2019年1月30日 水曜日

M&Aの事例から読み解く潮流《不動産管理会社》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

不動産業の市場規模は全体で42兆円を突破し、2012年以降は低金利政策を受けてのインフレーションの期待に加え、2020年の東京五輪に向けて市場規模は拡大していくと予想されます。
借家を利用する単身世帯数の伸びに伴い、不動産管理業者の数も増加を続けています。自己所有物件の賃貸化や契約処理においては専門資格が不要である点も、管理業者の需要に拍車をかけています。従来は9割近くのオーナーが同じ管理会社と契約を続けたとされますが、国による規制が入ってからはその風潮に変化が生じています。
不動産管理の業務は多岐にわたり、物件の維持や管理以外にもオーナーに対する物件の価値向上の提案や経営プランの改善、新規物件の営業や赤字物件の解約など優先度の高い業務が並ぶほか、宅地造成や管理、土地活用などを兼ねている業者も多く、管理業の運営には多くの人員が必要となります。
近年の不動産業は全体的に業界再編が進んでおり、不動産管理業においてもM&Aが活発に行われています。実際の事例から潮流を読み解いていきます。

 

不動産管理会社業界におけるM&Aの動き


従来の不動産管理業は最初に委託を受けた業者が長期的に担当を続けるケースが殆どで、1回契約を取れば持続して収益を得られるストックビジネスとして成立していました。
しかし、2001年にマンション管理の適正化に関する法律が施行され、重要事項の説明義務や宅地建物取引者による契約書面の説明と交付、記名押印などが義務付けられてから管理業務に対する関心は高まっています。要求される業務基準も厳格化しており、業者間での品質競争は年を追うごとに過熱している状態です。

不動産の物件数は増加を続けていますが、主に借家を利用する60歳未満の人口は減少している事から、顧客の獲得競争は加速しています。充実した管理体制が求められる一方、価格競争によって賃料の水準は下落します。仲介手数料は賃料に連動する形で決定されるので1件当たりの収益が下がり、薄利多売の様式が更に加速しています
近年は物件の検索媒体としてインターネットが急速に普及し、業者独自の契約物件は契約締結から一定期間内に専用のオンラインシステムに登録する義務が生じています。システムの普及によって少数の独自物件を保有し続けるアドバンテージが薄れ、利益の確保には迅速な手続きが重要視されるようになっています。
既存の管理物件の確保を目的として同業他社の物件に営業を行い、自社に契約を移させるリプレイスメント営業が近年増加傾向にあります。大手企業に契約を取られた中小企業は収入が減少して充実したサービスを提供しづらくなり、他社から契約を移させるのも困難となります。その結果として採算がとれなくなり、方針転換を図って大手企業への事業譲渡という形でM&Aを行うケースが年々増加しています

世帯数の増加によって顧客のニーズは多様化しており、高レベルなサービスを提供できる大手業者が業界内でシェアを伸ばしています。地方の中小企業をM&Aで獲得する事によって管理物件と人員を早く確保し、素早く事業展開する事で他社との差別化を図るパターンが形成されているので、近年では大手による寡占化が加速的に進行しています。事業形態としては直営店以外にフランチャイズ展開を行って加盟店を系列化し、展開地域を増やしています。
加えて、中小企業同士での競争も活発な傾向にあります。宅建業者の総数に対して84.4%は従業者数5人未満であり、資本金に関しても1000万円未満の業者が半数近くを占めます。事業の存続には管理業務の効率化とコストの削減が必須であり、多様化する顧客のニーズへ対応し続けるのが困難と判断した中小企業がM&Aによって大手の傘下に入るケースは増加しています。大手の経営基盤と管理体制に入る事で経営が安定し、管理状態の改善や債務問題の解消を行うことが出来ます

 

最近の不動産管理会社業界のM&A事例


不動産業は全体的に業界再編の流れが進んでおり、不動産管理会社においても大手企業が地域重視型の中小企業を買収する事例が見られます。

ファースト住建がアオイ建設を子会社化

戸建分譲の事業展開強化を行っているファースト住建株式会社は、神奈川県を中心に不動産販売・建設業・コンサルティング等を展開するアオイ建設株式会社の株式を取得、子会社化する事を2018年3月30日に決議しました。取得額は非開示であり、株式譲渡は2018年と2021年の2回に分けて行われることが予定されています。

