2019年5月17日 金曜日

M&Aの事例から読み解く潮流《中小企業》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

この記事では、中小企業によるM&Aが活発化している背景を紹介するとともに、中小企業がM&Aを実施する必要性、およびメリットについて解説します。中小企業にとって課題となることが多い、事業存続や後継者不足などをM&Aによって解決した事例を紹介するほか、これからM&Aを検討している中小企業の経営者が気をつけるべきポイントに関しても解説していきます。

 

中小企業におけるM&Aの動き

日本国内におけるM&Aの実施件数は、ここ数年増加し続けています。2018年の上半期だけで2000件以上のM&Aが実施されており、実施件数が3000件を越えた前年を大幅に上回る見通しとなっています。

M&Aが活発な理由としては、国内人口の減少による消費活動の縮小が挙げられます。国内事業での収入が少ない状況で企業を存続する手段としては経営資源を集約すること、または海外市場への進出を図ることが挙げられます。実際に、大手事業者による統合、吸収合併が推進されている業界は多く、海外企業を対象とした大規模なM&Aも様々な業界で実施されています。

大手業者によるM&Aは事業拡大を主な目的として実施されるケースが多いですが、中小企業によるM&Aでは後継者不在や企業の存続といった問題を解決することが主な目的になりやすいです。国内人口の減少によって事業を引き継げる人物も減少しており、毎年多くの中小企業が後継者不在で会社を閉鎖しています。

廃業する会社の約半数程度は黒字経営であるとされており、後継者不足が深刻な問題である事がデータから読み取れます。また、経営者の平均的なリタイア年齢は70歳前後とされますが、経済産業省によると、2025年には国内企業の約6割に当たる245万人の経営者が70歳に差し掛かると予測されています。しかし、そのうち127万人は後継者を確保できておらず、2025年までに廃業が相次いだ場合は約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があるとしています。

また、中小企業は大手事業者による業界再編が行われた際に巻き込まれやすく、急速に売上が減少し、豊富な経営資源を前提とした事業体系が一般化することによって経営が厳しくなるケースが多くなっています。

問題を解決する手段としては、事業を売却して大手事業者の傘下に入る、自社と同様の問題を抱えている同業他社を買収することによって経営基盤を強化する中小企業が増加しています。

 

最近の中小企業のM&A事例

会社の規模を問わずM&A件数は増加傾向にありますが、大手企業に比べて中小企業のM&Aは非公開案件が多い傾向にあります。ここでは、特にM&Aが活発とされるIT業界やヘルスケア業界、建設業界などで実施されたM&Aの事例についてご紹介します。

 

・事例1:ヘルスケア事業者のユーグレナがフックを子会社化

株式会社ユーグレナは、サプリメントや健康食品の企画、販売を実施している株式会社フックの株式を44.5%取得した後に、株式交換によって完全子会社化する事を2018年2月5日に決議しました。ユーグレナは、微細藻類ユーグレナ(和名ミドリムシ)を活用した健康食品、化粧品の生産販売を主力事業の一角としており、近年業績を伸ばしている企業です。

フックは自社webサイト上で女性顧客を主なターゲット層としたサプリメント、健康食品の販売を実施している企業です。当取引により、ユーグレナが保有する商品開発力、資金力と、フックが保有する顧客基盤を共有することによって、さらなるヘルスケア事業の拡大が可能になるとされています。

株式の取得価額は約8億円であり、株式取得は2月26日です。株式交換の比率は、ユーグレナ1株に対してフック1446株であり、株式交換価額は約10億円。株式交換は4月1日に実施されています。

 

事例2:ナレッジスイートがビクタスを買収

ナレッジスイート株式会社は、IT技術者派遣サービスを主な事業内容としているビクタス株式会社の株式を取得し、子会社化することについて2018年9月14日の取締役会で決議したことを発表しました。

同社は営業活動における生産性向上、働き方改革を推進するソリューション事業を展開する企業であり、同年6月1日にも株式会社フジソフトサービスの全株式取得を実施しており、事業の強化を推進している企業です。

