2018年12月3日 月曜日

事業売却の事例から読み解く潮流《飲食業界》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

開業率、廃業率がともに高い、変化の大きな飲食業界ですが、他の業界と同様、この業界でも事業売却が増えてきました。

飲食業界で起きた事業売却の事例をいくつかご紹介した上で、そこから見えてくる事業売却のポイントをまとめます。

 

飲食業界における事業売却の動き

飲食業界の市場規模は年間で25兆円であり、店舗数約70万、従業員数約400万人となります。

日本経済の中で、売上は約5%、事業所数では約10%、従業員数では約7%を占めます。

近年の動向として、売上と従業員数は少しずつ増加する傾向にありますが、店舗数は減少が認められます。

日本の経済の全体の動きとしても、小規模企業を中心に企業数が減少しており、この傾向は今後も継続ないし加速していくと考えられています。

飲食業でもそうした傾向が認められるわけです。

大規模チェーン店が勢力を増していることを考えれば、小規模、零細店舗が急激に減少しており、それに代わって規模の大きな店舗が出現してきていることがわかります。

日本の経済の全体のもう一つの動きとして、事業売却が次第に増加していることが挙げられます。

後継者不足などで事業の承継が難しい場合でも、廃業を決定する前に、買い手を見つけて事業を売却することができれば、店舗経営者、従業員、社会全体にとってより良い結果を生み出すことができます。

 

最近の飲食業界の事業売却事例

近年、飲食業界において事業売却の動きは活発化しています。

ここではニュースになった例をいくつかご紹介いたします。

売り手、買い手ともに、様々な事業目的を達成するために事業を売買していることがわかります。

 

多角的企業グループミツウロコがカフェとベーカリー経営のスイートスタイルを子会社化

時期:2017年1月

買い手:株式会社ミツウロコグループホールディングス

目的:事業拡大している飲食事業部門にと新分野を加えることでノウハウを取り込み、事業を強化する

売り手:株式会社スイートスタイル

目的:主力の焼肉業に専念、有利子負債の削減

株式会社ミツウロコグループホールディングス(以下「ミツウロコ」)は、株式会社スイートスタイルの全株式を取得し子会社化した。

ミツウロコは、スイートスタイルのベーカリーやカフェ運営のノウハウを取り込むことで、従来の子会社が運営するレストランや売店事業の強化を図る。

スイートスタイルは、所有するベーカリーやコーヒーショップを切り離すことで、有利子負債を削減し、本業の焼肉業への専念する意向。

 

サトレストランシステムズがすし半事業を梅の花へ譲渡

時期:2017年2月

買い手:株式会社梅の花

目的:事業の規模拡大、スケールメリット、すし事業に取り組むことから得られるシナジー

売り手:サトレストランシステムズ株式会社(現SRSホールディングス株式会社)

目的:低価格路線に注力し景気に影響されない経営基盤を確立するための事業再編

飲食店の経営及び食料品の製造・販売を手掛けるサトレストランシステムズ株式会社は、すし半事業部門を子会社化したうえで、株式会社梅の花に譲渡することを決めた。

サトレストランシステムズは、もともとの創業ブランドであったすし半事業を切り離すことで、景気変動に大きく左右されない安定的な経営基盤確立と低価格業態の開発・成長に注力する。

梅の花は、ゆば・豆腐料理の和食レストラン「梅の花」を中心に全国に店舗展開しており、高価格帯に強みを持つレストランチェーンである。

懐石料理などを得意とする「梅の花」のノウハウと「すし半」の持つ鮮魚系の調理・加工技術を融合させることにより、スケールメリットとシナジーを狙い、また事業規模の拡大により社員の待遇を改善することで、将来の人手不足等への対応を図る。

 

グルメ杵屋、銀座田中屋を子会社化

時期:2017年4月

買い手:株式会社グルメ杵屋

目的:高価格帯のそば店に進出することで新規顧客を開拓し、シナジーを図る

売り手:株式会社銀座田中屋

目的:未発表

飲食店等を運営するグルメ杵屋は、東京都内において日本そば店3店舗を経営する銀座田中屋(売上高:6億円)子会社化した。

田中屋は、昭和43年設立の業歴ある日本そば店経営会社であり、東京都内で、「銀座本店」・「松屋銀座店」・「西武池袋店」の3店舗を経営している。

グルメ杵屋はそばの味とそばつゆにこだわった比較的高価格帯の飲食店を傘下に収めることで新たな顧客層の開拓につなげる。

今後は、田中屋の伝統を受け継ぎながら、グループとのシナジーの発揮に努めていく。

 

