2019年1月25日 金曜日

不動産管理会社の事業売却のポイントとは?

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

不動産管理業界は安定性の高いストックビジネスであり、この事業を基盤としながら、他の事業を展開する事業者も多いとされます。
しかし近年は顧客の獲得競争が激化し、賃料の値下げによる収入減と求められる管理サービスの高度化による支出増が同時に起こっています。採算が取れなくなる中小企業が増加し、解決策として事業売却を検討する事業主も増加傾向にあります。

本稿では不動産管理会社を事業売却する目的やメリット、注意点を紹介します。

 

不動産管理会社の事業売却で次のステージへ


事業売却を行うメリットの1つとして、株式および事業の売却によって多額の資金が獲得できる事があります。伸ばしたい事業に資金と人員を集中する事が可能となり、企業の成長性を向上できます。コア事業を売却した場合は多額の元手を新規事業へ転用する事も可能であり、退職する場合でも負債を解消した上で生活資金とできるメリットが得られます。
不動産管理会社の事業売却には事業譲渡が用いられるケースが多いですが、場合に応じて会社分割が用いられます。

 

■事業譲渡とは

事業譲渡は譲渡側企業の経営者が目的に応じて事業内容の一部または全部を譲渡する方式です。手続きの成立後も双方が事業を続けられる事が特徴で、すべての事業を売却した場合でも譲渡側企業の法人格は残ります。
負債を切り離して取引できるので、経営状況や管理状態に問題がある企業でも実行できるメリットがあります。譲受側企業にとっても受け継ぎたい要素を選んで受け継ぐ事が可能であり、想定外の負債を避けられるメリットがあります。
ただし譲渡内容が複雑になりやすく、各種手続きにおいても煩雑であるデメリットがあります。手続きの開始には取締役会の決議が必要であり、ケースによっては株主総会による同意も必要となります。

また、従業員の雇用や取引先との関係は自動では引き継がれないので、譲渡後の企業が個別に契約を行う必要があります。企業規模が大きくなるほど手続きが難しくなるので、大企業においては株式譲渡や会社分割の方が多く用いられます。

 

■会社分割とは

株式会社又は合同会社が事業に関して有する権利義務の全部又は一部を他の会社に承継させる手法を会社分割と呼称します(会社法2条29号、30号)。
承継先が既存の会社である場合は吸収分割、新規企業である場合は新設分割と呼称します。

事業譲渡との差異として大きいのは従業員や取引先との契約関係を包括的に承継できる点です。仕組みとしては譲渡したい事業の権利を売却側企業が新設した会社Aもしくは子会社A等に移譲し、譲受側企業にA社の全株式を譲渡する事で対価を受け取る方式が取られます。
会社分割は会社法における組織再編行為に該当し、債権者保護手続きを行うことで事業に関連する債権や債務も移譲する事が出来ます。その場合、譲受側企業は債務を引き継ぐリスクが発生します。

単独の企業内で完結できるので事業売却として用いられることは少ないです。しかし、簿外債務がない場合で各種契約や許認可を包括的に承継したい場合に用いられるケースがあります。

 

■株式譲渡とは

株式譲渡は譲渡側企業の株主が譲受側企業へ株式の一部か全部を譲渡する事によって会社の所有権を移動させる方式です。中小企業で実施する場合は全株式を譲渡する形式が一般的です。事業売却の中では手続きが簡単な方式で、株式譲渡契約書を締結した後、対価の支払いと株主名簿の書き換えを行えば譲渡が完了します。
事業内容を全て引き継ぐのが特徴であり、交渉の過程で従業員の雇用契約や取引先との関係を引き継ぐように出来るメリットがあります。

しかし、譲渡側企業の簿外債務や取引先とのトラブル等も引き継ぐ必要があるので、譲受側企業にとってのリスクが高い方法です。

 

不動産管理会社を事業売却する目的にはこんなものがあります


■企業の成長性の維持

不動産管理業はスケールメリットの恩恵が強く、価格競争によって仲介手数料の単価が下落した事で、中小企業は経営基盤の確保が難しくなっています。
また、不動産業者は複数の事業を持っているケースが多く、人員不足になる事が多いとされます。特定の事業に問題がある場合は、事業売却もしくは会社分割を用いる事で経営を立て直せる可能性があります。

