2019年6月21日 金曜日

事業譲渡の事例から読み解く潮流《中小企業》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

事業譲渡やM&Aと聞くと、ネガティブなイメージを想像される方も多いのではないでしょうか。小さな企業が資金力のある大きな企業に敵対的に吸収されてしまうなど、一昔前のニュースではよく話題になりました。売る側としても、自分本位に会社や事業を売ってしまい社員や周りの事を考えていないといったイメージも残念ながら先行しがちです。

M&Aの一種である事業譲渡にそうした側面があるのも事実ですが、決してマイナス面ばかりではありません。もし、マイナス面しかないのなら、昨今のように中小企業の事業譲渡が活発に取り行われるようにはなりませんよね。中小企業が積極的に事業譲渡をする背景が生まれているのはなぜなのか。事業譲渡にはどのようなメリットがあるのか。ずばりそんな疑問にお答えします。この記事の内容が事業譲渡について知りたかった方の面目躍如に繋がったのなら、幸いです。

 

中小企業における事業譲渡の動き

近年多くの中小企業が後継者不足に頭を悩ませている現状があり、かつては後継者を立てられない場合は望んでいない廃業に追い込まれてしまうのが一般的でした。廃業を余儀なくされるのは、会社を存続させたいと考える経営者にとって無念です。従業員や取引先に多大な迷惑がかかるだけでなく、培ってきたノウハウや技術を活かす土壌を失うことになります。

 時代の流れとともに2000年初めに大手企業同士のM&Aが取り行われたことをきっかけに、M&Aという手法が世間に広がっていきます。多種多様なM&A仲介会社が登場します。現在はM&Aへのインフラ環境が整っていて、M&Aへの敷居は低くなりました。

 

事業譲渡について

事業譲渡とは、事業の一部もしくは全てを譲渡するM&Aの方法の1つで、会社の一部を他社に売却することです。

売り手企業は優先順位の低い事業を売却し、主力事業に力を注ぐなどの経営方針に幅を持たせることが出来ます。一方で、買い手企業は取得したい財産や従業員、取引先だけを選別できます。

売り手と買い手の双方が得をするM&Aの手法なのです。

 

M&Aの概要

M&Aとは、「Mergers(合併)」and 「Acquisitions(買収)」の略で、合併と買収を意味します。売り手企業と買い手企業が存在し、それぞれ別の企業が経営統合する意味合いがあります。

 

事業譲渡と株式譲渡の相違点

事業譲渡と株式譲渡では目的が大きく違います。事業譲渡は文字通り企業の事業自体を譲渡します。事業とは営業を主とした全ての財産です。そのため有形財産のみならず、無形財産も含みます。有形財産とは目に見える建物や設備等の財産です。無形財産とは知的財産権、つまり培ってきた営業ノウハウや顧客リスト、勤めている従業員の契約、ネームバリューなどのはっきりと目に見にくい財産を指します。

一方で、株式譲渡は経営者である株主が株式を譲渡することで会社の経営権を明け渡すことを意味しています。また、事業譲渡では会社の一部を譲渡する選択ができますが、株式譲渡は株式を譲渡する性質上、一般的に全ての資産と事業を譲渡し先方に委ねることになります。

 

事業譲渡とは異なる株式譲渡の特徴

株式譲渡を行う留意点として、旧経営者の個人保証・譲渡企業の表明保証の条項を遵守する必要があります。なぜならば、経営権そのものを移転するM&A手法であるためです。

契約を成立させる局面ではクロージング日があります。クロージング日とは、株式の所有権が買い手に移る日時を指します。つまり互いに結んだ契約に則り、株式譲渡が決行される日です。クロージング日までに双方の企業は条件を果たさねばなりません。

例えば、株主名簿の名義書換手続や役員の辞任届と新役員の就任承諾書の準備、会社分割の適法な実施等が必要な前提条件として挙げられます。

 

最近の中小企業の事業譲渡事例

では、具体的に事業譲渡の事例をいくつか挙げ、中小の企業がどのような事業譲渡をしていくのかをお伝えします。

 

