2019年1月22日 火曜日

不動産管理会社の事業譲渡を検討する際のチェック項目

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

従来の不動産管理業界は、1度契約を行ったら永続的に固定収入が得られるストックビジネスとして高い安定性を持っていました。
しかし、2001年に不動産管理規定の厳格化が行われて以降は、管理体制の良さと経営プランの充実度で業者を選ぶ傾向が、物件のオーナーと管理組合に広まっていきました。このため、業者間の競争も更に激しくなっています。
不動産業界の市場規模は拡大を続けており、顧客となる総世帯数も増加を続けています。大手企業間における管理サービスの水準は拮抗状態であり、価格競争によって他社との差別化が図られている状態です。スケールメリットによる恩恵が強化されているために、中小企業にとっては厳しい状況となっています。この場合、M&Aという選択肢の検討をおすすめします。

そのための基礎知識として、本稿では不動産管理会社の事業譲渡を行う際のメリット及び注意点を解説します。

不動産管理会社の事業譲渡を検討してみては?


大手企業間の価格競争によって賃料水準が低下する一方、管理サービスの高度化によって必要な管理費用は増加を続けています。経営の維持には効率的な管理体制と充分な資金力が求められており、事業継続が困難になる中小企業が近年増加傾向にあります
不動産管理はスケールメリットの恩恵が大きい事業であり、管理物件の数が管理手数料として企業の収益に直接反映されます。
管理手数料の相場は賃料の3~5%程度とされており、薄利多売の様相が強い事業です。単身世帯の増加によって賃料の低下が進む見通しもあり、中小企業間の競争から抜け出す目的で大手企業の傘下へ入る会社も増加しています。

不動産管理会社のM&Aにおいては、事業譲渡株式譲渡が多く用いられます。
事業譲渡とは、売却側企業の事業内容の一部または全部を買収側企業へ売却する手法です。譲渡を行う範囲は交渉によって自由に調整可能であり、債務を切り離して事業内容と従業員のみを譲渡する事も可能です。簿外債務がある場合、特定事業の運営に集中したい場合に用いる企業が多いです。
事業譲渡を実行する場合は通常の取締役会の同意に加えて株主総会による特別決議が必要となるので、株主の招集と決議が容易である中小企業においてポピュラーな手法です

株式譲渡は、譲渡側企業の株主が譲受側企業へ株式の一部か全部を売却する事によって会社の経営権・所有権を移行する手法です。
事業譲渡との違いは、株主個人が相手企業と所有権の取引を行う点と、譲受側企業は元の会社の負債まで含めた全資産を承継する必要がある点です。中小企業の場合は経営者が全株式を所有しているパターンが多いので、結果として経営権まで移行するケースが多くなります。また、元の会社が取引先とのトラブルや簿外債務などを抱えていた場合は実行が困難になります。

 

不動産管理会社を事業譲渡するメリット


・まとまった資金を獲得できる
事業譲渡において買収側となる企業は高い資金力を持っている事が多く、主に事業地域の拡大や新規事業の開拓を目的としています。赤字の事業であっても、技能に長けた社員が居たり優良顧客が含まれている場合は売却可能なケースがあります。
事業譲渡によって事業を売却した場合、売却金額を直接現金で得られる事はメリットです
株式で得た場合は現金に換えるリスクと手間が発生しますが、事業譲渡の場合は債務の返済や新規事業の元手とする計画が立てやすくなります。
事業をリタイアする場合も経営権は譲渡先の企業に移行するので、既存の顧客や従業員に迷惑や混乱が及ぶリスクを回避することが可能です。

・事業の一部のみを売却可能
不動産管理業は管理保守から建築まで事業を複数持つケースが多く、不採算事業を切り離したい場合や特定の事業に専念したい場合に事業譲渡を活用する事が多いです。
譲渡する事業領域や従業員の契約先については、売却側が自由に設定できるので、自社に留めたい従業員や事業施設を残して譲渡を行う事も可能です。不動産管理会社は多額の債務があるケースも多いですが、債務を切り離して売却を行い、獲得した現金で債務を解消する事も可能です。元の会社を残しながら事業を整理できるので、経営者を変えずに立て直しを行いたい中小企業にとって事業承継は有効な手段です。
株式譲渡を行った場合は、債務まで含めた自社の所有権及び経営権を譲渡する事になるので、成立した際は譲受側企業が簿外債務や潜在的なリスクも引き継ぐ事になります。譲渡側企業にとっても自社の状況を全てまとめる必要があり、申告漏れがあった場合は契約をキャンセルされる可能性が高くなります。

