2019年4月16日 火曜日

事業譲渡の事例から読み解く潮流《物流会社》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

少子高齢化による後継者問題は国内共通の問題であり、特に物流業界は中小企業が多い業界特性から多くの経営者が後継者問題への対応を迫られています。

本稿では物流会社の事業譲渡事例から、物流業界の現況と将来的な展開を予測していきます。

 

物流会社における事業譲渡の動き


近年の物流業界は、EC産業の急速な発展によって貨物の総取扱個数は微増していますが、1990年に参入規定の緩和が実施されてから新規業者が大量に参入したことで価格競争が進み、市場規模は縮小しています。
長時間労働を実施しても利益を上げられない会社が増加し、労働条件の改善が進まないことが離職する従業員の増加と新規就業者数の減少の要因となっています。

物流業者の9割以上は中小企業とされており、少子高齢化や労働条件の悪化による影響を特に受けやすいです。2025年までに平均的なリタイア年齢に差し掛かる経営者の半数程度が後継者不在とされており、近年は後継者問題の解決を目的として事業譲渡を実施する企業が増加傾向にあります

事業承継は売却内容を細かく設定しやすい反面、従業員の雇用引継ぎや事業の許認可は個別に引き継ぐ必要があるなど、株式譲渡に比べると複雑な手続きが必要になります。その性質上から中小企業の売却に適した方法であり、事業承継によるM&Aは今後も増加していくと予想されます。

 

最近の物流会社の事業譲渡事例

近年の物流業は、一時期に集中した新規参入業者を集約する形で業界再編の流れが加速しており、大手企業が譲受側企業となる事例や、中小企業同士による事業譲渡の事例が増加し始めています。
ここでは物流会社の事業譲渡で重要視されやすい譲渡目的をケース別に紹介します。

 

【丸和運輸による商品個配事業の譲受および子会社への譲渡事例】

関西圏を中心とした生活協同組合への商品個配事業を主力事業としている丸和運輸株式会社は、株式会社国際トランスサービスおよび関東運輸株式会社が受託していたコープデリの生活協同組合連合会の商品配達に関する事業を新たに譲受し、提供を開始したことを2018年3月に発表しました。
近年における個配事業の需要拡大を受け、今回の譲受を契機に首都圏のニーズへの対応および商品個配事業の品質向上を図ることで経営基盤の強化を行い、企業価値を向上させる狙いがあるとされています。

なお、同社は翌4月に子会社としてNS丸和ロジスティクスを設立するとともに、譲受したコープデリの個配事業を事業譲渡によって移管しています。首都圏への進出に伴い、東京都内へ事業拠点を設けることで業務の効率化とサービス品質の向上を両立した事例と言えます。

 

・丸和運輸について

丸和運輸株式会社は3PL事業を中心に、ロジスティクスコンサルティングや物流事業運営に付随する運送・倉庫業の運営管理を行っている企業です。近年推進している低温食品物流事業では、3PLに7種類の経営支援を組み込んだ独自のサービスを展開しており、業界内における競争力の強化と業務水準の向上に関する取り組みを推進しています。

また、災害発生時の復興支援を主目的としたグループ企業との人材・車両の共有サービスの普及を行っており、物流業界全体の業務水準の安定・向上に取り組んでいる企業です。

 

・国際トランスサービスについて

株式会社国際トランスサービスは主要取引先に日本郵便株式会社や大手運送事業者を持ち、郵便物の配送やECサイトから受託した貨物の輸送を中心に行っている企業です。

良質な顧客から継続的に案件を受託しており、取引先および配送先の顧客との信頼関係を重視することによって安定した業績を収めている企業です。

 

・関東運輸について

関東運輸株式会社は食品に関わる低温物流業務を主力事業としており、原料の調達輸送から完成品の販売輸送までを一貫して提供しています。充実した運送車両およびドライバーの確保によって牧場向けの大規模な輸送からロット単位の低温輸送まで対応することで、幅広い層の運送ニーズへ対応する取り組みを進めている企業です。

 

