2019年6月14日 金曜日

中小企業の事業譲渡を検討する際のチェック項目

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

高い技術力やノウハウを保有する中小企業の存続は、国内経済の発展に欠かせません。

万が一、後継者が見つからずに会社を清算してしまうと、蓄積した技術・ノウハウ・商圏が失われてしまいます。従業員の雇用と取引先への影響も深刻です。一方で、強引に親族に事業承継を行った結果、事業に失敗することも防ぎたいものです。何らかの形で、中小企業の存続・事業承継を実現させる方法を検討しなければなりません。

この記事では、中小企業の事業譲渡について、押さえておきたいポイントをご紹介します。

 

中小企業の事業譲渡を検討してみては?

事業を継続するにも承継できる親族がいない、企業体質を強化して存続・発展させたいなど、先行きに不安を感じる中小企業が検討したいのが、M&Aです。M&Aの手法はいくつかあり、それぞれに制約や制限がありますが、事業譲渡を検討してみてはいかがでしょうか。

 

中小企業の事業譲渡

中小企業の事業譲渡は、株式譲渡の次に多く用いられるM&Aの手法です。初めに事業譲渡について、続いて他の手法との違いを解説します。

 

「事業譲渡」とは

事業譲渡とは、複数の事業を手掛ける会社が、その「事業」を買収企業に「譲渡」することを言います。契約により個々の権利・財産・負債を移転させるため、譲渡側が経営する事業の全てを譲渡することも、一部の事業に限って譲渡することもできます。

ここで言う「事業」とは、保有する設備などの有形財産に限りません。売買の対象となる事業は営業を目的としたあらゆる資産なので、企業ブランド・顧客リスト・特許権などの知的財産権・契約・従業員などの無形財産も含まれます。

これらの譲渡対象を個別に選別するため、手続きが煩雑になりがちです。

 

「事業譲渡」と「株式譲渡」の違い

中小企業のM&Aで多く見られる「株式譲渡」との違いをご説明します。

まず、取引主体と目的が異なります。「事業譲渡」は企業の「事業」自体を譲渡します。一方の「株式譲渡」では、株主(経営者個人)が保有する「株式」を譲渡することで、会社の経営権(支配権)を移転します。

次に、譲渡する範囲です。事業譲渡の場合、譲渡側は全ての事業か、一部の事業かを選別して譲渡することができます。しかし、株式譲渡を実行すると、基本的に全ての事業・資産を譲渡することになります。

なお、その契約内容から重視すべきポイントも異なります。事業譲渡契約では、譲渡対象となる事業・競業避止義務・資産・従業員の処遇の条項に注意します。資産の売買の形態をとるM&A手法だからです。一方の株式譲渡では、旧経営者の個人保証・譲渡企業の表明保証の条項に注意しましょう。経営権を移転するM&A手法だからです。

 

「事業譲渡」と「会社分割」との違い

まず、「会社分割」には、切り離した事業を買収企業に引継ぐ「吸収分割」・新たに会社を設立して事業を引継ぐ「新設分割」があります。いずれの会社分割も、譲渡側の事業を選択して承継します。

ここで、引継ぐ事業の範囲を比べてみましょう。会社分割・事業譲渡のどちらとも事業を選択して引継ぐことができます。しかし、会社分割は事業を「包括的」に引き継ぎます。権利義務・契約上の地位も承継することになり、例えば債務だけを切り離して譲渡・引継ぐことはできません。

 

企業が事業譲渡を選択する理由

売却側・買収側、それぞれに事業譲渡を選択する理由があります。

 

売却側の理由

まず、売却側が事業譲渡を選択する3つの理由をご説明します。

 

・法人格を継続して使用したい:
オーナー社長が会社の法人格に対する思い入れがあり、法人格を継続して使用したいと希望するケースです。例えば、事業譲渡後に新事業・社会貢献活動を行う際、従来の法人格を用いるなどです。

 

・自社所有の不動産を継続して保有したい:
前項の法人格も然り、オーナー社長が手放したくない不動産を保有しているケースです。例えば、投資用不動産や賃貸収入確保につながる不動産がそれにあたります。

 

・同一法人で、他の事業を運営しているため:
非中核事業を譲渡することで、事業の選択と集中を図るケースです。会社全体の売却が不可能なことから、必然的に事業譲渡が選択されます。

 

買収側の理由

次に、買収側が事業譲渡を選択する3つの理由をご紹介します。

 

・不要な資産を承継させないため:
売却側が本業とは無関係の投資用不動産を保有している、もしくは事業用不動産を過度に保有しているケースがあります。この場合に事業譲渡を用いれば、必要な資産・負債を選択でき、不要な資産を引継ぐことなく買収を進める事ができます。