・債権者保護手続きを省略できる
事業譲渡で債権や債務を移行させる場合は、個別に手続きを行う必要がありますが、移行を行わない場合は債権者への説明や同意を得る手続きは不要となります。
債権を移行する場合は、譲渡後の企業が取引先との契約手続を行う必要があります。債務を移転させる場合で、支払責任を双方に分散させる場合は、債権者への通知および同意が不要となる点はメリットです。
事業譲渡時点で債務を譲渡前企業と譲渡後企業が支払う場合、企業同士の個別同意は必要になります。ただし、譲渡後の企業が債務について全責任を負う場合は債権者にリスクが生じるので、債権者への通知および個人同意による承諾が必要となります。

 

不動産管理会社を事業譲渡する際のチェック項目


自社の管理物件と従業員の状況については事業価値に直接関係するので、目的に関わらずまとめる必要があります。
事業の一部売却である場合は、譲渡する事業領域や必要な従業員などについて分析して決める必要があります。
細かい調整が利くことが事業譲渡のメリットですが、手続き内容は非常に複雑になります。それゆえ、事業譲渡を行う目的と譲渡内容の協議・決定は出来るだけ早期に行う必要があります

自社の企業情報と譲渡内容をまとめたら、譲渡先として最適な企業を探す事が必要です。
相手企業が何を目的にしているのかを分析し、双方にメリットのある事業譲渡を行えるように検討する必要があります。
不動産管理業界は市場規模の拡大から人手不足が問題となっており、大手企業においても従業員の引継ぎは重要事項である場合が多いです。事業内容が一致している場合、未開拓地域への進出は買収側の企業にとってプラス要素です。新規事業の提供を目的とする場合、対応する資格を持った社員と既存の取引先を獲得できる事は、買収側にとって新規採用と教育、新規営業の時間とコストを省略できるメリットがあります。この場合は不採算事業でも将来的な収益を見込んで売却できるケースがあるので、自社の強みと事業の状況は正確にまとめておくと手続きがスムーズに運びやすくなります。

事業価値は売却額に直接関係する要素で、算定には専門の仲介業者の協力が必要になります。事業譲渡においては債務の引継が争点となる場合が多く、事業譲渡による増収で結果的な償却が見込めるかは重要なポイントです。不動産管理業の事業価値は『管理物件の状況』や『従業員の人数・保有資格』など多くの要素が関係します。
『管理物件の状況』には入居率や管理状態以外にも、展開地域の人口推移や賃料と管理費の割合なども含まれます。賃料収入を借上費用が上回っている場合、入居率向上のプランや契約解除の協議をオーナーと行えているかも重要です。管理物件のオーナーや管理組合との間にトラブルが起こっている場合、突然契約を切られる事によって大幅な減収となるリスクが高いので事前に対処していないと売却額は低くなります。
管理物件の獲得競争で高い賃料を保証して入居率が下がっている、格安の価格設定で無理に繋ぎ止めているなどで賃料収入を転貸費用が上回っている場合は赤字物件であり、そういった物件を抱えている企業は経営管理が行えていないと見なされます。譲受側企業は不利な要素を受けないよう選択できますが、譲渡側企業に債務やトラブルが多く残るのは望ましくないので可能な限り事前に対策しておくことを推奨します。
入居率が低い場合でも観光地や都市開発が行われている場所にある場合、地価の高さから転売によってキャピタルゲインを見込めるケースもあります。周辺に地下鉄が延伸する計画や観光地として再開発する動向の有無をチェックしておくと売却時の交渉が有利になる事があります。

事業譲渡の売却に関わる要素として、実行した時に売却額に対する消費税と法人税が発生する点は認識が必要です。事業譲渡は他の手法に対して税負担が大きくなりやすいので、税金の把握や対応策の実施が重要となってきます。

譲渡内容の中に課税資産が含まれている場合、譲受側企業は課税資産の額に現行の消費税率を乗算した金額を買取費用とは別に払う必要があります。譲渡側企業は消費税申告時に受け取った金額を納付します。課税資産が1億円で消費税が8%の場合、800万円の消費税が発生します。譲受側企業は消費税を考慮した事業計画を持っておく必要があります。

