2019年4月23日 火曜日

物流会社の事業売却のポイントとは?

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

2017年度における物流業界の事業規模は25兆円とされており、その6割をトラック運送業が占めているとされます。近年はインターネット通販の普及やメール便サービスの利用増加によって運送業へのニーズが拡大しており、大手企業を中心に3PL事業への対応強化が推進されています。また、大手運送業者が配送手数料の値上げを実施した例もあり、今後は価格より品質を優先した業務体系への移行が進んでいくことが予想されます。

 

物流会社の事業売却で次のステージへ


近年は業種を問わず事業売却を実施または検討する経営者が増加しています。特に物流業界は業界再編の流れが活発であり、中小企業が譲受側企業となる事例も増加し始めています

運送ニーズの増加に伴って物流サービスに要求される業務水準の高度化が進んでおり、事業ノウハウの蓄積が少ない新規業者や、対応できる業務量が限られる中小業者にとっては厳しい状況が続いています。

物流会社はスケールメリットの拡大による恩恵が大きく、取引先の共有や経営資源の確保を図る中小企業が増加していることが推測できます。加えて、適切に実施すれば経営方針を維持しながら事業売却が行えるという実態が売却を躊躇していた経営者間に広まり、事業売却に対する精神的な障壁が取り除かれつつあることも物流会社の事業売却件数が増加する要因と推測されます。

今後は大手企業を中心とした物流システムの高度化や経営資源の集約が更に進んでいくと推測されており、事業の維持に必要なコストも増大していくと予測されます。経営状況に応じて最適な手段を選択し、会社の存続および拡大を図っていくことが現在の物流会社の経営者にとって重要なポイントの1つです。

 

物流会社を事業売却する目的にはこんなものがあります


事業売却を実施する譲渡側企業のメリットとしては、後継者問題の解消従業員の雇用引継ぎ現金の獲得企業の成長性の維持などが挙げられます。

中小業者が事業者数の9割以上を占める物流業界は、少子高齢化による影響を受けやすく、後継者問題の解決を目的として事業売却を実施する経営者は増加しています。同業他社へ売却した場合は経営スキルを持った人物が後を引き継ぐので、オーナー交代後のフォロー期間を短縮しやすく、企業が存続していく可能性も高いと言えます。

従業員の雇用を引き継げるのも大きなメリットです。会社を閉鎖する場合は従業員を解雇する必要がありますが、物流会社の主要な労働者層は中高年層であるケースが多く、再雇用を個別にサポートするのは困難です。しかし事業売却を用いると雇用を引き継げる確率が高く、売却先の企業にとっても従業員を新規採用して教育を行う時間とコストを削減できるメリットがあります。

事業売却をきっかけに経営改善を図る経営者は多く、成立時には獲得した資金を用いて経営を立て直すことが出来ます。売却先の企業の経営基盤を共有できることもあり、経営の見通しも立てやすくなります。経営が改善されると従業員のモチベーションも上がりやすく、売却先の企業にとっても生産性の向上による収益の増加が見込みやすくなります。

物流業界では大手企業を中心に3PL事業の拡大が推進されており、業務体系が大きく変容しつつあります。3PL事業の実施には高度な事業ノウハウが不可欠であり、基本的には大規模な物流網による業務の高速化と各種コストの低減も前提となってきます。

今後も大手企業による業務体系の高度化が進むと、現在は順調に経営が出来ていても将来的に事業の維持が困難になってくる中小企業が増加することが予想されます。主な問題は流通システムの開発や運送車両および事業拠点の整備に要するコストの増大ですが、事業売却を実施することで車両や事業拠点の問題は即座に改善が図れます。経営資源の共有によって実施できるようになる業務が増加し、双方の事業ノウハウを共有することでより効率的な業務体系を構築できれば、流通システムの問題も解決できます。

入念に企業研究やデューデリジェンスを実施した上でも期待通りに計画が進むほうが稀ですが、事業売却の実施によって対外的な競争力を向上させ、企業の長期存続へプラスの影響を与えることを目的として事業売却を実施する物流会社は増加しつつあります。

 

