2019年6月23日 日曜日

M&Aの事例から読み解く潮流《システム開発会社》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

IT業界の進歩は目覚ましく、需要は留まるところを知りません。同時に、IT業界は空前のM&Aのラッシュが続いており、動向から目が離せません。そのため、IT業界の一部を構成するシステム開発会社のM&Aの傾向には、興味深いものがあります。この記事では、システム開発会社のM&Aの事例から読み解く潮流をご紹介します。

 

システム開発会社におけるM&Aの動き

システム開発会社におけるM&Aは、人手不足の解消、後継者不足や事業承継問題の解決、多重構造への対処などを目的としたものが多い傾向があります。とくに、IT業界は人手不足がとても深刻です。システム開発会社においても、優秀な人材を確保することは、事業が成長するためにも不可欠です。

人手不足に対応するためのM&Aの傾向としては、中小のシステム開発会社の事例がもっとも多いです。大手のシステム開発会社は知名度が高いため、募集をかけて人材を集めることは簡単です。しかし、中小のシステム開発会社は人材を確保するのに苦労するケースが多いです。そのため、M&Aを行って大手企業の傘下に入り、知名度を上げるためにM&Aを実施するケースは、今後も増え続けていくことでしょう。

大手のシステム開発会社もやはり、優秀な人材を確保することは最優先事項となります。ITの技術の進歩は早く、新しい技術を習得するのには大きな労力が必要です。つまり、IT業界の人手不足は今後も加速していくことが予想されています。大手企業だからといって、安心できる状況ではないのです。

 

大手企業であっても、事業を成長させるためには、優秀な人材を常に確保し続けなければなりません。そのため、大手のシステム開発会社が、中小のシステム開発会社を買収し、優秀な人材を獲得して事業成長を志向するといったケースも、今後は増えていくと考えられます

後継者不足や事業承継問題の解決については、中小のシステム開発会社の事例がもっとも多いです。後継者が不在の場合でも、M&Aによって後継者に引継ぎができれば、その事業を継続することができます。また、大手企業による買収ならば、事業を安心して任せることができます。大手企業は、資金も豊富なので、安定した資金調達を行ううえでもメリットがあります。

 

さらに、多重構造への対策として、中小のシステム開発会社のM&Aの事例が目立ちます。利益を増やすためには、出来る限り元請けに近い立場に上がらなければなりません。大規模なシステム開発会社と経営統合を行えば、元請けに近い立場へと上昇できるので、M&Aは効果的な手法といえます。今後も、業界の多重構造に大きく変化はないと予想されるので、その対処法として、M&Aが行われることでしょう。

 

最近のシステム開発会社のM&A事例

2017年5月に、富士通株式会社と古河電工グループの古河インフォメーション・テクノロジー株式会社(FITEC)がM&Aを行った事例です。

富士通は国内最大手のITベンダー企業で、総合エレクトロニクスメーカーです。情報通信技術(ICT)サービス市場において日本一の実績を誇り、「ものづくり革新隊」と呼ばれる、ICTを通じて日本のものづくり活動を総合的にサポートするサービスを提供しています。

FITECは、電子部品の国内シェア第一位で、世界的な企業である古河電工の情報システム部が独立してできた会社です。FITECは「ものづくり」と「課題解決」というテーマを掲げており、富士通のモノづくりを総合的にサポートするサービスと非常に相性が良いところが特徴です。M&Aの成功には欠かせない、事業同士の相性が良さが際立っています

富士通は、FITECとM&Aを実施することで業務提携を行い、古河電工のITスキルや業務ノウハウを習得し、富士通の製造業に向けたソリューションの強化を図ることになりました。このM&Aにより、既存の事業を成長させるというM&Aのシナジー効果も手に入れることができたのです。

 

システム開発会社の事業譲渡の事例から見る注意点

システム開発会社の事業譲渡を行う際の注意点を、上述した富士通とFITECのM&Aの事例を踏まえたうえで、ご紹介します。

 

