2019年6月29日 土曜日

システム開発会社の事業譲渡を検討する際のチェック項目

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

現代では、社会のIT化に伴い、システム開発会社は無くてはならない存在となっています。業界が好調である一方で、同時に慢性的な人材不足や後継者不足に悩まされています。どうすれば、この問題を解決できるでしょうか。解決策の一つに、事業譲渡をするという選択肢があります。この記事では、システム開発会社の事業譲渡についてご紹介します。

 

システム開発会社の事業譲渡を検討してみては?

システム開発会社とは

システム開発会社とは主にソフトウェアを開発している会社です。システム開発会社で開発作業をしている技術者のうち、設計をするのがシステムエンジニア、システムエンジニアが設計した通りに動くソフトウェアを実装するのがプログラマーです。システムエンジニアとプログラマーを兼任している会社もあります。

システム開発の仕事内容は次のとおりです。

 

①要件定義

クライアントがどのような課題を抱えていて、どんなシステムが欲しいかを営業またはシステムエンジニアがヒアリングします。具体的には、〇〇できる機能が欲しい、PCのスペックは〇〇くらいで動くシステムが良い、などです。また、ここで開発工数や納期なども決めておきます。後々、トラブルにならないように詳細な要件も逃さず記載していきましょう。

 

②外部設計

システムエンジニアが画面設計(画面があれば)と機能を実現するための関数の入出力の部分を決めます。クラスという概念がある言語で実装する場合は、どんなクラスが必要か、クラスの中身である、プロパティ(変数)やメソッド(関数)はどんなもので実現できるかを記載します。ここでは、詳細なアルゴリズムは書かず、どんな関数が必要か、引数(入力)がどんな型でいくつ必要か、戻り値(出力)はどんな型かなどを決めます。具体的には〇〇機能を実現する為の関数で、XXを入れたら、◎◎が戻り値で返ってくる、というレベルで記載します。

システムに画面が必要な場合は、画面を設計します。ボタンを配置したり、ラベルを配置したり、リストを配置したりして作っていきます。

外部設計で、要件定義で定義した機能が全て実装されるか、抜け・漏れがないかを確認します。

 

③内部設計

システムエンジニアが外部設計で決めた関数の入力から出力を出すためのアルゴリズムを設計します。具体的には、◎◎ボタンが押されたタイミングで〇〇処理する関数を走らせる。この変数の初期値はこれ。といった内容を記載します。外部設計では触れなかった、実際の計算処理部分を書きます。このアルゴリズムが効率よいものが設計されていると、実装もしやすく、ミスも減り、処理速度が早いプログラムが組めます。

 

④実装

ここからが、プログラマーの担当になります。プログラマーやシステムエンジニアが書いた、要件定義書や外部設計書、内部設計書を見て実装(プログラミング)していきます。内部設計で設計したアルゴリズムをどう実現するかはプログラマーの腕次第の所があります。効率が良いコードでアルゴリズムを組めると処理速度が早く、保守も楽です。処理内容が複雑な所、重要な所には必ずコメントを付けておきます。後々自分が見ても、他の人が見ても分かりやすくするためです。

 

⑤テスト

まずは、プログラマーが関数単体をテストし(単体テスト)、入出力の関係が正常に行われているか確認します。その確認が取れたら、一機能ごとにテストをします(結合テスト)。最後にシステムエンジニアがシステム全体でテストを行います(統合テスト)。不具合が出たら、それがどのコードから出ているかを特定(デバッグ)し、改修します。重要な不具合から先に改修していき、軽微なものは、次のアップデートで改修します。

 

⑥引き渡し

テストまで終わったら、システムをリリースします。営業経由で渡されることが多いです。必要であれば、システムエンジニアも同行します。クライアントが使い勝手の良さ、要件定義で記載した機能が実装されているかなど確認します。もし、機能が足りない場合や追加で希望する機能があった場合は持ち帰って検討します。

 

