2019年6月10日 月曜日

M&Aの事例から読み解く潮流《製造業(メーカー)》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

国際的に競争が激化した結果、日本のモノづくり産業は今まで以上に労働生産性の向上が求められるようになりました。そのため、企業基盤を安定させながらも、創造性あるイノベーションを推進する人材の育成・確保がマストになりつつあります。

このような人材を短期間で確保できるのがM&Aです。

人材の確保以外に、製造業会社はM&Aを活用してどんなメリットがあるのでしょうか。今回は実際にあった製造業のM&A事例をご紹介しながら、製造業の動向を追っていきたいと思います。

 

製造業(メーカー)におけるM&Aの動き

日本国内で、年間に何件のM&Aが行われているのかご存知でしょうか?

『2018年度版中小企業白書』によると、2018年度のM&A件数は3,850件、金額は29兆8,802億円で、金額・件数ともに過去最高を記録しました。実は、2012年度から数えれば7年連続で増加件数を辿っています。

この背景には、諸発展途上国が著しく成長を遂げたことで、企業間での争いが激化し、収益力が落ちたことが挙げられます。さらには、少子高齢化による人口減少で起こる後継者不足や、新製品の高いクオリティを要望する市場のニーズに応えることができずにいる企業が増えてきました。

後継者不足問題や特殊な人材・技術の確保のため、製造業会社はM&Aを頻繁に活用するようになりました。

 

製造業の現状、動向

日本国内では、海外産業の著しい発展に触発されて、製造業界でのモノづくりに対しての動きが激しくなってきました。これまで、18世紀以降に導入された工場の機械化を始め、電子工学や情報技術を用いた一層の機械などの自動化などにより、国内産業は日本経済の安定を保ってきました。近年では、第4次産業革命によって、工場の稼働状況や個人の健康状態などを分析し、ネットワークで一括管理を行うシステムが普及してきました。

製造業界は、日本経済に大きな影響を与えている産業の一つです。他国に遅れをとるまいと、日本の製造業はアジア諸国を中心にマーケットの拡張を推し進めています。いわば製造業のグローバル化です。

製造業の国内市場は、飽和状態になっており企業全体を強化していくのには限界があります。そこで、グローバル化を図る企業は製造拠点を海外に置き、新たな市場の獲得と企業製品の認知度を高めていく戦略を立てました。さらに、日本の高い製造技術と海外企業独自のアイデアやノウハウを獲得し、製造業の国内市場から一歩抜け出そうと策を練っています。

 

製造業界への逆風

製造業界に今、多くの問題が発生しています。昨今、国内の企業で多く見られる労働者不足や、法改正によって起こる事業再編など、あらゆる出来事が製造業界を揺るがしています。

製造業に吹いている逆風とはどのようなものなのでしょうか。

 

労働者不足

現在、製造業界で大きな悩みの種となっているのが、少子化による労働者不足です。

日本国内では、海外産業の発展に触発され、製造業の現場が慌ただしくなってきました。製造現場では、製品の需要が求められている一方、人手不足が顕著に露呈し、製品製造の生産性低下を招いています。さらには、製造現場のロボットの導入などによる、業務のオートメーション化を進めていくにあたり、デジタルに強い特殊なスキルを持った人材の確保が急務です。

機械のデジタル化に成功したものの、データを利用した付加価値の創出ができなければ、データの分析結果から製品製造の創出を最大限に引き出すことができません。

製造業のみならず、あらゆる業界で人手不足が主要課題となっています。

 

事業再編による、他業種の製造業界参入

2018年5月16日に、通常国会にて「産業競争力強化法等の一部を改正する法律」が成立されました。これは、経済産業省が日本経済の軌道の安定と向上、企業の経営基盤を強化することを目的として既存の法律の一部を是正したものです。

自社の株を使用し「株式対価M&A」の実施が容易となったことで、買い手企業にとって短期間での多業種への新規参入や事業拡大などの多角化を目指したM&Aが頻繁に行われるようになりました。

この法改正により、他業種が製造事業に参入してくるようになった結果、製造業を中核事業としてきた会社は、マーケットでの立ち位置を失うことになってしまいました。

 

最近の製造業(メーカー)のM&A事例

ここまでご紹介した問題を解決する術として、M&Aを活用した企業の売買が頻繁に行われるようになっています。市場での生き残るため、また既存事業の強化を図るために実際に行われた、製造業のM&A事例をご紹介していきたいと思います。

