2019年4月19日 金曜日

事業承継の事例から読み解く潮流《物流会社》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

少子高齢化による後継者不足は日本国内共通の問題であり、特に物流業界は中小企業が多いぶん人手不足の影響を受けやすく、後継者不在に陥る企業が増加しています。近年は業界再編の流れが活発化しており、適切に承継を行うには業界の現状を把握して早めに準備を行う必要があります。

本稿では物流会社の事業承継事例を基に、物流業界の近況と今後の展開を読み解きます。

 

物流会社における事業承継の動き


物流業界は総業者数に対する中小企業の構成比率が高く、業界の総事業者数の7割以上を占めるトラック運送業の99%以上が中小企業であるとされています。2007年をピークに新規参入社数は減少していますが、価格競争の激しさから配送手数料の単価が下落し、経営が困難になる企業が増加傾向にあります。

物流会社の事業承継では親族承継が用いられることが多かったのですが、近年は従業員承継や、M&Aに代表される第三者への承継が多く用いられています。
特に事業承継を目的としたM&Aは近年継続的に増加しており、公表案件の集計を行っているM&A業者の統計によると、2018年には前年比1.7倍以上の件数で最高値を更新しています。

推測される要因としては、少子高齢化による後継者不在が深刻化している事に加え、事業拡大の手段としてM&Aが幅広く普及しつつあることが挙げられます。物流会社はドライバーの人数や運送車両の数、流通拠点の多さなどスケールメリットによる恩恵が大きく、今後も事業承継を目的としたM&Aは増加を続けると予想されています。

 

最近の物流会社の事業承継事例


近年の物流業界では、2020年の東京五輪や、各地で起こった震災被害の復興などで運送ニーズの継続的な増加が見込まれています。運送技能の習得には時間が掛かりやすく、大手企業でも業務体系の効率化が重要となっています。対応策として物流業務を外部委託する3PL事業の活用・強化を図る会社が増加しており、大規模な業務体系の刷新が進められています。

ここではロジスティクス業界の代表的企業であるDHLサプライチェーン株式会社が譲受を行った事例をピックアップします。

 

・DHLサプライチェーンについて

DHLサプライチェーンは倉庫管理業をはじめ、国内外の空運業に伴う集荷および通関業務、代替品物流、包装設計やリサイクルなどを総合的に行う大手物流業者です。

現在は日本国内での事業に注力しており、最新のIT技術とグローバルな業務経験から培われたプロジェクト管理技術を用いて取引先へのサプライチェーンマネジメントを提供する事により、国内の物流事業を強化しています。
明確な料金体系を持ち、充実した輸送プランによる柔軟な対応に加え、通関業務のセキュリティ水準の高さを持ち合わせている企業です。

 

・事例1:コニカミノルタの物流事業を継承

DHLサプライチェーン株式会社は、OA機器の販売を主要産業として顧客のニーズに応じた新規開発・企画ならびにソリューションサービスの提供を行っている、コニカミノルタホールディングス株式会社の物流業務を受託したことを2013年3月22日に発表しました。

当手続きに伴って企画立案からオペレーションまでの一貫したロジスティクスを提供するLLP契約が結ばれ、同年7月より国内LLPサービスの提供を開始しています。

コニカミノルタ物流の国内拠点等を含む事業は、DHLサプライチェーンが引き継いでいます。

LLPサービスの提供によって、DHLサプライチェーンはコニカミノルタグループの物流設計・管理、オペレーションなどの最適化、継続的な改善を行い、同グループの物流設計・管理、オペレーションなどの最適化および継続的改善を実施することによって、日本国内の物流業務を包括的に担当していくとされます。

また、当契約によってコニカミノルタ社が従来から推進していたCSR調達の領域拡大が可能となり、2015年に両社協働での「CSR物流」の運用開始が発表されています。国際標準となっているEICC基準を全面的に適用したCSR業務として日本初の実施例であり、業務承継によるシナジー効果の形成が成功した事例と言えます。

 

・コニカミノルタ株式会社について

コニカミノルタはカメラ及び写真用フィルムの加工に伴う光学技術、微細加工、画像関連を企業の基幹技術として、各種OA機器や産業用光学システムの製造販売などを行っています。49か国に事業拠点を持つグローバルな企業であり、常に顧客のニーズに対応したサービスを提供することで市場シェアの保持および拡大に取り組んでいる企業です。

