2018年12月5日 水曜日

M&Aの事例から読み解く潮流《居酒屋業界》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

居酒屋業界は苦境に立たされているといっても過言ではないでしょう。店舗の閉店が相次いでいます。ニュースなどでも若年層のアルコール離れや格安居酒屋の値上げ、人材不足とそれに伴う厳しい労働環境などが取り上げられ、業界に携わっていなくても「居酒屋は厳しい」と感じている人は多いのではないでしょうか。そんな居酒屋業界でも近年M&Aが活発化してきていると言えるでしょう。厳しい現状を乗り越えるためにM&Aが戦略として取り入れられているのです。居酒屋業界で実際に行われたM&Aの例を見ていくとその傾向や戦略を見ていきたいと思います。

居酒屋業界におけるM&Aの動き

居酒屋業界でM&Aを行いたいと考えた時には、業界そのものの事やM&Aの事情について知っておく必要があります。まずは、居酒屋業界の持つ問題や動向、それに伴って行われているM&Aの傾向について説明していきたいと思います。

居酒屋業界の現状

何故、居酒屋業界においてM&Aを行う事が企業の戦略として有効なのでしょうか。それを知るためにはまず居酒屋業界全体の動向について把握しておく必要があります。まずは、居酒屋業界が抱えている現状について説明していきます。

人材不足

居酒屋業界に限らず、飲食業界において大きな問題になっているのが人材不足です。2019年3月卒業予定の大学生を対象に行われた第4回「就職したい企業・業種ランキング」調査において「小売・外食」は、就職したい業種ランキングの中で1.4%と最下位となってしまっています。また、ニュースなどでも労働環境の過酷さなどが取り上げられ、いわゆる「ブラック業界」のレッテルが貼られてしまったことも人材不足を加速させてしまったことにつながっているといえます。

個性的な「個店」のニーズ

最近ではチェーン店が営む総合居酒屋より、個性のある「個店」のニーズが強い傾向にあります。この背景にはSNSや口コミサイトなどの普及があります。以前は安価で安定した味、ネームバリューのあるチェーン店、総合居酒屋に需要がありました。しかし、SNSや口コミサイトによって以前は外から見てもわからなかった個店の情報が簡単に入手できるようになりました。また、SNS映えなどもあって、個性のない総合居酒屋が避けられるようになってきたのです。

若年層のアルコール離れ

この言葉、近年ではよく聞くようになった人も多いのではないでしょうか。実際にその傾向は数字となって表れています。2016年に行われた「国民健康・栄養調査」の「飲酒の状況」で飲酒慣習のある50代男性は46.1%となっています。それに対して20代男性は1/4以下の10.9%となっています。新しい世代になるにつれ飲酒慣習のある人は減少しているのです。若年層では非正規雇用で低所得の人も増え、お酒にかけるお金が減、飲み会の文化も薄れてきているのが原因とみられます。

酒税法改正による安売り規制とビール大手各社の値上げ

2017年6月に酒税法が改正され、酒類の安売りが規制されました。そして、大手ビールメーカーであるアサヒビール、キリンビール、サッポロビール、サントリービールの4社は業務用中心に2018年3~4月出荷分のビールを値上げしました。そのことにより、居酒屋業界、特に均一価格を売りとしていた格安居酒屋が値上げに踏み切らざる得なくなり、苦戦を強いられることとなりました。

居酒屋業界におけるM&Aの傾向

ここまで、居酒屋業界の現状について説明しました。時代の流れは居酒屋業界にとってまさに逆風。とても厳しいことがよくわかると思います。これらの状況に打ち勝つためにM&Aが行われているのですが、そこにはしっかりとした目的があるのです。次は、企業が何を考えてM&Aをするのか、その狙いについて説明していきたいと思います。

エリア拡大を図る

居酒屋業界において、エリアというのは非常に重要な要素です。これは居酒屋のみならず、実際にお客さんに足を運んでもらわなければならない外食産業全体に言えることです。そのため、店舗を増やし、出店地域を拡大するというのは企業にとって非常に重要な事です。しかし、人材の確保の難しさやライバル企業の競合などそこには分厚い壁が立ちふさがるのです。そこで、自社の居酒屋の店舗が少ない、もしくはまったくない地域にある居酒屋を持つ企業をM&Aすることによって激しい競争を抑えつつ店舗数やエリアの拡大につなげることが出来るのです。

