2019年1月24日 木曜日

不動産管理会社のM&Aを実施する前に考えておきたいこと

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

不動産管理の業務は、家賃回収、原状復帰、契約更新など入居者関連の業務や、建物の維持・管理業務の実施、需要の高度化に伴う管理物件の経営プラン改善など、実施優先度の高い業務が非常に多い事が特徴です。
契約1件あたりの収益が低く、物件の維持管理を行いながら収益を上げるには常に多数の契約を成立させていく必要があります。契約物件から管理手数料を得るというストックビジネスであり、事業の安定性は高いです。しかし、管理物件を失った場合の損失は大きいので注意が必要です。
業者数の増加によって、業界全体においても顧客の獲得競争が激しくなり、求められるサービス水準も上昇、中小規模の業者にとっては厳しい現状となっています。高水準のメンテナンスや効率的な管理業務の実施が困難な企業は閉鎖に追い込まれるリスクが増大しています。大手による寡占化が非常に起こりやすい状況であり、M&Aによって方針の転換を図る中小企業が非常に多い業界です。

 

不動産管理会社のM&A


不動産管理業界は大手企業による寡占が強い状態であり、管理物件の獲得を目的とした中小企業へのM&Aが主流となっています。不動産の地方展開にはエリア毎の需要に対応した物件を確保する必要があり、既存のスケールメリットの恩恵が少ないというのもM&Aが多い理由とされます。
M&Aは大手が買収を行う印象が強いですが、不動産管理においては規模を問わず活発にM&Aが行われています。管理物件の数によるアピール効果が大きく、管理技能を持つ人員の数が競争力の向上に繋がるメリットがあるからです。
不動産仲介業への参入は宅地建物取引士の資格を取得すれば可能であり、自己所有の物件で入居者の募集や契約、管理業務を行うのには資格は不要なので、新規参入のハードル自体は低い業界です。実際に新規は多いのですが、一方で全体の4~5%程度の不動産業者が毎年廃業しています。平成29年度の転入を除く新規事業者数は5,696業者に対し、同年度の転出を除く廃業者数は5,222業者となっています。
小規模事業者者が非常に多い業界であり、平成29年度末時点で宅建業者の総数は123,782 業者、そのうち従業者5人未満の業者数は104,254業者もあり、総数の84.4%を占めています。
業界全体の市況は2020年の東京五輪に向けて上向き傾向であり、賃貸住宅を利用する世帯も増加傾向にある事から、市場規模は全国的に拡大を続けています

地方においても個人単位のオーナーが増加しており、地方密着型企業としてシェアを伸ばしているケースも見られます。大手業者が展開地域を増やす際に地方密着型企業を買収し、特定地域におけるシェアを一気に拡大するケースも存在します。

 

不動産管理会社のM&Aを行う理由は?


大手企業による品質競争が激しく、順応が追いつかずに経営難になる中小企業は増加傾向にあります。他社との差別化を図る大手企業が中小企業を買収するケースは多く、規模の拡大や大手の傘下に入る事を目的としたM&Aは増加傾向にあります

売却側は規模の拡大によって競争力が上がり、買収側は物件と管理資格者の獲得によって展開地域を増やせます。
不動産管理はオーナーの高齢化が進んでいる業界でもあり、後継者問題を解決する手段としてM&Aを選択する企業も増えています。事業の売却によって得た現金を引退後の生活資金にする事が出来るほか、事業承継を行えるメリットがあります。

・売却側のメリット
資金獲得による経営状況の改善が見込まれ、管理物件の維持によって事業を継続できるメリットがあります。設備投資によって地域特性に合った物件にリノベーションする事も可能となり、長期的な見通しを立てられるようになります。
大手企業への売却である場合、安定した経営基盤を得る事で事業経営の見通しが立ちやすくなります。また、現在雇用している従業員を保持できるほか、債務や融資に関する問題があった場合も解消できます
実務面においても、物件のデータベースを共有できるので管理件数の増加によって競争力がアップするほか、システムの再編に関わる費用も抑える事が出来ます。効率的な業務体系に引き継ぐ事によって、後継者問題の解消や事業承継の実施も可能であり、大手の集客力によって、現状入居数が少ない地域でも状況が改善する可能性があります。
近年では業績が順調であり、後継者を選べる場合でも大手企業の傘下に入って経営基盤を強化し、事業拡大を推し進めるケースも存在します。事業価値が高い時にM&Aを行う事により高い金額を得られるほか、売却後も経営方針を保てるというメリットがあります。