 

・事例2:日東電工の物流事業を継承

2018年4月26日、DHLサプライチェーンは社会インフラ、自動車、エレクトロニクスなど多方面に製品を提供する総合部材メーカーである日東電工株式会社と日本国内における5年間のLLP契約を締結した事を発表しました。本契約によって、日東ロジコムが担っていた国内での物流業務をDHL社が継承することになります。

同社はコニカミノルタ社と同様の契約を結んでおり、当契約の公表に伴って発表されたDHLサプライチェーンの代表取締役社長であるギャビン・マードック氏のコメントによると、過去の成功事例を踏まえた上で、DHL社の持つ日本国内での業務標準化とコスト最適化を推進できる専門性が評価されたとしています。

DHL社はNittoグループのLLPパートナーとして日本国内8ヵ所の事業所に併設されている物流拠点の入荷、保管、出荷、付加価値サービス、輸配送管理サービスの提供を行うことになります。加えて、Nittoの自動車関連顧客を中心にサービスを提供している営業倉庫の運営管理も担当するとされます。

 

・日東電工株式会社について

日東電工は粘着技術や塗工技術などを企業の基幹技術としており、シートやフィルムに様々な機能を付加する技術を用いて、70種以上の業界に13,500種類以上の製品を提供している企業です。東南アジア、オセアニア、東アジア、ヨーロッパ、アメリカに多数のグループ企業を保有しており、多方面にグローバルな事業を展開している会社です。

1918年創立であり、LLP契約が締結された2018年に創立100周年を迎えています。

 

物流会社の事業承継を実施するうえでのポイント


近年の物流業界は、運送ニーズが増加する一方で運送手数料の下落が進んでおり、収入減によって多くの企業が赤字経営となっています。従業員の連続乗務時間が制限されていることもあり、物理的に業務水準を維持できなくなる中小企業が増加しています。

物流会社の事業承継は、引継ぎによる経営状態の改善や業務体系の高度化が特に重要となります。中小企業の比率が高い物流会社の事業承継は専門の代行業者へ相談することも多いと思われますが、開始するタイミングや目的、実行の可否などはオーナーがスケジューリングを行ったうえで決定することが要求されてきます。

 

専門業者の活用

最適な業者選びにもポイントがあります。前提条件として物流業界の特性を的確に把握しており、事業承継の成立実績が豊富であるほど信頼性が高く、早期に最適な承継先を紹介してくれやすい業者と言えます。

ただし、業者によっては着手金や月額報酬が発生することがあります。着手金は依頼を行った時点で発生し、手続きが難航するほど月額報酬も積み重なってきます。
承継までのコストを抑えたい場合は完全成功報酬制の代行業者を選ぶ必要があります。

 

承継先の選び方

親族や社員に経営を引き継ぐ場合、経営に向いているかどうかを重視して人選を行う必要があります。経営スキルを習得させるには平均して5~10年の長い教育期間が必要であり、その間も事業の運営は行う必要があり、承継後も取引先や従業員と新たな経営者の橋渡し役として経営を補佐するケースがあります。

経営を引き継いだ社長の経営スキルが不足していると、実質的な経営者が元オーナーである期間が長くなり、アーリーリタイアや企業の若返りといった事業承継によるメリットが大きく低減します。時間をかけても立て直せないと判断した場合は1度退いたオーナー再就任、別の候補者や方法を選択することになりますが、この時点から充分な準備を行うのは困難です。

確実に事業承継を行うには、長男であることや副社長であることなどの年齢や地位の高さで候補者を決めず、経営適正の高さを重視して決めることを推奨します。ひとつの判断基準として、人材マネジメントの経験が豊富な社員は経営を引き継ぐことに前向きであるパターンが多く、実績がある場合は経営に関する適正も高いと言えます。

 

事業価値について

物流会社の事業価値は運送技能を持った従業員の人数、新規採用数の多さや推移、車両の台数や整備状況、事業拠点の数や立地条件など多くの要素から算出されます。

物流会社のM&Aで買収側になる企業は従業員や車両の引継ぎによるスケールメリットの拡大を重要視していることが多く、売却側の企業は労務規定の見直しや基本的な福利厚生の構築による雇用対策、特別積み合せ運送事業に対応した特殊車両の導入や整備などを前もって行っておくと事業価値が上がり、譲渡側の企業にとって有利な条件で承継を行える見込みが増します。譲受側企業にとっても、事業領域の拡大や業務水準の向上などのメリットが得られます。

