2019年4月18日 木曜日

物流会社の事業承継でお困りではないですか?

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

事業承継は多くのオーナーが直面する問題です。一方、実施の困難さから毎年多くの企業が承継には至らず、廃業に追い込まれています。
物流会社も例外ではなく、業界の特性に起因する後継者教育の難しさや後継者の減少が問題となっています。

本項では物流業界の特性や近況に触れた後、物流会社の事業承継を行う時の方法や円滑に行うポイントを紹介します。

 

物流会社を事業承継しよう


物流業界は中小企業の比率が高く、宅配手数料の単価下落による収入減で資金繰りが難しくなる会社が増加しています。運送ニーズは緩やかに拡大を続けており、結果として低賃金で長時間労働を行わざるを得ない状況が問題となっています。新規雇用者数も横ばいであり、物流業界では中高年層が労働力の大半を担う状況です。

経営者層についても平均年齢の上昇は共通しており、多くの物流会社で事業承継のニーズが高まっています。

事業承継の形式は親族内承継従業員承継M&Aに代表される第三者への承継が存在しますが、物流会社では親族内承継が用いられるケースが多いです。

親族内承継はオーナーの息子か娘、その他親戚に引き継ぐことを指します。オーナーの意向に沿った承継が行いやすく、周囲の従業員や親族からの理解が得やすいというメリットがあります。準備期間中に取引先への紹介を行うことも可能であり、代替わりによる従業員の退職や取引先の変動を抑えやすい方法です。

従業員承継は会社内の役員または従業員に引き継ぐことを指します。役員が株式を取得する形式をMBO、従業員が株式を取得する形式をEBOと呼称します。

自社の業務スキルを持った人物に引き継ぐので準備期間を短縮しやすいことが主なメリットです。優れた後継者を選びやすく、承継後の業績改善に繋げやすいことから運送業界では主流となりつつある方法です。

 

後継者がいない、そんなときは


親族や従業員への承継は信頼性に優れていますが、経営を受け継ぐ難しさ、手続きに伴う多額の金銭的負担などから、後継者を確保できない企業も多数存在します

物流会社の事業承継は株式譲渡で行われることが多いですが、経営権を移行する過程で新オーナーは株式の評価額と同額の金銭を支払う必要があります。評価額は数千万円~1億円単位になることも多く、経営スキルを備えていても承継を行えないケースがあります。

また、承継後に会社の立て直しが求められる場面だと、後継者に要求されるハードルが上がり、候補者が引継ぎを辞退する可能性が高くなります。親族内承継や従業員承継は候補者の少なさがネックであり、中小企業の多い物流会社では後継者不在が特に問題となっています。

経営スキルの指導には平均して5~10年掛かるとされており、その期間を費やしても実際に承継できる人物が育つ確率は100%ではない点も、現職のオーナーを躊躇させる要因となっています。その間に時間的な期限が迫り、場当たり的に次の経営者の指名を行うケース、廃業を選択するケースも多く存在します。

近年は親族が別業種へ就業していることも多く、最初から指名できる人物が居ないケースも増加傾向にあります。この場合は事業所を閉鎖するか、M&Aや株式公開などを用いて第三者に承継を行うことになります。事業所の閉鎖は従業員の再雇用や債務の処理などデメリットが多く、実施する前に他の方法を先に試みることをおすすめします。

物流業界はM&Aが活発に行われており、経営改善を図る中小企業間での統合も増加しています。M&Aはリスクもありますが、適切な相手企業と実施することができれば様々なメリットを得ることが出来ます。

 

M&Aによる事業承継を選ぶメリット

M&Aは他業種を含む外部企業に、事業の一部または全部を引き継ぐ手法です。第三者に承継を行うので後継者問題を考える必要が無く、成立時には売却金を得られるので債務に関する問題も解消可能です。

物流会社でのM&Aは従業員の雇用の引継ぎが重要視されるケースが多く、中途採用が難しい現状で雇用を引き継げるのは大きなメリットです。従業員同士の交流によって双方の事業ノウハウが共有され、より効率的な業務体系が考案されることを目的としてM&Aを行う企業も多く存在します。