 

・簿外債務を回避したい:
買収時点で予測できない簿外債務・偶発債務など、不本意な承継を回避できます。事業譲渡では引継ぐ負債を限定することができるからです。

 

・節税のため:
事業譲渡で引き継いだ資産によっては、不動産取得税・登録免許税などの税負担が発生します。しかし、営業権に該当する金額は法人税の算定で損金に算入できることから、投資金額に節税効果を見込めます。このため、実質的に投資額を抑えることができるのです。

 

事業譲渡を検討する上での注意点

事業譲渡を検討する際に、押さえておきたい4つのポイントをご紹介します。

 

株主総会の特別決議

事業譲渡の譲渡企業は、株主総会において株主の承認を得なければなりません。この「特別決議」は、効力発生日の前日までに行ってください。承認基準は、以下の通りです。

・出席:議決権の過半数以上を持つ株主の出席

・賛成数:三分の二以上の賛成

なお、簡易事業譲渡・略式事業譲渡に該当する場合、当決議は不要です。

 

※簡易事業譲渡:
事業譲渡により譲渡する資産の帳簿価格が、譲渡会社の総資産額の20%、もしくは譲受会社の純資産額の20%を超えない場合は、簡易事業譲渡に該当します。

※略式事業譲渡:
事業譲渡の相手方企業が、議決権のある株式を十分の九以上保有する子会社(特別支配会社)である場合、略式事業譲渡に該当します。

 

従業員と取引先の承継

株式譲渡であれば、会社の所有者、つまり経営権を持つ者が移動するだけなので、従業員との雇用関係・取引先との契約に影響を与えることはありません。しかし、事業譲渡では「契約主体」が変わってしまいます。

 

・従業員の承継:
事業譲渡では、従業員との契約主体が譲受企業に変わります。このため、従業員が自動的に引継がれることはありません。雇用関係ついて、全てを新たに契約し直す必要があります。なお、従業員の引継ぎには、各従業員に承認を得なければなりません。

 

・取引先の承継:
取引先との契約主体も譲受企業に変わるため、譲渡企業が取引先ごとに説明して、承認を得ます。こちらも、全て新たに契約し直す必要があります。

 

譲渡後の許認可手続き

譲渡の対象事業に、許認可を必要とする事業がある場合、許認可が自動で引き継がれることはありません。介護・人材派遣などが該当する事業であり、譲受企業が引継ぐ事業の許認可を持っていない場合は、監督官庁に許認可申請をする必要があります。

新規での申請のため、申請の事務負担・許認可の遅れ・許認可がもらえないなどのリスクを事前に検討しましょう。

 

債務・負債に関するリスク

事業譲渡では、譲受企業に債務・負債を引継ぐ必要はありません。債務・負債は譲渡側に残ります。交渉次第で、引継ぐ債務の範囲を定めて譲渡することもできますが、手続きがより煩雑になってしまいます。

 

事業譲渡で発生する税金について

事業譲渡は、会社の事業を売却する行為に当たります。このため、事業譲渡により「利益」が生じ、利益には「税金」がかかります

まず、譲渡(売却)側企業の税金についてです。事業譲渡の対価を受け取るのは会社です。「譲渡益」は法人所得となり、通常の営業による利益として「法人税」の対象となります。

一方、譲受(買収)側では、買い取った財産に消費税がかかります。なお譲受資産に固定資産が含まれていると、不動産取得税や登録免許税などの税金を負担する必要があります。

 

中小企業を事業譲渡するメリット

ここまで、事業譲渡とそれを選択する理由・押さえておきたいポイントを解説しました。この項では、中小企業を事業譲渡するメリットを、譲渡側・譲受側に分けてご紹介します。

 

譲渡側のメリット

まず譲渡側の5つのメリットです。

 

事業の選択・集中ができる

事業譲渡の場合、譲渡する事業を選択することができます。これにより、経営を続けることが難しい事業を譲渡して経営に余裕を持たせるなど、事業譲渡「後」の目的に合わせた、事業の選択・調整ができるのです。

 

必要な資産を残すことができる

中小企業で小規模な事業を手掛けていると、現行の事業を売却して新規事業を始めるケースが見られます。事業譲渡では、次の事業を始めるための必要な資産を残しておくことができます。

 

後継者問題を解決できる

現在、後継者不足に悩む中小企業は少なくありません。親族が事業承継するケースは減少傾向にありますが、事業譲渡で後継者問題を解決できる可能性があります。また、オーナー社長は事業譲渡によりリタイア資金を得ることもできます。

