2019年6月28日 金曜日

事業売却の事例から読み解く潮流《システム開発会社》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

IT化が進む現代、システム開発会社は無くてはならない存在となっています。2020年に開催される東京オリンピックに伴い、システム開発への需要は増加しているといえます。

しかし、システム開発会社が所属しているIT業界は、慢性的な技術者不足に悩まされています。それは、日本では少子化の上にIT業界全体が「過酷、拘束時間が長いわりに、低賃金」というイメージを持たれているからです。どうしたらこの技術者不足を解消できるでしょうか。

解決策の一つとして、事業売却を行うことが挙げられます。この記事では、システム開発会社を事業売却することについてご紹介します。

 

システム開発会社における事業売却の動き


まずは、そもそもシステム開発会社とはどのような業態なのか、そして事業売却の概要や方法について解説していきます。

 

システム開発会社とは

システムは、ソフトウェアとハードウェアの2つに分けることができます。システム開発会社とはそのうち、主にソフトウェアを開発している会社を指します。開発している技術者のことを、システムエンジニア、プログラマーと言います。システムエンジニアがプログラマーを兼任している場合があります。

システム開発とはどのように行われているのでしょうか。その流れについて詳しく解説してきましょう。システム開発に携わっている方にとっては当たり前の内容となりますので、この先まで読み飛ばしていただいても構いません。一方、システム開発会社の買収を検討している異業種の方など、今後何らかの形で関わる可能性のある方は、システム開発会社の業務内容を把握する意味で、参考にしてみてください。

 

①要件定義(営業、システムエンジニア)

まずは、クライアントがどんな課題を抱えているか、課題解消のためにどんなシステムを必要としているかを営業やシステムエンジニアがヒアリングします。その時、いきなり技術的な話をしようとするのではなく、「自動的に〇〇ができる機能が欲しい」などのレベルで良いでしょう。そこから、技術的にどう実現するかはシステムエンジニアの仕事です。そのシステムがどんなハードウェアのスペックで動くか、コンセプトなども聞いておきます。

システムエンジニアは、クライアントの希望に沿ったシステムにするために、要件定義のフェーズはしっかり行っておきましょう。この時、大まかな工数と工期を決めておきます。

 

②外部設計(システムエンジニア)

画面設計(そのシステムに画面があるならば)と、どんな変数が必要なのか、関数の入出力の関係などを定義します。関数はある入力を入れると、出力が決まる処理のことです。ここでの関数の定義は「〇〇機能を実現するための関数で、〇〇型の変数を入力すると、XX型の変数が返ってくる」といったレベルで良いでしょう。一つの機能を実現ためには、多くの場合は複数の関数が必要です。処理別に関数を用意しておくと、後々保守しやすいでしょう。

クラスという概念がある言語で設計する場合は、どんなクラスが必要か、必要なプロパティ(変数)は何か、メソッド(関数)は何かを定義しておきましょう。

画面設計は、ボタンを配置したり、リストを配置したり、チェックボックスを配置したりしていきます。その画面において要件定義で定義した機能が実装できるか、漏れがないかを確認しましょう。機能が実装されていても、誤作動を誘うような画面設計は避けましょう。

 

③内部設計(システムエンジニア)

外部設計で、関数の入出力の関係を定義したら、入力値を使って、出力値になるような処理(アルゴリズム)を考えていきます。アルゴリズムは、既に研究されていることが多いです。それをどう組み合わせて実現するかは、システムエンジニアの腕の見せ所です。

このアルゴリズムが異なると、同じ動きをしても、処理速度や、後のフェーズ(実装)のやりやすさ、保守性のしやすさなど格段に違ってきます。

 

④実装(プログラマー)

ここまで来たら、プログラマーの担当になります。プログラマーはシステムエンジニアが書いた「要件定義書」と「外部設計書」、「内部設計書」を見て、その通りにプログラミング(実装)していきます。

この時、内部設計のアルゴリズムをどう実装するかは、プログラマーの腕次第になります。効率よいコードでアルゴリズムを組むと、動きは一緒ですが処理時間や保守性が良くなります。工夫した所や難しいところなどはコメントを付けておくと、後々保守しやすくなります。

