2019年6月19日 水曜日
IT企業の事業承継でお困りではないですか?
Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)
技術の進歩に伴い、IT企業はめまぐるしい拡大を続けています。デジタルトランスフォーメーションを活用し、ビジネスを変革していくことが多くの企業で浸透しています。AI(人工知能)、IoT(Internet of Things)など、最先端技術も日々進化を続けています。
企業の数が増える中で、老舗のIT企業の中には、自社事業の再編を考える企業も増えてきています。再編の手法の一つとして注目されている選択肢が事業承継です。
IT事業の承継を検討しているけれど、何から始めればよい?
事業承継は誰に相談した方がいい?
買収先・売却先を選ぶ際のポイントは?
そんな悩みを抱えている経営者もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで本稿では、IT企業の事業承継について、メリットと気を付けるべきポイントについて解説します。
Contents
IT企業を事業承継しよう
IT企業の活躍の機会は未だに拡大を続けています。要因の一つにはAI(人工知能)、IoT(Internet of Things)の需要増があげられるでしょう。自動運転など、人工知能を活用する機会は増加しています。あらゆる製品がインターネットで通信できる機能を持つようになっています。これらのトレンドは継続していくことでしょう。
また、ビジネス界では、ビッグデータの活用が大きなトレンドになっています。経営に関する財務データだけでなく、SNS、POSシステム、GPS、メールなどあらゆるデータを蓄積し、ビッグデータを構築することが企業の差別化要素になっていくでしょう。これらのデータ蓄積、分析の機会の増加もIT業界への需要拡大の継起となっています。
ビッグデータやIoTの活躍の機会が増えたことも相まって、クラウドサービスの普及も進んでいます。現在はウェブサービスのサーバをクラウド上で設置することも増えてきました。インターネットで利用できるサービスの多くが、クラウドサービスによって成り立っています。
IT業界への需要が拡大する分、競争環境は激化しています。成長機会として買収を活用する企業もいれば、生き残りの手段として事業を承継する企業もでてきています。
一口にIT企業と言っても、その事業領域は、ソフトウェア開発・運用からWebサービスまで様々です。IT市場は拡大し続けており、新しい技術も次々と発表されています。
市場の拡大は全ての企業にとっていい影響を与える訳ではありません。競争環境が激化する中で、資金面に弱みを持つ中小企業が、優位性をキープできないこともあります。資本体力のある会社に事業承継を行うことで事業の継続的な発展を目論む経営者もいるのです。
大手企業に事業を承継させるメリットは他にもあります。人材不足の解消も”うまみ”の一つといえるでしょう。IT業界は常に人材不足に悩んでいます。いちから技術者を育成するには、手間とお金がかかります。成長した技術者が新たな経験を求めて退職してしまうこともあります。事業を成長させようと考えても、技術者がいないために事業の成長がとまってしまうこともあります。人材が足りなければ、会社の技術力も向上できません。
大手企業に事業を渡すことができれば、大手企業が保有する人材を対象事業に活用することができます。事業の継続的な成長を考えれば、事業承継は魅力的な選択肢と言えるでしょう。
買い手企業にとっても買収は事業成長のための魅力的な選択肢になっています。新しいITサービスを構築するには時間がかかります。AI、IoTなど、昨今では様々な技術が登場しています。これらの新しい技術を獲得するために買収を進める企業もいます。自社だけでは進みが遅い技術開発のスピードアップにM&Aを活用しているのです。
後継者がいない、そんなときは
事業承継の活用の背景には後継者不在の問題もあります。