事業売却は企業を存続しながら事業を売却できるメリットがあるので、中小企業が事業の一部を切り離したい場合に多く用いられる方法です。事業売却は譲渡したくない財産や債務とは切り離して譲渡する事が可能であり、特に譲受側企業にとって不利益な簿外債務や取引先とのトラブル案件を除いて協議できるメリットがあります。
ノンコア事業を売却してコア事業に専念するパターンが多いですが、近年は体力的な負担の大きいコア事業を売却して規模を縮小しながら継続するパターンも存在します。

また、たとえ不採算事業であっても、譲受側企業が未開拓の地域物件を保有している場合や新規の業種を提供できる場合は、事業の将来性を見込んで売却が成立するパターンがある、という点も事業売却のメリットと言えます。

 

■後継者問題の解消

不動産業界において、後継者の決め方は親族承継か従業員承継が一般的です。しかし近年は業者数の増加と総世帯数の減少によって顧客の獲得競争が激化し、経営が安定しない中小企業が増加しています。黒字経営であっても後継者不在で閉鎖する中小企業も増加傾向にあり、今後は更に増加していく見通しです。企業の閉鎖は事業ノウハウの逸失に繋がるほか、従業員や管理物件のオーナー及び入居者を不安定な状態にするリスクがあります。

たとえ親族や社内に後継者候補が居ても、経営状況や税金の関係で後継ぎを断られるケースも存在します。そこで、事業売却を活用して社外から経営者を招き、後継者問題を解決するという方法があります。経営スキルを持つ人物に会社を譲渡するので育成期間が不要であり、譲渡後の企業の安定性も高いというメリットがあります。

 

■従業員および取引先との契約保持

事業売却を行う場合は従業員の雇用が引き継げるメリットがあります。特に不動産管理業は、企業規模を問わず人手不足の傾向があり、譲受側企業にとって従業員と管理物件を獲得できる事はメリットです。
人材を新規採用して育成する手間とコストを省けるほか、管理物件や入居者への管理サービスを継続して提供できるので物件の治安低下や訴訟リスクを防ぐ作用も見込めます。但し事業譲渡で売却を行う場合は従業員および取引先との契約が一度リセットされるので、譲渡後の企業が契約を個別に行う必要があります。

 

不動産管理会社の事業売却を行う上での注意点


■事業売却の目的を決める

事業売却を行う際は目的に応じた準備が必要です。手続きを外部に委託する場合でも、目的に応じて最適な取引先は変わります。

売却によって高い資金を得たい場合は、需要の高い管理物件や管理資格を持った従業員など事業価値を上げる要素を多く並べた方が売却額が上がりやすくなります。
会社の存続を目的としている場合は、従業員の雇用引継や経営理念の摺り合わせを重視して成立する確率を上げる事が重要になります。
方針の違う企業だと従業員の対立が起こりやすく、増収が見込めない、社内が混乱する等の理由で契約が撤回されるケースも想定されるので注意が必要です。

 

■自社の情報をまとめる

自社の従業員や管理物件の状況などは、事業価値に直接関係する重要な要素です。
管理物件の状況には展開地域、入居率、収支の割合などが含まれます。
近年の不動産管理業界は業者数の増加によってシェアが分散しており、最大手企業においてもシェアは1割を下回ります。これに対して市場規模は拡大を続けているので、企業規模を問わず人員確保の重要さは増しています。
管理費を相場より低くしている場合や、賃料収入を管理費用が上回っている逆ザヤが多く発生していると、管理体制に問題があると見なされ、買取価額が大きく下がる要因になります。
都心部や沿線上にある物件は賃料の相場が高く、安定した入居率が見込まれる事から純粋な収益増になります。また、観光地や再開発拠点にある物件は地価が高い、高くなる見込みがある事から評価が高く、キャピタルゲインを得やすいメリットがあります。ただし地価の予測には専門知識が必要であり、上昇見込みの薄い物件を売却する事で実質的に損失を押し付ける事になるケースも少なくないので注意が必要です。

 

■専門知識を持つ相談先を探す

事業売却を円滑に行うには金融機関や仲介業者など専門業者の協力が必要です。最も確実なのは不動産管理会社の事業売却実績のある仲介業者に依頼する事です
自社に最適な相手企業探しから取引成立まで多くの部分を代行してくれますが、多くの場合は取引段階に応じて着手金や中間金、成功報酬が必要となります。
依頼を行う際は信頼できる業者を選ぶことが重要です。選択を誤ると適切な取引先を見つけられない、交渉が難航するなどのリスクがあります。

