2019年4月22日 月曜日

物流会社の事業譲渡を検討する際のチェック項目

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

物流業界は、Web通販の普及や都心の開発に伴う建築業からの運送ニーズ増加によって、全体的な取扱件数は微増傾向となっています。しかし、参入規制の緩和が行われたことで新規参入者数が急速に増加し、価格競争の激化によって市場規模は縮小しています。

本稿では物流会社の事業譲渡を実施するメリットや注意点を解説します。

 

物流会社の事業譲渡を検討してみては?


事業譲渡はM&Aにおける企業の売却方式の1つで、事業領域の一部または全部を選択して外部の企業へ売却するという特徴を持ちます。ここでの”事業”には人員や設備以外にも業務体系、ノウハウ、債務など有形、無形を問わない企業の財産が含まれます。

物流業界の総業者数の9割以上は中小企業とされており、少子高齢化による労働人口の減少の影響を受けやすい業界です。会社内やオーナーの親族内に優れた後継者候補が居ないケースも多く、後継者不在を理由に事業所の閉鎖を選ぶ企業が近年増加しています。

 

・事業譲渡とは

一般的な事業譲渡のプロセスでは、相手企業探しから始まり、経営者同士の面談によって譲渡の可否を決定します。承継の確実性や利益を重視する場合、最初にM&A専門の仲介業者と契約するケースが一般的です。この時点で譲渡する事業内容及び範囲、財産の内訳、売却価額などの初期プランが必要になります。

合意した場合は、基本合意書を作成したのちに調整期間に入りますが、一般的には同時期にデューデリジェンスが行われます。この過程で譲渡側企業の事業内容や財務状況、許認可などの実態が売却条件と合っているかが精査されます。

問題が無ければ契約手続きに移行しますが、取締役会を設置している企業は取締役会で決議を行う必要があります。他に売却側企業が主導する手続きとしては、事業譲渡の効力発生日の20日前までに株主に対する通知又は公告を行う必要があります。

加えて、事業内容の全部またはコア事業の一部を譲渡する場合は、株主総会の特別決議による承認を得る必要があります。ただし、譲渡する資産の帳簿価額が会社の総資産に対して20%以下である場合は特別決議を省略できます。中小企業ではオーナーが自社の筆頭株主であるケースも多く、手続きを簡略化しやすいメリットがあることから事業譲渡は中小企業に適している売却方法です。

 

・物流業界の近況

近年の物流業界では、業務の効率化に向けた取り組みが活発であり、3PL事業の需要が急速に拡大しています。3PL事業とは、荷主が利用している物流業者と異なる第三者の企業が物流業務のコンサルタントや物流情報システムの提供を行い、業務の効率化およびコスト削減などを目標として物流業務を一括受託することを指します。輸送サービスの質が安定し、支出額の把握も容易になることから、3PLの導入を希望する買収案件は近年増加しています。

3PLの実施には事業ノウハウの蓄積が不可欠であり、中小企業での実施は困難を伴います。

しかし、物流業界における総業者数の7割を占めるトラック運送業では、中小企業による3PL実施例が少なからず存在します。既存の物流業務との差分や導入効果を事実に基づいてアピールすることが重要であり、導入に伴う業務水準向上の取り組みを進める物流業者が増えることで物流業界全体の収益力の底上げにも繋がってきます。

2025年までに物流会社のオーナーの半数以上が平均的なリタイア年齢である68~70歳を迎えるとされており、そのうち半数程度が後継者不在を理由に事業所の閉鎖を検討しているとされます。事業所を閉鎖する場合は従業員の解雇や業務設備の処分を行う必要があり、リタイア後も負債への対応に苦労することになるので、他の方法を全て試みた上での最終的な対応として位置付けることを推奨します。

近年はM&Aを事業存続の手段として戦略的に用いる事業者が全体的に増加しており、物流業界でも後継者問題の解決を目的とした事業譲渡は増加しつつあります。M&Aは大手企業が中小企業に対して実施するイメージもありますが、大手企業同士が物流業務の外部委託を目的としてM&Aを実施するケース、中小企業同士が競争力の強化を目的としてM&Aを実施するケースが増加しています。これらは物流業界の人手不足に伴う業務体系の効率化が進んでいることが主な要因であり、運送ニーズの増加に追従する形でM&Aの件数は今後さらに増加していくと思われます。

