2019年1月27日 日曜日

事業売却の事例から読み解く潮流《不動産管理会社》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

不動産管理業は安定した収益の得られるストックビジネスとして成長を続けてきました。
従来は、不動産管理業務は一旦契約を行えば長期にわたって依頼され続けていましたが、2001年に不動産管理規定の厳格化が行われて以降、管理会社のリプレースも珍しくなくなりました。以降、管理組合や物件オーナーは、管理業務に高度なサポートを求めるようになり、これに応える形で大規模事業者はスケールメリットを生かして手厚いサポートを行っています。対して、中小規模の事業者は価格による差別化を余儀なくされ、厳しい状況に置かれています。

中小規模事業者が安定した経営を求めて、大規模事業者の傘下に入ることを目指す動きも目立ち、再編の動きが強まる不動産管理業の事業売却について、事例を交えつつ見ていきます。

 

不動産管理会社業界における事業売却の動き

不動産管理会社業界の現状

不動産業は不動産流通、住宅賃貸、不動産賃貸、不動産管理の4分野に分類できます。不動産業全体としては2000年までは経済成長率と足並みをそろえて成長していましたが、それ以降はマイナス成長となっています。
しかし、不動産管理業は2000年と2012年の比較で1.4倍以上と、安定した成長を見せています。

業界全体としては順調に見える不動産管理業ですが、賃料収入は減り、入居者からのサポートの要求水準は上がっています。このためスケールメリットにより効率的な管理を行える大手管理会社がシェアを伸ばしており、中小規模の事業者は競争の激化から利益率が低下していることもあって難しい環境にあります。大手事業者はさらにスケールメリットを得るために、中小規模事業者の買収に動いており、業界の再編が進んでいます。

また、不動産管理業は、経営者の高齢化という問題もはらんでいます。高齢や健康問題により経営者が引退を考えた場合でも、少子化、人手不足の影響から親族や従業員の中から後継者を見つけることができず、第三者に事業の継続を託すというケースも増えています。

 

事業売却とは

事業売却は、通常は会社全体ではなく、会社の一部分の事業、あるいは複数の部分の事業を売却することを言います。事業は、業態で区切るケースや、地域ごとに分割するケースがあります。たとえ売却の対象が会社の全事業であっても、譲渡前後の会社が異なる場合は「事業売却」となります。

事業売却とともにM&Aでよく用いられる株式譲渡では、譲渡されるのは会社の株式であって会社そのものは変化しません。一方、事業売却の場合は、事業が属する会社が変わります。
また、株式譲渡では会社の全てが新所有者に移転し、その範囲をコントロールすることはできません。新オーナーが必要と考えない事業や簿外債務などの好ましくない資産(負債)があっても全てが移転してしまいます。これに対し事業売却では事業売却契約書内で、売却対象の事業の範囲をコントロールできるというメリットがあります。

事業売却と似ている、会社の一部の事業を譲渡する方法に「会社分割」があります。譲渡したい事業を会社分割によって分社化し、その会社を株式譲渡することで事業の譲渡を実施する方法です。事業譲渡では譲渡側と譲受側が別会社であるため、雇用契約を含めた事業内の契約は個別に結びなおす必要がありますが、会社分割をし、その会社を株式譲渡により譲り渡す方法では、雇用契約や取引先との契約はそのまま包括的に譲受することが可能です。

会社の一部事業を譲受する場合、中小規模事業者の場合は事業売却が、大規模事業者の場合は会社分割をしての株式譲渡の形が採用される傾向にあります。

 

事業売却を行うメリット

不動産管理会社が事業売却を行うメリットには様々なものがあります。

まず、売却により現金を得られる点です。現在まで大切に育ててきた事業を売却することで、資金を得ることができ、アーリーリタイアすることも他業種に転向することもできます。

会社の全事業でなく、一部事業の売却を行う動機として多いのは事業ポートフォリオの整理です。会社の持つ多くの事業の中、不動産管理業の成績が思わしくない場合、事業売却という形で事業を切り離して売却し、残ったコア事業に経営リソースを集中することができます。

不動産管理業の経営状態が良くないために経営から手を引く際に、廃業を選択すると取引先の不動産オーナーなどに迷惑が掛かりますし、従業員は解雇しなければなりません。事業売却という形で事業を継続することにより取引先への影響を抑え、従業員の雇用も継続することが可能です。

