2019年4月24日 水曜日

物流会社のM&Aを実施する前に考えておきたいこと

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

物流業界は元請け会社を起点として、下請け、孫請け会社へと細分化されていく大規模なピラミッド構造が形成されています。参入に必要な資本が少なく、常に一定の需要があることから、中小企業の比率が高い特徴があります。近年は業界再編の流れが進んでおり、M&Aを検討する物流会社は増加しています。本稿では物流会社におけるM&Aを実施する前に考えておきたいポイントを紹介します。

 

物流会社のM&A


物流業界では、会社の規模を問わずM&Aが活発に行われています。新規参入に必要なコストの低さと需要の安定性から一時期は多数の新規参入が行われていましたが、近年においては業者総数、市場規模ともに縮小傾向にあります。
加えて、主な産業であるトラック運送業においては大型免許の取得および習熟の難しさから新規教育が追いつかず、現役のドライバーが減少しています。1人あたりの連続運転時間の規制も伴い、大手企業においてもドライバー不足は深刻な問題です。

また、インターネット通販の普及に伴って宅配便業が急伸を続けており、宅配便貨物の取扱個数は2011年から6年連続で過去最高を更新しています。一方で業者間の競争によって宅配料の単価下落と配達個数の増加が進み、配達業務のコストパフォーマンスが悪化するケースは問題となっています。

大手企業においては短期間内に集中的な配達を要求されるケースが増加しており、対応手段として会社の余剰財源を活用し、物流業務を外部機関に委託するサードパーティー・ロジスティクス(3PL)が大手企業を中心に注目されています。

3PLに対応した業者を獲得することで他の部門へ専念することが可能となり、サービス水準の向上または新規部門の設立が行いやすくなります。加えて、常に特定の業者に依頼を行えるので、配達サービスの品質が安定するメリットも得られます。

コスト面においても、個別に依頼を行う場合に比べて総支出額が把握しやすく、会社全体の予算計画が組みやすくなるメリットが得られます。

大手企業においても配達個数を最適化してサービスの品質を高め、配送料の単価を上げることで業績が向上したケースが存在します。

 

物流会社のM&Aを行う理由は?


運送業のうち、トラック運送業や宅配業を含む「自動車運転の職業」の2019年の有効求人倍率は2.74倍と全産業平均の1.63倍を大きく上回っており、人材不足が深刻な問題となっています。全体的な市場規模の縮小も背景にあり、経営資源の集中を目的としたM&Aが増加傾向にあります。

譲受側企業のメリットとして1番大きいのは、譲渡側企業のドライバーと保有車両を獲得出来ることです。新しく揃えるコストを低減できるほか、新規参入の場合でも業ノウハウを獲得することで短期間でサービス水準を大きく向上させられるメリットがあります。

近年においては他業種の会社が物流会社を買収もしくは資本業務提携を行い、コストの削減を行うケースが増加傾向にあります。通販業やIT業など変化が早い業種においては早期にサービスを展開できるM&Aは効果的な形式と言えます。

また、集配ターミナルの増加によって燃料コストの削減と配送スピードの向上が見込めるほか、車両台数の確保によって車両管理コストを削減出来るなどスケールメリットを拡大出来ることも挙げられます。

ただし、双方の経営方針や社風については入念に確認・調整を行う必要があります。方針が異なる企業間で成立を急いだ場合、統合後の経営陣と引き継いだ従業員の間に軋轢が生じやすいデメリットがあります。社内での連携が上手く行かず、M&Aによるサービス水準の向上および増収額が想定を下回ることもあるので注意が必要です。

譲渡側企業は業務体制の共有や売却資金の獲得によって会社の存続が出来るメリットがあるほか、自社ドライバーの雇用引継ぎをすることで再雇用先の斡旋を同時に行うことができます。

