2019年6月15日 土曜日

IT企業の事業売却のポイントとは?

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

IT業界は堅調な成長を続けています。AI(人工知能)、IoT(Internet of Things)といった先端技術があらゆる産業を刷新しています。今後もIT業界の拡大のトレンドは続いていくでしょう。一方で、IT企業の中には事業の再編を考える企業もいます。競争環境が激化する中で、事業のポートフォリオを組みなおそうと考える経営者は多いのです。

長期的な会社の成長を目的として行われる手法の一つが事業売却です。M&Aは専門知識、ノウハウを必要とする領域です。IT事業の売却を検討しているものの、どのように進めればよいか、わからない経営者もいるのではないでしょうか。そこで本稿では、IT企業の事業売却について、検討する際のポイントについて解説します。

 

IT企業の事業売却で次のステージへ

ITを用いたビジネスの機会が拡大する一方で、競争環境は益々激化しています。技術力はあっても、資金面に弱みを持つ企業が、サービスの優位性を維持できないこともあるでしょう。事業を買うことで、早いスピードで事業展開をしていきたい企業もいると思います。M&Aの活用は、買収側企業にとっても、売却側企業にとってもwin-winな取り組みです

買収企業にとっての事業売却の旨味は事業の獲得だけではありません。恒常的に人材不足が課題となっている中、有望な人材が獲得できることもメリットに挙げられます。IT技術者の人件費が向上し、成長した技術者のリテンションも難しくなっている中、事業にかかわる技術者を獲得することができれば、買い手企業は新たな成長のきっかけを掴むことができます。

売却側の企業にとっても旨味は多くあります。事業の継続的な成長を目的とするのであれば、買収側の企業の資本や人材を活用することで、事業を大きく成長させることができるかもしれません。事業の後継者不在に悩んでいる場合でも、事業をうまく引き継ぐことができます。IT事業の運営に経験があり、資本力もある会社の経営者に経営を渡せるのであれば、売却を行う企業の経営者も安心することができるでしょう。事業が存続すれば、当然、その事業にかかわる従業員の雇用も守れます。加えて、獲得した売却益を次の事業に活かすこともできます。

 

IT企業を事業売却する目的にはこんなものがあります

事業売却を行う企業の目的は様々です。目的に応じて、注力すべき交渉内容も変わります。IT企業を事業売却する際の主な目的を整理してみましょう。

 

売却資金の獲得

売却資金の獲得は最も端的な目的といえるでしょう。

当然ながら売却を行う事業には売却価格がつきます。事業売却すれば、その事業を運営していた会社、もしくは経営者がその売却益を獲得します。売却益は別の事業への投資に使うことが可能です。売却益の獲得をきっかけに、経営を引退し、老後の資金の貯蓄にすることも可能です。

もちろん、必要な売却資金を獲得できるかどうかは、買い手企業からどのような評価がつくかによります。提示していた希望価格を下回る金額を提示されるケースもあります。その事業の立ち上げに使った累積の損失を売却額が下回る可能性もあります。満足のいく資金が確実に獲得できるわけではないので注意しましょう。売却額を少しでもあげるための努力が大切です。

 

従業員の雇用の保護

IT業界は成長していますが、その一方で、競争環境が激化しています。競争力が保てなければ、企業は廃業を選ぶことになります。収益が安定しない事業でも、資本力、競争力のある会社に事業売却を行うことで、事業の競争優位性が向上することもあります。売却先の企業は技術の導入、販路の拡大など、あらゆる手段を講じて、買収した企業のバリューアップを行います。

もしも事業売却を行わずに廃業を選択した場合は、当然ながら従業員をリストラする必要が出てしまいます。しかし事業売却により、事業がうまく継続すれば、従業員の雇用は保護されるのです。

 

事業の選択と集中

事業売却を通して、事業の選択と集中を行うことが可能です。複数事業を行うIT企業がコア事業を選択し、その事業に経営リソースを集中させるために事業売却を活用するケースもあります。売却先から受け取った売却益を他の事業への投資に使うだけでなく、経営陣が使う時間も伸ばしていきたい事業に集中させることが可能です。特に不採算な事業や、今後の成長が難しいと考える事業であれば、売却することで、会社全体の利益率が改善します。