一連のM&Aによってナレッジスイートは計100名のエンジニアを獲得しており、同社が保有する先端技術力、先端技術者の育成技術をエンジニア間で共有することによってクラウドサービスの強化、先端技術を有したエンジニアをより多く市場へ提供できるように事業領域が拡大できるとしています。

 

・事例3:ソフトウェア開発のA社が同業他社へ事業承継した事例

ソフトウェアの開発・販売を実施しているA社は安定した経営実績を持つ企業ですが、経営者の両親が介護を必要とする状態になったことから事業承継を検討したとされます。当初は息子を後継者にすることも考えましたが、既に他の業種に就いていた事から断念したとされます。

会社の成長拡大を考えてM&Aを実施することを決心し、交渉の結果、自社と同じくソフトウェアの開発を実施しているB社へ事業を譲渡することに決定しました。A社が保有する事業ノウハウを譲り受け、B社のノウハウと統合することで一層の事業発展を図ることがB社の目的であったとされます。

A社の経営者は相手企業の経営陣、及び従業員が平均的に若く、勢いがあるという感想を持ち、好印象を持ったとされます。A社の経営者が抱えていた懸念が、B社とM&Aを実施することで大幅に改善できることも判明し、M&Aを決断したとされています。

 

事例4:金属加工業者のC社が同業他社へ会社売却した事例

売却側企業となるC社は、金属加工業者として顧客のニーズに合わせた製品を受注生産することで、取引先である周辺の工場から信頼を集めている企業です。安定した経営基盤を築いていた会社ですが、経営者が60歳を迎えた時に後継者不在であることを問題としており、M&Aを実施することに踏み切ったとされています。

C社は1年半の売却先探しを経て、大手金属加工業者のD社とM&Aを実施することが決定しました。

D社は地方への事業拡大を目的としており、C社が保有する従業員や取引先を引き継いだうえでスムーズにM&Aが成立したとされます。

C社が優れた金属加工技術を保有していたことが成約の決め手になったとされており、独自の強みが相手企業の目に留まったことによって、中小企業が大手企業への会社売却に成功した事例です。

 

中小企業のM&Aを実施するうえでのポイント

・売却額の相場を理解する

M&A市場では、売却対象となる業種や事業内容によって相場となる価格が決まっていることが一般的です。基本的にはM&A代行業者が算出する項目ですが、経営者自身が相場価格を把握していないと相場より安い価格で売却してしまう、高い価格で買収してしまうといったリスクが存在します。

売却額の算出に用いる方式は案件によって異なるものですが、算出された金額には必ず根拠が存在します。前もってM&A代行業者から売却額に関するアドバイスを受けておき、売却を検討している事業の相場価格を理解しておくことが重要です。

 

・売却額を決める要素

M&Aで売却額を決める基準は多く存在しますが、基本的には売却側となる会社の企業価値をベースとして取引価格を算出します。企業価値とは、対象となる会社が運営している事業によって獲得している事業価値に、個人所有の株式や金融資産等を加算し、負債や借入金を加えて算出する項目です。

このうち、事業価値と負債、借入金に関しては経営者が能動的に値を増減させることが可能であり、事業価値を高めながら債務を減らすことによって効率的に売却額を高めていくことができます。

売却側企業と同様、買収を実施する側も事業規模の拡大や従業員の確保といった目的を持っています。買収側企業がM&Aによって獲得したい要素を多く備えているほど高い売却額を提示しやすく、手続きもスムーズに完了できる場合が多いと言えます。

 

・売却方式の決め方

M&Aによって会社や事業を売買する際には、取引の対象とする範囲によって事業売却、あるいは会社売却のどちらかに分類することができます。会社ごと吸収合併する以外にも、展開している事業を取引対象とすることも可能です。

 

新規事業を開始する場合や、取り扱う商材の種類を広げたい時などに、対象となる事業を展開している他社を買収して効率的に事業の拡充を図るような時に事業売却は適しています。

