2019年4月20日 土曜日

M&Aの事例から読み解く潮流《物流会社》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

物流業は経済活動の下支えを行う産業であり、原料の輸送から商品の配送まで経済プロセスの多くにおいて不可欠と言えます。物流業全体の事業規模は25兆円に達しており、業界内の構造も配送主から直接荷物を受ける元請け業者から下請け業者、孫請け業者まで大規模なピラミッド構造が形成されています。近年は輸送ニーズの集中に伴って業界再編の流れがあり、M&Aの事例も増加しています。

実際の事例を基に物流業界の動向を読み解きます。

 

物流会社におけるM&Aの動き


物流業界は、輸送サービスを提供する配送業と管理業務を行う倉庫業に大別されていますが、本項では配送業を中心に紹介します。配送業はトラック運送業、宅配便業、鉄道、空運、海運に分類されており、このうちトラック運送業が市場規模の6割超を占めています。

事業に必要な初期コストが低いことから新規参入が多い業種であり、公益社団法人全日本トラック協会の統計によると1991年から2007年まではトラック運送業者の総数が増加し続けているというデータがあります。
しかし、2008年以降は輸送需要の停滞と業者間の競争が重なり、退出事業者の増加が続いています。トラック運送業者の9割以上が中小企業とされており、所得額も全産業平均に比べて低いことから、若年層の新規雇用が難しいなど現状は厳しいと言えます。
事態の改善には経営力の強化が不可欠であり、まとまった顧客を一度に確保できる方法としてM&Aを実施する事業者が増加傾向にあります。

物流業界の市場規模は縮小傾向にありますが、近年普及が進んでいるインターネット通販の委託先として宅配便業は取扱個数を大きく伸ばしています。2011年から2016年においては過去最高の取扱個数を連年更新しており、需要の高さが窺えます。
一方で配達手数料の下落が進んでおり、大手企業においても配達サービスの品質維持が難しくなるという問題が出てきています。改善策として物流業務の外部委託を行う3PLを活用する企業が増加傾向にあるほか、人員の確保や輸送拠点の増加によるコスト削減を行う手法として大手企業を中心にM&Aが活発化しています。

 

最近の物流会社のM&A事例


近年の物流業界は大手企業を中心に3PL事業の強化を図る流れが活発であり、高度化する物流システムに対応する目的でM&Aを行う企業が増加しています。

 

日立物流がエーアイテイーと資本業務提携

両社はエーアイテイー株式会社を株式交換完全親会社、日立物流の子会社である日新運輸を株式交換完全子会社として株式交換を行うことに同意し、株式交換契約を2018年10月10日に締結しました。株式交換は2019年3月1日を効力発生日として予定されており、日新運輸の株式1株に対してエーアイテイーの株式が交付されます。

本株式交換によって日立物流はエーアイテイーの発行済株式総数の20%を保有することになり、日新運輸はエーアイテイーの連結子会社、日立物流の持分法適用関連会社となることが予定されています。

この資本業務提携によって日中間の海上輸送における物流規模の拡大およびシステムの向上が見込まれており、既存顧客に対して一層充実したサービスを提供していけるよう取り組みを続けるとされています。

 

・日立物流について

日立物流は日立製作所の物流部門を担当する子会社として創業された企業です。3PL事業の先駆者として国内を中心に物流システムのマネジメントを行っており、陸運、空運、海運まで総合的な物流網を構築している企業です。近年は先進的なロジスティクス技術によって新たなイノベーションに向けた取り組みを推進しています。

 

・エーアイテイーについて

エーアイテイーは国際的な海上輸送、航空輸送および通関業務、中国ルートにおける3PL事業などを行っている企業です。アジア、欧州、オセアニアに流通拠点を保有していますが、特に28か所の拠点を保有している中国沿岸部に強みを持っています。国際間輸送におけるスピードおよびセキュリティの高さにおいて多方面から高い評価を受けている企業です。

 

日本通運が名鉄運輸と資本業務提携

日本通運株式会社は名鉄運輸株式会社との資本業務提携、ならびに株式取得を行うことを決議し、同日2015年12月25日に資本業務提携契約および株式取得契約を締結しました。