資金調達を行う場合は銀行や証券会社など金融機関への相談も必要です。大手の銀行は事業売却に対応する部署を設けている場合が多く、取引先のネットワークを活用した有用な情報を得られる可能性があります。ただし、金融業者への相談は高額な手数料を要します。小規模な事業売却である場合は報酬と手数料の釣り合いが取れなくなりやすいので注意が必要です。

相談コストを抑えたい場合は会社の税理士または会計士への相談が推奨できます。定期的に会社を訪問してくれる事も多いので、社内の事情を考慮したアドバイスを受けやすいメリットもあります。経理関係のプロフェッショナルなので交渉の過程においても頼る機会は多いと思われます。ただし個人であるぶん人脈や知識に多少の偏りや狭さが生じる事には注意しておく必要があります。

 

■スケジュールに余裕を持つ

事業売却は目的や企業の規模に左右されますが、交渉開始から手続きの完了には3カ月から2年程度の期間を要します。最初の相手先に売却できるとは限らないので、事業売却の期間設定は余裕を持って行う必要があります。
経営状況が良いほど事業価値も高くなりやすいので、売却の決断は経営が順調な時に行う必要があります。経営状況が悪化してからだと買い手も付きづらく、企業理念の承継や充分な買取価額の確保に時間を割けなくなるリスクが高くなります。

 

■最適な売却先を探す

事業売却は成約率の低い事業であり、目的に応じて最適な売却先を探す工夫は不可欠です。
高い売却価額を得たい場合は、自社の事業内容に需要が高い企業であるほど良く、新規事業や未開拓地域の管理物件と従業員を提供できる場合は需要が高いと言えます。後継者問題で引継を優先する場合は、経営理念が近く、自社の方針に理解を示す企業であるほど手続きのスムーズさと成約後に安定する確率が高くなります。

 

■税制を把握して対策を行う

事業売却では多くの要素に税金が発生します。

株式譲渡の場合は株式を移動した時の対価から株式の取得に要した金額を差し引いた額を譲渡所得として扱います。取引者が法人の場合は、譲渡所得に対して最大30%程度の法人税が発生します。

事業譲渡の場合は譲渡する事業内容の中に課税資産が含まれている場合、課税資産に対して法人税と消費税が掛かります。課税資産は土地以外の有形資産、無形資産、棚卸資産、営業権が該当します。棚卸資産は売却目的で保有している資産を指し、不動産業においては分譲目的の戸建、マンション、アパートなどが相当します。
営業権は「のれん」とも呼称され、事業譲渡によって見込まれる増収を評価した要素です。
営業権は営業キャッシュフローの3~5年分が相場となっています。年数は業種および事業の将来性によって決定され、発展が見込めるほど高い数値となります。帳簿上のデータとは差異が生じるので、譲受側企業は毎年償却を行う必要があります。これにより節税を行えるので、営業権の取得が目的に含まれる企業も存在するとされます。

 

まとめ

事業売却の目的とメリット、注意点を解説しました。

不動産管理業の市場規模は2020年を境に縮小に転じると予測されており、大手企業へのシェア集中に伴って事業売却を行う中小企業は増加する可能性があります。
目的に応じた最適な取引先に譲渡する事で、まとまった資金を得る事が可能であり、企業の成長性の維持や、余裕を持ったリタイアが可能になります。

仲介業者に依頼する事で手続きの多くを委任することが可能ですが、最初の目的や方針の策定、相手企業との交渉や売却の決定は譲渡側の経営者が行う必要があります。仲介業者との契約前に行える準備も多いので、事業売却のシステムを知っておくと円滑な手続きが行いやすくなります。

不動産管理会社の事業売却のポイントとは?
不動産管理業界は安定性の高いストックビジネスであり、この事業を基盤としながら、他の事業を展開する事業者も多いとされます。
しかし近年は顧客の獲得競争が激化し、賃料の値下げによる収入減と求められる管理サービスの高度化による支出増が同時に起こっています。採算が取れなくなる中小企業が増加し、解決策として事業売却を検討する事業主も増加傾向にあります。
本稿では不動産管理会社を事業売却する目的やメリット、注意点を紹介します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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