2019年1月29日 火曜日

事業承継の事例から読み解く潮流《不動産管理会社》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

不動産取引件数は区分所有のマンションを中心に増加を続けており、都市圏における地価公示額は毎年プラス成長を続けています。2016年には全国平均においてもプラス成長となり、2020年の東京五輪に向けて市場規模の拡大は続いていくと見られています。不動産業界の市場規模は42兆円を突破し、経常利益率に関しても堅調に推移しています。

一方、不動産管理業は、多様化するニーズに応える形で、少数の大手企業による寡占化が進んでいます。多方面への事業展開が必要となり、人員及び資金の不足によって対応が追い付かなくなった中小企業が事業承継を模索する事例が近年増加傾向にあります。大手企業においても、譲渡側企業の社員と管理物件をM&Aによって獲得する事でシェアを拡大しています。
2012年からの低金利政策によって消費のインフレが見込まれ、不動産管理業界においても物件数の増加と価格上昇から市場規模は拡大していますが、単身世帯の増加による賃料水準の下落や、少子高齢化によって借家を利用する若年者の減少などが問題となっています。

本稿では不動産管理会社の事業承継の事例から、業界の動向・潮流を分析していきます。

 

不動産管理会社業界における事業承継の動き


2001年に管理規定の厳格化が行われてから、物件のオーナーや入居者の間にも管理会社を選ぶ意向が広まり、大手企業を中心に他社の契約物件から乗り換えさせる営業活動が増加しています。中小企業にとっては顧客の減少によって収入も減少し、充分なサービスを行えなくなるマイナスの循環に陥る事も多いとされます。また、競争の激化によって必要な管理費用が増大し、将来的に困窮しかねない中小企業も増加しています。解決策として、大手企業への事業承継を検討する経営者は近年増えています

単身世帯を中心に借家を利用する顧客は増加を続けており、企業間における顧客の獲得競争は加速しています。今後の少子高齢化によって借家を利用する65歳未満の世帯数は減少していき、単身世帯については増加を続けていくと見られています。この傾向によって賃料単価の平均額は低下する事が予想されており、賃料をベースに決定される仲介手数料の単価も下落していく事から、顧客の獲得競争は更に激しくなる事が予想されます

不動産管理会社のオーナーは高齢化が進んでおり、黒字経営であっても後継者不在で閉鎖する中小企業が増加傾向にあります。大手企業においても業者数の増加によるシェア分散が影響し、管理物件の新規営業が難しい状況となっています。対応策として中小企業とのM&Aを行い、既存の管理物件と人員を獲得する事例が増えています。

国が推進するマイナス金利政策によって銀行から買収費用の融資が受けやすくなり、中小企業間においても事業承継が行いやすくなっています。特定の地域内で小規模企業がグループ化し、管理物件を共有する事でシェアを伸ばしている企業も存在します。

 

・事業承継の方法
従来は親族内承継が一般的でしたが、近年は従業員承継が増加傾向にあります
従業員承継は、社内の役員や従業員を後継者にする手法です。必要な経営教育期間が短く済みやすく、社内・取引先にとって信頼性が高い点がメリットですが、株式譲渡で後継者が多額の資金を準備する必要があります。中小企業の株式評価額は1億円以上になる事も多く、後継者本人または親族に拒否される可能性は高いです。譲渡金額を下げるとオーナーの所得金額も下がるので、事業承継のメリットが少なくなる点には注意が必要です。

また、後継者が経営に適しているかどうかも慎重に判断する必要があります。現場業務や経理において優れた社員が居たとしても、経営者には総合力が求められます。経営スキルに不安がある場合は、候補者の教育期間を長く設けるなどの対策が必要になります。

親族内承継は経営者の息子・娘を後継者にする手法です。経営者にとって安心感が強く、社内においても同意を得やすいメリットがあります。経営者の子息なので経営教育を行う期間を確保しやすく、スケジュール設定が簡単である事もメリットです。しかし、多くの場合1から教育する必要があるので、準備期間は長くなります。教育途中で交代せざるを得なくなった場合は、半端な状態で経営を行う事になり、社内の混乱や業績悪化が予想されます。また、本人から同意を得られなければ継承が行えない点にも注意が必要です。これは他の方法にも共通しますが、親族内承継の場合は替えが利かないので、継承したいと思わせるような事業展開を行っている事が重要です。

 

