2019年6月22日 土曜日
IT企業のM&Aを実施する前に考えておきたいこと
Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)
IT企業のM&Aは、人手不足の解消や新規技術の取得などの目的で活発に行われています。IT業界ではエンジニアやデザイナーの人材が足りない状況が続いています。人材市場の流動化も影響しており、新卒や中途で採用しても追いつかない企業が増えてきているのです。
M&Aによって企業の売買を実行することで、人手不足の解消したり、スキルを身に付けた人材を引き継いだりすることができます。現在は、IoT技術が進歩してきており、他業種とのM&Aも頻繁に行われています。
IT業界では、常に新しい技術が開発されています。そのため、最先端のIT技術を取り入れようと考えている他業種の企業も増えてきています。M&Aなら、最先端のIT新技術を扱っている企業を取り込めるので、自社で開発するためのコストや時間を削減できるのです。
視点を変えて自分の会社をM&Aしようと考えても、どのようなことに気をつければ良いか、M&Aを行った方がいい理由など、イメージがつきにくいのではないでしょうか。
この記事では、M&Aを検討している方に向け、M&Aを行う理由や、タイミングなどをご紹介します。
Contents
IT企業のM&A
まず、IT企業とはなにか、M&Aの特徴についてご紹介します。
IT企業とは
ITとは「Information Technology」の略で、日本語だと「情報技術」と訳すことができます。つまり、IT企業とは、情報系産業のことで、情報系産業に関連する事業を行なっている企業を指します。
IT企業は大きく分けて、下記の6つの要素で成り立っています。
- ソフトウェア系
- ハードウェア系
- Webサイト制作系
- プロバイダ企業
- 通信企業
- その他の分野
IT系企業の主な職種は、技術運用系とクリエイター系に分けることができます。
技術運用系だと、サーバーセキュリティエンジニア、システムエンジニア、ネットワークエンジニアなどが挙げられます。クリエイター系だと、Webクリエイター、Webライター、イラストレータなどが挙げられます。
M&Aとは
M&Aとは、企業の合併や買収を意味します。お互いの利益のために協力することを目的に行われます。
M&Aの種類は下記の5つです。
- 業務提携
- 資本提携
- 分割
- 買収
- 合併
M&Aの特徴は、次の通りです。
・業務提携
業務提携とは、お互いが利益になるように培ってきたノウハウや技術を共有して協力することです。業務提携を深掘りしていくと、技術や人材を持ち寄る技術提携、生産ラインを委託する生産提携、パートナーの販売ルートやノウハウを生かして販売を委託する販売提携と分かれます。
・資本提携
資本提携とは、お互いが独立しながら、パートナーの株式を持ち関係を強化することです。経営支配権を持たない10%程度の株を保有するのが、一般的だといわれています。
資本提携は「資本参加」と「相互保有」の2種類です。
資本参加とは、片方の企業が株式を保有していることで、相互保有とは、双方の企業が株式を保有していることです。業務提携と資本提携との違いは、お金を出しているかどうかです。
・分割
分割とは、事業に関して持っている権利や義務を、パートナーに継承させることです。分割は、「新設分割」と「吸収分割」の2種類です。新設分割とは、双方の会社の事業が新しい会社に継承させることで、吸収分割とは、一方の会社の事業を相手の会社に継承させることです。
・買収
買収とは、会社が2つあったとして、片方の会社がもう片方の会社の経営権を買い取ることです。
買い取られた会社は、買い取られたからといって潰れるわけではなく、そのまま継続して事業を展開できます。買収は、「事業譲渡」と「株式取得」の2種類です。事業譲渡とは、会社の一部の事業を売り渡すことで、株式取得とは、売り手の会社の株式を買い取ることで経営権を握ることです。
・合併
合併とは、複数ある会社が一つの会社として生まれ変わることです。回収とは違い、合併に参加した会社は存続し続けることができなくなります。合併には「新規合併」と「吸収合併」の2種類があります。