少子高齢化の影響は日本経済の各所に及んでいますが、不動産管理業でも経営者の高齢化が進んでいます。高齢による引退を考えた場合でも、少子化により身内から後継者を見つけるのが難しいケースは珍しくありません。この場合も、事業売却によって経営を第三者にゆだねることで、事業を継続させたまま自身は経営から引退することが可能です。

買い手側から見ると、事業を買い取ることで不動産管理に必要な資格の保有者を一気に確保できます。人手不足の現在、これは大きなメリットとなります。

また、管理戸数が増えることでスケールメリットが生まれ、1戸当たりのコストが下がります。このようなメリットがあるために、今現在の経営状態が思わしくない事業に対しても、買い手がつくということが珍しくありません。

このように、不動産管理会社の経営者が現在の事業の出口戦略を考える際、事業売却も有力な選択肢となります。

 

最近の不動産管理会社業界の事業売却事例

事例1

2016年6月30日、株式会社ロジコム[8938]は、不動産開発、管理、賃貸事業を行う100%子会社のロジコムリアルエステート株式会社(東京都新宿区、売上高9億5200万円、営業利益1000万円、純資産9億4700万円)の全株式を株式会社リータ(株式会社ダヴィンチ・ホールディングスの100%子会社)に譲渡することを決議した。株式譲渡価額は4億円。

(株)ロジコムは(株)ダヴィンチ・ホールディングスと不動産ファンド事業において資本・業務提携を行い、メディカル施設の不動産ファンドへの組み入れを企図している。(株)ロジコムは子会社であるロジコムリアルエステート(株)の全株式を(株)リータに譲渡することでメディカル分野への不動産ファンドへの組み入れ方法を確立していくことが効果的であると判断した。

 

事例2

2013年8月7日、日本ハウズイング株式会社[4781]は沖縄県におけるマンション管理事業をハウズイング合人社沖縄株式会社へ移管することを決議した。ハウズイング合人社沖縄株式会社は、日本ハウズイング(株)と株式会社合人社グループが、沖縄県で共同でマンション管理事業を運営することを目的として共同出資して設立した。

移管対象事業の売上高は8000万円。譲渡価額は1561万円。

本事業移管では、日本ハウズイング(株)が(株)合人社グループとそれぞれのマンション管理事業における強みを生かしながら効率化による競争力の向上と企業価値の最大化を企図する

 

不動産管理会社の事業売却を実施するうえでのポイント

事業売却の目的

不動産管理会社の事業売却を考える場合、最初に行うべきことが売却目的の明確化です。事業売却には時間がかかりますが、そのプロセスの中で売却の目的がしっかり定まっていないと、途中の個々のフェーズで行うアクションの方向性も定まらず、結果として売却条件の悪化にもつながります。

例えば、目的とするところが、これまで育ててきた事業を現金に換え、創業者利益を確定させるためであれば、売却の準備にもある程度時間をかけて、より良い売買条件の得られる最適なタイミングでの売却を目指すことになるでしょう。
状態の良くない事業を切り離してコア事業に経営資源を集中させるための売却であれば、売却条件より、早く売買を成立させることの方が優先されます。
売却を行う目的はさまざまですが、準備開始からゴールを明らかにしておくことが必要です。

 

事業売却のタイミング

事業売却を実現するには時間がかかります。売却を考えるのであれば、準備はできるだけ早く着手するに越したことはありません。

事業売却の準備では、まず現在の経営状況の可視化を行います。同業他社に対する強みや弱みを分析し、売却対象となる資産や売却対象事業の財務諸表を整理します。そして、明らかになった事業の課題を解決し、強みを伸ばしていき、売却しやすくするための経営改善「事業の磨き上げ」を行います。

 

不動産管理会社の事業磨き上げ

事業の磨き上げは経営課題を明らかにしてクリアし、自社の強みを伸ばす作業です。買い手にとってより魅力的に映るよう、事業に様々な改善を施していきます。

不動産管理会社の事業売却で大切なのは、管理会社としての経営の中身が、買い手にとってわかりやすい形でまとめられていることです。不動産管理業の事業価値には、管理している物件の数・規模・質などが大きく影響します。そのため、管理物件について、入居率、賃料設定や管理料設定の妥当性、オーナーや管理組合との関係、将来的な見込みなどについて必ずまとめておきます。自社の価値がきちんと可視化されている資料が、好条件へのポイントです。