食材の流通やメニューなどの強化

前述の通り、SNSや口コミサイトの普及で、居酒屋のニーズの変化が生じています。そのため、各居酒屋に個性を持たせることが今生き残りをかけた課題に1つになっています。その「個性」を新しく生み出すのに必要なのはなんといってもメニュー。そのためには食材の確保やメニュー開発など相当な企業努力が必要となってしまうでしょう。そこで、M&Aを行う事で店舗だけでなく、「個性」も買い取るのです。M&Aにおいて売り手側になる企業は独自の物流ルートを持っており、新鮮な食材とそれらを活かしたメニュー作りなどのノウハウを持つ企業が目立っています。

最近の居酒屋業界のM&A事例

ここまで、居酒屋業界が抱える問題や、M&Aを行う狙いなどについて説明してきました。では、具体的に居酒屋業界におけるM&Aにはどのようなものがあるでしょうか。実例を見ていくことでその傾向やポイントなどが見えてきます。次は実際に行われたM&Aの事例をいくつか紹介していきます。

事例その1 やまやとチムニーによる、つぼ八の買収

酒類販売大手の株式会社やまやと、その子会社で「はなの舞」「さかなや道場」など居酒屋チェーンを経営するチムニー株式会社が2018年10月29日、「つぼ八」「伊藤課長」などの居酒屋チェーンを経営する株式会社つぼ八を買収することを発表しました。2018年11月30日付で、つぼ八の大株主である日鉄住金物産から、やまやが53.8%、チムニーが34%の株式を取得しました。取得額は非公開です。チムニーとつぼ八の店舗数合計は988店舗にものぼり居酒屋チェーン有数の規模となります。

北海道に地盤がありさらに海外にも店舗を持ち、肉料理を中心とするつぼ八と、関東圏に強く、魚料理を中心とするチムニーでは競合が少ないと判断されました。地域的な補完関係により店舗展開を強化することができ、物流やメニュー、店舗営業などの面で協力し、お互いにシナジーが生まれます。

事例その2 ジー・テイストによる湯佐和の子会社化

株式会社ジー・テイストは神奈川県で店舗を展開している湯佐和の全株式を取得し、2018年10月1日付で子会社化することを決定しました。

ジー・テイストは「平禄寿司」「焼肉屋さかい」などの外食ブランド81業態を持ち、FCを含めて約700店舗ほどの外食店舗を全国で展開しています。一方、湯佐和は地域密着型の寿司居酒屋、及び海鮮居酒屋を神奈川県で13店舗展開しています。なお、この件に先立ち、湯佐和から3店舗切り離し、新設会社に権利義務を継承させる会社分割(分割型分割)を行いました。ジー・テイストは会社分割後の10店舗を運営しています。

湯佐和の強みは地域密着型の店舗の展開や、三崎漁港と永井漁港の買参権を保有いることによって新鮮な魚を店舗で提供するノウハウを持っていることです。ジー・テイストはそれらを活用し、地域に根差した店舗展開、価格の競争力やサービス強化などシナジーを生み出すことが出来るのです。

事例その3 アスラポート・ダイニング子会社の十徳、ジェイアンドジェイの海鮮居酒屋業態の事業譲受

株式会社アスラポート・ダイニングの連結子会社である株式会社十徳は、株式会社ジェイアンドジェイの海鮮居酒屋業態の事業を譲受することを発表しました。アスラポート・ダイニングは、「牛角」や「どさん子」など連結子会社19社と関連会社4社で外食フランチャイズを中心として全国に820店舗を展開している外食の大手企業グループです。ジェイアンドジェイは、熊本県、福岡県を中心に九州全域で「さかな市場」「十徳や」「寿里庵」などの海鮮居酒屋を中心として61店舗を経営しています。事業譲受日は2018年6月21日です。

この譲受により、購買、調達、物流による効率化やコスト削減が可能になり、ジェイアンドジェイが持つ鮮魚に関する仕入先やレシピをグループ全体のメニューのメニューの充実に活かすことが出来ます。また、すでにあるの居酒屋業態を「十徳や」などのブランドに業態変更もすることが可能です。