新規合併とは、参加した全ての会社が存続できなくなることで、吸収合併とは、参加した1社を除いて他の会社が存続できなくなることです。
IT企業の特徴
IT業界の市場は大きく、一次下請け、二次下請け、三次下請けと多重化しており、ピラミッド型の構造になっています。また、大手企業から中小企業など、さまざまな規模の企業があるのも特徴です。
以前は受託型ソフトウェアが主流だった業態も多様化しています。いまは、あらゆるモノをインターネットに接続できる時代なので、IT技術が発展し続ける限り、多様化の一途をたどるといえるでしょう。
IT企業が抱えている課題・問題点
IT業界は、一見すると市場は拡大し続けており好調に見えますが、現状は慢性的な「人材不足」に悩まされています。「好調なのに人材不足?」と疑問を抱くかもしれませんが、IT技術の発展と密接な関係があるのです。
IT業界は発展が著しく、新しい技術が生まれる速度が年々早くなっています。早くなりすぎて、新しい技術に企業の社員が追いつけていないのが現状です。せっかく獲得した貴重な人材も、労働環境が過酷で離職してしまうケースもあります。
なぜ労働環境が過酷かというと、納期に追われ続けるハードスケジュールが原因なのです。「労働環境が過酷」といったイメージを持たれているIT企業は、なかなか人材が定着しにくく、新しい人材を取り入れることが難しくなってきています。
労働環境が改善されなければ、慢性的な人材不足は解消されません。なかには、好調を機に世界進出を目指す企業も少なくありません。しかし、人材不足が原因で、世界進出ができない企業も多くあります。今後も、ますます活発化していくIT業界ですが、人材不足の問題が解消される可能性は低いでしょう。
IT企業のM&Aを行う理由は?
ここからは、IT企業がM&Aを行う理由を4つご紹介していきます。
- 人材不足の解消
- 新規技術の取得
- 経営基盤の強化
- 海外市場の進出
人材不足の解消
IT企業がM&Aを行う最大の理由は「人材不足」を解消するためでしょう。時間をかけずに人材を確保する方法として、M&Aを実行することで人材不足を補うことができます。M&Aであれば、人材を確保するだけではなく、即戦力となる人材もを引き継ぐことができます。
新規技術の取得
IT業界では、常に技術革新が起こっています。M&Aをすれば、新技術を取り扱っている企業をそのまま取り込めるというメリットがあります。M&Aにより、新技術を1から開発する場合と比較して、コストや時間を削減することができます。
近年は、さまざまなものがインターネットにつながるIoTの時代へ変化してきています。小売業や人材派遣など、IT業界とは関係なくても、IT技術は使われているようになってきているのです。
経営基盤の強化
中小企業やベンチャー企業では、資金繰りが厳しく、大規模な融資を受けることも難しいでしょう。
新技術開発のための資金は、最低限調達しなければなりません。中小企業は大手の資本を取り入れるために、M&Aを行うことが多いようです。
海外市場の進出
日本ではIT業界の市場自体は好調ですが、人口が減少しているため、全体的に縮小している傾向にあります。人材不足が深刻で少子化も進んでいるので、海外に進出するIT企業が増えているのです。
M&Aでなくても、日本人ではなく外国人を雇うケースが多くなっています。国内にとどまらず、海外に進出するのもアリなのではないでしょうか。
IT企業のM&Aを行うタイミングは?
IT業界は好調で、今後もいまの状況が続く可能性が高いでしょう。しかし、新規技術がつぎつぎに生まれる業界なので、人材不足が解消されなければ企業が発展していくことはできません。IT企業のM&Aを行うなら、できる限り早いうちにしておきましょう。
なぜなら、IT業界は好調で今後も市場が拡大する可能性があるからです。市場が追い風のうちに、M&Aを実行することを検討しましょう。M&Aを実行するなら、オーナーの経営意思が強いタイミングがいいでしょう。経営意思が弱いと、逃げ腰の経営になってしまい、その雰囲気が従業員や取引先にも伝わり、離れてしまうことがあるからです。
IT企業のM&Aを実施するのは誰か?
