2019年6月16日 日曜日

IT企業の事業譲渡を検討する際のチェック項目

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

IT企業はめまぐるしい成長を続けています。技術の進化に伴い、あらゆるビジネスにおいて、IT技術をテコにしたビジネスの変革が進んでいます。AI(人工知能)、IoT(Internet of Things)は最先端技術の代表例といれるでしょう。

一方、業界が成長を続ける中で、事業の再編を考える企業も増えてきています。長期的な事業の成長を目指してとられる手法の一つが事業譲渡です。

IT事業の譲渡を検討しているけれど、何から始めればよいか、わからない経営者もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで本稿では、IT企業の事業譲渡を検討する際のポイントについて解説します。

 

IT企業の事業譲渡を検討してみては?

IT企業にはいまだに多くの成長の機会が残されています。前述のようなAI(人工知能)、IoT(Internet of Things)はその成長機会の代表例といえます。昨今は自動車の自動運転に注目が集まっていますが、自動運転に限らず、人工知能を活用した製品は今後も増えていくことでしょう。

また、あらゆる製品がインターネットで通信できる機能を持ち、利便性を向上しています。ビジネス界におけるビッグデータの活用も増えていきます。売上等の財務データに限らず、SNS、POSシステム、GPS、メールなどのあらゆるデータが蓄積、分析され、ビジネスに活用されるでしょう。

 

IT業界への需要が拡大する一方で、競争環境はより厳しくなっています。資金面に弱みを持つ中小企業が市場優位性を維持できないこともあります。その中で、M&Aの活用も目立ってきています。買収側企業にとっても、売却側企業にとってもM&Aは成長機会として捉えられています。

M&Aを活用した企業の成長余地に、有望な人材の獲得が挙げられます。IT業界は常に人材不足が課題になっています。ITの技術者の人件費はどんどんと向上しています。技術者を1から育て上げても、今度は成長した技術者のリテンション(人材の維持)に手を焼くことになります。技術者がいないことから事業の成長が止まってしまうことしばしばです。

事業譲渡により、事業だけでなく、その事業にかかわる技術者も獲得することができれば、買い手企業は新たな成長のきっかけを掴めるでしょう。反対に売り手企業からしても資本体力のある企業の人材を活用することで、事業を大きく成長させることができるかもしれません。事業の継続的な成長のためにも、事業譲渡は魅力的な選択といえます。

 

また、後継者不在の解消も事業譲渡の魅力の一つです。IT企業の中にも、後継者不在に苦しむ経営者はいます。最も一般的な後継者は親族です。親族は経営者にとっても最も身近な人物で、事業を引き継ぎやすい相手でしょう。しかしながら、昨今は価値観の多様化が進み、子供が親の事業を承継しないケースも増えました。とはいえ、親族以外の従業員がうまく経営を承継できるとも限りません。経営を担える人材として育っていない場合もあります。

事業を承継させる相手が見つからない企業が、事業を安定して継続させるために、第三者に経営を渡すことがあります。IT企業の経営に経験があり、資本力もある会社に経営を渡せるのであれば、譲渡を行う企業の経営者も安心でしょう。事業を存続させることは、従業員の雇用も守ることにもつながります。引継ぎ手が見つからずに廃業を考えている方であれば、事業譲渡を検討してみてはいかがでしょうか。

 

IT企業を事業譲渡するメリット

今一度、事業譲渡を行うメリットを整理してみましょう。

 

売却資金を獲得する

売却資金の獲得は最も単純なメリットといえるでしょう。譲渡する事業には価格がつきます。事業譲渡すれば、経営者はその売却益を獲得することができます。売却益は別の事業への投資に使うこともできますし、その資金をもとに経営を引退し、老後の資金の蓄えにすることもできます。

必要な売却資金を獲得できるかどうかは、どのような評価がつくかによります。必ずしも、満足のいく資金が獲得できるわけではないので注意しましょう。

 

従業員の雇用を守る

IT業界は成長している一方で競争環境が激化しています。今後は競争力を保てない企業の廃業も増えていくことでしょう。経営が安定しない事業でも、事業譲渡を行い、譲渡先の企業が介入することによって競争優位性を保つケースがあります。廃業をした場合は当然、従業員をリストラする必要がありますが、事業が継続すれば、従業員の雇用は守られます