 

物流会社を事業譲渡するメリット


事業譲渡は外部の企業へ経営を引き継ぐので、中小企業のオーナーでも後継者問題を解決しやすいメリットがあります。事業が存続するので従業員の雇用を引き継げるのもポイントです。物流会社のM&Aでは従業員の引継ぎは優先される事がほとんどで、間を置かずに仕事を継続できるのは従業員にとってプラス要素と言えます。

事業譲渡は従業員の雇用契約や取引先との契約、事業運営に必要な許認可、不動産や特許権などの移転登記などは直接引継げないという特徴があります。引き継ぐ場合は譲受側企業が個別に再度手続きを行う必要がありますが、営業権を償却出来る事や譲渡内容を調整できるのは譲受側企業にとって大きなメリットです。

 

・売却資金を獲得できる

事業譲渡は売却する事業領域を指定できるという特徴があります。有益な事業のみを切り離して売却を行い、売却資金で債務を償却するという方法も行えます。運営していた事業を全て譲渡した場合も法人格は残るので、債務を完済しているならすぐに新規事業に移行することができます。ただし、譲渡した事業を再び開始することは競業避止義務によって禁止されているので、手元に残したい事業がある場合は譲渡内容から除外しておく必要があります。

事業を売却することによってオーナーの個人保証を外せる場合もあり、余剰資金が出た場合は新規事業の開始やリタイア後の生活資金などに自由に扱えるのもメリットです。譲渡側企業にとっても引き継ぎたい事業を指定できるので、簿外債務や偶発的な債務を避けやすい事はメリットです。

 

・スケールメリットの強化

大手企業の傘下に入った場合、事業設備や流通システムを共有する事によって事業の運営が安定し、効率的な経営を行えるようになります

配送拠点の数が増加することで、輸送先に近い拠点からの配送が行いやすくなり、燃料コストを削減できます。グループ全体で燃料を一括購入することによるディスカウント効果も見込めます。

大手企業のブランドイメージを得ることで荷主への交渉力が強化され、運送手数料の値上げを提案しやすくなることが見込めます。適正な運送手数料を得られた場合は過剰な業務量を行う必要性が無くなり、適正な労働時間の遵守および福利厚生の充実を行う環境が整えられます。物流会社は業者間の価格競争によって赤字経営に追い込まれる中小企業も多く、事業規模の拡大に繋がる事業譲渡は経営面の問題を解消する有用な手段であると言えます。

また、事業再生を実施する場合に事業譲渡が活用されるパターンも存在します。流れとしては、債務が無い場合の譲渡手続きと同様であり、債務過剰となっている事が前提ともいえる企業の再生スキームとして事業譲渡は用いやすいといえます。

 

物流会社を事業譲渡する際のチェック項目

物流業界では事業譲渡を含むM&Aが活発化しており、準備を始めるのに適した時期です。
準備や書類作成が他のM&A形式と比べて複雑なので、実施の際はM&A専門の仲介業者に相談を行いながら進める必要があります。

 

・目的に応じた譲渡先選び

目的に応じて最適な譲渡先は変わってきます

オーナーの健康面や経営状況の問題で会社の存続を優先する場合、売却額よりも従業員の引継ぎを重視して交渉を行う必要があります。負債がある場合は引き受けてくれる相手企業を選ぶと承継後の問題を減らすことができます。

売却額を重視する場合、運送技能を持った従業員の多さや年齢層、車両の台数や整備状況など相手企業にとってプラスになる要素を多くアピールする必要があります。譲渡後の企業で長期的な勤続が見込める若年層のドライバーは、大手・中小企業を問わず優先的な雇用対象です。加えて、整備の行き届いた大型車両を短期間内に導入できることは譲受側企業にとって大きなメリットです。例えば4tトラックの新規導入には1台あたり1,000万円掛かるとされており、整備を怠ると高額な修理費が発生します。