 

「旭化成株式会社」が、米国の自動車内装材メーカー「Sage Automotive Interiors」を買収

・M&A内容

2018年9月、ヘルスケア・住宅・マテリアルの3つの領域で事業展開を行っている「旭化成株式会社」が、米国の自動車内装材メーカー「Sage Automotive Interiors」(以下Sage社)を約791億円(2018年7月18日現在)で買収しました。

 

<買収側企業>

・会社概要
「旭化成株式会社」

1922年に創業された総合化学メーカーです。日本経済の発展のため、積極的な事業の多角化により事業ポートフォリオの転換を常に図り続け成長を遂げてきました。

現在は、「マテリアル」領域(ケミカル・エレクトロニクス・繊維事業)、「住宅」領域(住宅・建材事業)、「ヘルスケア」領域(医療・医薬・クリティカルケア事業)の3つの領域で、積極的に世の中にイノベーションを起こし、存在感のある企業を目指しています。

 

<売却側企業>

・会社概要
「Sage Automotive Interiors」

アメリカのサウスカロライナ州グリーンビル市に本社があり、自動車内装材に用いる、各種繊維製品の開発・製造・販売を行っています。シートファブリック(織物、編物製のカーシート)市場では、グローバルNo.1シェアを保持しています。

 

・買収に至った経緯

旭化成株式会社が、マテリアル領域の重点分野として自動車分野向け事業の拡大を図っており、グローバル拠点の確立と自動車・部品メーカーとの関係強化などに取り組むことを目的としてM&Aを利用した買収を行ないました。自動車内装材に使用される、各種繊維製品の開発・製造・販売を手掛け、Sage社の内装材に関する加工技術、高いデザイン力、総合提案力を参考に自動車分野でのポジション強化と自動車市場のニーズの把握が目的です。

 

・今後の流れ

Sage社が保有しているデザイン力とマーケティング力、旭化成が保有する樹脂製品、繊維製品などの技術や製品の組み合わせで、車室空間に関するトータルデザインやソリューションの提案と提供で高いシナジー効果を期待しています。

 

衣料用副資材の製造・販売事業「横浜テープ工業株式会社」が、同業種の「株式会社三景」へ事業譲渡

・M&A内容

2013年2月に、「横浜テープ工業株式会社」が、世界各地に大きなネットワーク網を張る「伊藤忠グループ」と資本関係を結び、同業種・同形態の「株式会社三景」への事業譲渡によるシナジー効果を期待してM&Aを行いました。

 

<譲渡側>

・会社概要
「横浜テープ工業株式会社」

横浜テープ工業株式会社は、値札や選択ラベルなどの衣料用副資材の製造販売会社です。1961年に、日本で初めてプリントシールの生産を始めたことでも当時、注目を浴びました。日本、海外合わせた7拠点でアパレル関係のモノ作りに携わっています。

 

<受譲渡側>

・会社概要
「株式会社三景」

1955年に創業された、服飾資材全般の生産販売を行っている会社です。高い技術やノウハウで国内トップメーカーに上り詰め、サービス・品質向上に努めています。現在は、伊藤忠商事の子会社として、アパレルや服飾資材の分野でグローバル展開を図っています。

 

・譲渡に至った経緯

ファッション・アパレル業界では、国内のみならずアジア諸国を中心に、世界中で競争が激化しています。横浜テープ工業の会社規模を考えると、将来的に自社運営だけではこの業界に生き残ることに不安を感じ、M&Aを利用することにしました。さらには、後継差不足や経営者の健康上の問題から、2011年頃から事業譲渡の検討を始めていました。

 

・M&A後の成果は?

