2018年12月1日 土曜日

M&Aの事例から読み解く潮流《ラーメン業界》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

「後継者不在や店舗拡大のため、ラーメン屋のM&Aを考えているけど、実際にどんな事例があるのだろうか」

いざラーメン屋のM&Aを考えてみた時に、実際の事例を知りたい方もいらっしゃるでしょう。

ラーメン屋のM&Aを実施する上で、最近のラーメン業界の潮流や事例を押さえておくことは大切です。

この記事では、ラーメン業界におけるM&Aの動き、最近のラーメン業界のM&A事例、ラーメン屋のM&Aを実施する上でのポイントについて解説します。

 

ラーメン業界におけるM&Aの動き

ラーメン屋は「出店したい業態」としてトップ5に入るほど人気がありますが、営業1年以内に閉店する店舗が約4割、3年以内に閉店する店舗が7割以上という調査もあるほど、競争が激しい業態です。

加えて、近年は人口減少によって顧客が減っていることもあり、廃業する店舗も多数あります。

そんな中、同業種や隣接業種で資本力のある大手チェーンが、M&Aを実施することで店舗数や営業エリアを拡大している状況です。

大手チェーンがM&Aを実施するのは、店舗拡大のためだけではありません。

小さくてもオリジナルのレシピで人気を博しているオンリーワンのラーメンブランドの買収や資本提携を行うことで、商品開発力を上げたいという目的もあります。

 

M&Aを受ける中小ラーメン店側にも、大きなメリットがあります。

従業員の労務環境改善や、共同調達による仕入れコストの削減、店舗拡大や仕入先拡大、海外展開など、大手チェーンの資本力を活用することで、新たな展開を視野に入れることができるからです。

また、店主が高齢になって体力的にラーメン屋を続けることが難しくなり、後継者も不在といった場合も、M&Aを受けることで廃業を免れた事例があります。

地元で人気を博していた店なら、スープの味や独自性の高いメニュー、店の理念や経営方針に賛同してくれる買い手を見つけることができれば、顧客や従業員の雇用を確保したまま、店を存続できます。

 

最近のラーメン業界のM&A事例

それでは、最近のラーメン業界におけるM&A事例を紹介していきます。

 

カリスマラーメン店が、労務環境の整備や海外展開のため大手外食チェーンと資本提携

大きいところでは、2016年6月にカリスマラーメン店の株式会社「せたが屋」が、最大手牛丼チェーンの株式会社吉野家ホールディングスとの資本提携を発表しました。

吉野家HDは、せたが家創業者の前島司氏から、新たにせたが屋の株式を66.5%取得しました。

せたが屋は「ミスターラーメン」と呼ばれるカリスマ店主の前島氏が東京都世田谷区に立ち上げた会社で、「せたが屋」「ひるがお」などを代表とする8ブランドのラーメン店舗を展開しています。

うるめ煮干しの魚介系スープに、動物系スープや昆布・鰹節の旨味と、3年熟成下総醤油ベースの特性かえしを合わせた「せたが屋ラーメン」で、多くのメディアに露出していました。

昼は塩ラーメン専門店の「ひるがお」、夜は「せたが屋」での「二毛作」営業スタイルも独特で話題を呼びました。

 

前島氏は、吉野家HDの資本提携を受け入れた理由として、せたが屋社内の労務環境改善、仕入先の拡大、食材調達のスケールメリット、吉野家HDの資金力や海外アライアンスを活用した海外展開などを挙げています。

吉野家HDは、カリスマオーナーの前島氏から新業態を生み出す力を学びたい、海外展開などで協力したい、と語っています。

 

オンリーワンのラーメン店が、出店ペースを上げるためのM&Aを実施

最近の例では、2018年7月に、関西の人気ラーメンチェーン「サバ6製麺所」(運営会社マリブ)が、「まいどおおきに食堂」を運営しJASDAQにも上場している株式会社フジオフードシステムに買収されました。