他の承継形式に比べて短期間で実施可能なのもメリットであり、M&Aの仲介業者を利用した場合は平均して半年から1年ほどで承継手続きを完了できるとされます。

売却先企業のブランドイメージを得ることで対外的な交渉力が強化され、会社の継続的な成長を維持することができます。交渉しだいでは元オーナーが承継後の企業で一定の地位を得ることも可能です。

 

物流会社の事業承継のポイント


事業承継は実績のある仲介業者の協力が必要ですが、準備を始める時期や最終的な実行時期などはオーナーが決定する事項です。加えて、特に重要な事業価値の算定に用いる要素や活用できる税制などは数年単位の対策が必要なものも存在します。

仲介業者に委任することに関しても事前にポイントを押さえておくと早期から準備を進めることが可能であり、良い状態で事業を引き継ぎやすくなります。

 

・どの形式で承継するか

最適な候補者を選ぶには、現在の地位や年齢ではなく、経営に向いているかを重視する必要があります。
特に先代のオーナーが会長職に就いてサポートを行う場合、現在の社長に企業を任せられずに長期間のサポートが必要になるパターンは、事業承継の典型的な失敗例と言えます。

問題が長期化した場合は先代のオーナーが社長に再就任するケース、別の候補者に承継を行うケースも多いですが、短期間内に複数回オーナーが変わる企業は先行き不安であり、従業員のモラル低下や離職率の増加に繋がります。物流会社は中小企業が多く、管理資格者が1名でも退社すると業務に大きな支障を及ぼすことが予想されます。従来の業務量を行えずに取引先の信用を失うといったマイナスの循環に陥り、承継の失敗で事業の存続自体が困難になるケースも確実に存在します。

事業を確実に存続させるには、特定の形式に固執せず、状況に応じて最適な承継先を選択する必要があります。

 

・承継を実施するタイミング

事業承継は実施すれば終わりではなく、新たな経営者の事業方針が従業員の間に浸透するまでに1〜2年程度の期間が必要とされます。M&Aを行った場合は双方の従業員間の交流を行い、社風の共有と統一を行う期間も必要になり、場合によっては元オーナーが企業間の架け橋としてサポートを行うことも要求されてきます。

承継の開始から実質的な完了までに要する期間は平均して5年~10年程度とされています。

経営者の平均的なリタイア年齢は68~70歳とされており、所要期間を考慮すると50代~60代の時に準備を始める必要があります。

特に親族内承継の場合、業績の悪さを理由に引継ぎを断られやすい傾向があります。オーナーにとって有望な候補者の場合、経営状況の良さをアピールし、引継ぎに対して肯定的な印象を与える必要があります。
候補となる人物には早めに親族承継を検討している旨を伝え、オーナーを受け継ぐ意向があるか確認しておくと正確な承継プランを立てやすくなります。

M&Aを活用して承継を行う場合、企業間の相性とは別に業界全体の経済状況も考慮してスケジュールを組む必要があります。物流業界の収益額は流通システムを利用する他業種の流通量に連動しており、M&Aの実施に必要な資金調達の難しさも変わってきます。

候補先企業が主要取引先としている法人顧客の業種に関する知識が要求されるため、物流会社のM&Aは他業種よりもタイミングが重要となってきます。

 

・事業価値の算定

事業価値の計算には、ドライバーの人数の多さ、平均年齢、離職率の低さ、若手の新規採用が継続的に行えているかなど、収益に関係することや労働条件の水準といった総合的な情報が必要です。記載内容に不備や間違いが見つかった場合は交渉が不利になりやすく、承継を断られるケースも存在します。M&A専門部署を持たない中小企業はM&Aの専門業者へ依頼するケースが一般的です。

企業側が能動的に実施可能な取り組み例として、チルド輸送や冷凍輸送など特殊な輸送形式の導入、重量品の輸送に対応できる大型特殊車両の導入などが挙げられます。対応できる輸送の幅を広げることで対外的な交渉力が強化され、取扱個数の増加による宅配手数料の増収を見込めます。

また、積載率の高さも重要なポイントです。宅配手数料は宅配品の実重量と容積換算重量から重くなる方が採用されています。最大積載量が高い車両は重くて小さい物を多く乗せられるので輸送1回あたりでより高くの収益を上げやすく、対応できる案件の数も増加するメリットがあります。取扱個数が増加することによって積載率も向上し、往復回数の減少によって燃料コストの削減も行えます。