M&Aで会社を譲渡した横浜テープ工業は、生産拠点を海外へ拡充したことにより、販売先を広げることが可能となりました。また、ラベルなどの服飾副資材生産海外を海外で行ってこなかったため、三景との事業譲渡により、製造から販売までの業務プロセスを一貫してサービス提供できるようになりました。

 

製造業(メーカー)のM&Aを実施するうえでのポイント

製造業会社がどのような経緯でM&Aを行うのか、ご理解いただけましたか?では実際に、これからM&Aで企業の買収を考えている方に向けた、企業選びのポイントをいくつかご紹介していきたいと思います。

 

独自の技術を持っている

製造業界のM&Aでは、売却側の企業に独自の技術があるかどうかが交渉成立の決め手となります。売却側企業が、ハイテクで精密性の高いシステムを保有しているのはとても魅力的です。しかし、今や工場にある機械のデジタル化が珍しくなくなったことで、突出した強みを持つ企業にしか買い手がつかなくなってきました

メッキ会社に例えると、簡単な形状の部品にメッキ処理を施す技術は一般的ですが、複雑な形状や長尺の部品などへのメッキ処理には高いレベルの技術が必要です。中小企業の中には、このような高い加工技術を持った製造企業は多くはなく、会社としての事業価値は高く評価されます。

また、特許取得済みの特殊な加工技術を保有している企業は希少価値が高く、売却側の企業にとっては、想像以上の売却益が期待できる場合があります。買い手側の企業は、製造業に精通しているアドバイザーを介して、売却側企業を買収するにあたってのポイントを精査してもらいましょう。

 

取引先との間に良好な関係があるか

売却側企業の顧客リストの内容を見れば、その会社が取引先と安定した取引を行っているかどうか、信頼度を測ることができます。取引先件数が多ければ良い会社と一言では言えません。

見るべきポイントは、顧客との取引年数です

卸売業者などと古い付き合いがあり、安定した取引を行っていることが分かれば、売却する企業と取引先との信頼度を見極めることが可能です。

万が一M&Aを行うことになった場合、売却側企業にとって顧客リストは会社の売却額相場を左右する重要な要素なので、日常から取引先との良好な関係作りを心がけるようにしましょう。

 

M&A成立後の統合プロセスが明確か

M&Aは、クロージングをしてからが重要だということを、双方の企業が留意しておく必要があります。

企業の文化や人が融合するM&Aでは、統合後も安定した経営を行うために、統合プロセスの全体像が合致し、擦り合わせできるかどうかがM&A成功のカギとなります。M&A成立後の統合作業をPMIと呼び、人や企業文化など意識改革を行う「ソフト面の統合作業」、会社経営における経理や人事などのシステム業務を行う「ハード面の統合作業」の両面を整理し伝えることが重要です。

明確なビジョンを持たないままM&Aを行ってしまうと、統合したシステムなどに不具合が生じるなど、会社に悪影響をもたす場合があります。

また、PMIを行うことにどんなメリットがあるのかを従業員に予め伝えておくことで。現場からの不満の声が出ることが無くなります。双方の会社にシナジー効果をもたらすM&Aを行うためには、M&A仲介業者や弁護士などといった専門家の力を借りましょう。

 

将来性があるか

M&Aを利用した企業の買収を検討する際に、企業選びのポイントで優先順位をつけるのであれば、売却側企業に将来性があるかどうかです。

企業の将来性とは、その企業が市場のニーズを捉えた動きを行なえているか。人口の減少による市場の縮小の影響を受けているのにも関わらず、国内市場に依存しているのではないか。長期的なビジョンが明確にあるのかどうか。従業員をしっかりマネジメントできる運用体制があるのかどうか。…などといったポイントです。

買い手側の企業がM&Aを行う際には、ポジティブな要素とマイナスポイントをしっかりと調査し、評価した上で手続きを進めることが大切です。

 

まとめ

海外諸外国の著しい発展や、輸出入コストや関税などが影響し、日本の製品需要が低下しつつあります。

国内産業だけで、日本経済を潤すことが困難になってきた時代の風潮から、積極的なM&Aで海外へ事業展開が行われるようになりました。海外に製造拠点を置くことで、自社製品をグローバル展開し、同時に企業アピールすることに成功しています。

製造業界の企業がM&Aを行うことにより、企業業績アップだけでなく日本経済にも大きく貢献しているといえるでしょう。

M&Aの事例から読み解く潮流《製造業(メーカー)》
製造業では人材の確保が大きな課題となっていますが、高スキルの人材を短期間で確保できる方法として注目されているのが「M&A」です。M&Aはどのように人材確保に効果があるのか、そして人材の確保以外にもM&Aを活用してどんなメリットがあるか。実際にあった製造業のM&A事例をご紹介しながら解説します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年6月10日
製造業(メーカー)のM&Aを実施する前に考えておきたいこと
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