フジオフードは「サバ6製麺所」名で新会社を設立し、株式の90%を取得しました。

サバ6製麺所は、鶏ガラベースのスープにサバ節と醤油ベースのタレを加えた独特の味わいが、メディアに数多く取り上げられてきました。

 

マリブ側は既に19店体制で店舗運営していましたが、出店ペースを速めるために資本力が必要だったため、M&Aを決めたようです。

フジオフードは今後、300店体制までの拡大、新しいサイドメニューの開発や、調理している場を見せながらのライブ感演出などを考えているそうです。

 

後継者不在の老舗が、その味のファンだった同業者に事業譲渡した事例

もう少し規模が小さい事例として、岡山県で老舗ラーメン屋「梶屋」が、「えびすらーめん」などを経営する株式会社IPPOに事業譲渡した事例を紹介します。

「梶屋」は、「トンカツ中華そば」や大きなエビフライが3本直立する「えび丼」などで人気を博していましたが、臨時休業や営業時間短縮などの末に、2015年から長期休業に入っていました。

大将の石原氏も60代後半のため、体力的にも存続が難しかったのかもしれません。

 

しかし、「梶屋」の一ファンでもあったIPPOの川崎社長が、「梶屋を存続させたい」という熱い思いから事業譲渡を受けることになりました。

そして、ホテルで腕を磨いた現店長に、梶屋の大将から技術やノウハウが引き継がれました。

 

後継者不在の老舗が、隣接業者に株式譲渡した事例

同じく後継者不在を解決したM&A事例として、2016年5月、福岡県の有限会社「因幡うどん」が、同じく福岡県のラーメン店「博多一風堂」などを経営する株式会社「力の源ホールディングス」に株式譲渡された事例を紹介します。

因幡うどんは1951年に創業、地域住民に長く愛された老舗うどん店ですが、後継者不在から、店の伝統を理解し、事業をさらに発展してくれる信頼できる会社へのM&Aを検討していました。

因幡うどんの暖簾は力の源グループが承継し、因幡うどんの代表取締役も技術顧問として関わることで、これまで培ってきた技術や歴史が継承されます。

 

ラーメン屋のM&Aを実施する上でのポイント

ここまでラーメン業界のM&A事例を紹介してきましたが、実際にラーメン屋のM&Aを実施する上でのポイントは、下記の5点になります。

 

M&A実施の目的を明確にする

まず、なぜラーメン屋のM&Aを実施するのか、その目的を明確にしましょう。

一般的には、M&Aの目的としては「事業承継」「事業の集中と選択」「資金調達」「生き残り」などが挙げられます。

 

「事業承継」は、ラーメン屋の後継者がいない場合にM&Aを行うことで、廃業を避け、従業員の雇用を確保し、ラーメン屋の技術やノウハウも承継されるといったものです。

先ほど紹介したM&A事例にも、M&Aによって新たに後継者が見つかり、地域で長く愛された老舗店が存続できた事例がありました。

「事業の集中と選択」は、採算が取れる店舗とそうでない店舗を選別し、採算が取れる店舗に資源を集中するために、そうでない店舗を売却するといったものです。

「資金調達」は、新店舗のために採算が取れない店舗を売るといった前向きなケースから、資金繰りに苦しくなったため店舗を売るといったケースまであります。

「生き残り」は、例えば近所に大手のラーメンチェーン店ができたために売上が急減したことから、他のチェーン店の傘下に入ることで生き残りをかけるといったものです。

M&Aの目的を明確にし、それに合った戦略を立案することは、M&Aが成功する確率を上げるために必要不可欠です。

 

過去のM&A事例をチェックする

M&A実施の目的を明確にしたら、似た目的のM&A事例が過去にないかをチェックして参考にしましょう。

しかし、ラーメン屋のM&A事例は、インターネット上で探すのは限りがあり、なかなか難しいです。

そのため、ラーメン業界や飲食業界に精通し、過去のM&A事例をストックしているM&Aアドバイザーに相談することをおすすめします。

 