【ニュースターラインによるカンダホールディングスへの事業譲渡事例】

愛知県で荷主と輸送業者を仲介して貨物の運送取扱や利用運送を実施するフォワダー業を1983年の創立以降から実施しているニュースターラインが、関東エリアを中心に展開する物流業者のカンダホールディングスへ、後継者問題の解決を目的として2014年4月に企業の譲渡を実施しました。
今回の事業譲渡によって海上輸出のエキスパートを獲得し、国際物流部門の事業領域の拡大を行う狙いがあるとされています。

交渉の成立にはタイミングと希望条件の一致以外にも、経営者間の気風の一致が大きな決め手になったとされており、事業譲渡における社風や経営方針の一致の重要性が窺える事例と言えます。

 

・カンダホールディングスについて

カンダホールディングス株式会社はグループ会社の運営による物流センターの業務代行、流通加工業務をコア事業としています。国際宅配業務、引っ越し業務など他業種に向けた総合的なサービスを提供し、あらゆる顧客のニーズに対応する取り組みを推進しています。
近年は国内外の宅配業務を中心に事業を拡充しており、時代に対応した業務体系の構築に取り組んでいる企業です。

 

・ニュースターラインについて

ニュースターライン株式会社は中国・アジア方面を主体として世界各国へ向けた海上荷物混載輸送をコア事業としています。近年はコンテナ単位での輸送や三国間輸送などへの対応によって幅広い層の運送ニーズへ対応する取り組みを推進しています。カンダホールディングスの傘下となって以降は一貫輸送サービスへの対応を実現しており、ロジスティクスパートナーとしての水準向上に取り組んでいる企業です。

 

・宇徳がジャパンエキスプレスグループの事業を譲受した事例

株式会社宇徳および同子会社である宇徳流通サービス株式会社は物流事業を運営している株式会社ジャパンエキスプレスおよびジャパンエキスプレス梱包運輸株式会社が運営する事業の一部を譲受することを決議し、2016年5月27日に発表しました。

同社が譲受する事業内容は、ジャパンエキスプレスより海外引越事業を除く全事業、宇徳流通サービスはジャパンエキスプレス梱包運輸より国内及びオフィス引越事業を除く全事業であり、当事業譲受によって物流事業のサービスメニューの充実、規模の拡大が期待できるとしています。

 

・宇徳について

株式会社宇徳は港湾における荷役事業、プラントに関する物流事業をコア事業としています。近年は創立以降培った事業ノウハウを応用し、重量貨物の搬出や陸上輸送、プラントの建設及び据付などを自社内で一括担当することによって総合的な事業体制を提供する取り組みを実施している企業です。

宇徳流通サービス株式会社は宇徳ロジスティクス株式会社内に併設された子会社であり、陸運業及び倉庫管理業を主な事業内容としています。

 

・ジャパンエキスプレス(横浜)について

株式会社ジャパンエキスプレスは株式会社商船三井の連結子会社であり、京浜地区において引越、倉庫保管、通関、国際物流、梱包、陸送等の物流サービスを実施することによって同社の物流事業の多くを担っていた企業です。

2016年に株式会社宇徳および同子会社へ引越事業を除く全事業を譲渡しており、海外引越事業を商船三井へと譲渡しています。

 

物流会社の事業譲渡を実施するうえでのポイント


事業譲渡は適切な相手と実施できればメリットの大きい手段ですが、実施には多くの専門知識が必要になります。M&Aに慣れていない企業の経営者が自力で進めるのは困難であり、一般的にはM&A専門業者に依頼して進めていきます。しかし、目的に沿った事業譲渡を行うには経営者自身が適切なプランを立てて実施する必要があります。物流会社の事業譲渡で重要なポイントを紹介します。

 

・実施するタイミング

事業譲渡をスムーズに成功に導くには、実施するタイミングが重要です。物流業界では運送ニーズの増加が続いており、業務の効率化や事業規模の拡大を目的としてM&Aを実施する企業も近年急速に増加しています。確実性を重視するあまり検討に時間を掛けすぎていると、他社に先を越されるリスクが増大してきます。

また、事業の見通しや経営者の健康面に余裕がある間に譲渡手続きを完了させることも大事です。M&A仲介業者に依頼して手続きを進めた場合、物流会社の事業譲渡には平均して半年~1年ほど掛かるとされています。交渉期間中は経営の維持と譲渡手続きを並行する必要があり、当初の目的通りに譲渡を行うには交渉先との入念な調整会議が必要です。