物流会社の事業売却を行う上での注意点


事業売却は、適切に実施すれば売却前と近い経営方針を持って事業を継続できますが、実施に必要な相手企業の探し方や書類作成などにはM&Aに関する専門知識が不可欠です。基本的にはM&A専門業者へ相談を行いながら交渉を進めるのですが、売却時の方針やタイミングなどは経営者自身が適切なプランを立てて実施する必要があります

 

・経営資源の引き継ぎ

物流会社の事業売却では、従業員や輸送に用いる車両、配送拠点、取引先との実績などといった、売却直後から事業規模を拡大できる資産の重要性が高く、相手企業に対して需要の高い人員や経営資源を多く持っているほど売却交渉を有利に進めやすくなります。

物流業界では業務量の増加が続く一方で新規雇用者数が横ばいに近く、従業員の引継ぎは多くの物流会社にとって優先事項です。事業売却によって引き継いだ従業員は運送技能を始めとした業務経験を積んでいることが多く、引継ぎ直後から即戦力として活躍が見込めます。

運送技能の習得には費用と時間が掛かりやすく、譲受側企業にとっては新規雇用や技能教育に対する費用を抑えながら人材不足を解消できるメリットが得られます。

運送業者の場合は保有している輸送車両の台数や内訳、整備状況も重要なポイントです。運送業に用いる大型トラックは新規導入するコストが高く、故障した時のリスクや修理費も膨らみやすいものです。事業売却によって状態の良いトラックを安価で獲得できるのは譲受側企業にとって多額のコスト削減を行えるメリットがあります。
ただし、整備状況が悪いと売却先の企業が修理費を負担するデメリットが生じるので、事業売却を実施する際は車両を整備する金銭的な余裕がある状態で準備を始める必要があります

 

・就業規定の見直し

物流業界では長時間労働による従業員への負担を軽減する取り組みが進められていますが、就業時間や休暇などに関する改善を行った場合でも就業規定の加筆修正は実施していない企業は多いとされます。会社の現状と就業規定が一致していないと従業員に誤った認識を与えやすく、トラブルに発展する可能性が高くなります。新規採用を行う際にも雇用機会の損失に繋がりかねないので、事業売却を検討するタイミングで就業規定の見直しを実施しておくことで事業方針が近い企業を探しやすくなり、交渉をスムーズに進めやすくなります。

 

・社員や取引先の理解の獲得

事業売却を行うことによる影響や、成立した時の会社の展望などは、従業員や取引先に対して充分に説明を実施する必要があります。売却の見通しが立たない段階での公表は避けるべきですが、説明を怠るとベテラン従業員の離職や主要な取引先から契約を打ち切られる等のリスクが大幅に増大します。交渉過程でトラブルが起こると相手企業からの信用を損なうことに繋がるほか、事業の運営に支障が出る可能性があります。

また、従業員への給与未払いが無いかは慎重に調べておく必要があります。
もし未払いがある状況で事業売却を実施すると、譲受側企業が賠償請求を受ける可能性があります。それに伴って事業売却の契約を解除される可能性が極めて高いので、思い当たることが無い場合でも改めて調べ直すことでリスクを最小化することができます。

 

・M&A専門業者の見極め

事業売却の実施には財務および法務関連の専門知識が必要であり、自社内にM&A用の部署を持たない企業は外部のM&A専門業者に相談しながら進めることが一般的です。依頼の際は、変容が早い物流業界の近況に詳しく、物流会社の事業売却の成立事例が多い業者を選ぶことを推奨します。譲渡側企業の要望を考慮し、早期に適切な売却先の紹介を受けられる可能性が高くなります。

経営コンサルタント系のM&A専門業者は、中小企業の企業価値を見つけるのが得意な傾向がありますが、大規模な顧客ネットワークを持つ仲介業者や高額案件を手早く正確に成立させる金融系業者など目的に応じて最適なM&A業者へ依頼する必要があります。

M&A業者への依頼には手数料が必要です。業者によっては成立時の成功報酬以外にも相談料や依頼を行った時の着手金、月間報酬などが発生します。交渉成立までのコストを抑えたい場合は完全成功報酬制のM&A専門業者へ依頼を行うことが重要です。

 