・買収側のメリット
管理物件と人員を確保する事によってサービスの充実及び高度化が可能となり、企業規模の拡大によって競争力が向上します。特に管理物件の増加は収益の増加に繋がるので、M&Aによって一度に大きく増やせるのは大きなメリットです。
不動産業界では宅地建物取引士や賃貸不動産経営管理士などの専門資格の保有者が全体的に不足しており、株式譲渡や合併によるM&Aで管理資格者を獲得できるのは買収側にとってメリットです。
物件の増加によって顧客のニーズと一致する確率も上がり、収益率の増加も見込まれます。
再開発などで将来的な需要のある地域を得た場合、転売によってキャピタルゲインを狙う事も可能になります。
また、未展開地域に低リスクで進出する事が可能であり、より多くの地域に物件を保有する事によってマーケティングの採算が取りやすくなり、広範囲への宣伝によってネームバリューの強化と収益の増加が見込めます。
さらに、自社と違った得意分野を持つ企業を買収した場合、事業領域を拡大する事が出来ます。シナジーの形成によって企業の成長速度を高める事が見込めます。例として不動産コンサルティングの資格者を獲得する事によって資産運用や資金調達など法人向けの事業展開を行えるようになります。

 

不動産管理会社のM&Aを行うタイミングは?


目的によって最適なM&Aのタイミングは異なりますが、売却する場合は早めに相手先を探した方が良い結果を得やすくなります
経営状況が厳しくなった後に売却先を探しても見つかる可能性は低いです。売却額が下がる事は確実であり、債務を解消できない状況になった場合は廃業も検討する必要があります。M&Aの成功率を高めるには業績が好調である間に売却先を探す必要があります。

不動産業界はM&Aの事例が多く、成立時のメリットも大きいですが、実施の際には買収側による企業調査『デューデリジェンス』が実施されることを考慮する必要があります
社員の能力や資格の有無は重要なポイントなので、管理資格者の追加採用が難しい場合は現行社員が多く在職している間に交渉を成立させる必要があります。
管理資格者が不足するとサービスの水準が低下し、借上げ物件であった場合は転貸収入が支払賃料を下回る逆ザヤが発生しやすく、物件稼働率の低下による賃料引下げや契約解除などによる管理物件の減少、企業価値の低下が起こりやすくなります。サービス水準の下落は管理組合との関係悪化にもつながり、契約の継続性に問題が生じます。管理組合とは十分なコミュニケーションを行い、物件の付加価値や居住者に対するサービス体制の提案・実施が行き届いている事が重要です。
不動産業界の市場規模は都市圏を中心に拡大を続けており、地方においても地価下落率に歯止めがかかるなど堅く推移しています。この傾向は2020年の東京五輪まで続くと見られますが、その後は特需の解消や少子高齢化などの観点から縮小していく事が見込まれます。借家を利用する64歳以下の世帯が減少し、顧客の獲得競争による賃料水準の低下および仲介手数料の単価下落は進んでいくと予測されます。

 

不動産管理会社のM&Aを実施するのは誰か?

不動産業界では大手企業が規模の拡大を目的としてM&Aを計画、実施する事が多いです。
直営店以外にもフランチャイズに加盟させる形で系列化し、展開地域を増やす業態を採用して規模を拡大しています。
近年では不動産の物件募集手段としてWebサービスが広く普及しており、不動産業界におけるWebマーケティングの重要性は高まっています。傾向として、Web製作会社や不動産賃貸のWebサイト運営会社がM&Aを主導する事も増えています。
M&Aの実行段階では仲介業者やコンサルタント、税理士など経理・法務関連の専門知識を持つ相手に相談を行うのが一般的です。その場合は売却先の相談やM&Aの実行も仲介業者が担当します。

 

不動産管理会社のM&Aの相談先は?