最近の不動産管理会社業界の事業承継事例


近年の不動産管理会社業界ではオーナーの高齢化と大手企業による寡占化が進んでおり、M&Aによる事業承継に関心が集まっています。親族や会社内に後継者の適任が居ない場合でも事業承継を行えるメリットがあります
また、M&Aで買収側になる企業は資金力も高く、売却側企業は経営状況の立て直しを図る事が出来ます

良く用いられる手法としては事業譲渡と株式譲渡が存在します。
事業譲渡によってM&Aを行った場合、交渉次第では債務も含めて譲渡する事が可能なので、長く続けてきた企業が経営困難に陥った状況でも行える利点があります。また、不採算事業の売却によって特定の事業に集中したい場合にも事業譲渡は良く活用されます。売却側のオーナーが引退する場合も充分な資金を獲得する事が可能です。

株式譲渡は成立時に経営者が交代するパターンが多いですが、売却側企業は子会社として存続します。株式取得によって会社の所有権ごと買い取る手法なので、オーナーの高齢化によって経営方針や従業員の引継ぎを行いたい場合に、株式譲渡はよく活用されています。
近年は大手志向が高まっており、業績やオーナーの年齢に余裕がある企業が成長性を維持する目的で事業譲渡や株式譲渡を利用して大手企業の傘下に入るケースも存在します。

 

経営状況の改善と安定が行われた事例

・APAMAN株式会社が不動産賃貸・管理会社のプレストサービスを子会社化

「Sharing economy」「Platform」「Cloud technology」を主要事業とするAPAMAN株式会社が、福岡県を中心に愛知県・近畿エリアで賃貸管理・建物管理業を展開する株式会社プレストサービスをApaman Property株式会社を通じて全株式を取得し、子会社化する事を2018年5月18日に決議しました。
この買収により、APAMAN株式会社が展開するPlatform 事業のサブリース、賃貸管理、ならびに付帯サービス(保険、緊急駆付け、保証、エネルギー等)、及び Sharing economy 事業(民泊、シェアサイクル、パーキング等)を拡大できる、とされています。

 

・グランディーズが不動産会社Diproを子会社化

投資用のマンションやアパート販売、マンションの分譲を主要事業とする株式会社グランディーズが、福岡県を中心に不動産管理・仲介業を展開するDipro株式会社の全株式を取得し、連結子会社化する事を2017年3月23日に決議しました。
Diproの創業者が別会社で並行していた民泊事業への専念を図り、不動産事業をグランディーズへ譲渡する事を決定しました。グランディーズは競争の多い政令指定都市圏を避けて拠点展開を行っていたが、この案件によって未開拓だった都市圏への進出が可能となっています
加えて、Diproは購入したビルを一棟ごとリノベーションを行い販売する事業も手がけているので、事業展開の幅が広がり、今後更なる事業展開を図るとしています。

 

成長性の維持を目的とした事例

・日本社宅サービスが不動産管理会社の全日総管理を子会社化

住宅制度運営のアウトソーシング事業を手がける日本社宅サービス株式会社が、首都圏を中心に関東で不動産の原状回復工事及びリフォーム、クリーニング事業を行う株式会社全日総管理を株式交換によって完全子会社化する事を2017年7月10日に決議しました。
全日総管理の事業内容が日本社宅サービスの行う管理事業を補完し、将来ビジョンを共有する目的で協議を重ねた結果として決議に至っています。また、全日総管理の代表取締役は経営上重要であるという観点から子会社化以降も同役職を継続するとされています。

 

・香陵住販が不動産会社のKASUMICを子会社化

各種不動産の売買及び賃貸借、仲介及び管理等を行う香陵住販株式会社は茨城県つくば市、土浦市、牛久市及び千葉県柏市に4店舗を展開する不動産業者の株式会社KASUMICの全株式を取得し、完全子会社化する事を2019年1月15日に決議しました。香陵住販は茨城県つくばエリアにおけるシェア強化と同県土浦市への出店を事業戦略としており、本案件によって茨城県南における拠点網の拡大による賃貸管理戸数の拡大とドミナント展開による不動産の売買、賃貸、仲介、管理のシナジー効果が期待される、としています。

 