株式取得は2016年4月1日に実施されており、当株式取得によって日本通運は名鉄運輸の発行済株式の20%を保有し、持株比率において第2位の株主となっています。

両社は2015年以前までも特別積合せ運送事業の共同配送および施設の共同利用を実施しており、物流事業における経済成長の停滞に対する適応策として協力体制の強化を行う事が双方に有益であるとの判断から、資本業務提携の合意に至ったとされています。

 

・日本通運について

日本通運は国内における陸、海、空を網羅した運送サービスを中心に、自社一貫オペレーションによる国際輸送や貴重品・重量品を取り扱う専門輸送などを総合的に行っている大手企業です。3PLを含む物流システムの構築およびコンサルティング事業の展開も行っており、多業種のクライアントから高い評価を受けている企業です。

 

・名鉄運輸について

名鉄運輸株式会社は特別積み合わせ運送事業を主力事業としており、3PLに対応した業者として高度な輸送技術を保有している企業です。小口輸送に対応した配送サービスも実施しており、配送サービスの品質向上に向けた取り組みを行っています。

 

SBSホールディングスがリコーロジスティクスを連結子会社化

SBSホールディングスがリコーロジスティクスの株式の66.6%を取得し、連結子会社とする手続きを2018年8月に完了しました。取得価額は株式の評価額にアドバイザリー費用を加算した18,300百万円とされています。当株式取得により、両社の保有する全国的な物流ネットワークの統合に伴うスケールメリットの拡大および3PL事業の強化など、グループの拡大及びシナジーの強化を推進していくとされています。なお、当手続きに関連してリコーロジスティクスはSBSリコーロジスティクスに社名変更を実施しています。

 

・SBSホールディングスについて

SBSホールディングスは物流事業を中心的に行っており、多数のグループ企業によって原材料・製品などの輸配送から流通加工・情報管理などを主に行っている企業です。サプライチェーンマネジメントの実施により、物流に関する課題をワンストップで解決する取り組みを行っています。

 

・リコーロジスティクスについて

リコーロジスティクスは、国内外において精密機器および電子機器に必要な原材料の調達からリサイクル処理までを一貫してカバーするサプライチェーンを持つ企業です。

SBSグループの傘下に入って以降は取り扱う品種を拡大しており、幅広い業種に対して高品質な流通システムを提供する取り組みを行っている企業です。

 

物流会社のM&Aを実施するうえでのポイント


物流会社におけるM&Aでは、従業員の引継ぎや事業エリアの拡大などコスト面に関わることが特に重視されやすく、全国的な流通網を持つ大手業者が特定地域でシェアを伸ばす中小業者とM&Aを行うケースも多いです。

最適な売却先を見つけるには専門の代行業者に相談を行う事が推奨されますが、スムーズな売却交渉を行うにはオーナー自身にも的確な知識が要求されます。物流会社のM&Aを実施する際のポイントを紹介します。

 

従業員の人数と年齢層

譲渡側企業のトラックドライバーを引き継ぐことで、新規採用および社員教育のコストを削減できるメリットがあります。加えて、獲得した輸送地域における事業ノウハウを共有することによって短期間内に事業のクオリティを確保できる点も大きなメリットです。

物流業は全業種平均に比べて平均収入が低いという統計があり、長時間労働も要因となって若年層の新規雇用数が伸び悩んでいる状態です。引継ぎ後も長期的な活躍が見込める若手のドライバーは多くの物流会社にとって優先的な雇用対象であり、M&Aにおいても有力な交渉要素として作用します。

若年者の雇用促進策として、福利厚生の充実と適切な休暇の付与による労働条件の改善に向けた取り組み実績は企業の印象アップにもつながります。

 

事業エリアの規模と立地

物流会社のM&Aで買収を行う企業は、事業エリアの拡大を目的とするケースが多いです。譲受側企業の主なメリットとしては、集荷ターミナルの増加によって燃料費の削減が見込めるほか、取扱個数の拡大によってブランドイメージが向上するなどスケールメリットを拡大できることがあります。