クライアントへの影響を考える

M&Aを進めていくにあたり、まずクライアントに与える影響を考えなければなりません。クライアントが心配することとして、「今まで通りのサービスが受けられるのか」「担当者が代ってしまうのではないか?」といった点が挙げられます。

システム開発は、非常に多くのトラブルが発生します。システムを外注するのは、社内にシステムに詳しい社員がいないからです。そのため、どんなに小さな問題でも問い合わせをしてきます。取引の長い企業との間柄なら、問い合わせの内容を想定することができますし、繁忙期なども理解できます。時期によって想定される問い合わせ内容が、あらかじめ分かっているので、忙しくなる前にシステムを確認する作業に、手を回すことができるのです。

このような背景があるため、長年、契約し続けることになります。そのため、M&Aによって経営者が代わったら、これまでの担当者まで代わってしまうのではないかと、心配になってしまうのです。

 

クライアントへの影響を考えるならば、M&Aを行うことを最後まで話さない、ということが鉄則です。また、担当者からクライアントへ情報が漏れてしまう可能性もあることから、自社の従業員にも、M&Aのことは秘密にしておいた方がいいでしょう。

経営者の交代後、従業員の雇用もこれまで通りに継続され、いままでと提供できるサービスが変わらない体制を確立してから、M&Aの説明をしても遅くはありません。

 

譲渡先にとってのメリットを明確にする

譲渡先にとってのメリットを明確にするとは、譲渡先企業の既存の事業との相性が良いかどうかと、M&Aを行うことでシナジー効果は得られるかどうかをはっきりさせることです。

M&Aを行うときに譲渡先企業は、シナジー効果を得ることができるかどうかを考えてM&Aを検討します。つまり、売り手企業側が、譲渡先のメリットについて明確にしておくと、買い手側に「買いたい」と思わせることができます。

過去の決算書類を用いて、会社の財務状況を説明することも大事ですが、M&A完了後のシナジー効果を得るためには、今後の事業計画をしっかりと立てておくことが重要です。いままで通りの定期的な契約に基づいて、新事業と共存をすることで、どのような売り上げの伸びが出てくるかを確認しましょう。

 

長い時間が掛かる場合もある

M&Aは、完了までに多くの手順を踏まなければいけません。まずは、買い手企業を選定し、意向表明書をもらい、お互いの意思確認を行います。その後、買収監査という、M&Aにおいて最大の山場があります。買収監査とは書類審査のことで、買い手側企業から人間が来て調査をします。その後、契約締結を行い、株主総会での決議を経て、引継ぎとなり完了します。

M&Aの工程は、スムーズに進んだとしても、6か月は様子を見る必要があります。買い手側企業が現れてから6か月なので、M&Aを検討し始めてからでは、平均して1年ほど必要です。さらに、企業を高く売却したいと考えるならば、事業を育てる期間も必要になってくるので、何年もかかる可能性があります。つまり、M&Aは長い時間がかかることもあることを念頭に置き、検討を行うことをおすすめします。

 

システム開発会社のM&Aを実施するうえでのポイント

システム開発会社のM&Aを実施する際に、どのようなポイントがあるのでしょうか。ここでは、5つのポイントをご紹介します。

  • M&Aを実施する際は秘密を厳守する
  • 従業員に周知する際は十分な配慮を
  • 買取価格は適切か
  • タイミングが適切か
  • 成立後の統合プロセスが明確か

 

M&Aを実施する際は秘密を厳守する

M&Aを実施する際は、基本的に秘密保持をする必要があります。もしも、M&Aを行う噂が外部に漏れてしまうと、業界内や市場の中で業績が悪いのかもしれないといった、飛躍した話が広まる可能性があります。噂が広まってしまうと、その噂のせいで、取引先に契約を打ち切られ、消費者が離れていく可能性があります。つまり、M&Aを実施する際は、外部に漏れないようにしなければいけないのです。

 