近年の物流業界は労働者数に対して全体的な業務量が多い状態であり、長時間労働が多いことから新規採用者の数も伸び悩んでおり、運送技能を保有する従業員の獲得は大手企業にとっても重要な課題です。特に雇用から長期的な勤続が見込みやすい若年者層は優先的な雇用対象であり、中小企業でも若年者ドライバーが多いと業績次第で大手企業との交渉が行える可能性があります。

 

・事業価値

M&Aで重要な要素として事業価値があります。事業によって創出されるキャッシュフローの現在価値を合計した数値が事業価値であり、計算にはDCF法が用いられることが一般的です。これに、会社の株式価値および事業に用いていない事業外資産を加算して会社全体の評価額である企業価値を算出します。事業価値には将来的な収入見込み額も含まれており、事業譲渡では「のれん」という名称が比較的多く用いられます。

事業価値という言葉は企業の業界内における競争力の高さを指す場合もあります。物流会社の事業価値に大きく関わる要素は、従業員の人数および年齢層、運送車両の台数と整備状況、特殊輸送車両の有無、集荷ターミナルの件数や立地などが挙げられます。

低温輸送車や特に積載量の高い車両を保有している場合は、業務効率の向上や輸送品目の拡大などが実現出来るほか、相手企業が開拓していない地域の輸送ルートを提供できる場合は、配送時間の短縮や従業員への負担軽減などシナジー効果の形成が見込めます。

当然ながら事業の拡大には多額のコストが必要ですが、対外的な交渉力の強化による取引先の増加や大量購入による燃料コストの削減などスケールメリットによる恩恵が得やすくなります。近年ではM&Aによる譲渡を前提として積極的に設備投資を行い、当初の借入金を返済した時点で大手企業への売却を図るケースもあるとされています。

また、3PL事業への対応が行える企業は需要が高く、譲渡後も長期的な収入が見込めるというメリットもあるので、可能であれば対応準備を進めておくことを推奨します。

 

・実施するタイミング

物流会社の事業譲渡は実施するタイミングが重要です。物流業の収益システムの関係上、双方の経営状況に加えて候補先となる企業の主要取引先企業の性質も把握した上で事業計画を立てる必要があります。近年は輸送ニーズの増加からM&Aの流れが活発であり、検討に時間をかけすぎると他社に先を越されるケースも考えられます。

経営者の体力面にも注意が必要です。M&Aは買い手が見つかるまでに時間を取ることも多く、交渉期間中は書類作成や相手企業との意見調整に多くの労力が掛かります。その間も会社の管理や維持は並行して行う必要があり、途中で経営状況やオーナーの体調が悪化した場合は譲渡が失敗するリスクが高くなります。順調な時期に準備を始め、余裕を持って譲渡を行えるようにスケジュールを組んでおく必要があります。

大手M&A仲介業者に依頼した場合、物流会社の事業譲渡には少なくとも3ヶ月、長ければ半年から1年かかるとされます。必要期間は譲渡する会社の規模や事業領域によって変動します。交渉手続きが難航すると経営を維持する負担が大きくなり、成功率も下がってきます。

スムーズに手続きを行うには、正確な情報を揃えて需要の高い企業を探し出すことが不可欠なので、物流業界の近況に詳しく、事業譲渡の実績が豊富な業者であるほど信頼性は高いと言えます。

 

まとめ

物流会社の事業譲渡は外的要因によって変動する要素が多く、実施には物流業界に明るく、事業譲渡の実績を持つM&A専門業者に相談を行いながら慎重に進める必要があります。

しかし適切な企業に譲渡できれば成立時のメリットも大きく、債務を返済して後顧の憂いを解決した円満なリタイアを行えたり、事業規模の拡大によって経営を大幅に改善できたりする可能性があります。

事業譲渡は経営方針が近い企業と行うことで、オーナーが培ってきた業務体系や社風を存続していけるメリットがあります。理想的な事業承継を行いたい場合は適切な知識を基に早期に行動を起こすことがポイントです。

物流会社の事業譲渡を検討する際のチェック項目
物流業界は、Web通販の普及や都心の開発に伴う建築業からの運送ニーズ増加によって、全体的な取扱件数は微増傾向となっています。しかし、参入規制の緩和が行われたことで新規参入者数が急速に増加し、価格競争の激化によって市場規模は縮小しています。
本稿では物流会社の事業譲渡を実施するメリットや注意点を解説します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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