経営状況が良いときであるほど譲渡の確実性は上がりますが、リタイア時期を遅らせすぎると、交渉が完了する前に体調が悪化して譲渡を撤回されるといったパターンに陥る可能性があります。

 

・M&A業者の選び方

物流会社の事業譲渡では信頼できるM&A業者を探し出すことが重要なポイントです。基本的には物流業界の動向に詳しく、物流会社の事業譲渡を多く成立させているほど信用性の高いM&A業者と言えます。

また、譲渡する会社の規模に応じて事業譲渡の進め方や適切な相手企業は変わってきます。

M&A業者のタイプは大規模案件を素早く正確にまとめる金融系、保有する顧客リストの広さと営業力でスピードを優先できる仲介系、中小企業の企業価値を引き出すのが得意な事業コンサルタント系に大別されます。

物流会社の9割以上は中小企業とされていますが、近年は3PL事業の需要拡大に伴って中小企業が大手企業の傘下に入るケースが増加傾向にあります。会社の経営状況や譲渡の目的に応じて最適なM&A業者へ相談することが重要です。

また、譲渡側企業と譲受側企業を仲介するという業務の性質上、双方の経営者のニーズに応じて適切な譲渡プランを提示できることが重要です。

 

・運送業許可の引継ぎ

物流会社の事業譲渡を行う場合、運送業許可の引継ぎを実施した方が双方にとってメリットが大きいです。株式譲渡とは違い、事業譲渡では事業の運営に関わる各種許認可を基本的に引き継げないという特徴があります。物流会社のM&Aでは、譲受側企業が運送業許可を持っていないケースも多く、譲渡手続きを実施するには別途申請を行って許認可を引き継ぐ必要があります。

運送業許可を引き継ぐ具体的なメリットとして、輸送用の車両や運送技能を持ったドライバーを直接引継げることに加え、構築済みの取引先を獲得できるので大幅なコスト削減およびリスクの低減が行えます。
運送業の新規開業には人件費や経営資金に600~800万円、輸送車両および燃料などの購入・運用費に1500~2000万円必要とされていますが、事業譲渡の要件を満たすには譲受する財産の帳簿価額が直近会計年度の賃借対照表の純資産額を上回っていれば良いので、必要な開業資金が大幅に抑えられます。

申請の認可には平均して2カ月ほど掛かるとされており、事業譲渡が完了する頃に申請が通るようにしておくと事業を開始できない空白期間を大きく短縮することができます。

 

・相場の決め方

事業譲渡は業務の一部または全部を譲渡して対価を得るものですが、売却金額には事業内容に応じて相場が存在します。相場の算出には財務面の専門知識が必要であり、基本的には外部のM&A専門業者が見積もりを行います。

しかし、従業員の技能や経営者の器量など無形の財産に関しては算定が難しく、譲渡側企業は高額な見積もりを付けやすい傾向にあります。相場から離れすぎた価格を提示すると交渉が難しくなるので、売却額を決める際にはM&A専門業者からアドバイスを受けて経営者自身が適切な相場を知っておく必要があります

 

まとめ

近年の物流業界は少子高齢化による後継者問題への対策に加え、業務量の増加に対応して業務体系の効率化を並行して進めることが必要とされています。この問題を同時に解決し得る手段として、事業譲渡が物流会社の中小企業間で注目されており、物流会社のM&A実施件数は増加傾向にあります。

事業譲渡は雇用契約や運送業許可の引継などに必要な作業量が多く、実施するハードルは比較的高い方法です。しかし、譲渡する事業領域を任意に調整できることは大きなメリットであり、物流会社の9割を占める中小企業の譲渡である場合は作業量のデメリットも抑えやすい傾向にあります。

物流会社のM&Aは実施するタイミングが重要であり、円満に事業承継を完了させるには出来るだけ早い段階から準備を進めておくことを推奨します。

事業譲渡の事例から読み解く潮流《物流会社》
少子高齢化による後継者問題は国内共通の問題であり、特に物流業界は中小企業が多い業界特性から多くの経営者が後継者問題への対応を迫られています。
本稿では物流会社の事業譲渡事例から、物流業界の現況と将来的な展開を予測していきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年4月16日
事業売却の事例から読み解く潮流《物流会社》
2019年4月16日
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