売却側企業が事業売却を用いるパターンとしては、自社の主力事業を売却して多額の資金を獲得し、新規事業を始める元手にし、採算性の低い企業を手放して主力事業へ集中を図りたい等の時に事業売却は有効な手段です。

 

会社売却は、売却側企業の事業資産を全て買収側企業が取得する方法です。事業資産の定義としては、不動産や機械設備、商品の在庫、株式、従業員などが挙げられます。

売却側企業が保有する事業資産に加えて、展開している事業の価値も全て加算して売却額を算出するので、事業売却と比べて売却額に10倍以上の差が付くケースも存在します。

 

・適切なM&A代行業者を選ぶ

M&A代行業者によって得意とするサポート対象は異なります。代行業者は大手から中小まで多数存在していますが、売却を検討している業種、事業内容、規模などに合わせて最適な代行業者を選ぶことが重要です。

また、M&Aを実施する目的によっても最適な依頼先は異なってきます。重要になりやすい目的の例としては、売却額の高さ、経営方針の維持、M&Aに費やせる期間、売却スキーム、買収先の規模や地域、業種であるなど多くの要素が考えられます。M&Aの初期段階から明確な目的を持っているほど、自社に合ったM&A代行業者を選びやすくなります。

 

買収先にこだわらず、高値でスピード売却を行いたい場合には大手のM&A代行業者が良いと言えます。反対に、売却額にこだわらず時間をかけて事業承継を実施したい場合には中小規模の代行業者を選んだ方が良い結果になる可能性は高いです。基本的には、自社と同様の目的を持っている相手とM&Aの交渉を実施することがスムーズにM&Aを進めるポイントです。

なお、M&Aを成立させるまでのコストを抑えたい場合、完全成功報酬制のM&A代行業者へ依頼することをおすすめします。

 

・M&Aの計画は秘密裏に進める

実際にM&Aの検討を始めた場合、従業員や取引先を含め、外部には計画を伝えずに進める必要があります。入念な調整会議やデューデリジェンスを経ていたとしても、成約前に問題が発見されてM&Aが破談になる可能性は存在します。中小企業の経営者が親切心で従業員にM&Aの計画を伝えておくというパターンも存在しますが、従業員が発端になって外部に話が漏洩してしまうリスクは常に考慮しておく必要があります。

また、取引先にM&Aの計画が知られた時点で経営難を疑われやすく、破談となった場合は問題がある企業として認識されるリスクが高くなります。M&Aを実施する見通しが立ってきた場合、事業体制を変更する準備として一部の役員に情報を開示することも必要になります。M&Aを進めていると代行業者や相手企業の人間が訪問してくることもありますが、その時点で情報を共有していない人物とバッティングした時の対応も検討しておく必要があります。

 

まとめ

ここ数年、国内企業同士によるM&Aは増加していますが、多くの案件から自社に最適な買収、売却相手を探し出すには、経営者が持つ人脈に加えてM&A代行業者のネットワークを活用することにより、出来るだけ多くの候補企業を見比べる必要があります。

国内人口の減少や大手企業による業界再編は今後も進んでいくと予測されており、経営資源の集約や後継者問題を解決する手段としてM&Aを実施する中小企業は増加していくと思われます。中小企業がM&Aを実施する場合は信頼できる代行業者を選ぶことが重要です。ただし、M&Aの実施方針を決定するのも、最終的に実行するか否かを決断するのも経営者自身であることは常に把握しておきましょう。

M&Aの事例から読み解く潮流《中小企業》
この記事では、中小企業によるM&Aが活発化している背景を紹介するとともに、中小企業がM&Aを実施する必要性、およびメリットについて解説します。中小企業にとって課題となることが多い、事業存続や後継者不足などをM&Aによって解決した事例を紹介するほか、これからM&Aを検討している中小企業の経営者が気をつけるべきポイントに関しても解説していきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年5月17日
中小企業のM&Aを実施する前に考えておきたいこと
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