 

⑤テスト(プログラマー、システムエンジニア)

実装が完了したら、テストのフェーズになります。まずは、プログラマーが関数単体で入出力の関係が正しいか確認します(単体テスト)。次に一機能ごとで正常に動作しているか確認します(結合テスト)。最後にシステムエンジニアが本番環境でシステムが正常に動くか確認します(統合テスト)。

 

⑥引き渡し(営業、システムエンジニア)

テストが終わったら、製品をリリースし、引き渡しになります。このとき、営業に技術者が付いていくことが多いです。お客様がシステムを使って、「ここが使いにくい」などの意見が出るからです。お客様の意見は、今後バージョンアップで対応するかどうか検討します。

 

⑦保守・サポート(サポート専門職、システムエンジニア)

クライアントが使っていて見つかった不具合などは、改修してバージョンアップなどで対応します。また、クライアントがシステムを運用していて分からない所は、メールや電話、現場へ出張で対応します。システムを使い始める段階ではなかなか使いこなせないことも多いので、営業や技術が研修会を開くこともあります。

 

事業売却とは

事業売却とは、会社が持っている事業の一部を他の会社に譲渡することです。複数の事業を譲渡しても問題ありません。よく混同される「会社売却」との違いは、会社が無くなるわけでない、というところです。売却側のメリットとして、売却益を得られる、従業員は残すことができる、資産はそのままにできる、不要な事業を譲渡できることなどがあります。自社の事業を廃止する前に、大手など他の企業に事業売却できないか検討してみましょう。

 

システム開発会社における事業売却の動き

システム開発会社が所属しているIT業界は、慢性的な人材不足に悩まされています。日本では少子化の上に、システムエンジニアやプログラマーは「常に納期が厳しくて、拘束時間が長く、しかし賃金が低い」といったイメージがあり避けられてしまいがちです。この人材不足は、新卒や中途採用で補おうとしても、追いつかないほど深刻なものです。これにより、システム開発会社は人材不足で立ちいかなくなった事業を事業売却する動きが出てきます。大手の企業より、中小企業で活発に事業売却が行われているようです。その理由として、大手はブランド力があり比較的人材が集まりやすいという特徴があるからです。

好調なシステム開発会社は、2020年に行われる東京オリンピックを中心としてIT化が進んでいます。それにより、システムエンジニア・プログラマーの需要も増えています。供給が追いついていないのです。この問題を解決するべく、大手に事業売却を行うケースが多いです。

 

事業売却の流れ

実際の事業売却は、以下のような流れで実施されます。

 

①売却先を探す

最初に事業売却をもちかけたい企業や組織を探しておきます。これが見つからないと、事業売却には進めません。

 

②買収側から基本条件提示

事業の買い手を見つけたら、意向表明書の提出をしてもらいます。意向表明書は、買収側の希望の提示を受けることになります。事業売却は買い手と売り手の双方の希望をすり合わせていくことです。

 

③基本合意する

買い手側の基本条件に納得出来たら、基本合意書を書きます。基本条件に納得が出来ない場合は書類を書いてはいけません。後から揉め事になるのは避けておきましょう。

 

④デューデリジェンス

ビジネスや法務、会計や税務といった売り手の情報を買い手側に提出することです。これにより、買い手はリスク管理などにつなげられます。

 

⑤取締役会で決定

取締役会で事業売却をすることを決定します。

 

⑥事業譲渡契約書を締結

事業譲渡契約書の締結によって、事業譲渡完了となります。

 

⑦株主への通知をする、株式総会で説明する。

事業売却に関して、株主への通知が必要です。

 

最近のシステム開発会社の事業売却事例


ここからは、実際に行われた事業売却の事例をご紹介していきます。

 

古河インフォメーション・テクノロジーが富士通株式会社に事業売却

古河インフォメーション・テクノロジーは、光ファイバーや電子部品で世界トップクラスのメーカーである古河電工から情報システム部が独立して誕生した企業です。コンサルティングから、設計、開発、保守、運用…幅広く支援しています。

