2019年8月26日 月曜日

ストーリーで読む 持株比率と株式分散

Written by 松栄 遥

前回、株式会社スパイラルコンサルティングに相談に来た渦巻さん(「ストーリーで読む IPOとM&Aの違い 」参照)。

企業の出口戦略としてIPOとM&Aについて知ったところで、さらなる疑問が生じたようです。

 

それでは渦巻さんとともに、今回は持株比率と株式分散について知っていきましょう。

 

【登場人物】

▼渦巻 一郎

数ヶ月前に起業したばかり。経営者としての知識や経験が不十分であるため、知人の紹介で株式会社スパイラルコンサルティングに相談に訪れた。

 

▼松栄

株式会社スパイラルコンサルティングの取締役。年間10件以上のM&Aを成約に導いた実績を持つ。今回渦巻の相談相手となる。

 

IPOやM&Aにおいて注意すべき持株比率

IPOによって知名度の向上や経営体質の強化、資金調達の強化などの大きなメリットがある一方、莫大な費用や労力、権限の制約などが掛かるというデメリットがあることは分かった。

さらにM&AはIPOと同じメリットを得られるものの実現までのハードルはIPOよりも低く、上場企業相手に会社を譲渡し子会社の経営者として留まることができれば、実質IPOしたようなものであることも理解できた。

 

渦巻:

「IPOやM&Aのメリット・デメリット、違いについては理解できました。そこでお聞きしたいのですが、IPOもM&Aもデメリットとして“経営に対して制約が掛かる”という点があると思います。それはどうにかして回避できないものでしょうか?」

 

松栄:

「株式を自分以外の第三者に渡すわけですから、完全にリスクをゼロにする、ということは不可能に等しいです。しかし持株比率について知っておけば、可能な限り経営者としての発言権を守っていくことは可能でしょう。持株比率についてはご存知でしょうか?」

 

渦巻:

総株式に対して保有する株式の割合ですよね」

 

松栄:

「はい、その通りです。そして持株比率に応じて株主が持つ権利が変わります。説明を簡単にするため、株式1株につき1議決権がある場合として説明していきたいと思います。

まず、100%保有している場合。これは説明しなくても分かると思いますが、経営に関する決議を自分ひとりで行うことができます。会社の舵取りは自分で自由にできる状態です。

 

次に66.7%超、つまり3分の2超の株式を保有している場合は、株主総会特別決議の単独可決が可能です。具体的には定款変更、監査役解任、自己株式の取得、募集株式の募集事項の決定、事業譲渡、合併・会社分割など組織再編の決定を自ら行うことができます。

逆に言えば33.4%超、つまり3分の1超の株式を保有していれば、この株主総会特別決議の単独否決が可能です。

 

持株比率が過半数、つまり2分の1超の場合は、株主総会普通決議の単独可決が可能です。取締役の選任・解任、監査役の選任、計算書類の承認をはじめ、会社の意思決定の大部分を自ら行えます

 

それ以下、10%超の場合は解散請求権を行使することができ、3%超の場合は株主総会召集請求権、会計帳簿閲覧請求権が認められ、1%超では株主提案権・議案通知請求権が認められます。

解散請求権や株主総会召集請求権、会計帳簿閲覧請求権はその名の通り、会社の解散請求や株主総会の招集請求、会計帳簿などの閲覧・謄写を請求できる権利です。

株主提案権・議案通知請求権は、一定の事項を株主総会の目的とする請求や株主が提出する議案の内容を株主に通知する請求が可能となる権利です。

 

つまり、過半数の株式を有しておけば、経営に関する重要な事項の大体は決定できる権利を持ちます。ニュースや新聞でよく目にする「筆頭株主」とは最も多く議決権のある株式を保有している株主のことですので、過半数を保有していれば自ずと筆頭株主です。

また、自分一人で過半数を保有しなくても、同じ考えを持つ株主の保有株式と合わせて過半数の株式があれば、同等の権利を行使できます。10%以上の議決権のある株式を保有している株主を「主要株主」と呼びますので、主要株主同士が結託することで過半数以上の議決権を手にできます。

ただしM&Aの大半の場合は譲受企業が51%以上を取得することになるため、創業者が過半数の株式を所有したままになることはないと思っておいた方がいいでしょう。

 

このように持株比率によってできること、できないことが変わるため、どこまで経営をコントロールできる状態にしておきたいかに応じて、IPOやM&Aの際に手放す株式の比率を考える必要があります」

 

渦巻:

「なるほど・・・・・・。何を得るためにどこまで譲歩できるか、要はバランスということですね」

 

松栄:

「渦巻さんはお一人で経営しているため、先ほどの説明ではIPOやM&Aによって株式が分散されてしまうケースを前提にしています。

逆にIPOやM&Aの実施前に、既に株式が何人かに分散されている場合は、IPOやM&Aの実施前に株式を買い取って集約するか、IPOやM&Aの実施について他の株主からの同意を得ておく必要がありますね。IPOを目指している企業では、IPO前に何度か資金調達で株式を分散させているケースがあります。途中でM&Aに切り替えたいと思っても、度重なる資金調達によって株式が分散してしまい、IPOもできず、M&Aにも切り替えられず・・・・・・といった状況に陥ることもあるのです」

 

株式分散のリスクと株式集約

松栄さんの話の通り、私のように一人で全株式を持っている状態であれば、あとはIPOやM&Aでどれだけの株式を手放すのか、という点を考えればいい。

しかしすでに株式が分散されている場合は、株主の反対によってIPOやM&Aができない可能性がある、ということか。

IPOやM&Aの実施前、実施後に関わらず、株式が分散している状態は少し面倒そうだ。

 