 

後継者不在問題を解消する

IT業界においても、親族に後継者が見つからない経営者は多くいます。承継の候補者がいても、候補者が経営を担うほどのスキルを持っていない場合もあります。

経営を安心して任せられる企業が見つかれば、後継者の不在問題は解消できます。いい経営者が経営を引き継げば、従業員の雇用の保護にもつながります。

 

事業の選択と集中を行う

事業譲渡によって事業の選択と集中を行う企業もいます。複数事業を行う企業がコア事業に経営リソースを集中させるために事業譲渡を活用するケースです。譲渡先から対価として受け取った売却益を他の事業に使うことができます。資金だけでなく、経営者が使う時間も伸ばしていきたい事業に集中することができます。

不採算な事業や、自社では成長させることが難しい事業を売却し、コア事業に専念すれば、会社全体の利益率は改善します。新事業を立ち上げることも可能です。

 

長期的なビジネスパートナーを獲得する

売却側の事業にとって買収側企業は長期的なビジネスパートナーです。資金面によるサポートは当然ですが、事業シナジーを活かせれば、譲渡した事業の潜在的な事業価値を高めてくれます。最適な経営手法を導入する場合もあります。独自のネットワークを駆使して販路を拡大してくれることもあります。事業に必要なあらゆるサポートを行います。お互いの技術が合わさることによって新たなサービスが出来る場合もあるでしょう。

買収と聞くと、敵対的なものに聞こえる人もいるでしょう。しかし、現在のM&Aの交渉は友好的なスタンスで行われることがほとんどです。売却側と買収側で友好的な関係が築けなければ、事業譲渡自体が難しいでしょう。

 

IT企業を事業譲渡する際のチェック項目

IT企業を事業譲渡する際に気を付けるべきことをみていきましょう。

 

譲渡の目的

譲渡の目的の明確化は最も大切なことといえるでしょう。目的が曖昧では、事業譲渡は失敗します。事業譲渡では、複雑で幅広い項目について交渉を行います。事業譲渡の目的が曖昧の場合はこの交渉をうまく進められないでしょう。

従業員の雇用を守り、事業を継続させることが事業譲渡の目的であれば、あまり売却価格にこだわらない方がいいでしょう。売却価格にこだわりすぎて、交渉が破綻してしまっては本来の目的を果たせません。

一方で、売却資金を次の事業に活かしたいと考えるケースもあるでしょう。具体的な資金用途があるのであれば、必要な資金を獲得できるように準備を進めるべきでしょう。

事業譲渡を進めるには、多くの労力が必要としますので、効率的にリソース配分ができるように、目的は明確にしておきましょう。

 

譲渡先の選定

譲渡先の企業の選定には頭を悩ませることでしょう。事業譲渡の目的に合わせて、理想的な譲渡先の条件を先に定めておきましょう。良い譲渡先を見つけるには、自身のネットワークだけを活用するのでは無理があります。安全に譲渡先を選定するためには、多くの選択肢から選ぶことが望ましいです。M&A仲介業者等の専門家を利用して売却先となる企業を複数社、紹介してもらうといいでしょう

また、事業譲渡の準備段階で話が外部に漏れないように、譲渡先の候補とは守秘義務契約をしっかり締結しましょう。事業の所有者が変わることは、取引先、顧客、従業員に悪い影響を与えることもあります。現状の経営に悪影響を及ぼし、事業の売却価格が下がってしまう可能性すらあります。そのようなリスクを避けるために譲渡先の候補とは、事業譲渡の進め方をしっかり握っておくようにしましょう。

 

譲渡を行う範囲

事業譲渡の場合、会社全体を譲渡するのではなく、事業のみを譲渡するため、具体的に何を譲渡するか、買収側企業とすり合わせる必要があります。事業にかかわっていたコアな人材について、買い手企業から譲渡をお願いされることもあるでしょう。

また、事業の負債についても譲渡をすり合わせる必要があります。負債を譲渡したい場合は、買い手企業の同意が必要です。買い手企業から拒否を受けて負債を譲渡できない可能性もあります。負債の引き継ぎを事前に譲渡条件に入れて、交渉を進めておくといいでしょう。