ドライバーの技量や車両の整備状況は物流会社のM&Aで重要なポイントになるので、譲渡側企業は継続的な社員教育や車両の整備を実施する必要があります。

譲渡先企業の傘下に入ることでネームバリューを得られるので、取引先および一般の消費者に対する信用性が向上することに加え、新規営業時における交渉力が強化されます。事業規模の拡大によって業務効率が向上し、会社の経営を維持しながら安定的な成長を実現できる点も大きなメリットです。M&Aは譲渡側企業の社風や経営陣が残らないという印象も根強いですが、統合後も譲渡側企業のオーナーが続投する、もしくは一定の地位をキープするパターンも存在します。M&Aによって従業員や事業ノウハウなどを共有し、サービス水準の向上または新規事業開拓によって大きな増収が見込まれる場合は成約率も高くなりやすいです。

物流業界はオーナーの高齢化が問題となっていますが、信頼性の高い大手会社にM&Aを行うことで後継者問題の解消も可能です。また、M&Aによって企業を売却した場合はオーナーの個人保証を解除できるケースも多いです。減価償却前の経常利益が2年連続で赤字もしくは債務超過ではない限り、政府系銀行とほとんどの民間銀行は個人保証を解除できるとされています。

 

物流会社のM&Aを行うタイミングは?


物流会社のM&Aを行う場合、できるだけ早期に準備を整える必要があります。これは全ての業種において言える話ですが、物流会社の業績は他業種が流通を利用する量によって左右されます。市場全体の景気が関係してくるので、売却を検討する際は経済が上向きになるタイミングを見極める必要があります。

しかし、譲渡側企業のドライバーの年齢や車両の使用年数が上がってくるとM&Aの成立が難しくなってきます。売却額にも左右されますが、M&A専門の代行業者に依頼した場合は候補先の選定からM&A成立まで1年以上かかるケースも存在します。加えて、双方の従業員に新しい業務体制が浸透するまでにも長ければ数年を要します。

M&Aが成立するまでの間も会社の経営は維持する必要があるので、オーナーの健康状態および会社の経営状況に余裕のある間に売却を決断することが、有利に交渉を進めるポイントです。差し迫った状況になってから手続きを始めた場合、成約できたとしても譲渡側に不利な条件で受けざるを得ないパターンが想定されます。また、話が流れた場合は廃業となるリスクも高いので、交渉スケジュールには余裕を持っておくことを推奨します。

事業の存続を優先する場合は出来るだけ早期に売却交渉を始め、従業員の引継ぎや債務の処理を優先して手続きを行う必要があります。事業価値を優先する場合は譲渡先企業の意向を適切に考慮し、ドライバーの技量や輸送ルートの規模・地域などプラスになる要素を可能な限り多く提示していくことが要求されます。

物流業界におけるM&Aはタイミングが難しく、実施する際は候補先の企業研究や報告書類の作成に時間を割けるようにスケジュールを設定することがポイントです。また、譲渡側企業においてM&Aの実施は従業員への影響が大きいので、ある程度確実な段階に進むまでは経営者間で話を進める必要があります。交渉が長期化すると事業計画が漏えいする可能性も高くなってきます。M&Aの計画が従業員や外部に伝わった場合、従業員の退職や計画の白紙撤回が予想されます。機密を保持し、スムーズに交渉を進めるには売却方式の選定や事業価値の算定などにおいては専門業者の協力を得ることが重要なポイントです。

 

物流会社のM&Aを実施するのは誰か?

近年の物流会社は小規模な企業を中心に買収や吸収合併が増加しています。物流業界の中で最も事業者数が多いトラック運送事業者の9割ほどは中小企業であるとされますが、経営状態は全体的に赤字傾向となっています。M&Aによって事業所を集約し、経営の改善を図る企業が増加し始めており、今後も増加を続けていくと見られています。

大手企業においては物流業務を第三者機関に委託する3PL(サード・パーティ・ロジスティクス)の需要が高まっており、3PLに対応できる会社はM&Aにおいて有利な状況となっています。

近年はサプライチェーンマネジメントが再注目されており、流通システムの高度化が進んでいます。大手企業であるほど物流業務に要する負担の増加が大きく、人員の確保および流通ルートの拡大を意図したM&Aを積極的に実施する傾向が強まっています。

震災復興および東京五輪に伴って輸送ニーズは今後とも増加していくことが予想されており、大手・中小企業を問わずM&Aは活発化していくと予想されます。

 

物流会社のM&Aの相談先は?