課税資産の定義として、土地以外の有形固定資産、無形固定資産、棚卸資産、営業権が該当します。
営業権は事業譲渡によって見込まれる増益額を評価した要素であり、「のれん」とも呼称します。営業権に関する公的な規定はありませんが、年間の営業利益と減価償却費を加算した営業キャッシュフローの3~5年分が相場とされています。現時点での事業価値とは別に加算するので、簿価と差額が生じます。譲受側企業はのれんを損金として算入する必要があり、毎年償却する事で節税できるメリットがあります。課税資産と非課税資産の法律上の分類は、消費税法第四条、消費税法第六条および別表第一で確認可能です。

事業譲渡における法人税は譲渡によって得た売却益に掛かる税金です。売却金額のうち譲渡側企業の資産と負債の差額分を超過した分を売却益として扱い、法人税の課税対象となります。法人税の税率は資本金1億円以下で年間所得800万円以下の場合15%、年間所得800万円超の場合は23.4%、資本金1億円超の場合は23.4%です。ただし、平成30年4月1日以降に開始した中小企業は最大23.2%となります。これに地方法人税、住民税、事業税を加算した30%程度が実効税率となり、売却益に掛かります。割合が高いので高額となる事が多く、譲渡側企業は法人税を払っても採算が取れるかを計算しておく必要があります。

事業譲渡を考える企業は経営状況やオーナーの年齢に不安を抱えている場合が多いですが、事業が好調であるほど事業譲渡は行いやすくなります。譲渡する事業の規模や内容にもよりますが、専門の仲介業者が代行した場合はプランの策定から企業譲渡の完了まで半年から1年程度掛かるとされています。事業譲渡の場合は従業員の雇用契約や既存の取引先との契約は引き継がれないので、譲受先企業が個別に行う必要があります。引き継ぐ事業規模が大きくなるほど負担が大きくなるので、大企業では事業譲渡を用いるケースは少ないです。

取引先との債務を併せて譲渡したい場合、高い収益を見込める事業である方が交渉を有利に進めやすいです。また、譲渡する事業領域の策定や交渉には余裕を持ったスケジュール設定が必要です。当初意図した通りの相手に事業譲渡が行えるとも限らないので、交渉を開始するタイミングは事業が好調なら早ければ早いほど良いです。

 

まとめ

近年の不動産管理業界は、少数の大手企業による寡占市場であり、価格競争によって管理物件の収入単価は下落を続けています。複数部門の維持が難しくなる中小企業が増加しており、事業譲渡を活用して立て直しを図るケースも増加しています。
そこで、会社の所有権を譲渡する必要がなく、交渉しだいで不採算事業を売却できるのが事業譲渡の強みです。

自由度が高いぶん手続きが複雑であり、事業価値の算定や税金に関する工夫などには専門の仲介会社の協力が不可欠です。事業譲渡は株式譲渡や会社分割など他のM&A形式に比べて掛かる税金が高くなりやすいですが、資産の分割や移行などによって課税対象額を低減できる可能性もあります。節税プランの策定に関しては法務・経理面の専門知識が必要なので、仲介業者との契約期間も事業譲渡のスケジュールに組み込んでおく事をおすすめします。
譲受側企業にとっては引き継ぎたい要素を選んで獲得できる事がメリットであり、債務など不利益な要素を譲渡したい場合は高い事業価値を持つ事業を併せて売却すると交渉が有利となります。
手続きや交渉には時間を要するので、事業譲渡はオーナーの年齢や業績に余裕のある状況で決断する必要があります。

不動産管理会社の事業譲渡を検討する際のチェック項目
従来の不動産管理業界は、1度契約を行ったら永続的に固定収入が得られるストックビジネスとして高い安定性を持っていました。
しかし、2001年に不動産管理規定の厳格化が行われて以降は、管理体制の良さと経営プランの充実度で業者を選ぶ傾向が、物件のオーナーと管理組合に広まっていきました。このため、業者間の競争も更に激しくなっています。
不動産業界の市場規模は拡大を続けており、顧客となる総世帯数も増加を続けています。大手企業間における管理サービスの水準は拮抗状態であり、価格競争によって他社との差別化が図られている状態です。スケールメリットによる恩恵が強化されているために、中小企業にとっては厳しい状況となっています。この場合、M&Aという選択肢の検討をおすすめします。

そのための基礎知識として、本稿では不動産管理会社の事業譲渡を行う際のメリット及び注意点を解説します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年1月22日
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2019年1月22日
不動産管理会社のM&Aを実施する前に考えておきたいこと
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