事業譲渡における成功例

まずは中小企業の事業譲渡の成功事例を2つご紹介致します。小売業界と建築資材卸業界の異なる2つの業界から、事例をピックアップしてみました。業界は異なりますが、少子高齢化問題や事業承継問題など、共に現代社会の問題の影響を強く受けている業界です。中でも中小企業はその存続のために、絶え間ない努力をしています。そんな中、一つの手段として事業譲渡を選択した事例です。

それぞれの企業の狙いを読み解き、自社の参考にしてみましょう。

 

【事例1:Vios INTERNATIONALの事業譲渡】

実施年度:2019年

譲渡側企業:株式会社 Vios INTERNATIONAL

譲受側企業:株式会社ジンズ

 

譲渡対象事業の概要:

アイウエア商品の販売に係る事業が譲渡対象です。具体的にはVios INTERNATIONAL社が運営を行っている5店舗及び 2019 年6月に開業予定の新店舗の合計6店舗です。 

 

目的:

ジンズとしては、上記店舗をVios INTERNATIONALより譲り受け直営店化することにより、当該地域のお客様へより質の高いサービス提供を行なっていきたいとの思惑があります。もともとVios INTERNATIONALは、ジンズのフランチャイズ加盟店として、沖縄県にて店舗を展開していました。一層の営業基盤の拡大を図るためにも、今回の決断に至っています。

 

【事例2:日本スピンドル製造の建材事業の事業譲渡】

実施時期:2017年

譲渡側企業:日本スピンドル製造

譲受側企業:三和ホールディングス

 

譲渡対象事業の概要:

引戸の製造・販売・施工・メンテナンス、木製間仕切、スチール製間仕切など。主力商品は学校間仕切りです。

 

目的:

日本スピンドル製造の建材事業は、木製学校間仕切のパイオニアとして同市場のトップシェアを誇っています。ここまで建材事業で発展できたのは、建材事業の強みである木製建材製品の製造力、商品力、営業力が挙げられます。これからさらに事業を拡大し成長を遂げるためには、三和ホールディングス傘下の業界大手の三和シヤッター工業株式会社の販売力との融合が必要と判断し、事業譲渡するに踏み切っています。

 

事業譲渡で失敗する場合もある

事業譲渡は必ずしも成功するとは限りません。失敗してしまう場合の事例の多くの要因は、経営者がM&Aに直結していく知識が乏しくて後手を踏んでしまうケースです。

例えば、経営者が年を重ね、第一線を退くことを決めたとします。従業員は廃業となれば仕事を失ってしまうわけですから、優秀な従業員達が一斉に結託して、新しく会社を興したとします。しかし、従業員たちが新しく起業したために経営者が保有していたお客様情報のほとんどを引き継げなかったということも大いにあり得てしまうのです。ここで重要なのは事業譲渡を従業員たちが提案し、それに対する知識を持ち合わせていればM&Aにまでこぎつけられたかもしれないという事です。

 

中小企業の事業譲渡を実施するうえでのポイント

最後に実際に事業譲渡を行うにあたっての6つのポイントをご紹介します。事業譲渡を行うには多岐に及ぶ手続きが必要です。同時に様々な検討事項もあります。ここでは厳選したポイントを取り上げて説明いたします。

 

事業譲渡の目的は何かはっきりさせる

会社で仕事をする上で目的が曖昧だとどうでしょうか。先へ進むにも道に迷いがちになりますし、重要な決断も尻込みしてしまうはずです。

同様に事業譲渡でも、目的が明確になっているか否かはとても大切なポイントです。事業譲渡の目的は何なのかと問われて、すぐにはっきりと答えられない場合は、改めて自社の行動の目的を考えてみましょう。

代表的な事業譲渡の目的としては、資金調達、主力事業への集中、事業承継などが挙げられます。会社によっては複数の目的が挙がるケースもあるでしょう。その場合は目的に優先順位をつけておくと良いです。目的は指針となる重要なポイントなので、丁寧に納得がいくまで考え抜くことをお勧めします。

 

情報漏洩を回避する

情報漏洩という言葉はニュースでもよく話題に上がるフレーズなので、馴染みがある方も多いのではないでしょうか。またもしかすると、規模の違いはあっても実際に会社などで情報漏洩に遭遇したという方も少なくないと思います。

