2018年12月3日 月曜日

事業譲渡の事例から読み解く潮流《飲食業界》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

飲食業界を取り巻く環境は人口減・高齢化による食需要の減少、原材料費の高騰、人手不足の進行などにより、中食・宅配サービスの参入増加による競争激化等、年々厳しさを増しています。

また、インターネットの発達を中心とする社会の情報化により消費者のニーズは多様化し、かつ移ろいやすくなってきています。

 

こういった種々の問題への対応策の一つが事業譲渡です。

スケールメリットを求め、多様化する顧客の志向に対応するために他業態へ拡大したい事業者、経営環境の悪化した事業を手放したい事業者、のれんの継続を望むものの後継難の状態にある事業者などのニーズから、事業譲渡の件数も増加しています。

飲食業界での事業譲渡について事例を交えて現在の潮流を見ていきましょう。

 

飲食業界における事業譲渡の動き

事業の全体だけでなく、一部を切り離して譲渡することも多い事業譲渡は飲食業界には特に向いた事業主体の移行の形ともいえ、大規模なものから小規模なものまで活発に行われています。

 

飲食業界をとりまく環境

飲食業界の事業譲渡に影響を及ぼす要因は多岐にわたっています。

 

▼外食消費支出の減少

人口減少や高齢化の進行により食全体の需要が減少しています。

この傾向が今後も続くと考えられる上に、消費者の節約志向もあって、客単価、外食回数の両方が減少しており、外食に対する消費支出は人口減の比率以上に減少しています。

 

▼中食・宅配サービスの発展

共働き世帯の増加や高齢化の進行に伴いスーパーなどでの弁当や総菜の購入、いわゆる中食と宅配サービスの消費支出が増えており、外食と中食の競合が激化してきています。

 

▼消費指向の多様化

インターネット情報サイトの充実を中心とした情報化の進行により消費者の嗜好が多様化し、変化のスピードも速くなっています。

大規模事業者においても多様な業態で細かく消費者の嗜好に対応する必要が高まっています。

業態多角化のために他事業者の事業全体や、業態全体を買収する例も多くあります。

 

▼人手不足

飲食店を含むサービス業での有効求人倍率は平成27年9月の2.55倍から平成30年9月の3.56倍に激増しています(厚生労働省 一般職業紹介状況)。

人手不足は事業のスケールアップを図る際の足かせとなるほか、経営者が引退を考える際の後継者難という形でも問題になってきます。

 

▼人件費の高騰

人手不足を背景に飲食店での平均時給は平成27年10月の937円から平成30年10月の1,008円に上がっています(an平均時給レポート フード系)。

人件費の上昇圧力が事業者の経営体力を削っています。

 

飲食業界における事業譲渡の理由

事業譲渡が行われる理由も事業規模、業態にかかわらず様々です。

 

▼事業の水平拡大

営業地域を広げるという水平方向への拡大では対象地域の事業者から事業譲渡を受け店舗や従業員を引き継ぐことで速やかにサービスを展開することができます。

単純な規模の拡大は仕入れや配送の共同化、間接部門の共通化などで事業者全体としてスケールメリットを得ることもできます。

 

▼事業の垂直拡大

消費嗜好の多様化に対応するために別業態を増やすといった垂直方向の拡大では、セグメントの異なる他事業者をそのまま、あるいは1業態を切り離して譲渡を受けることで、新しい業態に対するノウハウまで含めて手に入れることができるというメリットがあります。

譲渡側は拡大しすぎてしまった事業を切り離し、核となる領域に経営資源を集中することができます。

 

▼低参入障壁

中小事業者で多く見られるのが、事業譲渡によりスムーズな新規事業への参入を図るケースです。

事業を白紙から立ち上げる場合に比べ、ブランド面などの制約は出てきますが、店舗や従業員を含めた事業をそのまま譲受することで、迅速な事業展開が可能になります。

 

▼後継者問題

人手不足を背景とした後継者問題は中小事業者に特に多く見られます。

後継者が事業者内で見つからず、第三者への事業譲渡によりのれんの存続を図るケースです。

 

▼事業再生

消費嗜好の多様化についていけないことや、原材料費・人件費の高騰などの理由により厳しい経営状況におかれた事業者が他事業者に資金をはじめとした経営資源の助けを求めるケースです。

 

飲食業界の事業譲渡において今後見込まれる展開

原材料費や人件費の高騰といったコスト高に対し、共同仕入れ、共同配送や間接部門の共通化、柔軟な人材配置といったスケールメリットを得ることで対抗するため、大規模事業者は今後も規模拡大の方向に向かうと考えられます。