・実施する時期の見極め

物流会社の事業売却は他業種の動向が実施タイミングに与える影響が大きく、適切な時期を判断するのが困難です。物流会社の事業売却では新規参入を図る他業種の企業が買い手となるケースも多く、同じ物流会社へ売却する場合でも、相手企業の主要な法人顧客が属している業界の状況も考慮して売却先を決める必要があります。

近年は業界再編が進んでいることもあり、物流会社による事業売却が活発に行われています。事業売却の開始から成立までは平均して半年から1年かかるとされており、実施タイミングを遅らせていると他社に先を越されるリスクが増大してきます。

 

・相場の把握

事業売却の準備を始める場合、売却する事業内容に応じた取引価格の相場を知っておく必要があります。相場より高すぎる額を提示していると相手企業探しが難航しやすく、相場より低い額を提示していると提示額に合わせて買収される可能性も有り得なくはないです。

相場の算出に用いる計算式は業者ごとに異なりますが、一例として企業の純資産に営業権を加算することで算出する”コストアプローチ”という方法があります。中小企業の事業売却に広く用いられる計算式であり、売却時点での事業価値を客観的に算出できるメリットがあります。

経営者自身の人脈に心当たりがある場合でも、実際にアプローチを行う前にM&A専門業者に相談を行うことを推奨します。相場を算出する過程で企業の現状を改めて把握できるほか、最初から相場に沿った金額を提示することで交渉に対する姿勢をアピール出来る場合があります。

 

・シナジー効果の創出

車両や事業拠点などの売却による直接的な利益は重要ですが、物流会社を事業売却する場合は、業務ノウハウの共有による輸送時間の短縮や業務品質の向上など利益以外のメリットも重要です。物流業は事業規模の拡大によるメリットが大きいことから売却先自体は多いですが、M&Aの成立後に譲受した企業と的確に連携して業績を向上させられるかは企業間のシナジー効果を発揮できるかが重要なポイントになります。

事業売却によるシナジー効果を最大限得るには、譲渡側企業と譲受側企業の経営方針、業務内容や事業拠点の展開地域、ドライバーの人数などを参照したうえで売却先を検討する必要があります。

経営方針の差が大きい企業間で売却の交渉を行うと、従業員の引継ぎや就業規則の調整が難航しやすく、成立した場合でも従業員間での意見の対立が起こりやすい傾向にあります。経営方針は最初にチェックしておくことを推奨します。

 

・運送業許可の引継ぎ

物流会社の事業売却は、他業種の会社が譲受側企業になるケースも多いですが、運送事業を売却する場合は運送業許可の引継手続きを検討する必要があります。譲渡先企業が運送業許可を取得していない場合、事業売却によって運送事業を譲受することは原則として禁止されています。

事業売却に伴って運送業許可を引き継ぐには、対応した地域の運輸局へ届け出る必要があり、申請から受理までには平均して2カ月程度かかるとされています。申請するタイミングが遅れると、事業売却が成立しても許認可を譲受するまで運送事業を開始できないことになるので、交渉の見通しが立った場合は売却のタイミングに合わせて申請を行っておくと成立後の手続きをスムーズに進められます。

 

まとめ

物流会社の事業売却では実施に伴う事業領域の拡大や業務体系の高度化などのシナジー効果を充分に得られるかが重要であり、シナジー効果の最大化には譲渡側企業と譲受側企業の事業内容や経営方針、事業拠点の立地や貨物の種類などを比較したうえで最適な売却先を探し出す必要があります。

近年は物流会社による事業売却の実施数が増えてきていますが、必ずしも交渉相手が見つかるとは限らないです。確実に事業売却を成立させる取り組みとして、譲渡側企業の状態に応じたM&A専門業者への相談や正確な事業情報の書類化などは不可欠です。

物流会社の事業売却のポイントとは?
2017年度における物流業界の事業規模は25兆円とされており、その6割をトラック運送業が占めているとされます。近年はインターネット通販の普及やメール便サービスの利用増加によって運送業へのニーズが拡大しており、大手企業を中心に3PL事業への対応強化が推進されています。また、大手運送業者が配送手数料の値上げを実施した例もあり、今後は価格より品質を優先した業務体系への移行が進んでいくことが予想されます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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