従業員に周知する際は十分な配慮を

最終契約の締結後、従業員に対してM&Aを実施することを発表します。このとき、M&Aを行う双方の企業は、十分な配慮を行って発表しましょう。とくに売り手側が、M&Aの事実を公表する際は、従業員の不安の解消を徹底する必要があります。

従業員へ支払う給与は、可能な限り現状維持か、上げるようにしましょう。また、M&Aに納得がいかず、退職していく従業員が出る可能性も視野に入れて進める必要があります。M&Aについては、従業員について考慮することが非常に大切なのです。できれば、経営者が全社員と面談をして、M&Aを実施後の意見を聞いていくのが理想的です。

買い手側企業も同じく、M&Aにおいて従業員への配慮が必要になります。なぜ会社を買収したのかを丁寧に説明しましょう。また、買収後の事業のシナジー効果など、M&Aのメリットについても説明をすることが望ましいです。M&Aによって、あなたの会社が子会社になったとしても、そこに上下関係はありません。あくまでも、同じ会社で仕事をする仲間だということを丁寧に説明していきましょう。

 

買取価格は適切か

買取価格が適切であるかどうかも重要なポイントです。売却側の企業評価をしっかり行い、買取価格が適切かどうかを見極めていきましょう。そのためにも、デューデリジェンス(企業価値の適正評価)は、専門家に依頼することをおすすめします。デューデリジェンスは、財務面だけでなく人事や法務においても実施しましょう。

また、債務などのリスクもきちんと把握し、許容できるラインはどこまでかを考え、価格設定をしましょう。M&Aに失敗した場合には、その事業を売却する可能性があることも認識する必要があります。

 

タイミングが適切か

M&Aで用いる手法としては、株式取得による事業譲渡や資本参加がもっとも多いです。そのため、上場企業のTOB(株式公開買付け)は、金融取引で売買されている価格に上乗せした価格で株式を取得することが一般的です。その結果、売却側は少しでも高く売りたい、買収側は少しでも安く買いたいなど、両社の意見が衝突する可能性が高いため、納得のいく買収価格を決めるのに適切なタイミングを見極める必要があります。

M&Aは、面倒な手続きや調査が必要で、実施する両社の規模によっても、M&Aを実施に踏み切るまでに長い時間が必要になることもあります。また、M&Aの完了後には業界の動向に変化があって、当初想定していた効果を得られないこともあります。そのため、M&Aを実施する経営者は、日々変化する環境を敏感に察知し、数年先の情勢を見据えながら、M&Aを実施するタイミングを決定しなければなりません。

 

成立後の統合プロセスが明確か

M&Aの成功には、M&A統合後の適切なプロセスが大切です。このプロセスは、M&A後の事業運営や新しい組織体制を作るためには欠かせません。

買収側と売却側では企業文化が異なるため、システムの運用や意思決定の方法、営業や経理の方法など、あらゆるものが異なります。異なる点や対応できる点を、全てリストアップし、ひとつずつ統合していく必要があり、この作業にはかなりの時間と労力を使います。そのため、経営者は適切な統合プロセスが行われるよう、きちんと指揮をとりましょう。

 

まとめ

この記事では、システム開発会社における、M&Aの事例から読み解く潮流を解説しました。システム開発会社においてM&Aを行う理由は、この記事で述べたようにいろいろあります。いずれの企業にも共通していることは、事業を成長させるためということです。また、時代とともにシステム開発を巡る市場の相場が大きく変化していくので、M&Aを行う際は、常に時代の流れをとらえる工夫が必要です。

システム開発会社のM&Aは、買い手側、売り手側のそれぞれによって、M&Aを実施する目的は異なります。メリット・デメリットをしっかり判断したうえで、M&Aを行いましょう。

M&Aの事例から読み解く潮流《システム開発会社》
システム開発会社のM&Aを検討している方に向け、M&Aを行う理由や、適したタイミングなどについて詳しく解説します。その他にも、システム開発会社のM&Aを検討・実施する段階において、特に気をつけるべきことについてまとめました。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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