物流業界は他の職種と比べて職務内容が細分化されており、適切な売却企業の選定には運送業・倉庫業に明るい専門業者の協力が必要です。コストを抑えたい場合はオーナー自身の人脈から選び出す、もしくは自社の税理士や公認会計士に相談する手法もありますが、個人であるぶん人脈の広さには限度があります。
また、売却方式によっては多額の手数料が掛かるほか、事業価値の算定には会計・法務の面で高度な専門知識が必要となります。

 

代行業者

手続きの信頼性を重視する場合、最もポピュラーなのがM&Aの代行専門業者に相談する方法です。代行業者は独自の顧客ネットワークを保有しており、譲渡側企業の経営方針や運送設備等に合わせた最適な相手企業を探してくれる可能性が高いです。事業価値の算定や各種法令の適用による支出の最適化など個人では困難な部分も代行してくれる所は大きなメリットです。

依頼を行う際は流通業のM&A実績の多さも重要なポイントです。流通会社の事業価値を正確に算定するには流通業のビジネスモデルを正しく理解している必要があります。正確な情報を基にM&Aを行うためにも、流通業のM&A実績の多い代行業者を選ぶことが重要となります。

業者によっては相談料、着手金、月額報酬など多くの項目で金銭が必要になってきます。代行業者を活用する場合、大手業者でも成功報酬以外は無料としている業者も存在します。小規模なM&Aである場合は報酬の項目や金額を考慮して業者を選ぶか、他の手段を活用することも選択肢の1つです。

 

各種金融機関

買収時の資金調達を行う場合は、銀行や証券会社を訪れることになります。大規模な銀行はM&Aの相談窓口を設けている場合もあり、取引先のリストから優良な相手企業を紹介してもらえる可能性があります。

しかし、大規模な銀行であるほど手数料は高額になります。項目としては着手金、リテイナーフィー、成功報酬が一般的です。

着手金は銀行へM&A業務代行を依頼した時点で発生し、相場は100~3000万円とされています。外資系の銀行は高額となる傾向にあります。

リテイナーフィーは月額報酬ですが、半年から1年ごとにまとめて支払うパターンが一般的です。また、M&Aが成立した際には成功報酬からリテイナーフィーの金額を差し引いて計算します。交渉過程でのコストを抑えたい場合は支払い義務のない銀行を選ぶことを推奨します。

成功報酬はレーマン方式を採用している業者が多いです。売却時の取引額に一定のパーセンテージを乗算して算出する方式で、M&Aアドバイザリーの殆どはレーマン方式を採用しています。

ただし銀行によって取引額の定義は異なり、成功報酬も差が出てきます。基準は業者によって異なりますが、株式価値基準、オーナー受取額基準、企業価値基準、移動総資産基準のいずれかを用いているパターンが多いです。売却額によっては報酬額に1千万円単位の差が生じるケースもあるので、事前に確認を行っておくことで想定外の支出を避けることができます。

 

まとめ

物流会社のM&Aは従業員の獲得が重要視されるケースが多く、譲渡側企業は自社ドライバーの状態や車両の整備状況を適切に把握し、日常的に管理を行う必要があります。

物流業界は職務内容の細分化が進んでいるので、M&Aを行う際は他の業種に増してアプローチ前の企業研究が重要となります。自社の目的に応じた最適な企業を探すには物流会社のM&A実績を持つ代行業者に相談することが確実です。

ただし、実績豊富な業者でも常に最適なプランを提示するとは限らず、自社の意向と異なる企業を提案されて交渉が難航し、タイミングを逃すケースには注意が必要です。

物流会社のM&Aを実施する前に考えておきたいこと
物流業界は元請け会社を起点として、下請け、孫請け会社へと細分化されていく大規模なピラミッド構造が形成されています。参入に必要な資本が少なく、常に一定の需要があることから、中小企業の比率が高い特徴があります。近年は業界再編の流れが進んでおり、M&Aを検討する物流会社は増加しています。本稿では物流会社におけるM&Aを実施する前に考えておきたいポイントを紹介します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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