事業譲渡においても、情報漏洩は最も注意しなければならない問題です。事業譲渡をする、もしくは事業譲渡を考えているという事実は、会社の今後に大きく関わる機密性の高い情報です。不必要にこの情報が漏れてしまえば、社員は混乱してしまいますし、外部からの印象も落ちてしまいます。最悪の場合は会社の経営が傾いてしまう危険性もあります。事業譲渡について相談する際は、慎重に相手と場所を選ぶようにしましょう。

 

得意分野を考慮して専門家を選ぶ

野菜や果物など物を売るのであれば、当然複雑な手続きなどなく悩むこともありません。しかし、事業を譲渡するとなると話は別です。事業を譲渡しようと思い立ってから、実際に譲渡が成立するまでには多くの過程がありますし時間もかかります。法律や会計などの専門的な知識も必要になる場面も多いため、第三者の専門家の協力が不可欠です。専門の仲介業者や会計士、弁護士などを雇うのが一般的です。

ただここで注意しなければならないのが、どんな専門家を雇うかという事です。単に実績がすごい専門家というだけで決めてしまうのは少し危険です。具体的にどんな実績があるのか、詳しく吟味する必要があります。例えば、中小企業の事業譲渡であれば、自社に近い企業の事業譲渡実績が豊富な専門家の方が、安心感も増すのではないでしょうか。事業の業種についても意識しておくとなお良いです。

 

いつ事業譲渡を行うのかよく検討する

商品にも旬な時期があるのと同様に、事業も譲渡する上で旬なタイミングというものがあります。最も条件の良いタイミングは、事業の業績も良くて経営者の意欲も高い状態でしょう。しかし、このタイミングで事業譲渡を考える経営者はあまりいないはずです。

しかし、上記とは逆の状態、事業の業績が悪く経営者の意欲も低くなってしまうと、当然ながら良い条件で事業譲渡が成立しにくくなります。現状の事業の状態を正しく見極めたら、スケジュール感を持って行動すると良いでしょう。

 

準備をしてデューデリジェンスに臨む

少し専門的な言葉ですが、デューデリジェンスは事業譲渡を行う手続きの中でとても大切なものです。デューデリジェンスとは具体的に何を指す言葉かというと、譲渡対象の事業に対して行われる調査の事を言います。譲渡側の企業が申告している内容に誤りや虚偽はないか、細かくチェックされます。

多くの経営者の方は真面目で誠実な方が多いと思いますが、中には悪い経営者も残念ながらいます。負債を隠し、相手が不利になるような条件の事業譲渡をしようと企んでいる場合もあります。そのような譲受側のリスクも排除するために、デューデリジェンスは重要な行為です。必要に応じて従業員に聞き取り調査も行われるので、綿密に準備しましょう。

 

適切な情報伝達を行う

情報漏洩は気をつけなければなりませんが、かといって誰にも情報を伝達しないのも問題です。事業譲渡における情報伝達のポイントは、正しいタイミングで適した人物にのみ情報を伝えることです。会社の経営に関わる役員の方々などには比較的早期に情報を伝達することになると思います。

判断が難しいのはその先です。他の社員にも情報を伝えるかどうかですが、キーマンとなる人物には、少し早い段階で情報を開示しても良いでしょう。キーマンとは業務を行う上で軸となっている社員を指しています。より具体的に言えば、営業成績が優れており、業務も熟知しているような社員がそれに当たります。彼らは譲渡先の会社にとっても大切な存在で、事業価値にも影響があります。誰に何をどのタイミングで伝えるべきか、検討しておきましょう。

 

まとめ

中小企業の事業譲渡の動向について実際の事例も交えながらみてきましたが、いかがでしたでしょうか。ご紹介したように、現状に適応するために多くの中小企業が先手を打って行動しています。事業譲渡をするという決断は簡単な事ではありませんが、何も行動せずに経営が破綻してしまい、廃業を選択するよりも未来が開ける一手です。より良い経営、そしてなによりも大切な社員のより良い未来ために最善の選択を考えてみましょう。

事業譲渡の事例から読み解く潮流《中小企業》
中小企業が積極的に事業譲渡をする背景が生まれているのはなぜなのか、そして事業譲渡にはどのようなメリットがあるのか、この記事で事例を交えて解説します。さらに、事業譲渡において主に売り手側が気にするべきポイントについても詳しくまとめました。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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