IT事業を行う企業の中にも、後継者の不在に悩む経営者は多くいます。日本企業にとって最も一般的な事業承継先は親族です。確かに親族は身近な人物で、事業を任せやすい相手といえるでしょう。しかし、キャリアの多様化が進む中で子供が親の稼業を継がないというケースも増えてきました。
活躍している従業員へ事業を承継するケースもあります。しかし、従業員がうまく経営を引き継げるとは限りません。経営を担える人材が育っていないケースも考えられます。経営者の引退時に後継者がいないと、企業は廃業せざるをえません。
そんな中、親族内で事業を承継させる先が見つからない企業が、事業を継続させるために、他社への承継を検討しているのです。業界を知り尽くした企業であれば、経営を安心して任せられるでしょう。事業を存続させることができれば、従業員の雇用も守ることができます。引継ぎ手が見つからないことから廃業を考えているようであれば、他社への事業承継も検討してみてはいかがでしょうか。
M&Aによる事業承継を選ぶメリット
事業承継を行うメリットを整理してみましょう。
後継者不在問題の解消
前述の通り、まずは後継者不在問題の解消です。
親族に後継者が見つからない経営者は多くいます。候補者がいても、経営を任せることに不安を感じる場合もあるでしょう。経営を安心して任せられる企業が見つかり、事業を承継させることができれば、後継者不在問題は解消できるでしょう。
従業員の雇用の継続
前述の通り、IT業界は成長産業である一方で競争環境が激化しています。競争力のない会社は衰退の一途をたどります。廃業をした場合は当然、従業員をリストラする必要があります。生活に困る従業員もでてくることでしょう。
長期的に競争力を維持することに不安を抱えているようであれば、事業承継により、その不安を解消できるかもしれません。事業を承継し、競争力のある会社と一緒になることで、事業の競争力を強化することができます。優位性が保てれば、従業員の雇用を守ることができます。
売却資金の獲得
当たり前ですが、承継する事業には値段がつきます。事業承継することで、売却益を獲得することができます。
売却益は別の事業への投資に活用することもできます。獲得した資金をもとに引退し、老後の資金の蓄えにすることもできます。
事業の選択と集中
承継先から対価として受け取った資金で債務を整理したり、コア事業を拡大させたりすることが可能です。事業の選択と集中といい、企業が本来、注力すべき事業にリソースを集中させることも事業承継の目的の一つといえます。
不採算事業を売却し、資金をもとにコア事業に専念すれば、会社全体の利益率は改善します。事業を売却した資金をもとに新事業を立ち上げることもできます。
長期的なビジネスパートナーの獲得
売却先の企業は長期的なビジネスパートナーともいえます。同業のIT企業に事業譲渡した場合であれば、資金面の強みは当然のことながら、事業シナジーを活かして、承継した事業の潜在的な事業価値を高めていきます。事業価値を向上させるための経営手法の導入や独自ネットワークを駆使した販路拡大など、あらゆるサポートを事業に行います。お互いの技術の融合によって新たなサービス・プロダクトが生まれるケースもあるでしょう。
買収と聞くと、敵対的なものに聞こえるかもしれません。現在のM&Aの交渉は友好的なスタンスで行われることがほとんどです。売却側と買収側で友好的な関係を構築できないことを理由に事業譲渡が成立しないこともあります。
IT企業の事業承継のポイント
事業承継を進めていくのであれば、自社の強みを把握することが重要です。事業をできるだけ良い条件で承継するために、事業の強みは明確にしておく必要があります。具体的には、IT企業を事業承継する際にはどのような点に気を付ければいいのでしょうか。
従業員のスキル
IT企業の差別化要素といえば、従業員のスキルがあげられるでしょう。
IT企業といっても事業内容は様々です。買い手企業もIT企業であれば、どんな企業でも欲しいというわけではありません。買収先の事業がどの程度の技術を抱えているのかを精査しています。魅力的な事業として評価を受けるためにも、従業員のスキル向上には積極的に取り組みましょう。
製品・サービスの将来性、成長性、独自性