投資ファンドのJ-STARが越後屋の株式取得

時期:2017年12月

買い手:J-STAR 株式会社

目的:今後成長が期待できる企業への投資、経営支援

売り手:株式会社越後屋

目的:経営資源の最適化、新たに注入された資本により越後屋の全国展開を目指す

2005年の設立以来、多様でユニークな業態を展開してきた越後屋は、経営資源の最適化を図るべく、炭火焼干物食堂『越後屋』を会社分割した。

分割会社である越後屋は、投資会社J-STAR傘下に入ることで資金を調達し東京都心部のビジネス街に支持を得ている炭火焼干物等の和定食を全国規模にするべく努力する。

越後屋の江波戸社長は引き続き代表取締役に就任し、事業拡大に注力する。

 

飲食店の事業売却を実施するうえでのポイント

いくつかの事例を見ると、事業売却を実施するうえでのポイントが浮かび上がってきます。

ここではそうしたポイントをご紹介いたします。

 

事業売却の目的を明確にする

事業売却に踏み切る前に、その目的を明確化しておきましょう。

なんとなく売却に踏み切ると、途中で迷いが生じたり紛糾したりして、売却にかけてきた労力が無駄になりかねません。

 

▼今後の経営に不安があるため

飲食店業界は開業率と廃業率が共に高い、変化の激しい業界です。

経営環境が日々変わっていく中で、今のところ飲食店を経営できてはいるものの、将来に不安を感じることも少なくありません。

経営を続けるかぎり、将来の見通しを立て、従業員を養い、後継者を育成していかなければなりません。

そうした見通しが立たない場合、事業売却を考えるべきでしょう。

 

▼飲食店経営者の健康上の理由のため

経営不安の理由としてよくあるのは、健康上問題が発生した場合です、休むことができない経営者の立場と自分の治療を両立させるのは非常に難しい問題です。

事業をまかせる人が見つからないときは、売却を考えることになります。

 

▼後継者が見つからないため

人手不足の今日、多くのこれまでにも増して、後継者選びの問題が飲食店経営者を悩ませています。

事業を売却する場合、買い手を広く募ることができるので、後継者問題を解決することができます。

 

▼早期にリタイアをしたいため

現在飲食店を経営者の中には、少し早めに老後の生活に入りたいといった理由で、経営を早期にリタイアしたいと考えている場合があります。

上手に事業を売却すれば、短期間で老後の資金を得ることができます。

 

▼マネジメントに限界を感じるようになったため

小規模店舗を経営していて、事業を拡大したいと考えても、手持ちの資金の不足や人が集まらないといった理由で限界に突き当たる場合があります。

売却を機に大きな会社と資本提携や業務提携をすることで、そうした限界を突破することができます。

 

過去の売却事例をチェックする

売却がニュースになるのは比較的大きな案件に限られますが、普段からそうした事例をチェックしていると、業界の動向や、より高い価格で売るためにするべき事柄が見えてきます。

売却事例に注目しましょう。

 

売却先にとってのメリットを意識する

より高い価格で売却するためには、売却先、つまり買い手にとってのメリットを訴える必要があります。

事例でも見ましたが、買い手は様々な事柄にメリットを見出します。

主なメリットをご紹介します。

 

▼シェア拡大、規模の拡大というメリット

一般にシェアや規模を拡大することは、経営の安定や効率化に寄与します。

単体の事業では採算が取れなくても、大きな企業の一部となることで採算ラインに乗せることができます。

また、今日問題となっている人手不足問題に対しても、規模の拡大は対応能力を高めます。

 

▼事業を多角化するというメリット

新規顧客を開拓するために高価格帯、あるいは低価格帯へ新しく進出したい場合があります。

自分で一から事業を構築する場合に比べ、事業を買い取れば短期間にその目的を達成することができます。

またそれぞれの事業からの相乗効果が狙える場合も少なくありません。

 

▼事業に新しいノウハウを注入できるメリット

事業を買い取ることでこれまで持っていなかったノウハウをそのまま譲り受けることができます。

既存事業との調整は必要となりますが、事業が頭脳戦となっている今日、非常に大きなメリットと言えるでしょう。

 

▼自社の弱みを強化するというメリット

事業ポートフォリオに弱みがある場合、事業を買い取ることで短時間に問題を解消することができます。

 

▼事業を育てる時間を買えるというメリット

成長している企業にとって、勢いに乗ったまま事業を拡大したい局面があります。

そうした場合、事業を買い取ることで、事業を育てている間に好機離れてしまうリスクを回避することができます。

 