また、消費嗜好の多様化に対応し、客数、客単価を上げるための多業態化も進んでいきます。

これにより地域単位、業態単位での事業譲渡や、大規模事業者による個別店舗の買収が続いていくでしょう。

 

最近の飲食業界の事業譲渡事例

ここでは具体的な事業譲渡事例について2点ご紹介します。

 

(株)富士マンション、(株)ハマヤフーズからチムニー(株)への7店舗譲渡

譲渡日:平成29年11月15日

譲渡先:チムニー(株) (居酒屋「はなの舞」「さかなや道場」等を経営)

譲渡元:(株)富士マンション、(株)ハマヤフーズ

譲渡目的:譲受側事業者のポートフォリオの多様化。譲受店舗を居酒屋業態以外の食事需要に対応する店舗展開の礎とし、客層を広げ、食事シーンの多様化に呼応する。

 

(株)オレンジフードコートから(株)レンブラント・インベストメント+新生企業投資(株)へのハンバーガー事業譲渡

譲渡日:平成29年5月19日

譲渡先:(株)レンブラント・インベストメント+新生企業投資(株)

譲渡元:(株)オレンジフードコート((株)ダイエー100%子会社)

譲渡目的:ドムドムバーガーの事業再生

事業再生後の展開方針:

  • コンセプトの明確化やターゲット客層設定によるブランド魅力度の向上
  • メニュー構成変更によるスタンダード商品のおいしさ向上とサイドメニューの充実。特に設備老朽化により廃止となった懐かしの人気メニュー復活によるドムドムファンからの支持回復
  • ボリュームよりも品質を中心に使用食材、調理工程について見直し
  • 商品提供時間を基準とする店舗オペレーションの改善と生産性向上
  • オープンキッチンやソファを配したカフェ風店舗等の展開
  • デジタルマーケティングを中心とした効果的なマーケティング活動の実施
  • 顧客利便性の高い立地への新店出店

 

飲食店の事業譲渡を実施するうえでのポイント

譲渡目的の明確化

事業譲渡は譲渡自体にコストがかかり、準備期間も長くかかります。

大きなプロジェクトを実施するうえで一番大切なことはプロジェクトの目的を明確にしておくことです。

譲渡目的は譲渡準備の全てのアクションに大きく影響を与えますので、準備期間を経て契約が交わされるまで目的がぶれないようにする必要があります。

 

譲渡条件の明確化

大枠となる譲渡目的が定まったら、次に譲渡条件を明確にします。

契約上の細かい条件ということでなく、譲渡目的を満たすために、譲受側経営者に対して譲れない部分をどこに持ってくるかという条件です。

ともかく手元に入る現金を最大にするのか、店の雰囲気やメニュー、味を守ることを最優先にするかなど、どの条件を重視するかで以下の検討事項も変わってくるからです。

 

譲渡先の選定

飲食業界は横のつながりも強く、事業譲渡についても紹介などで譲渡先が選定されるケースもありますが、選定については慎重を期す必要があります。

譲渡先選定に際し、最も注意を払わなければならないのが、譲渡計画の秘密保持です。

好条件を求めるあまり話が広がりすぎ、秘密が漏れると「ワケあり」の案件となってしまい、譲渡条件に悪影響を与えたり、譲渡そのものが困難になったりします。

時にはそれだけにとどまらず、現事業に影響を与えてしまうこともあります。

特に専門業者によらず紹介で譲渡先選定を進めている場合は秘密の保持に気を配らなければなりません。

仲介業者を通す場合でも悪質な業者では譲渡元の正式な依頼のある前から営業を始めてしまい、譲渡事業の価値を毀損してしまうようなところもありますので、業者自体も信用のおける業者を選択するようにしてください。

 

譲渡タイミング

事業譲渡を行う場合は、可能な限り早いタイミングで準備を開始することです。

譲渡準備には時間がかかることに加え、早くから準備を進めることで最も適した譲渡タイミングを選ぶことができるからです。

切羽詰まった状態からの事業譲渡準備は買い手に足元を見られてしまいまいます。

また、譲渡さえしてしまえば後の状態については譲受側に完全にお任せということでなく、店の雰囲気や味を引き継いでもらいたい場合は、譲受側と並行して店舗運営に携わる期間を設けることが有効ですので、こういった期間についても検討する必要があります。