 

事業価値

事業価値の算定は事業譲渡のプロセスの中でも最も重要な交渉内容です。上場していない企業の場合、時価総額が存在しないため、その企業の価値は不明確です。事業譲渡の場合は、その事業単体の売却額を算出しなくてはなりません。

事業価値の算定方法は様々です。主要な方法の一つは「DCF法(Discounted Cash Flow Method)」です。DCF法は、現在の事業価値とその事業が将来生むキャッシュを加味して事業価値を算出する方法です。その他にもいくつかの手法があり、事業価値の算定の際に複数の手法を駆使する場合もあります。

事業価値の評価は高い専門性が求められるため、素人が見様見真似で行うのは現実的ではありません。公認会計士などの専門家に依頼することが一般的です。専門家の助言がなければ、買い手企業から不当な金額を提示されても、安易に提示額を受け入れてしまうでしょう。加味されるべき価値をしっかりとアピールすることが大切です。

特に製品・サービスの強み、市場の成長性についてはまとめておきましょう。特に自社サービスの独自性は重要な訴求ポイントです。差別化にあたる技術があれば、買収の魅力度もあがります。価格交渉で損をしてしまわないためにも、売り手企業も適正な事業価値の評価を行う必要があります。

想定していた譲渡価格よりも買収側企業から提示を受けた金額が低くなってしまうケースもあります。買い手企業も価格については厳しく精査を行います。市場の成長性、将来性に乏しい事業を買うことは買い手企業にとってもリスクです。譲渡価格が低くなる主な原因としては、負債の存在、従業員の離職率の高さ、セキュリティやコンプライアンス面でのトラブル、顧客とのトラブル、経営陣の離職などが挙げられます。この際、譲渡価格が下がるからといって、不利になる条件を隠すのは控えましょう。隠していた情報があとで発覚すると、買い手企業からの印象は当然悪くなります。情報の隠蔽を理由に交渉自体が破綻してしまうこともあります。買い手企業に伝えるべきことは、改善の方針です。

 

譲渡税

事業譲渡が完了すると、譲渡した金額への課税が発生します。全ての譲渡金額が獲得できるわけではないので注意しましょう

課税の対象になるのは譲渡益です。譲渡益は、譲渡価格から、かかった経費、会社の純資産を差し引いた金額を指します。課税にかかる金額は譲渡益の約30%です。

当然、支払いを拒否すれば、脱税となります。あとで発覚した際には、懲役や罰金を科されることになるので、脱税行為は絶対にやめましょう。税理士や会計士に相談し、納税の手続きは円滑に進めるようにしましょう。

 

譲渡タイミング

M&Aには時間がかかります。希望したタイミングで都合よく契約ができるとは限りません。早くても半年~1年程度の時間を要します。売却前の事業価値を向上、売却交渉の難航などを考慮すると、検討開始から売却の完了までに、2~3年程度かかることもあります

現在、IT業界のM&Aは活発化していますが、今後もこの状態が続くかはわかりません。譲渡できるタイミングで譲渡することが望ましいです。タイミングを逃さないためにも、M&Aの準備は早めに始めた方がいいでしょう。

 

まとめ

IT企業は今後も益々の発展を続けていくでしょう。AI(人工知能)、IoT(Internet of Things)の活用余地は今後、さらに広がっていくと思います。それらの技術の進化に伴って、ビジネスの機会も拡大し、IT企業の数は増加しています。

一方で、競争環境も激化しています。新たな成長の手段として事業譲渡を行う企業も増えていくことでしょう。事業譲渡には、従業員の雇用の継続、事業の選択と集中など、買収側だけでなく売却側にも様々なメリットがあります。

事業譲渡を検討される方は、まずはM&A仲介会社などの専門家に相談してみてはいかがでしょうか。

IT企業の事業譲渡を検討する際のチェック項目
IT企業が成長を続ける中で、事業の再編と長期的な成長のために事業譲渡を行う企業が増えてきています。
本稿では、IT事業の譲渡を検討しているけれど、何から始めればよいかわからないという方に向けて、IT企業の事業譲渡を検討する際のポイントについて解説します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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