一方で、例え不採算な事業であっても、シナジー効果等を狙い、その事業を買いたいと思う買収候補企業は存在するかもしれないのです。

 

IT企業の事業売却を行う上での注意点

M&Aは必ず成功するとは限りません。準備を怠れば、売却の契約自体が成立しないこともあります。売却したとしても、希望の売却額を獲得できない可能性もあります。

事業売却を行う上での注意点をしっかりとみていきましょう。

 

売却目的の明確化

売却の目的の明確化は事業売却を検討する際に最初に取り組むべきことといえるでしょう。

目的が曖昧なままでは、事業売却は失敗します。M&Aの交渉は複雑です。売却金額をはじめ、従業員の雇用条件、債務の引き渡しなど、幅広い項目について交渉を行います。その際、事業売却の目的が曖昧では、交渉をうまく進められません。

事業売却を進めるには、多くの労力が必要になるため、効率的にリソース配分する必要があります。例えば、売却資金を次の事業に活かしたいと考える会社であれば、売却金額の交渉はしっかりと準備して臨むべきです。売却金額が少しでもあがるように事前準備を怠らないようにしたほうがいいでしょう。

 

従業員のスキルの向上

IT企業の重要な差別化要素に、従業員として抱える技術者のスキルがあげられます。買い手企業も、その事業にどのような技術者がいるかをチェックします。

技術力に乏しい場合は、売却の意向を取り下げるかもしれません。事業の魅力が買収先にしっかりとアピールできるように従業員の技術力向上には、積極的に取り組みましょう。

 

売却タイミングの見極め

M&Aはタイミングも重要です。M&Aには時間と労力を有するため、希望したタイミングで都合よく契約ができるわけではありません。買い手候補企業が見つかっても交渉が破綻するケースもあります。一般的には、早くても半年~1年程度の時間を要するといわれています。

売却前の売却スキームの検討、事業価値の向上、売却交渉の難航などの時間も考慮に入れれば、事業売却の検討開始から売却の完了までに、2~3年程度の時間を要することも多くあります

現在、IT業界のM&Aは活発になっています。しかし、リーマンショックのような不況が急に発生することも考えられます。不況が来れば、理想的な買い手企業を見つけることは困難になるでしょう。できる限り準備は早めに始め、売却できるタイミングで売却することが望ましいです。

 

サービス・製品の将来性や成長性、独自性

製品・サービスの将来性、成長性、独自性については積極的にアピールしましょう。わかりやすく伝えられるように資料にまとめておくことも重要です。他社が持たない技術を持つなど、独自の差別化要素があれば、当然買収の魅力度も向上します。独自性のあるサービスであれば、足元の収益性が低いサービスでも高い売却額がつくことがあります

また、どんなに優れた技術を持っていても、市場における需要が少なく、お金を生み出さない事業もあります。製品・サービスの成長性、独自性に加えて、市場の成長性、将来性のアピールも忘れてはなりません。成長性、将来性に乏しい事業を買うことは買い手企業にとってはリスクです。

 

守秘義務の徹底

事業売却の準備段階では事業売却の話が外部に漏れないようにする必要があります。売却先の候補とは事前に交渉の守秘義務契約を締結しましょう

事業の所有者が変わることは、事業の取引先、顧客、従業員からは不安にうつるかもしれません。売却が確定していない段階で売却交渉の事実が明るみに出ると、現状の経営に悪影響を及ぼすことがあります。事業のコアメンバーが退職してしまうこともあるでしょう。経営に与える悪影響は、当然、事業の売却価格にも悪影響を与えます。事業の売却価格が下がるだけでなく、売却交渉自体が破綻になる可能性もあります。

リスクを避けるためにも、事業売却の際には情報管理に気を付けて進めるようにしましょう。

 