 

法人格を残すことができる

事業の選択・集中を行う事業譲渡であれば法人格を残すことができるので、新たな事業を始める際に、会社設立の手間を省略できます。オーナー社長の思い入れ・築いてきたブランド価値など、様々な事情にも対応しうるのが事業譲渡です。

 

従業員を残しておくことができる

事業譲渡を行う上での注意点で、従業員の雇用が自動的に引継がれないことを説明しました。しかし、これは譲渡側のメリットにもなります。譲渡しないコア事業に、残した従業員を充てることができるのです。また、全従業員が移る包括継承と比べても、引継ぎ後の解雇の可能性が低くなります。

 

譲受側のメリット

次に、譲受側のメリットを5つ解説します。

 

買収する事業を選択できる

買収する事業を選択できることはメリットになります。必要な事業だけを引継ぐので、事業譲渡後の計画がたてやすくなります。

 

債務・負債を回避できる

原則として、事業譲渡では譲受側が債務を引継ぐ必要はありません。交渉次第で債務を引継ぐこともありますが、その際の債務の範囲は特定することができます。

 

把握していないリスクを回避できる

前述のとおり、事業譲渡では、債務自体を引継ぐ必要がありません。このため、譲渡側が意図的に隠している・譲渡側も気付いていなかった、いずれのケースにおいても簿外債務のリスクを回避できます。

 

必要な従業員・技術・取引先を確保できる

ゼロから新規事業を立ち上げるのと比べ、初期コストを低く抑えながら、従業員・技術・取引先を確保することができます。但し、従業員・取引先を引継ぐための、新たな契約が必要です。

 

中小企業を事業譲渡する際のチェック項目

初めに、譲渡会社側の、一般的なスケジュールをご説明します。

譲渡側企業では、

・М&A仲介会社と契約
・譲渡資産の精査
・譲受会社の選定、及び交渉
・基本合意契約書の確認、及び慶谷宇締結
・従業員・取引先への説明
・事業譲渡契約書の内容精査、及び契約締結
・株主への通知・公告
・株主総会開催
・引渡し準備
・譲渡資産引渡し

の流れで進めていきます。また、譲受側企業は、基本合意契約後に譲渡会社のデューデリジェンスを、事業譲渡契約後に許認可の取得準備を行います。

それでは、中小企業を事業譲渡する際に、チェックすべき4つの項目をご紹介します。

 

譲渡の目的

事業譲渡を検討する際には、注意点やメリットと自社の状況とを照らし合わせ、事業譲渡後の目的まで明確化しましょう。ノンコア事業を譲渡することで、コア事業に経営資源を集中させる・事業譲渡で得た利益で新たな事業を始める、もしくは経営再建を目指す、などが挙げられます。

それにより、自社に残す事業・譲渡対象の事業が異なります。また、残す事業によっては、既存従業員の処遇を検討しなくてはなりません。

 

譲渡先の検討・選別

譲渡先の会社が決まっていなければ、譲渡先の検討・選別から始めます。一般的に、M&A仲介会社など専門機関から紹介してもらいます

条件交渉では金額に留まらず、経営理念や企業同士の相性・事業譲渡後のパートナーの可能性など、多角的に判断します。

 

事業価値の把握

譲受会社は、基本合意契約締結後にデューデリジェンスを行います。この結果により事業譲渡価格が上下するため、譲渡側でも事業価値を把握しておきましょう。例えば自社の現状・事業の特徴や強み・市場価値を分析し、どの事業をどのくらいの価値で売却するのが良いかを予め練り上げておきます。

 

譲渡タイミングの見極め

事業譲渡では、株主総会での特別決議で承認を得ること・取引先や従業員に承認を得ることが求められます。譲受側は許認可の新規申請が必要になるケースもあります。いずれも事業譲渡の効力発生日を迎えるまでに手続きを終わらせていなければなりません。

 

まとめ

中小企業のM&Aは、事業譲渡を用いることで、独立性を保ったまま事業を継続することができます。また、手続きの煩雑さも、中小企業の規模であればメリットが上回ります。企業の存続を目指すためにも、事業譲渡は有効な手法なのです。

中小企業の事業譲渡を検討する際のチェック項目
中小企業の後継者不足問題が増加しつつある今、事業譲渡によってその問題を解決しようとする動きが多く見られます。もし後継者が見つからずに会社を廃業してしまうと、技術・ノウハウ・商圏が失われます。かといって強引に親族に事業承継を行っても、事業に失敗する可能性があります。よりよい形で中小企業を存続させるための手法である、事業譲渡について知っておきたいポイントについてまとめました。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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