2019年6月20日 木曜日

中小企業の事業売却のポイントとは?

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

この記事では、中小企業の経営者が事業売却を実施している背景と、主にどういった目的で事業売却を選んでいるのかを解説していきます。そして、実際に事業売却を進めるうえで把握しておきたい知識、コツに関してもご紹介します。

 

中小企業の事業売却で次のステージへ

近年では中小企業によるM&A、事業売却が増加傾向にあります。多くの経営者が事業承継を検討する年齢に差し掛かっていることや、大手企業によるシェア争いの影響で資金不足に悩む中小企業が増加していることなどから事業売却によって問題解決を図る経営者が増加しているという背景があります。

事業売却とは、会社が運営する事業の一部もしくは全部を売却するM&A手法の一つです。

事業運営に必要な人員、不動産、機械、技能や業務体系といった資産が取引対象になります。一部分のみを指定して売却できることや、全事業を売却した場合でも売り手側の法人格は存続するといった点が事業売却の特徴です。

似たような言葉に会社売却という用語がありますが、会社売却は許認可や契約関係も含めた会社の全事業資産を売却するM&A方式です。

 

日本国内には約380万社の中小企業があるとされていますが、約三分の一に相当する127万社が後継者不在で将来的に廃業を検討しているというデータがあります。経営者の身内や会社内に後継者とできる人物が少なくなっていることが廃業数増加の要因と思われます。事業売却で第三者へ引継ぎを行うことで、廃業を回避しながら経営者が退職することが可能になります。

 

中小企業を事業売却する目的にはこんなものがあります

ここでは、中小企業の経営者が事業売却を実施する主な理由を紹介します。

 

特定事業への集中

複数の事業を運営している場合、残したい事業以外を第三者へ売却することで経営の効率化を図る企業は多いとされます。必要な従業員や設備は売却側企業の手元に残し、特定事業に経営リソースを集中することで対外的な競争力を強化しようとする考え方です。

特定の事業を選んで取引したい場合、大手企業のM&Aでは会社分割を用いるケースが比較的多い傾向にあります。しかし、中小企業が売り手となる場合では事業売却を用いるのが一般的です

 

経営の立て直し

資金不足や後継者不在などで事業運営が難しくなった企業がM&Aを実施する事例は多くあります。第三者へ事業売却を実施することで、売却側企業が構築してきた事業ノウハウや業務体制を存続させることができます。多くの取引先を持っている事業から撤退したい時に、廃業ではなく事業売却を実施することで問題なく経営を立て直すことができます。

大手事業者の傘下に入れた場合、豊富な資金力や人員、高度な業務スキルなどを共有することで効率的に事業を拡大していける可能性があります

他にも、大手事業者の持つブランドイメージを得ることで交渉力が上がり、案件や契約を取りやすくなるというメリットを得ることができます。

 

売却利益の獲得

事業売却を実施することで、売却側企業は取引内容に応じた金額を獲得することができます。事業売却で獲得した資金は会社の所得として扱われるので、債務の解消や事業拡大などに用いることが可能です。

仮に赤字経営の企業でも、優れた人材や事業体系を保有しているのであれば買い手が付きやすく、高い売却利益を獲得できる可能性があります。人員不足や取引先の減少などで経営改善が難しい場合でも、事業売却を実施することで問題を解決できる場合があります。

 

後継者問題の解消

近年は経営者の親族が別業種に就業していることや、経営状況が厳しいことを理由に事業引継ぎを断られる事例が増加しているとされます。経営者が高齢化していて、後継者教育を実施する時間がないことも考えられます。親族内承継には平均して10年必要であるとされており、経営者が60歳を上回っていると70歳まで退職を遅らせても後継者教育が間に合わないことになります。

中小企業庁の統計によると、2015年時点における中小企業の経営者には65~69歳が最も多いとされています。1995年には45~49歳が最多であることから、事業承継による経営者の若返りは難航していることが見て取れます。

M&Aで同業他社へ事業を売却することで、後継者教育にかかる時間や費用を削減しながら優れた人物へ事業承継ができる確率が高くなります

 

早期退職

事業経営が順調であるタイミングで事業売却を実行し、高い売却利益を得ることで定年前に早期退職を図る事例も存在します。事業売却では成長力の高い事業ほど高く評価されやすいので、急な景気変動や市場動向の変化といったリスクを受けながら経営を続けるよりは順風満帆なタイミングを見て売却した方が良い結果になりやすいと言えます。

経営が安定していることが前提になりますが、債務や取引先とのトラブルを抱えていない事業は買い手が付きやすいというメリットがあります。

 

新事業への転向

事業売却を実施することで獲得した資金を元手にして、新しい事業を開始するケースは多く存在します。新事業に移る経営者は、拡大してきた事業を換金して次に移るパターンと、開始した事業が上手く行かないことを予見して売却を図るパターンに分けられます。

後者は比較的多くみられるもので、競争が激しい業種から転出して別事業に転向するといった目的で事業売却を実施する事例は多くあります。売却後も法人格が残るので、会社売却を実施するよりもすぐに転向できるというメリットがあります。

前者は近年増えてきた形式であり、短期間で業績を上げる必要があるので高い経営スキルが要求される手法です。拡大した事業を保有し続けずに次に移ることが特徴であり、事業の初期段階にのみ携わって収益を上げていく人を”シリアルアントレプレナー”と呼称します。

 

中小企業の事業売却を行う上での注意点

ここでは、中小規模の経営者が事業売却を行うときにどういった点に注意する必要があるかを解説していきます。

 

