2019年6月30日 日曜日

事業譲渡の事例から読み解く潮流《システム開発会社》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

この記事では、システム会社の事業譲渡の動きについて解説した後、実際にあった事業譲渡の例を俯瞰し、事業譲渡をする上でのポイントについて整理していきます。

システム会社と一口で言ってもその数は膨大ですし、事業領域も多岐にわたります。しかしながら、それぞれの企業が抱える課題には共通点があるのも事実です。それらの課題を解決するべく、事業譲渡という手段を選ぶ企業が増加しています。

 

システム開発会社における事業譲渡の動き

まずはシステム開発会社がおかれているIT業界の現状を眺め、事業譲渡の動きを見ていきましょう。

 

システム開発会社がおかれているIT業界の現状

ITとは、「Information Technology」の略で、日本語にすると情報技術のことを指します。

IT業界の市場規模は世界中で年々拡大しており、新しい技術や新しいサービスもどんどんアップデートされています。キーワードとしては、近年急激に認知度を上げている人工知能技術や、IoT、クラウドサービスなどが挙げられます。

一方で、成長を加速させるための人材が不足しているという課題を抱えています。これには、そもそも教育の段階でIT技術に触れている学生が少ないということもありますが、IT業界の労働環境や構造にも原因があります。

IT業界は多重にピラミッド構造が形成されており、上流の要件定義やコンサルテーションでは比較的高収入が見込めるのに対し、実際の開発や運用・保守といった下流の仕事になるほど収入が低くなる傾向にあります。また、下流にいくほど納期が厳しくなり、労働環境も劣悪になりがちです。近年進められている働き方改革によって多少の改善は見られるもののまだまだ改善が待たれる業界であることには変わりないでしょう。

 

システム開発会社の事業譲渡の動き

近年システム会社では、組み込み系の案件から、手堅い金融機関向けのシステム構築プロジェクトへシフトすることを目指したり、景気の影響を受けやすい従来の受託開発ではなく、安定収益が見込まれる運用受託やクラウド等の事業モデルへの転換を志向したりする会社が増えています。

また、元請けは外注先であるシステム開発企業の選り分けを進めており、独立系の小規模のシステム開発企業が、すでにある取引先を維持できない、という事案も増えています。そのため、多くの中小システム開発企業は、大手企業に傘下入りしたり、他社による買収を受けたりするための「選ばれるための規模拡大」を探るなど、生き残りをかけて実行しています。

人材の観点で技術者の不足が深刻化している昨今、「仕事はあるが人を手当てできない」ということが中小システム開発企業に共通する課題となっています。求職する側も、待遇面以外で会社の企業ブランドを意識する傾向が強まっており、企業の認知度の不足から起きる採用難を大手のグループ企業となることで少しでも解決していこうという動きも広がっています

さらに、システム開発業界の急成長時代に起業した創業者の引退時期に達してきていることによる後継者問題や事業承継の問題を解決するためのM&A(企業合併や買収のこと)も増加している傾向にあります。

 

最近のシステム開発会社の事業譲渡事例

ここでは、最近のシステム開発会社における事業譲渡の事例をご紹介します。従来よりも高品質なサービスを提供するための事業譲渡であったり、売り上げの拡大を目指しての事業譲渡であったりと、事業譲渡をする理由は多岐にわたることが、事例から分かるでしょう。

 

日揮システム株式会社が富士通株式会社に株式譲渡した事例

2016年、日揮株式会社の株式の100%を保有する日揮情報システム株式会社の全株式を富士通株式会社に譲渡することで合意する旨の発表を行いました。

株式譲渡に至った目的は、日揮情報システムがICTソリューション会社としてさらに高い技術力とソリューション力を獲得して成長・拡大を果たすこと、日揮グループに対して従来以上の高品質なシステムとサービスを提供すること、そして建設分野および設備保全管理分野等の顧客に向けた外販事業を強化するためです。そのためには、革新的なテクノロジーを活用してグローバルにICTソリューションを提供する富士通グループの一員として事業展開を行うことが最善であるという企業判断から、株式の譲渡を行いました。

 

トライアックスがフュージョンパートナーに株式譲渡した事例

2015年、フュージョンパートナーはトライアックスの全株式を取得し、完全子会社化しました。SaaS/ASP事業(SaaS…サービスとしてのソフトウェアの略称。クラウドで提供されるソフトウェアのこと。ASP事業…インターネットを介してソフトウェアやソフトウェアが動作する環境の提供を行う事業のこと)を主軸とした業容拡大を目指すうえで、販売力の強化と、新領域への進出を早めることを期待しての株式譲渡でした。

また同日、10月1日にトライアックスから営業譲渡を受けたマーケティングオートメーションツール「SATORI」の事業を手掛ける第三者割当増資の一部を引き受けることも発表しました。フュージョンパートナーがSaaS/ASP事業で蓄積したデータとSATORIとを連携させて、新領域のサービスを展開することを目的としています。

 

日本総合研究所が伊藤忠テクノソリューションズに事業譲渡した事例

伊藤忠テクノソリューションズは、日本総合研究所からクレジットカード会社向けの基幹システムパッケージ(JCIRIUS:ジェーシリウス)の事業を譲り受けました。日本総合研究所のクレジットカード会社向けの基幹システムパッケージ事業を譲受することにより、伊藤忠テクノソリューションズは基幹システム事業のノウハウを蓄積、クレジット会社向けのトータルソリューションの提供を可能としました。

将来的に国内のクレジットカート会社への展開や、ASEANを中心としたグローバル展開によってクレジットカード・信販業界のビジネス全体を通して、5年後に年間200億円の売り上げを目指すための事業譲渡でした。

 

