2019年6月25日 火曜日

製造業(メーカー)のM&Aを実施する前に考えておきたいこと

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

製造業は、アパレルメーカーや食品メーカー、自動車メーカーなど多岐に渡り、私たちがふだん目にしている製品の生産を行っています。日本の文化や産業を支えてきた製造業は、国内総生産の約2割を占める中核産業です。製造現場は、国内だけにとどまらずアジアを中心に、生産工場が海外へと展開されるようになりました。製造業の積極的な海外進出の立役者には、M&Aが大きな存在感を発揮しています。この記事では、M&Aが製造業界にもたらす影響力と、製造業会社がM&Aを利用する目的をご紹介していきます。

 

製造業(メーカー)のM&A

M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の頭文字をとったもので、主に企業の買収・合併を狙ったものです。企業がM&Aで使う目的は、他業種企業を買収し新規事業の多角化を図ること、同業種企業とのM&Aで中核事業の強化を狙うことです。M&Aは、近年の国内中小企業が頭を抱えている後継者不在を解決するために、頻繁に利用されるようになってきました。

日本メーカーの多くは、独自の技術や特殊な加工技術を持っていますが、地域密着型の中小企業が多いです。地方にある小さなメーカーでは、高い技術スキルを持った人材が少なく、経営者の跡を継ぐ人間がいないことから、後継者不足問題が懸念されています。つまり、中小企業のメーカーの経営者は、会社の廃業を選ばざるを得ないのです。会社の廃業で、高いスキルを持った技術者の雇用を守るために、企業の新規事業への参入や、コア事業の強化のために、製造業界で活発にM&Aが行なわれるようになりました。

 

製造業(メーカー)のM&Aを行う理由は?

製造業界の企業は、どのような目的でM&Aを行っているのでしょうか。中小企業で多く見受けられる後継者不足問題による、やむをえない理由によるM&Aもあれば、企業の発展、グローバル化など積極的なM&Aを行う企業もあるでしょう。では、製造業がM&Aを行うのにはどんな背景があるのか、製造業界が抱えている現状と、問題を解消することを目的としたM&Aが行われている理由をご説明していきます。 

 

後継者不足の解消

住宅地のなかに、小さな町工場を見かけたことがある人もいるのではないでしょうか。製造ラインの機械化が進んできた業界では、繊細で伝統的に継承されてきたスキルを持った技術者は、貴重な存在です。町工場には、高い製造技術を持った職人が、家族を養うため朝から晩まで働いています。その状況下で、経営者になにかあれば雇用が守れなくなってしまいます。ただ、経営者も日々の作業の忙しさから後継者の育成に時間をかけることができず、会社を廃業することになるケースも少なくはありません。

M&Aの事業売却を行なえば、会社を残しつつ、買収側の企業から経営者に相応しい人材に後継者として、会社を引き継がせることが可能です。

 

新たな技術、ノウハウの獲得

個人経営の製造業会社になると、特定の人物しかできないような業務が、多く見られるようになります。同じ人間が、作業を何十年も繰り返し行ってきたことで、安定した生産性は保てるものの、作業の質が上がることはなくなりました。つまり、特定の業務をこなせる人間を増やさなければ、製造業界の動きについていくことができなくなります。

同業種とのM&Aを行うことで、売買した会社の製品開発の技術や手法、ノウハウなどを獲得することができます。その結果、新たな視点で開発された製品が市場に出回るようになり、経営業績の向上が望めるのです。

 

グローバル化

製造業の市場は年々減少傾向にあり、経済のグローバル化などを理由に、既存事業を継続していくだけでは、会社経営を安定させることは難しくなってきています。

そこで、海外製造業とのM&Aで新規事業への参入や、シナジー効果による企業全体の底上げを利用することで、市場内での競合優位性を保つことが可能となります。M&Aを利用する企業がグローバル化を目指していくためには、自社の経営理念や強み、M&A戦略の意図を明確に伝えていく必要があります。海外事業への進出は、法規制の変更や経済環境の変化などから、国内でのM&Aよりも高いリスクを背負うことになります。ただし、現地で適切な情報収集などリスクマネジメントを行なえば、M&Aで企業のグローバル化を進めていくことができます。

 

製造業(メーカー)のM&Aを行うタイミングは?