損益計算書や貸借対照表についても、できるだけシンプルになるように整えていきます(当然、粉飾はNGです)。経営者の個人資産と会社、事業の関係も切り分けます。
また、経営の体制についても、経営者個人に依存している部分を減らしていき、組が自律的に動けるようにする、売り上げより利益を重視する、などの経営改善を行います。現経営者の手を離れても十分に運営できるビジネスモデルは、価値も高まります。

買い手にとって魅力ある不動産管理会社は物件オーナーのロイヤリティの高い会社です。買い手はスケールメリットを求めることが多いため、買収前後で管理会社の乗り換えによる管理戸数の減少があっては、買収の意味が薄れてしまうためです。管理を依頼している物件オーナーが、今の管理会社に依頼するメリットを強く実感していれば、管理会社の乗り換えは起こりにくくなります。
不動産管理会社での事業磨き上げにおいては、物件オーナーが自社管理にメリットをより感じられるような施策を取っていくのが有効です。

ただ、事業の磨き上げで必要になる経営改善は、効果が上がるまでに時間がかかることから、売却を急ぐ場合は簡単に終わらせ、省略してしまうことも考えられます。磨き上げにどの程度の時間や経営資源をかけるのが事業売却の条件に効果的であるか、といった点については後述のM&Aアドバイザリーに相談するのも有効です。

 

専門家への相談

事業売却を行う場合、売却先を選定しなければなりません。売却先の選定に経営者個人のネットワークを使って売却先候補に声をかけていく方法では、売却に関する秘密を守ることが困難です。売却の話が広まってしまうと、売却が決まらなくなる、あっても条件が悪くなるといった弊害が生じます。また、既存の事業についても資金繰りに対して疑念が生じるなど、悪影響を及ぼしかねません。

秘密を守ったうえでの売却先の選定には、M&Aの仲介を行うM&Aアドバイザリーに相談する、あるいはM&Aのマッチングサイトを利用するといった方法があります。M&Aの仲介を行っている事業者は単に仲介を行うだけでなく、その後の事業売却プロセス全般についての助言、支援をおこなうサービスを提供しています。売買交渉額のベースとなる企業価値の算定は非常に難しい作業で専門家の力を必要とします。また、最終段階の事業譲渡契約書の草案作成でも専門家の助言を得ることが強く求められます。M&Aの仲介事業者は、事業売却それぞれの段階の相談にワンストップで応じることができます。

ただし、M&A仲介の専門を謳っていても、なかには望ましくない対応をする業者も存在するため、信頼できる事業者を選ぶことが大切です。信頼のできる事業者の選定には取引先銀行の紹介を受けるなどの方法があります。

 

まとめ

成長を続けてきた不動産管理業界も、2020年を境に縮小に転じるとの予測があります。しかし、晩婚化の進行などにより、世帯数は増加していくと見込まれており、不動産管理業の競争は激化すると考えられます。この中でスケールメリットを求める大手事業者による中小事業者の買収が増える可能性があります。
事業売却をお考えの場合、最適なタイミングでの売却を実現するためにも、はやめの調査開始と専門事業者へのご相談をお勧めします。

事業売却の事例から読み解く潮流《不動産管理会社》
不動産管理業は安定した収益の得られるストックビジネスとして成長を続けてきました。
従来は、不動産管理業務は一旦契約を行えば長期にわたって依頼され続けていましたが、2001年に不動産管理規定の厳格化が行われて以降、管理会社のリプレースも珍しくなくなりました。以降、管理組合や物件オーナーは、管理業務に高度なサポートを求めるようになり、これに応える形で大規模事業者はスケールメリットを生かして手厚いサポートを行っています。対して、中小規模の事業者は価格による差別化を余儀なくされ、厳しい状況に置かれています。
中小規模事業者が安定した経営を求めて、大規模事業者の傘下に入ることを目指す動きも目立ち、再編の動きが強まる不動産管理業の事業売却について、事例を交えつつ見ていきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年1月27日
不動産管理会社の事業売却のポイントとは?
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