譲渡側企業においても対外的な交渉力を強化でき、増収によって労働条件の改善を行えるようになります。特定地域に根付いた事業ネットワークを保有している場合は売却時に対等な条件で交渉を行いやすく、目的に関わらず成約率をアップさせることが出来ます。

自社内で新規開拓を行うパターンに比べて、短期間内に高品質な運送サービスを構築できるので、新規参入を行うケースでも初期段階のリスクを大きく低減できます。

配送拠点の状況や輸送ルートの規模は事業価値に大きく影響するポイントです。売却を検討する際には双方の事業状況を比較し、より高いシナジー効果が得られる譲受側企業を見出すことが重要です。

 

適切なコスト管理

物流業界では新規就業者数に対して業務量が多いという状況が続いており、業務体系の最適化および余剰コストの削減が近年特に重要視されています。原材料の運送から完成品の配送までを一元管理するサプライチェーンマネジメントの普及に伴い、大手企業を中心に中間コストの削減および物流事業の外部委託を行う取り組みが活発化しています。

配送サービスを頻繁に利用する業種の場合、配送コストの総額を把握する事が困難である問題があります。物流会社は元請け、下請け、孫請けと細分化されているケースも多く、経由する会社数に応じて支払う手数料も上乗せされてきます。手数料の額は企業の評判にも影響してくるので、元請けが直接クライアントに配送を行う「直クライアント」の比率が高い物流会社はコスト管理が行き届いた良質な企業として評価されやすいと言えます。

 

・3PLについて

物流コストの削減とコア事業への専念を両立できる手段として、3PLが注目されています。

3PL対応事業者に委託した場合は必要コストを固定化しやすく、運送サービスの品質が安定するメリットがあります。
3PL事業の獲得または拡充を目的としてM&Aを行う企業も多く、対応できる企業は有利な条件で売却を行いやすくなります。ただし、実施には豊富な実績に基づいた高度な物流技術が必須であり、譲渡先企業の物流システム特性に関して正確に理解していることが求められます。

 

事業方針

物流会社のM&Aはシナジー効果が重要視されやすく、車両や集積ターミナル等の設備面と並んで従業員間の交流による技術の共有、業務水準の向上は大事なポイントです。

事業方針が同じ企業同士だと展開している業務内容も近似しているパターンが多く、M&Aによる業務水準の一時的な低下を防ぎやすくなるメリットが得られます。

事業方針が大きく異なる企業間では従業員の引継ぎや労働条件などで交渉が難航しやすく、適切なタイミングを逃すリスクが増大します。充分な調整を行わずに成立させた場合、従業員間の連携に時間を要しやすく、想定していた経済効果を下回るケースも考えられます。

M&Aの過程で方針の違いが悪影響になると判断された場合や、成立後に問題が起こって業務に支障が出るとM&Aの計画が撤回されるケースも存在します。大幅な方針転換が必須であるケースを除き、事業方針が近い企業同士であるほど総合的な信頼性は高くなります。

 

まとめ

物流会社の現況と今後の動向について、実際に行われたM&A事例を基に紹介を行いました。宅配便業の急伸を背景に全業種の総貨物輸送量は微増を続けていくと予想されており、従業員および事業設備の集約を目的としたM&Aも今後増加していくと思われます。

人手不足の根本的な解決には新規雇用数の増加が必要であり、対応策となる労働時間の短縮や収入額の向上を実施する手段として小規模な事業所の間でもM&Aは近年活発に行われ始めています。とはいえ、相手企業の選定を誤ると却って事態が悪化する可能性もあります。実施の際は専門業者の協力を得た上で慎重に進める事を推奨します。

M&Aの事例から読み解く潮流《物流会社》
物流業は経済活動の下支えを行う産業であり、原料の輸送から商品の配送まで経済プロセスの多くにおいて不可欠と言えます。物流業全体の事業規模は25兆円に達しており、業界内の構造も配送主から直接荷物を受ける元請け業者から下請け業者、孫請け業者まで大規模なピラミッド構造が形成されています。近年は輸送ニーズの集中に伴って業界再編の流れがあり、M&Aの事例も増加しています。
実際の事例を基に物流業界の動向を読み解きます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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