製造業の経営者は、第二の人生を歩むため、市場内の勢力図が大きく変動したときや、会社が赤字経営に陥ったときに、M&Aの活用を検討し始めます。経営者がM&Aを行うタイミングを、詳しく見ていきましょう。

 

経営者がリタイアを決めたとき

経営者は、さまざまな理由から、トップの座から退こうと考え始めます。製造業において経営者の年齢は、65歳以上がおよそ40%となっています。経営者は、多くの従業員をとりまとめ、再編する業界内の動向を常にうかがう必要があるのです。歳を重ねていけば、体力面・精神面で経営者としての役割を担うことにプレッシャーを感じ始めます。そこで経営者は、会社経営に限界が来る前に、後継者探しのためにM&Aを活用します

早ければ40代で早期に会社を後継者に引き継がせる、アーリーリタイアが多く見られるようになってきました。趣味に没頭するために、完全に仕事から離れる完全リタイア、自分のできるペースで働きながら、アルバイトで収入を得るセミリタイアで、ストレスフリーな生活を送ることが目的です。M&Aを活用して経営者としての立場から離れ、会社の売却益で新しいキャリアをスタートすることが可能なのです。

 

業界再編の動きが見られるようになった

あらゆる業種で、業界再編のタイミングがやってきます。ひとつは、人口減少による収益の低下です。メーカーは、製造した製品を加工・組み立てメーカーに販売し、個人や企業などの消費者へマーケティング、販売していきます。人口が減少すれば、消費者も比例して少なくなり、収益が落ちることで製品開発に多額のコストをかけることができなくなります。その結果、以前のような収益が望めず経営悪化に陥ってしまいます。そのうえ、同じ地域に同業者が存在することで、需要と供給のバランスが崩れ供給側に偏ることで、製品の値段が急激に下落し、値崩れしてしまいます。

平成30年7月9日に、産業競争力強化法等の一部を改正する法律が施行されました。国内産業の競争力を強化し、新陳代謝を促すことで生産性を向上させることが目的です。事業再編の円滑化を図ろうと経済産業省が企てました。事業再編の荒波に飲み込まれない策として、中小企業の同業者同士で行なわれる、水平統合というM&Aが目立つようになりました。中小企業は、水平統合で経営の安定を図り、大手企業は、地域に密着した企業の買収で更に知名度を高めようと画策しています。

 

経営難になったとき

赤字経営でも、自分の会社を売却することができるのか、不安に感じる方がいるのではないでしょうか。M&Aを利用して会社の買収を検討している企業は、売却企業の現在の経営状態を精査し、買収する価値があるのかを判断します。

しかし、会社経営に回復傾向があれば話は変わってきます。たとえば、他にはない事業に特化した企業なら、興味を持って高く買い取ってくれる場合があります。特許を取得した商品やサービスを保有していれば、事業価値が高まり大手企業から熱視線を浴びることでしょう。さらに、シェアの拡大を狙っている大手企業の場合、関連している事業であり、シェア拡大に沿った条件などをクリアしていれば、赤字経営の場合でもM&Aが成功する場合があります。絶好のタイミングを逃さないためにも、経営者は諦めずに世の中の動きをチェックすることが重要なのです。

 

製造業(メーカー)のM&Aを実施するのは誰か?

製造業界の企業がM&A行う理由と、タイミングについてお話を進めてきました。では、実際にどんな製造会社がM&Aを実施しようとしているのでしょうか。M&Aの戦略を、4つご紹介していきます。

  • 「水平型M&A」で中核事業の強化を図る企業
  • 「垂直型M&A」でサプライチェーンの効率化を図る企業
  • 「コングロマリット型M&A」で他業種と統合し、新規事業への参入を狙う企業
  • 「周辺市場進出型M&A」で新たな市場の開拓を目的とした企業

 

「水平型M&A」で中核事業の強化を図る企業

水平型M&Aは、同業種・同形態の企業同士で行われるM&Aです。主に、双方の企業の規模を大きくすることや、事業エリアの拡大などのシナジー効果を狙ったM&Aスキームです。買収側は、規模・事業エリアの拡大により、事業エリアへの露出度が増えることで認知度が高まります。さらには、売却側が構築してきた顧客ルートの販路開拓で、原材料や商品などの仕入れが有利になります。既存の事業に注力することができるので、M&Aを行っている途中に、自社経営のバランスが崩れることは少ないです。

 