全体的な車両の保有台数も多い方が良く、充分な数を揃えるには高額のコストが必要になります。優先順位は企業によって様々ですが、事業がひと通り軌道に乗った段階が事業承継を開始する最適なタイミングと言えます。

 

・労務規定の見直し

物流業界では労働条件の改善を行っている企業も多いですが、実際に用いられる労務規定に改善内容を反映していないケースは多いとされます。物流業は業務先から従業員が戻るタイミングが分散しやすく、口頭での伝達や本社への書類掲示だけでは従業員間での認識に違いが生じやすくなります。

特に残業時間の扱いや休暇の取得規定などが会社の現状と一致していない場合、残業代に関するトラブルや従業員が必要な時に休みを取れない等の問題が予想されます。

また、物流業界に就業を希望する若年者層は、残業時間の多さや休暇規定の曖昧さを1番の問題としていることが多いので、現状と異なる労務規定を伝えて雇用機会を損失する事態は防ぐ必要があります。

 

・金銭面への対策

事業承継によって経営権を移行する場合、自社株式を相続する際に対価として相続税の支払い義務が生じます。中小企業の自社株式は評価額が数千万円に届くケースも多く、支払いが出来ないと承継も行えないという問題があります。

対応策としてオーナーが後継者候補に必要分の資産を予め贈与するケースも想定されますが、生前贈与した資産には贈与税の支払い義務が生じます。

贈与税は事業承継を困難にする要因となっていましたが、解決策として2003年に「相続時精算課税制度」が制定されています。この制度の適用によって累計で2,500万円以内の贈与財産を非課税とすることが出来ます。なお、2,500万円を超える分は従来と同様の贈与税が発生します。

手続きの簡略化にこだわる場合は後継者候補の報酬を増額する、積立を行う等の対応策が存在しますが、実行には経営者教育と並行して充分な収益を上げる必要があります。その上でもオーナーの手元に残る金額は少なくなるので、基本的には株式を段階的に譲渡する、事業承継税制を活用するなど適切な税金対策が不可欠です。

 

・仲介業者の活用

M&Aには多くの専門知識が必要であり、中小企業の場合はM&A仲介業者に相談する機会も多いと思われます。各種手続きを代行してくれることに加え、オーナーの意向に応じた最適な売却先探しをサポートしてもらえるメリットが得られます。物流会社に詳しく、事業承継の実績が多い業者であるほど信用性は高いです。

但し仲介業者の利用には手数料が必要で、着手金や月額報酬が発生する場合は結果にかかわらず支払う必要があります。コストを抑えたい場合、完全成功報酬制の業者に相談する事を推奨します。

 

・運送業許可

運送業の実施には「一般貨物自動車運送事業許可(運送業許可)」が必要です。M&Aによる事業承継を行う場合、運送業許可を引き継ぐことは原則としては不可能です。譲渡先企業が運送業許可を取得していない場合、M&Aの実施には別途手続きが必要になります。

事業承継の手続に先行して「譲渡譲受認可申請」の書類を運輸局へ提出し、認可が通れば事業の承継手続きと同時に運送業許可を引き継ぐことが出来ます。書類の提出から認可の決定には約二カ月を要するので、相手企業との交渉スケジュールに合わせて準備を進めておく必要があります。

 

まとめ

物流業界は他業種との関連が多い独特な業界特性を持ち、事業承継を実施する際には各種専門業者のアドバイスを受けながら、円滑に手続きを行うことが重要となってきます。

近年は宅配便業を中心に運送ニーズの増加が続いており、中小企業では従業員不足で物理的に対応不可となるシーンも今後増加することが予想されます。M&Aによる労働資源の集約が有用な対応策となることを把握し、必要に応じて実行に移せる判断力と実行力は、現在の物流会社のオーナーにとって重要な要素です。
実施する際は短期的な事業拡大を優先せず、長期的な会社の存続と成長を重視出来る環境を整えることが、事業承継を成功させるポイントです。

物流会社の事業承継でお困りではないですか?
事業承継は多くのオーナーが直面する問題です。一方、実施の困難さから毎年多くの企業が承継には至らず、廃業に追い込まれています。
物流会社も例外ではなく、業界の特性に起因する後継者教育の難しさや後継者の減少が問題となっています。
本項では物流業界の特性や近況に触れた後、物流会社の事業承継を行う時の方法や円滑に行うポイントを紹介します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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