⑦保守・サポート

リリースした後も、保守とサポートは行います。新たに見つかった不具合の改修をします。サポートは、メールや電話でクライアントがシステムを使っていて分からない所を説明します。必要であれば現場に行き、研修会などを開きます。

 

事業譲渡とは

会社全体を売買するのではなく、ある事業のみを売買することを事業譲渡といいます。事業すべてを譲渡する必要はなく、目的に合わせて事業の一部を売買する場合でも事業譲渡といいます。売却される事業のオーナーが変わる手続きのため、売却後も会社は存在することになります。

事業に関わる事(契約、権利など)を買い手の企業に引き継がせるため、手続きは非常に複雑です。

 

システム開発会社の事業譲渡について

システム開発会社が属しているIT業界は、今非常に好調な分野です。2020年に行われる東京オリンピックに伴い、システム化の需要が多くあるのも理由の一つです。そうでなくても、昨今、何でもモノとインターネットに繋ぐ技術(IoT)が発達している世の中です。新しい技術が次々に生まれていっています。

その好調なIT業界でも、悩みはあります。それは、技術者不足や後継者不足などの人材不足です。日本の場合、少子化の上、システム開発会社は「過酷で納期に厳しく、低賃金」と持たれているイメージがあまり良くありません。

この問題を解決する一つの方法が「事業譲渡」です。現在、中小企業が大手に事業譲渡を行う事例が多いようです。これは、大手はそのブランド力で技術者や後継者候補が集めやすいのに対し、中小企業はブランド力がないので、人が集まりにくい、という特徴があるためです。

大手に事業譲渡を行えば、自社の技術が大手に引き継がれることになります。自分の代で事業の一部を止めるという選択肢を取る前に事業譲渡できないか、検討してみましょう。

 

システム開発会社の事業譲渡の動向

現在、日本の2018年のM&A総額は過去最高となっています。その中で、IT・ソフトウェア業界のM&A件数は業界中トップです。日々新しい技術が生まれ、エンジニアの需要が増加していることがうかがえます。また、システム開発を自社内にてゼロベースで行うよりも、事業譲渡によって自社に取り入れる方が、速いスピードで利益が得られることも、システム開発会社の事業譲渡が加速している理由の一つでしょう。

また、海外に事業を作る場合にも、事業譲渡は有効です。海外進出は、ゼロから始めるよりも、ある程度名の知れた大手の傘下に入った方が、安定した資金力で盤石に行えます。

 

システム開発会社を事業譲渡するメリット

ここからは、システム開発会社を事業譲渡するメリットについて、譲渡側のメリット、買収側のメリットそれぞれの視点から解説します。

 

<譲渡側のメリット>

雇用の維持・人材不足が解消できる

まず、考えられるメリットは、雇用の維持と人材不足が解消できるということです。事業がうまくいっていない、逆に好調で仕事が多すぎる場合に、事業譲渡することでこれらの課題を解決できます。

大手の場合、人材不足は中小企業よりも深刻ではないため、技術者を確保しやすいです。充分な人数で研究、開発を進められるため、今まで技術者の人数の問題で実現できなかったシステム開発も行えるようになります。

 

経営基盤が安定する

次に、事業譲渡することで、他業種の企業に買収された場合、経営基盤が安定するというものがあります。大手の傘下に入り、資金面が安定した事例はたくさんあります。また、海外進出をしようとした場合にも、海外で活躍している大手に事業譲渡をする企業もあります。自分の技術やノウハウが自分の手を離れて、世界に広まりますます発展していくことができれば、経営者としてこれほど嬉しい事はないでしょう。

 

創業者利益を得られる

M&Aなどで事業譲渡を行った場合、オーナーに売却益をもたらします。これは、廃業を考えているオーナーには、大きなメリットとなります。その利益を資金として、別の分野の研究をし、新しい製品やサービスの開発費に当てることもできます。

 

<買収側のメリット>

システム開発を内製化できる

システムを開発する際に、自社で開発を完結できるようになります。わざわざ、委託会社に頼む必要が無くなり、システムを運用のコストが下がる場合があります。

 