売却価格の交渉

事業売却の場合、その事業単体の売却額を算出し、交渉を行う必要があります。現在の事業価値とその事業が将来生むキャッシュを加味して事業価値を算出する「DCF法(Discounted Cash Flow Method)」など、事業価値の算定方法は複数あります。一方で、同じメソッドを使ったとしても売却価格は、算出を行う人によって大きな開きがでることがあります。特にIT企業の事業売却の場合、売却の時点でその事業単体で利益がでていない場合が多くあります。事業が赤字の場合でも将来の収益性を見越して、事業の価値をつける必要があります。

売却価格を上げたいのであれば、加味されるべき価値をしっかりとアピールすることが重要です。製品・サービスの強み、市場の成長性、将来性についてはまとめておきましょう。製品・サービスが差別化に資する技術を持っているのであれば、買収の魅力度も向上します。

売却価格は売却側から希望価格を提示することもできます。ただし、その価格を受け入れるかどうかは買収側の企業の判断によります。当然、買収側企業も買収価格については厳しく精査を行います。事業の独自性、市場の成長性に乏しい事業を高く買うことはありません。希望していた売却価格よりも買収側企業から提示を受けた金額が低くなる場合もあります。負債の存在、従業員の離職率の高さ、セキュリティやコンプライアンス面でのトラブル、顧客とのトラブル、経営陣の離職などは、売却価格を下げる主な原因となるでしょう。

この際、売却価格が下がることを嫌って、買い手にとって不利な条件を隠すことはやめましょう。情報の隠蔽が後で発覚すると、交渉自体が破綻してしまうこともあります。交渉に不利な事実があるのであれば、正直に買い手企業にその事実を伝え、その上で改善の方針を一緒に提出しましょう。

 

専門家の選定

M&Aの交渉で必要な専門知識は、財務、法務、労務と多岐にわたります。当然、素人がこれらの領域を見様見真似でカバーすることは不可能でしょう。事業価値の評価などの重要な交渉項目をM&Aの経験がないメンバーで進めれば大きな損失を被ることにもなります。公認会計士、税理士、M&Aのアドバイザリーファームなどの専門家の助言がなければ、買い手企業から不当な金額を提示されても、気づかずに提示額を受け入れてしまうことが考えられます。

ネットワークも専門家の活用のメリットです。売却先の企業の選定は頭を悩ませる項目の一つです。会社のネットワークだけでは、理想的な売却先を見つけられないかもしれません。多くの選択肢から理想的な売却先を選定することが望ましいでしょう。M&Aの仲介業者には常に多くの売却側、買収側企業の相談がよせられています。専門家のネットワークを利用すれば、売却先となる企業を複数社、紹介してもらえるかもしれません。

M&Aのアドバイザリーは属人性の高い業務です。専門家を選ぶ際は過去の実績を確認しましょう。過去にIT企業の事業売却を行っている専門家であれば、安心して任せることができるでしょう。

 

まとめ

IT業界にはいまだに多くの成長の機会を残します。AI(人工知能)、IoT(Internet of Things)はその成長機会の代表例でしょう。

ニュースでも自動車の自動運転について取り上げられることが増えました。今後は人工知能を活用した自動化はあらゆる分野に増えていくことでしょう。

また、様々な製品がインターネットで通信できる機能を持ちはじめています。インターネットを介して、製品の稼働データは蓄積され、さらなる製品の改善に役立っています。売上等の財務データは、あらゆる企業でビジネスの経営判断に使われています。今後はSNSの情報、顧客のGPS情報、メールでの会話など、企業が活用するデータも増えるでしょう。

それらの技術の進化に伴って、ビジネスの機会は拡大していますが、一方で、競争環境も激化しています。新たな成長の手段として事業売却を行う企業も増加していくことが予想されます。ご説明した通り、事業売却は、買収側、売却側の双方にメリットがあります。事業売却を検討される方は、M&A仲介会社に相談してみてはいかがでしょうか。

IT企業の事業売却のポイントとは?
拡大が続くIT業界において、さらなる成長を目的に行われているのが事業売却です。競争が激化する中で事業のポートフォリオを組み直すことの意味は大きいですが、一方で事業売却は多くの専門知識が求められるため、どのように進めればよいかわからない経営者もいるのではないでしょうか。本稿では、IT企業の事業売却について、検討する際のポイントについて解説します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年6月15日
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