渦巻:

「株式分散には具体的にどのようなリスクがあるのでしょうか?経営に関する決定が自由にできない、IPOやM&Aの実施が困難になる、ということ以外にあるのでしょうか?」

 

松栄:

「株式が分散していると、

 

  • 株主総会の開催が煩雑
  • 会社経営における重要な意思決定、迅速な意思決定を阻まれる
  • 株式を集約する際に高額での買取を要求される
  • 複数の株主から株式を買い取った存在により買収される
  • 相続により株式が引き継がれ、誰が現在の株主なのか、特定・把握が難しくなる
  • 経営者と株主の信頼関係構築が難しくなる(特に事業承継後など経営者が代替わりした際)

 

などのリスクがあります。現経営者と株主の間に確固たる信頼関係を築けていない場合、株式が分散し少数株主が多ければ多いほど、コントロールが効かずリスク大です」

渦巻:

「無闇やたらに株式を分散させないこと、また株主との信頼関係構築がIPOとM&Aの実施における肝になってくるのですね」

 

分散した株式買取と株式の価格

松栄:

「しかし実際問題、すでに株式が分散してしまっていることもあります。そのような場合にIPOやM&Aを実施するには株式の集約が必要です。その際、株式は「税務上の時価」で買い取る必要があります」

 

渦巻:

「税務上の時価?」

 

松栄:

「上場株式であれば、市場での売買価格がその時価であるため、税務上でもそれを時価として扱います。しかし非上場株式では時価が把握できません。そこで様々な調査や検討、交渉を経て価格を当事者間で決定させます。その価格が妥当であれば税務上の時価として認められます。もし妥当性のない価格で株式を買い集めた場合、贈与税が課される可能性があり注意が必要です」

 

渦巻:

「具体的にどのように価格を決めるのですか?調査、といってもイメージがしづらいです」

 

松栄:

「非上場会社の価値を決める主な方法として3つの方法をご紹介しましょう。

 

【1】マーケットアプローチ

上場している類似企業の株価や買収事例を元に算出する方法です。類似企業比較法、類似業種比較法などがあります。何を根拠に類似とするかがポイントです。また世の中にまだない新しいサービスを展開する会社の場合、上場企業に類似企業と呼べる企業がいないため、マーケットアプローチが使えないこともあります。

 

【2】コストアプローチ

賃借対照表の純資産をベースに企業価値を評価する方法です。時価純資産法、簿価純資産法の2つの方法があります。非上場の中小企業の価値算出方法に向いており、多くのケースで使われている方法です。

 

【3】インカムアプローチ

将来のキャッシュフローに基づく算出方法です。代表的な方法としてはDCF法というものがあります。インカムアプローチの注意点として、将来のキャッシュフローを正確に予測することが難しく、客観性が低い点があります。

 

このように価値算出方法が複数確立されているため、非上場企業でも状況に応じて最適な方法を用いれば企業の価値を決定させることができます

渦巻:

「なるほど~。実際に株式を売買する際はスパイラルコンサルティングさんに最適な方法かどうかという点まで判断していただけるのでしょうか?」

 

松栄:

「もちろんです。価値の算出は非常に重要ですから、ぜひプロに頼っていただきたいところですね。

また弊社では企業価値を高められるように事業を整えてから譲渡する「SCALE型M&A」という考え方のもと、M&Aのコンサルティングを行っています。企業価値の算出方法を踏まえ、希望の金額でM&Aができるよう、しっかり企業づくりをサポートさせていただきます」

 

まとめ:持株比率と株式分散

持株比率と株式分散、またそれに付随する企業価値の算出方法についてお分かりいただけたでしょうか。

株主に認められた権利は意外と多くあります。

しかし一定数を超える株式が必要です。

IPOやM&Aを実施した後に、「こんなはずではなかった・・・・・・」と後悔しないよう、しっかり持株比率とそれぞれの権利について把握しておきましょう。

 

また、株式が分散することで様々なデメリットが生じます。

今、誰が、どのくらいの株式を保有しているのか、またその相手が経営に対してどのような考え方をしているのかを把握しておくことが大切です。

 

スパイラルコンサルティングはIPOやM&AなどのExitを狙う前からのコンサルティングを得意としています。

まだ「IPOもM&Aも考えていない、現実味がない」と思っている経営者の方でもお気軽にご相談ください。

ストーリーで読む 持株比率と株式分散
前回、株式会社スパイラルコンサルティングに相談に来た渦巻さん(「ストーリーで読む IPOとM&Aの違い 」参照)。
企業の出口戦略としてIPOとM&Aについて知ったところで、さらなる疑問が生じたようです。
それでは渦巻さんとともに、今回は持株比率と株式分散について知っていきましょう。
Writer
松栄 遥
横浜国立大学工学部卒業後、2012年に株式会社キーエンスに入社し、工場内の生産ラインで使用する画像処理センサーのコンサルティング営業に従事。ニーズを精査した「付加価値のある提案」を実践し、常に国内トップクラスの成績を残す(受賞歴多数)。 2015年、バンタンデザイン研究所にてクリエイティブを修学の後、2016年に株式会社日本M&Aセンターに転職。役員室所属として、数多くのディールを成約に導き、年間新人賞を受賞する。その後も現場主義を貫き、様々な業種にてM&Aの実績を残す。日本M&Aセンターの現場で培った知識と経験を武器に、2019年スパイラルコンサルティングを立ち上げ、「企業価値を高めて売却を狙う”スケール型M&A”」を実現させている。
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