不動産管理会社の事業承継を実施するうえでのポイント


事業承継の準備として、まず自社の管理物件の状況と件数、社員の人数と保有資格について正確にまとめる事が必要です。事業価値として売却額に大きく影響するほか、交渉が成立するかにも関わります。自社管理物件や専門資格の保有者を提供、共有する事は相手企業にとって大きなメリットです。
管理物件の状況には、立地の分布や管理組合との状況なども含まれます。沿線上や都心部など入居率の高い物件は買収直後から収入が見込めます。観光地や都市開発が行われている地域の場合は地価が高い、高くなる見込みがあり、転売する事で高額収入を得られる可能性があります。現状で入居率が低い場合ほど、展開地域の人口推移や都市開発の予定の有無について調べておく必要があります。

M&Aで事業承継を行った場合、自社の従業員が解雇されないか考える経営者は多いと思われますが、買収先の企業にとっては逆に残ってもらいたいケースが殆どです。一部の大手企業によって市場規模が拡大されている以上、人員の確保は主目的の1つだからです。社員の雇用引継ぎは交渉条件に組み込む事が可能であり、雇用期間の保証についても契約に含む事が出来ます
後継者問題の解消を目的としている場合、相手先との企業理念や経営方針の摺り合わせ・調整は特に時間をかけて行う必要があります。小規模な企業であっても交渉には年単位の時間が掛かる事も多く、余裕を持ったスケジュール設定を行う必要があります。充分な交渉を行わずに推し進めた場合、企業理念の引継や社員同士の連携が上手く運ばず、成立したとしても形式的な事業譲渡になる可能性が高くなるので注意が必要です。

また、M&Aによる事業承継の場合、経営者への個人保証を外せる可能性があります。売却前の会社に設定されていた自宅や預金などの担保と個人保証を解除し、承継先の会社に再設定するように銀行と交渉する事も可能です。ただし、解除可能かどうかは実際に相談しなければ分からない点には留意が必要です。

 

まとめ

不動産管理業界は中小企業の事業承継問題に直面しており、解決策としてM&Aを用いた事業承継が注目されています。M&Aは売却側企業の理念や人員が残らないという解釈は誤りであり、近い経営理念を持つ企業に人員と管理物件を提供し、安定した経営基盤を得る事によって自社の立て直しと成長を図る事が可能です。事業売却を行う事で既存のシェアとノウハウを提供し、残りの事業へ専念する事も出来ます。

M&Aの場合、従業員の引継ぎ条件に関する調整や経営方針の確認・摺り合わせは時間を掛けて行わないとその後の調整が難航します。管理物件や債務などの状況に申告忘れがあると相手企業の心象が悪くなり、事業計画が流れるリスクが高くなります。各種手続きに時間を掛けられるよう、事業承継はオーナーの年齢や経営状況に余裕のある状況で決断する必要があります。

少子高齢化による総世帯数の減少から、新規戸建数は今後減少に転じる見通しであり、大手、中小を問わず企業間の競争は激化する事が予想されます。顧客ニーズの多様化によって管理広告費用の増大が続き、中小企業にとって厳しい状況が続いています。長く続いてきた企業でも見通しの立たなさから後継者候補を見出せないことが多く、黒字経営であっても閉鎖する企業の増加が予想されます。事業承継にM&Aが活用できる事は近年浸透しつつあり、人員を集中させたい大手企業の意向も伴って、今後M&Aは増加していく事が予想されます。

事業承継の事例から読み解く潮流《不動産管理会社》
不動産取引件数は区分所有のマンションを中心に増加を続けており、都市圏における地価公示額は毎年プラス成長を続けています。2016年には全国平均においてもプラス成長となり、2020年の東京五輪に向けて市場規模の拡大は続いていくと見られています。不動産業界の市場規模は42兆円を突破し、経常利益率に関しても堅調に推移しています。

一方、不動産管理業は、多様化するニーズに応える形で、少数の大手企業による寡占化が進んでいます。多方面への事業展開が必要となり、人員及び資金の不足によって対応が追い付かなくなった中小企業が事業承継を模索する事例が近年増加傾向にあります。大手企業においても、譲渡側企業の社員と管理物件をM&Aによって獲得する事でシェアを拡大しています。
2012年からの低金利政策によって消費のインフレが見込まれ、不動産管理業界においても物件数の増加と価格上昇から市場規模は拡大していますが、単身世帯の増加による賃料水準の下落や、少子高齢化によって借家を利用する若年者の減少などが問題となっています。

本稿では不動産管理会社の事業承継の事例から、業界の動向・潮流を分析していきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年1月29日
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