IT企業のM&Aを実施するのは、どんな企業なのでしょうか。もっとも多いのは、IT企業同士のM&Aです。IT企業同士のM&Aは、新しい技術を取得したいときや、優秀な技術者を獲得したいときに行います。M&Aにより、専門知識やノウハウがある人を、即戦力として使うことができます。
その他の組み合わせとして、IT企業とIT技術者派遣会社のM&Aがあります。人材不足を解消することを目的として行われているM&Aです。IT企業と教育の組み合わせもよく見られるケースです。たとえば、語学や塾を経営している企業とIT企業がM&Aを実行することで、新分野を切り開く一歩になるのです。
IT企業のM&Aの相談先は?
IT企業に関わらず、M&Aの相談先はたくさんあります。得意としている分野が異なるので、特徴を把握してどこに相談するか検討しましょう。
- 税理士・会計事務所
- 銀行・証券会社
- 弁護士事務所
- M&A仲介会社
税理士・会計事務所
M&Aを検討し始めたら、自分の会社の税理士や会計士に相談する機会が増えていきます。税理士や会計士以外に相談を持ち掛けたとしても、結局、M&Aを進める上で税と会計の知識がいるので、税理士と会計士の協力は必須です。
しかし、M&Aに詳しい税理士や会計士は限られます。企業の税理士や会計士が備えている知識ではカバーできない問題があり、一部分についてのアドバイスしかもらえない可能性があります。
銀行・証券会社
とくに大手の場合ですが、銀行や証券会社の専門の方がサポートしてくれることもあります。ただし、上場大手企業のM&Aに重きを置いているため、中小企業のM&A案件についてあまり取り扱っていません。そのため、サポートをしてくれない場合が高いです。
大きな組織でフットワークが軽くないため、迅速な対応には至らないことが多いです。
弁護士事務所
自社にいる顧問の弁護士ならば、信頼関係があるため、相談しやすいでしょう。弁護士事務所の中にはM&Aの支援、仲介を積極的に取り扱っている所もあるため、実績がある弁護士がサポートしてくれることも多いです。
M&Aは法律も関係するため、この分野では強力なサポートが受けられる可能性があります。ただし、M&Aに不慣れな経験の浅い事務所は、強力なサポートを受けられないこともあるので、事前に確認する必要があります。
M&A仲介会社
最後に紹介するのが、M&A仲介会社です。M&A仲介会社は、M&Aをビジネスにしている所もあり、知識も豊富で実績がある事務所が多いです。仮に、経歴の浅い事務所に当たったとしても、銀行や証券会社でそれなりの経験を積んだ人が集まっていることが多いです。
M&Aで必要になってくる税理士、会計士、弁護士が在籍している事務所もあります。仮にそうでなくても、独自のネットワークを持っている所が多く、スムーズにM&Aが行えるでしょう。M&Aを検討し始めたら、まずはM&A仲介会社に相談してみましょう。
事務所の中には「取引が成立さえすればいい」と、あまり内容を加味せずに契約だけすることに注力してしまうところもあるので、事務所を選ぶときにも注意が必要です。
まとめ
この記事では、IT企業のM&Aを実施する前に考えておきたことについて、ご紹介してきました。IT企業は新技術が絶えず生まれるので、慢性的な人材不足に陥りやすいです。IT企業が納期に厳しく、ブラック企業が多いなどのイメージがあるために、人材が定着しないという問題が含まれています。
人材問題を解決すべく、新卒採用や中途採用を行っても、間に合わないほど人材が不足しています。M&Aを行えば、最初から技術力やノウハウがある人材が獲得できるので、即戦力となってくれます。
現在は、さまざまなモノがITと接続される「IoT」の時代です。今後、IT業界の市場はさらに広がっていくと予想されるので、人材不足が加速する可能性があります。M&Aをすることで、売り手側は新技術のための開発費などから、資本提携を望み、買い手側は、その新技術を獲得できます。
IT企業のオーナーで本稿を見ている方は、ぜひM&Aを検討してみてはいかがでしょうか。