事例その4 小田急レストランシステムによるドリームサークルの子会社化

小田急グループでレストラン事業を営んでいる株式会社小田急レストランシステムは、2018年8月1日に、海鮮居酒屋「RYO」を経営している株式会社ドリームサークルの全株式を取得し、子会社化した事を発表しました。小田急レストランシステムは、小田急沿線を中心として、和食・洋食・ファストフードなど約100店の飲食店を経営しています。ドリームサークルは小田急沿線エリアである小田原において海鮮居酒屋「RYO」を経営しており、相模湾の旬の食材を使用して提供される料理は地元の人や観光客に高評価です。小田急レストランシステムは、調理技術強化や新業態開拓を通じ、沿線エリアのシェア拡大を目指しており、今回の子会社化によって、小田原エリアの今後の店舗展開、商品開発や仕入れの強化を図っています。

居酒屋のM&Aを実施するうえでのポイント

ここまで、居酒屋業界の動向やM&Aの事例などについて紹介してきました。事例を見るとそれぞれに企業にしっかりとした狙いがあることが良くわかります。これらを踏まえた上で、次は実際にM&Aを行う際に抑えておくべきポイントについて紹介していきたいと思います。

居酒屋業界においてM&Aを行う際に大切な事

居酒屋業界の現状を見ると、無計画なM&Aは行えないと感じるでしょう。業界や自社の事情をしっかり把握したうえで、M&Aをする狙いを明確にする必要があります。実際にM&Aを行った企業には共通する狙いがありました。そこを踏まえた上で、居酒屋業界で実際にM&Aを実施する場合に注意したいポイントを説明していきます。

地域の補完関係をしっかりと考える

M&Aを行う際に大切なことの一つは、買い手側と売り手側のエリアの競合関係です。買い手側がすでに居酒屋業界に参入している場合は特に重要な要素です。自社が展開していない範囲に店舗を持つ企業のM&Aは大きな企業成長につながります。実例で言えばやまやとチムニーがつぼ八を買収した時は、関東圏に強いチムニーと北海道や郊外に強いつぼ八の地域の補完関係も考慮されていました。

買い手側は売り手側の個性をしっかり活かす

M&Aが行われチェーン店などの傘下に入り、個性を失ってしまう店舗があります。それは効率化を図る等の目的があり、有効ではありますが、居酒屋業界においてそれはあまり良い戦術ではないといえます。居酒屋には今個性が求められているからです。先ほど紹介したどの事例でもそれぞれの企業が持つ独自の食材の入手ルートや、それらを活かしたメニュー開発などの売り手側のノウハウを活かそうとしていることが伺えます。買い手側は売り手側の持つ独自の良さを際立たせ、さらに既存の店舗の強化を図る事が求められるのです。

M&Aを行う際の相談先について

M&Aを実施したいと考えた時には、専門家に相談するのが1番です。相談先には主に会計士や税理士、金融機関、M&A仲介会社などがあります。いずれも、かかる費用や持っているネットワークやエリアの情報、フォローの範囲などが異なってきます。相談相手については、M&Aの規模や予算などで変わってきますが、いずれにしても業界での実績やその知識、相性、そして信頼関係などについては重要な要素になります。

まとめ

今回は居酒屋業界の事情、実際に行われたM&Aの事例や、そのポイントについて説明しました。実例から出店地域の重要性や、お互いの個性を活かしあうといった業界ならではの戦略も読み取ることが出来ます。M&Aを行う事でどのようなシナジーを生むか把握できれば、生き残りが難しいと感じている企業や、成長が見込めないと思っていた企業に一筋の光が見えてくるかもしれません。

M&Aの事例から読み解く潮流《居酒屋業界》
居酒屋業界は苦境に立たされているといっても過言ではないでしょう。店舗の閉店が相次いでいます。ニュースなどでも若年層のアルコール離れや格安居酒屋の値上げ、人材不足とそれに伴う厳しい労働環境などが取り上げられ、業界に携わっていなくても「居酒屋は厳しい」と感じている人は多いのではないでしょうか。そんな居酒屋業界でも近年M&Aが活発化してきていると言えるでしょう。厳しい現状を乗り越えるためにM&Aが戦略として取り入れられているのです。居酒屋業界で実際に行われたM&Aの例を見ていくとその傾向や戦略を見ていきたいと思います。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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