製品・サービスの特徴や市場性についてはまとめておきましょう。自社サービスの独自性は重要なアピールポイントです。他社が持たない機能を持つなど、差別化にあたる要素があれば、魅力度もあがります。独自性のあるサービスの方が、既存事業とのシナジーも考えやすいでしょう。
また、どんなに優れた技術を持っていても、お金を生み出さないこともあります。市場の成長性、将来性に乏しい事業を買うことは買い手企業にとってはリスクになります。
バリューアップ
事業承継を行う前に、顕在化している事業上の課題は解決しておきましょう。セキュリティ管理の甘さ、労務関係のトラブル、債務超過など、あらゆる問題をできる限り、解決、改善しておくことが重要です。課題の多い企業は、承継自体が難しくなります。売却額を下げられてしまうポイントにもなるでしょう。
時間のある限り、経営の改善を進めておくことで、高い売却益を獲得できます。
事業承継の目的
目的が曖昧では、事業承継はうまくいきません。事業承継では、買い手企業と複雑で幅広い条件について交渉を行います。その際に、事業承継の目的が曖昧では交渉をうまく進めることができません。
売却益を得ることに重きを置くのであれば、価格交渉は丁寧に進めたほうがいいでしょう。従業員の雇用を守ることが目的なのであれば、雇用条件の交渉については妥協しないように進めたほうがいいでしょう。
事業承継は準備にも多くの労力が必要になります。目的が曖昧では、効率的に事業承継を進めるためのリソース配分にも支障をきたします。
事業価値の算定
事業価値の算定は事業承継のプロセスの中でも最も重要な交渉内容といえるでしょう。上場企業のように株式時価総額が存在しない中小企業の場合はなおさら、事業の売却額を算出することが困難になります。
事業価値の算定方法は複数あります。有名な方法の一つが「DCF法(Discounted Cash Flow Method)」です。DCF法は、現在の事業価値の評価とその事業が将来生み出すキャッシュ・フローを加味して事業価値を算出します。
事業価値の評価は高い専門性が求められます。公認会計士などの専門家に依頼するようにしましょう。買い手企業から安い金額を提示されても、適正な評価がわからなければ安易に提示額を受け入れてしまうでしょう。本来計上されるべき価値が見落とされている、といった事態も起こり得えます。
買い手企業との価格交渉で損をしてしまわないためにも、多様な観点から事業価値を評価する必要があります。
専門家への相談
一般的にM&Aを買い手と売り手の両者間だけで行うのは不可能です。前述の事業価値算定だけでなく、法務、税務、労務等、幅広い分野の専門知識がM&Aおよび事業承継には必要です。
成約までには膨大な手続きが必要となります。業務を行いながらM&Aの手続きを進めるのは現実的ではないでしょう。加えて、本当に会社を売却することが正しい選択なのか、現在の売却先が適切なパートナーといえるのか、など、社内だけでは判断できない問題もでてくることでしょう。
M&Aの際にかかわる専門家・仲介会社としては、税理士・会計事務所、銀行、証券会社、弁護士事務所、ファイナンシャルプランナー、M&A仲介会社などがあげられます。
では、相談先はどのように選べばいいのでしょうか。まずは複数の業者に相談をするようにしましょう。M&Aの実務は属人性の高い業務です。担当者の力量によって、大きく結果がかわります。優れた専門家に依頼することを目指しましょう。
価格ももちろん大事ですが、より高い売却益を得ることも重要です。なるべくM&Aの実績が豊富な仲介業者を選びましょう。中には、利益ばかりを優先した専門性の低いM&A仲介業者もいますので注意が必要です。過去の取引実績から、IT企業のM&Aの実績がないか、必ず調べておきましょう。
まとめ
技術の進化に伴い、IT企業の数は増加しています。一方で後継者不在などを理由に事業承継を行う企業も増えています。
本稿でご説明したとおり、事業承継には、「従業員の雇用の継続」、「資金の獲得」、「後継者問題の解消」など、さまざまなメリットがあります。事業承継を検討される方は、M&A仲介会社などの専門家に相談してみてはいかがでしょうか。