古河インフォメーション・テクノロジーは富士通に事業売却され、古河電工との関係強化に加えて、ITシステムを総合的に支えていくとともに、ものづくり分野におけるITスキルやノウハウを習得し、富士通の製造業向けの分野の強化を図れることを目指しています。

 

Arcon Informatica S.Aが日本電気株式会社(NEC)に事業売却

NECは、国内最大のコンピュータメーカーです。2019年に開かれるラグビーワールドカップの保安対策でNECの「顔認証システム」が採用されたことで話題に上がりました。

Arcon Informatica S.Aは、ブラジルでITセキュリティに関するコンサルティングやシステム構築など様々な分野で大手を顧客とするITセキュリティ会社です。Arcon Informatica S.Aが保有するノウハウを生かし、ブラジル進出を狙えるということでNECに売却されました。

 

その他の事業売却について

2018年にシステム開発会社のパシフィックビジネスコンサルティングが関西電力の子会社である関電システムソリューションズに事業売却したことや、システム開発会社の親和コンピュータサービスが船井総研ホールディングスに事業売却しています。パシフィックビジネスコンサルティングはMicrosoft Dynamics製品の導入をしているソリューションを提供している企業です。親和コンピュータサービスは技術力と開発力が高いことが特徴な企業です。

 

システム開発会社の事業売却を実施するうえでのポイント

独自性があるか

まずは、自社に独自性がある技術や製品がないかチェックしてみましょう。独自性があれば、競合他社とも競うことができ、利益を上げられるからです。特許が取れる技術を持っている、というのも良いです。特許は、製品化されるまではコストがかかって大変ですが、いざ特許を認められれば、しばらく独占的に販売できる権利を得られます。逆に独自性がない会社は、規模が大きくても、競合他社と戦うと負けてしまい、利益に繋がらない場合もあります。規模が小さくても、独自性があれば、買い手は見つけやすくなります

 

優秀な技術者がいるか

この項目が一番重要です。事業売却は「どれくらい優秀な技術者がいるか」で決まる、と言っても過言ではありません。新しい技術は次々と生まれます。最新技術に敏感で、学ぶ姿勢ができている技術者は優秀といえるでしょう。最新技術は、展示会や学会に出ることで習得できることもあります。

 

柔軟性があるか

システム開発会社では新しい技術を呑み込めるような、柔軟性のある技術者が必要です。常に新しい技術を試し、試行錯誤していく姿勢が大切です。柔軟性がないと、「この技術はこの製品に使えるのではないだろうか」といった、アイデアも出にくくなります。

技術者はモノづくりにおける技術が一番だと思われがちですが、クライアントの希望を感じ、他の技術者や営業の方とどう接していくかが大切です。刻々と変わりゆくIT業界の波に乗れる柔軟性をもつ技術者は非常に貴重な存在で、会社としては資産と言っても過言ではないでしょう。

 

将来性があるか

大口の取引相手がいるか、顧客数はどうかなど見ていきます。また、独自の技術力を持っているか、特許に繋がる研究はしているか、などがポイントです。新人の技術者なども教育によって、優れた技術者になる可能性があります。

 

まとめ

システム開発会社の事業売却についてご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。

システム開発会社が所属しているIT業界は、非常に好調です。しかし、慢性的な人材不足を抱えています。それは、新卒採用や中途採用では追いつかないほどです。そのため、中小企業が大手に事業売却することが多いです。大手に事業売却する動きが活発化すれば、一人ひとりの負担が軽くなり、「IT業界は過酷」というイメージも取れるかもしれません。自分が行っている事業を廃業する前に、事業売却できないか検討してみましょう。

事業売却の事例から読み解く潮流《システム開発会社》
システム開発会社は慢性的な技術者不足に悩まされています。この技術者不足を解消する策の一つとして、事業売却を行うことが挙げられます。この記事では、システム開発会社を事業売却することについて、事例を交えて詳しくご紹介します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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