事業価値は会社の信用度や時価を決定する重要なデータです。情報に不足や間違いがあると交渉が難航しやすく、最悪の場合は譲渡手続きを撤回される可能性もあります。
M&A専門の部署を持たない企業は、外部のM&A専門業者へ代行依頼を行うことを推奨します。

 

承継タイミング

物流業は取引先の会社の業界状況によって短期間内に収入額が大きく変動しやすく、他業種の動向が買収資金や承継後の経営状態などに大きく影響を与えやすいことから、適切な承継時期の判断が難しい業種です。

経営状況が良い時に合わせるのがベストですが、短期的な利益を優先して承継時期を遅らせすぎると、最適なタイミングを逃す可能性があります。
承継後も1〜2年程度は業績が上向く見通しがある時に引き継ぐことで、承継に伴う一時的な業績悪化によるリスクを最小化しやすくなります。

準備期間中に何度か取引先や社員に紹介を行っていた場合でも、実際にオーナーが交代した時は出来るだけ早期に挨拶状の発送や挨拶回りを実施した方が良いとされます。代替わり後の1〜2年程度は元オーナーがサポートを行うことで、取引先の変動を防ぐ効果が見込めます。また、元オーナーの人格や経営力を高く評価して勤続している従業員の退社を引き留めやすくなるメリットも得られます。

 

事業承継にかかる税金

物流会社の事業承継を行う場合、株式の所有権を移動させることによって経営権を移行させるケースが多いですが、譲渡先の人物は株式の評価額と同じ金額を相続税として支払う必要があります。評価額は数千万〜1億円になることも珍しくなく、引き継いだ人物がオーナーの親族や社員である場合、支払える資産力を持っていないケースが殆どです。

必要資金を候補者に前もって移動させる事で対応を図るオーナーも多いとされますが、生前に贈与された財産には贈与税が発生します。贈与税の税率は金額に比例して高くなります。

贈与税は事業承継において大きなネックでしたが、対応策として2003年に制定された「相続時精算課税制度」を適用する事で累計2,500万円以内の贈与財産を非課税にできます。なお、2,500万円を超える分については通常と同様の支払い義務が発生します。

各種税制の活用によって支払いを留保・減額できる場合もあるので、予め会社担当の公認会計士や税理士などに相談を行ったうえで、最適な承継方式を決定する必要があります。

 

各種運営資格の引継ぎ

事業の運営に必要な資格は、M&Aだと原則的に引継げないことは把握しておく必要があります。
運送事業の実施には一般貨物自動車運送事業許可(運送業許可)の取得が必要ですが、承継先の企業が認可資格を取得していないとM&Aで物流会社を取得することは原則的には不可能です。

ただし、事業承継の手続きを行う前に「譲渡譲受認可申請」を提出し、申請が通れば事業承継の実施と同時に各種許認可を引き継ぐ事が出来ます。申請の処理には平均して2カ月程度かかります。

許認可を引き継ぐ場合は申請期間を考慮して交渉スケジュールの調整を行っておくと事業承継が行いやすくなります。申請に必要な書類が多く、書類作成の際はM&Aの専門業者に相談を行うことを推奨します。

 

まとめ

近年の物流業界は、大手企業を中心に業務体系の高度化が推進されており、中小企業では事業の継続が困難になることも予想されます。経営に余裕がない状態だと後継者に要求される技量も高くなり、経営に慣れていない人物だと立て直しに失敗する可能性が高くなります。

会社の状況に応じて最適な方法を選び、時機を見て実施することが、物流会社の事業承継を行うポイントです。

事業承継の事例から読み解く潮流《物流会社》
少子高齢化による後継者不足は日本国内共通の問題であり、特に物流業界は中小企業が多いぶん人手不足の影響を受けやすく、後継者不在に陥る企業が増加しています。近年は業界再編の流れが活発化しており、適切に承継を行うには業界の現状を把握して早めに準備を行う必要があります。
本稿では物流会社の事業承継事例を基に、物流業界の近況と今後の展開を読み解きます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年4月19日
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