売却先にとってのメリットを意識する

自らがどんな目的でM&Aを実施したいのかを考えるとともに、売却先が自店を買うことでどんなメリットがあるのかを意識することは大切です。

一般的には、M&Aにおける売却先のメリットとして、「事業・店舗の拡大」「事業の多角化」などが挙げられます。

「事業・店舗の拡大」は、売却先がM&Aによって営業エリアを拡大したり、技術力・ノウハウを強化したりすることです。

例えば、売却先が未開拓のエリアに自店があったり、スープの味や経営ノウハウなどに独自のものがあったりすれば、売却先に十分メリットを与えることができます。

「事業内容の多角化」は、売却先がM&Aによって新規事業や隣接事業に進出することです。

例えば、売却先がご飯物などの隣接業の店舗を経営していて、新たにラーメン店を出したりメニューにラーメンを加えたりしたい場合、技術やノウハウを提供できるのなら、売却先にメリットを与えることができます。

 

このように、売却先はどんな目的でM&Aを実施し、自店を買うことでどんなメリットがあるのかを意識し、そのポイントに合うように自店の事業価値を伝えることが重要です。

 

タイミングをよく考える

M&Aにおいては、タイミングがとても大切です。

M&Aには、売り手と買い手のマッチング、買い手の経営状況などを示すためのデータや資料の準備、そして交渉などに時間がかかります。

そのため、経営者の健康問題や経営難などの限界が訪れる前に、早めの準備をしておきたいものです。

 

そして最も大切なのは、事業価値の高いタイミングで、できるだけ高く売却することです。

M&Aを実施する前に、現状での利益率を上げて財務内容を健全にしておいたり、社会や同業者の動きに注目したりするなど、ベストなタイミングを選びたいものです。

 

M&Aの専門家を大いに活用する

事業価値の高いタイミングでM&Aを実施するには、専門家であるM&Aアドバイザーを大いに活用することが重要です。

ラーメン屋のM&Aなら、飲食・外食業界に詳しいアドバイザーに相談することで、現在の業界状況や具体的なM&A事例などを教えてもらうことができます。

M&Aを実施する目的に合った戦略を、専門家の立場から立案してくれます。

また、事業価値を高めるために、利益率を上げたり財務面を健全にしたりするための適切なアドバイスももらえます。

さらに、自店の事業価値が高いことを効果的に買い手に伝えるためのデータや資料も、万全に準備してくれます。

 

まとめ

ラーメン屋のM&Aを実施するためには、目的を明確にし、それに応じた戦略を立てることが重要です。

戦略を立案するのは素人には難しいため、専門家であるM&Aアドバイザーを大いに活用することをおすすめします。

事業や店舗を高く売るためには、自店の事業価値を客観的に分析し、買い手に効果的にアピールする戦略が必要不可欠だからです。

成果報酬型のM&Aアドバイザーなら、M&Aが成功するまでアドバイザー報酬は発生しないので、M&Aを実施するか悩んでいる時点でも、安心して相談できるでしょう。

M&Aの事例から読み解く潮流《ラーメン業界》
「後継者不在や店舗拡大のため、ラーメン屋のM&Aを考えているけど、実際にどんな事例があるのだろうか」
いざラーメン屋のM&Aを考えてみた時に、実際の事例を知りたい方もいらっしゃるでしょう。
ラーメン屋のM&Aを実施する上で、最近のラーメン業界の潮流や事例を押さえておくことは大切です。
この記事では、ラーメン業界におけるM&Aの動き、最近のラーメン業界のM&A事例、ラーメン屋のM&Aを実施する上でのポイントについて解説します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2018年12月1日
ラーメン屋の事業承継でお困りではないですか?
2018年12月1日
ラーメン屋のM&Aを実施する前に考えておきたいこと
WEBからお問い合わせ
当社はお客様の事を最優先で考える成果報酬型エージェントです。
匿名をご希望されるお客様には、会社情報など一切公開せずにお問い合わせ頂く事が可能です。

お問い合わせ内容

氏名

電話番号

メールアドレス

メールアドレス(確認)

業種

会社名

お問い合わせ内容