逆に譲渡の方針が決定してから最終的な譲渡まであまりに時間がかかりすぎると秘密の漏洩につながりますので注意が必要です。

 

事業価値の見直し

譲渡条件を詰めていく段階では譲渡金額が大きな条件になることは言うまでもありません。

金額を定めるためには譲渡事業がどのくらいの価値を持っているかをできる限り正確に算定する必要があります。

事業価値の算定には資産や見込み利益などを積み上げていく方法や、市場相場側からみて決める方法などの種類がありますが、いずれも大変複雑なもので、専門知識が必要となります。

個人間譲渡で一声いくらで決定するような場合を除いて、会計士等専門家の力を借りるべきでしょう。

仲介事業者の中にはこういった専門知識の提供まで含めてワンストップで請け負う業者もありますので利用を検討してみてください。

 

事業の磨き上げ

事業価値を見直している過程で現事業に対する問題点や強みが明らかになってくるケースが多くあります。

できるだけよい条件で譲渡を行えるよう譲渡契約前に事業の磨き上げを行うことをお勧めします。

磨き上げは現事業の問題点を潰し、強みを伸ばす作業です。

従ってある程度の期間が必要になりますが、譲渡を急ぐ場合は必ずしも時間をかけて磨き上げを行うことが有利になるとは限りません。

そもそも磨き上げで事業を根本的に立て直すことができるのであれば、譲渡など必要がないケースも多いですが、磨き上げといっても比較的簡単に行えることもあります。

例えば、現在の店舗で従業員が持ってはいるものの明文化されていないノウハウや味づくりのコツを明らかにしておくだけでも、のれん代として事業評価額に上乗せされる可能性があるのです。

同様に、現在抱えている問題点を完全に除去することが難しくとも、明確に整理しておくだけでも譲受側の評価は変わってくるはずです。

 

デューデリジェンスへの備え

事業譲渡の最終段階、契約の直前に行われるのがデューデリジェンス(買収監査)です。

問題を抱えた事業を買ってしまわないように譲受側の会計士や税理士が財務、税務面での監査を、弁護士が法務面での監査を行います。

規模が大きくなるとこれに加え経営コンサルタントによるビジネス監査やITコンサルタントによるIT監査が行われる場合もあります。

デューデリジェンスの段階で従業員に譲渡を知らせているかどうかで異なりますが、従業員に対するインタビューなどが行われることもあります。

デューデリジェンスの結果は最終契約で価格に影響を与えますし、監査結果に問題が見られた場合は、最悪契約が見合わせになる可能性もあります。

 

飲食店での事業譲渡特有の事情としてよく挙げられるのは、営業の許認可関係です。

個人事業者間では許認可は引き継げないケースが大多数ですが、法人間では引き継がれることもありますので、整理しておくことが必要です。

 

現事業について微に入り細を穿つ形で見られることになるデューデリジェンスは譲渡側にとっては面倒に感じられるかもしれませんが、これにスムーズに対応できるようにしておくことで、商談がこじれるリスクを減らすことができます。

また、デューデリジェンスに応じる体制を整える段階で埋もれている事業価値が洗い出されることもあります。

 

逆に監査の段階で揃っているべき書類の不備などは、最終契約が混乱することになりますので、十分注意して万全の態勢で臨むようにしてください。

 

まとめ

これまで育ててきた事業から手を引くことを検討している場合、マネーゲームと忌避して単に閉店してしまうのではなく、よりよい形になれるように大きく育ててくれる事業者への譲渡を検討してみてはいかがでしょうか。

厳しい競争環境と情報のスピード化を反映して飲食業界での事業譲渡は件数が増していますが、譲渡側譲受側の双方にとって利益が出るように正しく準備を行いたいところです。

事業譲渡の事例から読み解く潮流《飲食業界》
飲食業界を取り巻く環境は人口減・高齢化による食需要の減少、原材料費の高騰、人手不足の進行などにより、中食・宅配サービスの参入増加による競争激化等、年々厳しさを増しています。
また、インターネットの発達を中心とする社会の情報化により消費者のニーズは多様化し、かつ移ろいやすくなってきています。
こういった種々の問題への対応策の一つが事業譲渡です。
スケールメリットを求め、多様化する顧客の志向に対応するために他業態へ拡大したい事業者、経営環境の悪化した事業を手放したい事業者、のれんの継続を望むものの後継難の状態にある事業者などのニーズから、事業譲渡の件数も増加しています。
飲食業界での事業譲渡について事例を交えて現在の潮流を見ていきましょう。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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