独自の強みを持っているか

中小企業が運営する事業を売却する時には、買収側企業から見取得コストを払ってでも獲得しようと思わせる案件を提示する必要があります。例えば多数の人員、専門技能を持った人材、多数の取引先などが挙げられます。他社と異なる強みを持っている企業は買収側企業の目にも留まりやすく、売却額が上がりやすいというメリットを得られます。

高く評価される要素は業種や会社の状況によって異なるので、業界特性や最近の動向を確認した上で有効なアピールポイントを揃えていくことが重要です。

 

事業の経営状況

売却する事業が黒字経営であるほど、買収側企業にとっては高い価値を持つ案件として評価されやすいと言えます。事業売却では、取引対象となる事業の将来性によって売却額が大きく変わってきます。長期間安定している事業は売却後も収益を上げる見込みが大きく、買収側企業の発展に寄与すると判断される可能性も高くなります。

多額の売却益を獲得したい場合、事業を発展させると同時に余分な支出を削っていくことで優良事業としてアピールできるようにしていくことが重要です。

 

契約や許認可の引継ぎ

事業売却では従業員や取引先との契約や、事業運営に必要な許認可を直接引継ぐことはできません。許認可が必要な事業を引き継ぐ場合、買収側企業が取得要件を満たしたうえで別途書類手続きを行うか、会社売却を用いて許認可ごと引き継ぐ必要があります。

各種契約に関しては、一度解約してから買収側企業が個別に再契約する必要があります。基本的には全ての契約を引き継ぎますが、売却後の雇用条件が良くなるとは限らない点には注意が必要です。従業員の処遇に関しては別途取り決めを行い、売却条件に組み込んでおくことが重要です。

 

売却側企業のビジネスモデル

事業売却では、売却側企業のビジネスモデルによって注意が必要なポイントが異なってきます。ビジネスモデルは大きく分けるとストック型とフロー型の2種類に分類することができます。

ストック型はM&A市場で安定した評価を得やすい方です。特定の取引先と継続的に契約を結び、毎月の固定収入が主な収入源となっているビジネスモデルです。安定した取引先を多く保有していることから安定した収入が見込めるので、買収側企業からは高く評価されやすいと言えます。

フロー型はその場ごとに案件を確保して収益を獲得するビジネスモデルです。ストック型に比べて短期的な利益は高くなりやすいですが、時期によって収入額が大きく変動する不安定さからM&A市場では買い手が付きづらい傾向があります。

フロー型で収益が出ている会社は経営者の技量で成立している場合が多く、事業売却で経営者の交代を考えている場合は慎重に売却先を選ぶ必要があります。

 

財務、法務面に関する見直し

事業売却を実施する上で、就業規定や財務状況の見直しは必ず実施する必要があります。事業売却によって就業規定が代わる場合、従業員への賃金未払いが発生しないかは確認する必要があります。過去分の勤務実績も調査が必要であり、トラブルを解決せずに引き継ぐと後から損害賠償を請求されるリスクが生じます。

そして、財務諸表のデータを基に収支の内容を改めてチェックする必要があります。節税対策で利益が過度に少なくなっている、実態と異なる数値を記載しているといった問題がないかを確認します。事業売却の過程では税理士や公認会計士などの専門家による監査が実施されるので、問題がある箇所に関しては的確に判断されます。

売却側企業が申告していない問題が見つかった場合、単純な記載ミスでも買収側企業からの評価は悪くなります。事業売却を断られるリスクも高いので、財務面や社内規定などに関する見直しは充分に時間をかけて実施することを推奨します。

 

事業売却にかかる税金

事業売却によって得た金銭には、法人税や消費税といった税金が発生します。法人税は主に営業権に対して課せられる税で、総合的な実効税率は30%~40%ほどです。消費税は課税対象となる資産に課せられる税金です。どちらも売却益の一部に掛かる税金なので、実際に売却益の半分近くに税金がかかるわけではないです。

なお、赤字経営となっている企業が事業売却を実施する場合は、売却益から負債を差し引いた分の金額が課税対象となります。法人税は主に売却益を対象としているので、売却益の値が減ることで多額の節税効果を得ることが可能です。会社売却では売り手の経営状況に関わらず、取引金額に対して20.315%の譲渡所得税が発生することから、赤字経営の企業は事業売却を実施した方が結果的に節税できるケースがあります。

 

M&A仲介会社の選び方

事業売却に必要な相手企業探しや書類作成、相手企業との直接交渉などを代行・サポートすることがM&A仲介会社の主な役割です。事業売却はメリット・デメリット共に多い方法であり、売却側企業の状況によっては会社売却の方が良い結果になるケースも想定されます。

中小企業の事業売却では、実際に中小企業のM&Aを成立させている実績があり、買収側企業、売却側企業双方の業界に関して詳しい知識を持つM&A仲介会社を選ぶことを推奨します。成立実績を持つ会社は中小企業への買収希望も多く取り扱っているパターンが多く、短期間で売却先を見つけやすい事が多いです。

また、成立までのコストを抑えたい場合は完全成功報酬制の仲介会社を選ぶことを推奨します。着手金や月間報酬は結果に関わらず必要になるので、資金に余裕がない状況では完全成功報酬制の方が多くのメリットを得ることができます。

 

まとめ

中小企業が事業売却を実施する事例は近年増加しており、今後は更に増加していくことが予想されます。中小企業は市場動向の変化によって経営状況が変動しやすく、経営を安定させる手段として事業売却を実施するパターンが増加しています。これから事業売却を検討する中小企業の経営者は、目的や必要性を検討した上で手続きを進めることが事業売却を成立させるポイントです。

中小企業の事業売却のポイントとは?
中小企業の経営者が事業売却を実施・検討している背景と、主にどういった目的で事業売却を選んでいるのかを解説していきます。さらに実際に事業売却を進めるとき、把握しておきたい知識やコツに関してもご紹介します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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