・ファースト住建とは

1998年設立であり、住宅の建築設計及び工事、不動産賃貸や管理などを行っている企業です。兵庫県にある本社を中心に関東から九州にかけて営業拠点を持っています。地域特性に基づいたマーケティングを行い、顧客へ確実な利益を提供する事業方針を持っています。注文住宅の工事や土地の有効管理に関するアドバイスも行っており、「お客様第一主義」をモットーに掲げています。

・アオイ建設株式会社とは

1972年設立の企業で、建設やコンサルティングを含めて総合的に不動産業を行っている業者です。会社のある神奈川県を中心に事業展開を行っています。従業員数20名の比較的小規模な事業者ですが地域を重視した活動によって安定した収益を獲得しており、良好な経営状態を維持している企業です。

 

ケイアイスター不動産がフレスコを子会社化

関東圏で不動産仲介を行っているケイアイスター不動産が千葉県を中心に事業展開している株式会社フレスコの株式を取得し、連結子会社化する事を2018年8月10日に発表しました。取得額は非開示であり、株式譲渡は3日後の8月13日に実行されています。当該M&Aにより、戸建分譲事業の拡充と企業成長の促進を推し進めるとしています

・ケイアイスター不動産とは

埼玉県に本社を持ち、不動産の仲介やリノベーション、用地の取得開発から住宅販売・アフターサービスまでの工程を自社内で一貫して行っている企業です。不動産仲介事業も行っており、グループ加盟企業の数は200社を越えて伸び続けています。関東全域を含む1都8県で事業展開を行っており、群馬県を中心に多くの実績を挙げています。

・株式会社フレスコとは

千葉県を中心に注文住宅の請負から施工、土地や建物の仲介、集合住宅の斡旋・管理などを行っている企業です。宅地の購入から住宅完成後のサポートを一貫して行う体制を持ち、基本性能の高い家を建てる事で顧客に長期的な利益を提供する事を掲げています。千葉県に根差した企業として1993年の創立から着実に業績を伸ばしている企業です。

 

日本アジアグループがサンヨーホームズに対する公開買い付けを実施

復興支援に関する事業に取り組む日本アジアグループ株式会社は、サンヨーホームズ株式会社を公開買付けによって取得する事を決議し、2018年4月26日に発表しました。公開買付けは同6月23日に完了し、これによって両社が推進する地球保全活動および社会の保全活動におけるノウハウの統合を行い、シナジーの形成が期待できるとされます

・日本アジアグループ株式会社とは

株式の所有によるグループ会社運営を行う企業であり、施設管理から森林保全活動まで多岐にわたる企業を運営しています。太陽光発電事業や震災復興支援などにグループで取り組んでおり、地球環境の保全と社会の治安維持・向上を推進している企業です。東証1部上場企業であり、国内以外にもシンガポールやベトナムなどでグローバルな活動を展開しています。

・サンヨーホームズ株式会社とは

戸建住宅の建築設計事業とマンション事業を中心とする企業であり、環境基準に適応した省エネルギー性の高い住宅設計を行っています。リノベーションによるエコロジーとセキュリティを両立した長期優良住宅の提供を掲げており、環境保全への取り組みを推進しています。国が2020年の目標基準としている再生可能エネルギーによる完全な自家発電住宅の設計も行っており、太陽光発電システムの提供も行っている企業です。

 

不動産管理会社のM&Aを実施するうえでのポイント


不動産管理会社のM&Aでは売却側の事業価値が重要になります。
充分な人員が適切に配置されているか、顧客のニーズを的確に把握した物件を仲介できているかなど、優れた人員や自社管理の良質な物件をどれだけ保有しているかは、買収後の収益や事業展開に直結するので最初に見るポイントです。管理物件と管理資格を持った人員の確保はM&Aの主目的であり、単純な収益の増加と未開拓地域への早期進出が見込めます。人員の充実によってサービスの水準を向上させる事も可能で、特定地域における他社との差別化を行えます。

また、適切な賃料設定が行われているか、入居率は低くないか、転貸費用が賃料収入を上回って逆ザヤが起きていないか、入居率の低い物件に対して家主に家賃の減額や契約解除の提案が行えているかなど、経営管理に対する取り組みが徹底されているかも重要です。売上に対する原価の高さや管理費用の額など総合的な経営状態を判断する必要があり、正確な判断には売却側企業と会計士など専門知識を持つ相手の協力が不可欠です。赤字物件を放置していたり、オーナーや管理組合と問題を起こしている場合は物件の継続性に支障があり、突然収益が悪化する可能性も高いです。