システム開発に関する人材を確保できる

システム開発会社は常に人材不足の状態です。事業譲渡を受けることで、こうした人材不足を教育コストをかけずに解決できます。大手は人材がすでに揃っているため、充分な人数で開発や研究を進めることができます。これにより、一人ひとりの負荷が下げられ、新たな技術を研究したり、開発したりするインフラが整います。

 

システム開発会社を事業譲渡する際のチェック項目

では、実際に自社の事業譲渡をする際に、買収する側はどのような点をチェックしているのでしょうか。

 

独自性があるか

まずは、自社しかないようなノウハウや技術、製品やサービスなどを探します。独自性があれば、規模は小さくとも、譲渡先は増えます。なぜなら競合他社と競った際に競争力があるからです。特許を取れるような技術を研究しているというのもポイントが高いでしょう。特許は、取るまで利益は出ず、すぐには売上に貢献しませんが、特許を取ってしまえば、一定期間独占してその技術を使った商品を販売することができます。

 

将来性があるか

この項目は、ITを扱う会社ならば、クリアしやすい項目です。研究、開発していることが、将来、利益に直結するかを改めて確認しましょう。また、大口の取引先などを抱えているかなども、将来性を考える上で重要です。

独自性があるか、の所でも触れましたが、特許が取れるような研究・開発をしていることも、将来性があると言えます。譲渡先に、将来性があり、資金を当てる価値がある、という判断をもらえるように考えていきます。

 

利益が出ているか

自社で開発したシステムによって、どれだけの利益が出ているか、また出そうかは重要なポイントです。開発や研究期間が長く、リリースまで時間がかかっている製品でも、独自性と需要があれば、リターンが出ることを買い手にも伝えましょう。大手への事業譲渡が成功すれば、安定した環境で研究ができるため、利益がしっかり出るまで開発を進められることもアピールできます。

 

優秀な技術者がいるか

システム開発会社の価値はヒト、すなわち技術者です。優秀な技術者をどれだけ抱えているかで会社の価値が決まる、と言っても過言ではありません

。技術者を始め、従業員にとっても、慣れ浸しんだ職場を離れるのは辛いことです。待遇を改善してもらえ、そのまま働き続けられたら、あえて離職することは少ないでしょう。常に最新技術にアンテナを張り、学会や展示会に足を運び、製品化できる技術はないか、探し、学ぶ姿勢がある技術者をかかえておくことが重要です。

 

適切なタイミングか

事業譲渡をするのであれば、好調なうちがベストです。経営者が事業にオーナーシップを持って取り組めている好調なタイミングであれば、優秀な技術者も譲渡後に事業に残ってくれるはずです。もしも譲渡するタイミングで会社の存続が危ういとなれば、どんなに関係性が良い社員も転職を考えてしまうでしょう。

また、これだけ目まぐるしく変化するIT業界において、いつ何時技術の陳腐化が起きるかは予期することができません。つまり、自社の強みが明日には強みで無くなる可能性すらあるのです。それを鑑みると、事業が好調でなくとも、いずれ譲渡するのならば、早めのタイミングが良いでしょう。

 

まとめ

システム開発会社の事業譲渡についてご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。システム開発会社が属しているIT業界は、非常に好調です。IT化が進んでいる現在において、システム開発は世の中に必要不可欠な業種と言えるでしょう。しかし、IT業界は慢性的な人材不足を抱えています。これを解決する一つの方法として「事業譲渡」がありました。自分の会社の事業を廃業しようと考えている方、後継者不足に悩んでいる方は、事業譲渡ができないか、まずは検討してみてはいかがでしょうか。

システム開発会社の事業譲渡を検討する際のチェック項目
システム開発会社は好調である一方、慢性的な人材不足や後継者不足に悩まされています。この解決策の一つに事業譲渡という選択肢があります。本稿では、システム開発会社の事業譲渡について、メリットや検討にあたってのチェック項目について詳しくご紹介します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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