株式会社Ristが京セラコミュニケーションシステム株式会社(KCCS)に株式譲渡した事例

KCCSは、1995年に京セラ株式会社から分離独立し、ICT、通信エンジニアリング、環境エネルギーエンジニアリング、経営コンサルティングという4つの事業を展開する会社です。近年は人工知能の技術であるDeep Learningを用いた画像認識の「Labellio」というプラットフォームを構築。技術検証からシステム開発、導入までを一貫して提供しています。

一方、株式会社RistもKCCS同様に、Deep Learningを用いた目視・画像検査自動化サービスである「Deep Inspection」をローンチし、メーカーを始めとしたクライアントに対し、さまざまな製品に向けて機械学習の技術を利用した検査技術を開発し、導入を進めてきました。

この株式譲渡によって京セラグループの資本や経営ノウハウと株式会社Ristの技術が合わさり、より一層付加価値の高い検査技術を開発することを企図しています。

 

システム開発会社の事業譲渡を実施するうえでのポイント

システム開発企業の事業を譲渡する際には、その事業の長所を如実に示す必要があります。事業を買い取る側の企業も目標をもって買収するため、長所をはっきりさせられれば目標に合った企業が見つかりやすくなるのです。

ここでは、買収する側の企業がよく注目する点を解説します。

 

開発力

新しい事業を始めるにあたって事業買収する企業も少なくなく、また、これまで外部で行っていたシステム運用などを自社内で行い、自社が不得意としていた領域を強化することに主眼を置いた事業買収も増えています。これらの事業買収では、買収した企業がそのまま自社の新しい事業になることもあるため、企業の開発技術の技量を重視する傾向があります。

得意とする領域やオリジナリティーのある技術をもつ企業であれば、買い手が見つかりやすく、事業譲渡や売却を割よく進めることができるでしょう。

 

従業員の人数と技量

システム開発の業界においては、大企業であったとしても人材の不足に苦しんでいる企業が多いです。それゆえ人材を獲得することを目的とした事業買収が積極的に行われています

買収する側の企業は、従業員の人数と技量を気にします。新卒採用で人材を獲得して教育するためには多大な費用と時間を要します。システム開発のノウハウのある従業員であれば、すぐに仕事を任せられます。また、IT技術が飛躍的に進化している昨今、常に新技術に対応するために腕の立つ人材を多く獲得する必要があるため、高い技量を持つ従業員にも注目しています。

 

事業規模

事業の大きさを増やすことでスケールメリットを得ることに主眼を置いた事業買収においては、買い手側の企業はその事業規模に重きを置きます。システム開発事業では、固定費が人件費に限定される中で、事業規模が大きいほど多くの仕事を受け持つことができるため、収益が大きくなる傾向にあります。自社で規模を拡大するよりも早く事業規模を拡大できるということから、事業規模の拡大目的での事業売買も多く、事業規模に重きを置く企業も多くなっています。

 

取引先の数や規模

事業買収により、顧客基盤を大きくすることができれば、これまで交流のなかった顧客とのつながりを作ることができます。これによって、これまで事業売却をした企業が供給していた商品やサービスのほか、買い取る側の企業の商品やサービスを合わせて売り込み、事業規模を大きくできる好機が生まれます。また、事業売却した企業の顧客をそのまま獲得できるため、今まで事業を展開していなかった地域に進出することができます。

 

タイミングが適切かどうか

事業を譲渡する場合、事業が好調なうちに検討しておきましょう。オーナーがその事業を続ける気がなくなった状態で消極的な経営をしていると、譲渡先の候補も減少します。それに、優秀なエンジニアも離れてしまうでしょう。譲渡を検討するのは、事業が好調で「今こそ譲渡するに相応しい」と思うタイミングの時にしましょう。事業に能動的に取り組むことで、もし譲渡が決定しても従業員が退職せずにいてくれることが多いです。

腕のあるエンジニアがいかに働き続けてくれるか」ということが、売り手側、買い手側双方に共通する交渉の大きな論点である、と言ってよいでしょう。腕利きのエンジニアのモチベーションがあるうちに事業譲渡を進めていくことで、円滑に事業売却を進めておくと、譲渡先が順調に見つけられやすくなります。

 

独自性

自社にしかないような技能や製品、サービスはあるでしょうか。独自性があれば、多少規模が小さくとも譲渡先は増えてきます。それは、競合他社と競った時にプラスになるからです。特許を取ることのできるような技術を研究している、といったことでも構いません。特許は、取得するまで利益は出ず、直ちに売上に寄与することはできませんが、ひとたび特許を取得すれば、ある程度の時間その技術を使った製品を独占して販売することができるのです。

 

まとめ

今回は、システム開発会社の事業譲渡について、概要や事例を踏まえ、実際に譲渡を実施する際のポイントとともにご紹介しました。さまざまなモノがインターネットとつながる現代にあって、IT業界は成長の途中にありますが、規模拡大や後継者問題解決のために事業譲渡を検討するシステム会社も増えています。

慢性的な人材不足という問題は抱えつつも、成長を続けるIT業界は、今後も成長スピードを止めることなく、むしろ加速させながら、市場規模の拡大を続けていくでしょう。

この記事を呼んでいる方の中に、システム会社の事業譲渡を検討している方がいらっしゃれば、ぜひ今回ご紹介したポイントや事例を踏まえたうえで、より良い取引を成功させてください。

事業譲渡の事例から読み解く潮流《システム開発会社》
本稿では、システム会社の事業譲渡の動きについての解説と、実際にあった事業譲渡の例を俯瞰し、事業譲渡をする上でのポイントについて整理していきます。システム開発会社が抱える課題は様々ですが共通点があることも事実です。それらの課題を解決するべく、事業譲渡という手段を選ぶ企業が増加しています。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年6月30日
事業承継の事例から読み解く潮流《システム開発会社》
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