社内にM&Aの部署がある場合を除き、不動産管理会社のM&A経験を持つ仲介業者へ依頼するのが一般的です。各工程に必要な専門家が揃っているので総合的なサポートを受けられます。

信頼性は最も高いですが、仲介業者はM&Aの実行、成立時などに手数料が掛かります。
算出基準には契約金額によって報酬が決定されるレーマン方式が一般的であり、その場合は成功報酬として売却額の1~5%程度を徴収されます。取引金額が高くなるほど手数料率は下がりますが、例えば取引金額が7億円であった場合は(5億×5%)+(7億-5億)×4%=3,300万円の報酬が発生します。相談においては無料で応じてくれる業者も存在しますが、実際に代行する工程には金銭が発生します。

資金繰りや買収資金の確保には、普段の取引先である銀行や証券会社などの金融機関への相談も必要です。大手銀行はM&Aの専門部署を保有している事もあり、広範囲の顧客ネットワークを活用してM&Aを有利に進められます。しかし、金融機関への相談や協力依頼には多額の手数料を必要とします。小規模な買収である場合は手数料との釣り合いが取れなくなる場合があるので注意が必要です。
特に小規模な取引の場合、会計士や税理士に相談するのが望ましいです。経理のエキスパートであり、M&Aにおいても多くの工程で活躍する存在です。企業を訪問してくる機会も多く、日ごろの信頼関係を築いておけば委託も行いやすいメリットがあります。会社の内部事情に熟達しており、中小企業の経営者が最初に相談する相手として最もポピュラーと言えます。会計士や税理士個人に頼るので他の手段に比べて費用を抑えやすいですが、そのぶん人脈や専門知識のある範囲は限られてきます。
共通したポイントとして、自社の事情に詳しい、理解のある相手に相談した方が的確なアドバイスを得やすくなります。実績の優れた業者であっても自社の意向と合わない事を提案する可能性もあり、従ったらM&Aが難航する事もあります。相談の際は自社内の事情や意向を汲んでいるか、話しやすいかといったポイントを重視して相談相手を選ぶ必要があります。


まとめ

不動産業界は顧客の多様化によって品質競争が加速し、資金力の高い大手企業による寡占化が進行しています。近年ではオンラインサービスの普及に伴い、住宅の購入や賃貸希望者に提供する物件情報を「レインズ」というシステムから検索する事が主流となっています。
宅建業法では一般媒介契約を除く物件は契約の締結から一定期間内にレインズへ登録する事が義務付けられています。一般媒介契約とは複数の業者が一つの物件に契約条件を設定できる形式であり、依頼者への業務処理報告義務も無いのが特徴です。
物件の情報は他の業者や一般からも閲覧可能なので相場が共有されやすく、情報の質による他業者との差別化が難しくなっている事も大手企業によるM&Aを増加させる要因となっています。
不動産管理のM&Aは、信頼でき、会社の事情を理解している業者に相談するのが一般的で、中小企業においては税理士や公認会計士を最初の相談相手に選ぶことが多いとされます。総合的なサポートを得たい場合は不動産管理会社のM&A実績がある仲介業者に依頼する事が多いですが、信用できるかは慎重に判断する必要があります。金融機関は広い人脈を保有している場合もありますが、高額な手数料を必要とする以外にも、買い手寄りの立場である点に留意しておく必要があります。
不動産業界の事業規模はリーマンショック後の2009年と東日本大震災があった2011年を除いて拡大を続けてきましたが、東京五輪後の2020年を境に市場規模は縮小していく見通しです。借家を利用する人口は減少する一方で単身世帯は増加していくと予測されます。顧客の獲得競争は加速し、M&Aによる業界再編は一層活発化していくと予想されます。

不動産管理会社のM&Aを実施する前に考えておきたいこと
不動産管理の業務は、家賃回収、原状復帰、契約更新など入居者関連の業務や、建物の維持・管理業務の実施、需要の高度化に伴う管理物件の経営プラン改善など、実施優先度の高い業務が非常に多い事が特徴です。
契約1件あたりの収益が低く、物件の維持管理を行いながら収益を上げるには常に多数の契約を成立させていく必要があります。契約物件から管理手数料を得るというストックビジネスであり、事業の安定性は高いです。しかし、管理物件を失った場合の損失は大きいので注意が必要です。
業者数の増加によって、業界全体においても顧客の獲得競争が激しくなり、求められるサービス水準も上昇、中小規模の業者にとっては厳しい現状となっています。高水準のメンテナンスや効率的な管理業務の実施が困難な企業は閉鎖に追い込まれるリスクが増大しています。大手による寡占化が非常に起こりやすい状況であり、M&Aによって方針の転換を図る中小企業が非常に多い業界です。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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