さらに、売却側の展開地域の人口や、全体的な入居率、将来的な需要が見込めるかという点も買収側の収益に大きく関係するポイントです。関東圏以外にも地方都市圏の人口は増加傾向にあり、通勤圏内にあたるベッドタウンにおいても安定した需要が見込めます。また、観光地として人気の高い場所や再開発が予定・実行されている場所は土地の需要から地価が高く、転売によって大幅な差額を得られる可能性もあります。

自社の物件情報を的確にアピールできているか、管理物件の獲得に際して魅力となる契約実績やマーケット動向を把握しているかなども重要です。近年は建物の維持管理だけではなく、地域性に合わせて独自の強みを提案、実行していく必要があります。会社の強みを説明できる社員が居ると情報の共有がスムーズに行えるほか、営業部門の充実とレベルの向上を図る事が出来ます。

不動産管理会社のM&Aは高額取引となる場合が多く、売却側の事業価値の判断は特に慎重に行う必要があります。不動産管理会社のM&A実績が多い仲介業者に依頼するのが確実ですが、目的に応じて的確なアドバイスを行ってくれる業者を選ぶ事が重要です。自社に適していない計画を提案され、経営方針などで交渉が難航して最適な時期を逃すなどのケースは避ける必要があります。

 

まとめ

不動産管理業は大手企業がシェアを伸ばしており、手段として地方の中小企業に対するM&Aが活発な業界です。大手企業が地域密着型の企業を買収する事で展開地域を増やし、他社との差別化を図ったM&Aは増加しています。
2012年以降の低金利政策を受け、不動産業の市場規模は拡大を続けています。2020年の東京五輪に向けて戸建数は増加傾向にあり、業界へ新規参入する業者数も毎年増加を続けています。中小企業による競争は激化しており、大手企業の傘下に入る事で競争状態から脱却を図る業者も近年増加してきています。
東京五輪以降は少子高齢化の進行と単身世帯の増加に歯止めがかからず、市場規模は縮小していく見通しです。世帯数は増えるので獲得競争は激化する見通しであり、大手による寡占化は今後さらに進行していくと思われます。
近年は大手志向の強い管理組合も増加しており、中小企業は物件の獲得自体が難しくなりつつあります。業績が良い間に大企業とM&Aを行い、経営体制を維持しながら成長性を高めていこうとする中小企業も現れています

不動産管理のM&Aでは、売却側企業の管理物件と人員の数が重要です。不動産は新規獲得に時間を要するので、売却側企業が自社管理物件を多く持っているほど買収側企業の利益と獲得意欲は高くなります。マンション管理士や不動産鑑定士など資格保有者の獲得は管理体制の充実につながります。
不動産事業は商品の単価が高く、事業価値を慎重に査定する必要があるので中小企業がM&Aを行う場合は専門の仲介業者および金融機関への相談が不可欠です。業界再編の流れが活発な業界である分、M&Aによるメリットは的確にアピールする必要があります。

M&Aの事例から読み解く潮流《不動産管理会社》
不動産業の市場規模は全体で42兆円を突破し、2012年以降は低金利政策を受けてのインフレーションの期待に加え、2020年の東京五輪に向けて市場規模は拡大していくと予想されます。
借家を利用する単身世帯数の伸びに伴い、不動産管理業者の数も増加を続けています。自己所有物件の賃貸化や契約処理においては専門資格が不要である点も、管理業者の需要に拍車をかけています。従来は9割近くのオーナーが同じ管理会社と契約を続けたとされますが、国による規制が入ってからはその風潮に変化が生じています。
不動産管理の業務は多岐にわたり、物件の維持や管理以外にもオーナーに対する物件の価値向上の提案や経営プランの改善、新規物件の営業や赤字物件の解約など優先度の高い業務が並ぶほか、宅地造成や管理、土地活用などを兼ねている業者も多く、管理業の運営には多くの人員が必要となります。
近年の不動産業は全体的に業界再編が進んでおり、不動産管理業においてもM&Aが活発に行われています。実際の事例から潮流を読み解いていきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年1月30日
事業承継の事例から読み解く潮流《不動産管理会社》
WEBからお問い合わせ
当社はお客様の事を最優先で考える成果報酬型エージェントです。
匿名をご希望されるお客様には、会社情報など一切公開せずにお問い合わせ頂く事が可能です。

お問い合わせ内容

氏名

電話番号

メールアドレス

メールアドレス(確認)

業種

会社名

お問い合わせ内容