買い手の注目点を知る

飲食店を買い取るにあたり、買い手側はいくつかの事柄に注目します。

こうした買い手の注目点を知りに対して、適格なアピールができると交渉の強みになります。

 

▼料理のカテゴリにおける市場動向

飲食店で出されている料理がターゲットとしている顧客は、大量に居るのか、増えているのか、その地域に同じような競争相手がいるのかなどです。

 

▼誰が店員でもサービスを提供できる体制が整っているか

人手不足が続いている状態を考えると、誰が店員でも同質のサービスを提供できることは大きな強みとなります。

飲食店には様々な役割を持った従業員がいますが、各役割の中では同じような水準のサービスを提供できるようにしておきたいものです。

 

▼店舗の設備のメンテナンス状態

店舗は清潔に保たれているか、厨房に故障した機械などがないかは買収価格に影響を及ぼします。

 

適切な時期に売却を決断する

いつ売却を決断するべきなのでしょうか?

目的が明確になった段階で早めに決断するべきでしょう。

時間的に余裕が生まれ、十分な準備をすることで、より高い価格での売却を実現することができるでしょう。

 

▼売却が遅すぎないように注意する

売却が遅くなりすぎないように注意しましょう。

経営が思わしくなくなり、たとえば大規模なリストラを実行してから売却を決断しても、リストラ前に比べ売却価格が大幅に下がりかねません。

 

▼売却にかかる時間を考慮する

売却には時間がかかります。

売却を決断してから、買い手を見つけ、交渉して売却し、引き継ぐまでに、最低でも半年はかかるでしょう。

売却価格を上げるために事業価値を高めるとなるとそれ以上の時間が必要になります。

 

▼売却後の未来像を描く

事業を売却した後の生活をイメージしましょう。

自分自身の生活、従業員の生活、取引先への影響を考える必要があります。

売却によって各関係者が幸せになるよう注意しましょう。

 

売却にあたって準備するべきこと

売却の過程で必要となる資料や作をご紹介します。

 

▼データ、資料を十分に揃えて作成しておく

買い手に対して誠実に事業の状態を開示する必要があります。

正確な資料を揃え、質問に誠実に答えることで買い手との信頼関係を築き、売却を成立させましょう。

 

▼売却先に対して絶対譲れない条件の策定

売却価格や従業員の処遇など、売却にあたって譲歩できない条件を明確にしましょう。

そうすることで逆にそれ以外の部分については柔軟に対応する事もできるようになります。

 

▼売却交渉には柔軟性も必要

交渉にあたって自分の条件に固執してしまい、売却が成立しない結果になるのは避けたいものです。

交渉が決裂しそうな場合、その条件によって達成される目的にさかのぼることで、条件自体を変更できる可能性が見えてくる場合があります。

 

事業売却仲介業者を大いに活用する

事業売却は時間と労力がかかる作業であり、専門性も要求されるため単独で行うのは非常に困難です。

事業売却仲介業者を大いに活用しましょう。

事業売却仲介業者活用するメリットをご紹介いたします。

 

▼よりよい買い手に巡り合える

仲介業者は多数の買い手を抱えています。

仲介業者はそうしたリストの中から適切な買い手を選んでくれます。

自分で買い手を募るよりはるかに多くの候補の中から買い手を選ぶことができます。

 

▼売却の各タイミングでアドバイスを得られる

売却に向けて様々なタイミングで色々な作業をこなしていかなければなりません。

仲介業者はよりよい売却が成立するように、それぞれの段階で適切なアドバイスを与えます

 

▼売却に関連する専門的な作業を担当してもらえる

仲介業者は、売買契約書の作成や詳細な事業評価など、専門性が必要な作業を担当、手配してくれます。

 

まとめ

飲食業界に於いても事業売却が次第に盛んになってきている今日、いくつかの事例を紹介したうえで、その事例から見えてくる売却を実施する上でのポイントを解説しました。

売却を検討している経営者の皆様にとって、この文章がお役に立てば幸いです。

事業売却の事例から読み解く潮流《飲食業界
開業率、廃業率がともに高い、変化の大きな飲食業界ですが、他の業界と同様、この業界でも事業売却が増えてきました。
飲食業界で起きた事業売却の事例をいくつかご紹介した上で、そこから見えてくる事業売却のポイントをまとめます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2018年12月3日
事業承継の事例から読み解く潮流《飲食業界》
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