「垂直型M&A」でサプライチェーンの効率化を図る企業

垂直型M&Aは、製造から販売までの業務プロセスを一貫して行うことを目的とした、同業種の中でも業態の異なる企業と行うM&Aスキームです。自動車メーカーにたとえると、自動車部品メーカーが自動車の軽量化や安全性をテーマに、自動車運転技術の開発やEV化を進めていくなかで、大手素材メーカーの研究・開発に着目しました。大手素材メーカーの素材の研究・開発を取り込み自動車メーカーのあらゆるニーズに応えることで、大きくビジネスモデルを変化させることに成功しています。同業種でも業態の違う企業とのM&Aで、企業内で製品の製造から販売までを完遂することが可能となり、幅広い顧客ニーズに対応することができます。

 

「コングロマリット型M&A」で他業種と統合し、新規事業への参入を狙う企業

コングロマリット型M&Aは、他業種の企業を買収し、新規事業に参入することを目的としたM&Aスキームです。コングロマリットは、他業種企業を買収することで、自社の商品やサービスにはない、技術の習得・ノウハウを獲得することが可能です。さらに、優秀で豊富な経験を持つ人材を即戦力として獲得することができます。国内の急速なグローバル経済の発展により、時間をかけずに新規市場の開拓や新規事業の参入に力を入れる必要があります。コングロマリット型M&Aであれば、短時間で経営資源の確保と、高いシナジー効果を得ることが可能なのです。

 

「周辺市場進出型M&A」で新たな市場の開拓を目的とした企業

周辺市場進出型M&Aは、他業種もしくは業態の異なる企業の買収により、新商品や新たな市場の開拓を目的としたM&Aスキームです。コングロマリット型との違いは、新たな商品・サービス開発と多角化の2つの側面があることです。

 

製造業(メーカー)のM&Aの相談先は?

いざM&Aを始めようと思い立ったとき、なにから始めればいいのか分からないですよね。M&Aを行うときの相談先として、FAやM&A仲介業者、弁護士など、選択肢はいくつかあります。相談内容によっても、相談先は大きく変わってきます。そこで、業者ごとにどんなサポート体制を敷いているのかご紹介していきます。

 

FA(フィナンシャルアドバイザリー)

FAは、M&Aのプロフェッショナルです。M&Aの計画立案から、クロージングまでの総合プロセスのサポートを行います。FAを企業を売却する側と買収する側に付けて、M&Aにおける助言業務を行うことで、顧客の利益を最大限に引き出すことができます。また、海外企業を介してのM&Aや上場企業同士でのM&Aで利用されています。

 

M&A仲介業者

M&A仲介業者はFAとは違い、企業の売却側、買収側の中立的な立場で、双方の会社の要望などをすり合わせてクロージングまで導きます。仲介業者は、幅広いネットワーク網から顧客の要望する企業を探し出し、初期段階の相談からクロージングまで、専門的なアドバイスを得ることが可能です。さらに、売却側と買収側との間に介入することで、円滑な交渉と的確な助言により素早く利害を一致させることができ、短期間での成約が可能となります。

 

弁護士

近年、M&Aが恒常化されていくにつれて、M&Aの知識や経験を豊富に持った実績のある弁護士が増えてきました。M&Aにおける弁護士の役割は、契約書の作成や法務デューデリジェンスです。M&Aに強みを持った弁護士事務所では、仲介からクロージングまでのM&Aプロセスのすべてを支援する弁護士が多くなってきました。さらに、M&Aの手続き上で起こりえる、法律的なトラブルにも対処できるため心強いサポーターでもあります。

 

まとめ

製造業の生産現場では、あらゆるシステムが機械化して、製品開発のスピードが上がってきています。市場内で安定した地位を確立するため、話題性のある商品、実用性・需要があって長く顧客に愛される商品の開発を進めていく必要があります。そこで、各製造業メーカーは、M&Aを活用した同業種、異業種との企業売買を行い、新規販路の開拓、新規顧客の獲得に乗り出しています。製造業のM&Aによって、市場のグローバル化に拍車がかかってきています。M&Aの新たな可能性に期待を寄せながら、専門家のサポートを受けてリスク管理をしていくようにしましょう。

製造業(メーカー)のM&Aを実施する前に考えておきたいこと
昨今、製造業のM&Aが大きな注目を集めています。本稿では、M&Aが製造業界にもたらす影響力と、製造業会社がM&Aを利用する目的について、詳しくご紹介していきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年6月25日
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