましょう。日々の居酒屋店の経営があると、その忙しさから準備は後回しにしてしまうものです。

準備を早めに行う理由として、市場環境の変化があります。現在、事業承継の件数は増加傾向にありますが、今後は買収側企業の不況の影響を受け、M&Aに消極的になるかもしれません。今の状況が長期的に続くとは限りません。承継できるタイミングで円滑に承継することが大切です。

▼自社の居酒屋店の強みを明確にしておく

事業承継のプロセスの中で、買収側企業は居酒屋店をあらゆる視点から監査します。監査は損益計算書、貸借対照表といった財務面だけでなく、法務、労務といった多角的な視点から行われます。この一連のプロセスはデューデリジェンスと呼ばれます。事業承継で大切な買収価格もこのデューデリジェンスの中で精査されます。

ただし、このデューデリジェンスは書類を見せるだけで完結するものではありません。買収価格は現在の資産額だけでなく、その居酒屋店が将来にわたって生み出す利益も元に算出します。この経営における収益性を精査するデューデリジェンスはビジネスデューデリジェンスと言われます。

では、この将来性を精査するにあたって、大事なことはなんでしょうか。メニューの人気度、仕入の競争力、従業員のレベルなど、いくつかの項目が挙げられますが、端的に言えば、その居酒屋店の「強み」ということになります。承継対象の居酒屋店が、どの様な強みを持っているか、明確にしておきましょう。最新の設備、立地の良さ、固定客の数、確立したオペレーションマニュアルなど、あらゆる要素が強みに挙げられます。強みをしっかりとアピールすることができれば、その分、買収価格を高くすることができます。

▼買収側企業の運営ノウハウを見極める

事業承継の場合、承継後もその居酒屋店が持続的な発展を続けられるかが重要視されるポイントになります。事前に買収側企業の運営ノウハウを見極めましょう。

まず、確認するべきは新しいオーナーの経営方針です。例えば、オーナーが変わった際に、サービスの質を維持できず、固定客が離れていってしまうケースもあります。利益率の向上を目的に食材の仕入先、メニューを変更すれば、提供するメニューの味が落ち、常連客が離れてしまうかもしれません。従業員を減らし人件費の削減を行えば、食事の提供スピードが落ちてしまいます。売却後も、居酒屋店に継続的に運営を続けてもらいたいのであれば、新しいオーナーの経営方針を確認しておきましょう。

店舗のカバレッジ、数も重要です。居酒屋店のM&Aにおけるメリットの一つにスケールメリットがあります。居酒屋店が互いに得意とする地域を補完し、双方で知名度を高めれば、シナジーで店舗の売上拡大を狙えます。一定の規模で多店舗展開する企業であれば、仕入先の統合により、食材の調達コストを下げられる場合もあります。売却した居酒屋が競争力を高められるか否かを判断する指標の一つとして、買収側企業の運営規模を確認しておきましょう。

最後に買収側企業が持つ飲食店、居酒屋店の強みも確認しておきましょう。差別化要素を掴むには、他店との違いを見ていきましょう。他店との違いがわかれば、自然にその企業の強みは見えてきます。買収交渉の際に、強みについてディスカッションするのもいいかもしれません。差別化要素がつかめれば、その企業が自社の居酒屋店を伸ばしていけるかについても理解が進むはずです。メニューの独自性、食事の提供スピード、顧客との信頼関係など、強みになるポイントは多岐に渡ります。その企業が他店と比べ、差別化要素を多分に持っているのであれば、承継後の居酒屋店の発展にも期待が持てます。

まとめ

今回は居酒屋業界における事業承継の事例から、事業承継を行う際のポイントを整理していきました。若者のアルコール離れ、酒税の上昇、SNSの流行による消費者の嗜好の変化など、様々な環境変化を抱える居酒屋業界にとって、買収側にとっても、売却側にとっても、事業承継は問題解決の一手となっています。

一方で、事業承継は必ず成功するとは限りません。事前の準備をしっかり行い、事業譲渡の各プロセスに備えないと、取引自体が破綻になったり、承継後にトラブルが発生したりします。事前にプロセスを確認しておきましょう。

事業承継の事例から読み解く潮流《居酒屋業界》
居酒屋店の事業承継にお困りではないでしょうか。消費者の低価格志向、人材不足、厳しい労働環境など、飲食業界は全般的に厳しい環境に立たされています。SNSの普及を起点に個店ニーズが高まっており、そうした消費者のニーズの変化にも臨機応変にこたえていかなければなりません。また、オーナーの高齢化も大きな問題です。リタイアしたい飲食店のオーナーが、後継者が見つからないことを原因に廃業するケースもあります。後継者問題の解決や、事業の選択と集中を目的にした戦略の一つが、事情承継です。今回は事業承継の事例から、居酒屋業界のトレンドを見ていきたいと思います。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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