2019年6月28日 金曜日

M&Aの事例から読み解く潮流《IT企業》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

IT業界は成長を続けている産業ですが、慢性的な人材不足の状態が続いています。日本においては少子化でそもそも業界に入ってくる人数が少ない上に、「IT業界は過酷」というイメージを持たれていて人材が定着しない、という問題を抱えているからです。

この問題の解決策の一つにM&Aを行い、スキルを持っている人材を確保することが挙げられます。この記事では、IT企業のM&Aを行うことを検討しているオーナーに向けてIT業界のM&Aについてご紹介します。

 

IT企業におけるM&Aの動き

まずはIT企業の現状が概要を把握したうえで、IT業界におけるM&Aの動向をチェックしておきましょう。

 

IT企業の現状

ITとは「Information Technology」の略で、日本語では情報技術を意味します。ソフトウェア、通信インフラなどインターネットに関連する技術のことを指します。

IT企業は、多重な下請け構造になっています。大手の企業である一次請けから、さらに開発や運営業務を担う二次請け、三次請け…とピラミッド形の構造です。

IT業界は、大手から中小企業、さらにベンチャー企業と様々な規模の企業が存在します。IT技術の発展により新技術が続々登場し、スマートフォンの普及も重なり、それらに比例するように規模が拡大していっています。また、マイナンバーの導入や金融業界のシステム更新、IT技術の導入もあるので、IT企業へのニーズも高くなっています。

現代は、あらゆるモノがインターネットにつながる時代です。そのため、IT業界は今後も市場拡大の一途をたどる事でしょう。IT業界は具体的に見ていくとHPでサービスを提供する「Webサービス業界」、ソフトバンク等の「インターネット・通信サービス業界」、企業に必要な情報システムを提供する「IT情報処理サービス業界」、PCのようなハードウェアにインストールされるOSをはじめとするアプリケーションを開発する「ソフトウェア業界」、ソフトウェアを動かす基盤を開発する「ハードウェア業界」が存在します。

これら、全ての業界でエンジニアが必要です。これだけ見ても、いかに大きな規模の分野かが分かるはずです。

 

IT企業のM&A事情

IT業界は好調と言われていますが、慢性的な人材不足に悩まされています。これは、少子化による入社人数減少と、IT業界が「過酷な環境で働く」といったイメージを持たれているからです。

実際、拘束時間も他の業種と比べて長く、納期が厳しく、ノルマなども課せられている、過酷な職業です。特に経験がまだ浅い新人のうちは、苦労に見合った賃金を貰えなかったりします。しかし、実際にはシステムエンジニアとしてしっかり実績を積めば高収入を望むことができ、様々なキャリアパスがあり将来性の高い職業でもあります。

この人材不足を解決するためにM&Aを検討、実行するIT企業が増えてきています。人材不足を深刻と見た政府は、2020年から小学校でプログラミングを義務化し、システムエンジニア不足を解消しようとする動きを見せています。これにより、将来的にシステムエンジニアを目指す若者たちが増える予定ではあります。しかし、粘り強い精神が強いられるこの業種で、システムエンジニアとして軌道に乗るまで続ける人が増えるとは限りません。

 

現在、IT業界は2020年に行われる東京オリンピックに伴い、大型のシステム開発案件を抱えています。そのため、人材としても産業としても、その需要は大いにあります。自社に新技術を取り入れることを考えた時に、一からその分野を研究から商品開発まで行おうとすると、時間もコストもかかりますが、M&Aですでに新技術を持っている企業を獲得すれば、売上における即戦力になる可能性が高まります

すでに、冒頭で触れたとおり、現代はあらゆるものがインターネットに接続する(IoT)時代です。このため、IT企業のM&Aは活発に行われていると言えます。また、売り手側も資本提携されるので、経営基盤の強化ができ、安心して研究や商品開発に集中できます。

 

IT企業のM&Aをする上での課題

IT業界におけるM&Aでつきまとう課題は、相談できるアドバイザーが不足しているということです。IT業界は常にトレンドが変化する業界であり、IT企業に従事している当事者でさえ、最新技術をキャッチアップし続けることは大変です。M&Aのアドバイザーは日々の業務に加えてこれらのトレンドを追いかける必要があるため、なおのこと難しいのです。

このため、業界を牽引するような大手企業が成長を加速させるために他の企業の買収を検討しようとしても、どの企業を買収すればよいか、そして買収してよいかを判断できる専門家がいないという自体が発生しているのです。

もちろん、しっかりと探せばIT技術にも詳しく、M&Aのアドバイザーとして経験を積んできた人材がいるにはいます。もしM&Aを検討する場合は、妥協すること無くこのような貴重な人材を探す努力が必要です。

 

最近のIT企業のM&A事例

ここからは、近年行われたIT企業のM&A事例をご紹介するとともに、それらの買収によって、どのような効果が生まれたのかを見ていくことにしましょう。

 

株式会社ZOZOによる株式会社VASILYのM&A

株式会社ZOZOは、ファッションショッピングサイトである「ZOZOTOWN」を運営している会社です。2019年3月期の四半期報告では業績の大幅な下方修正を発表しています。これは、いわゆる「ZOZO離れ」が加速していることが原因です。創業以来最も苦しい状況ですが、一方でZOZOTOWNに出店するお店も依然として増え続けています。そこで、ファッションコーディネートアプリを運営している株式会社VASILYを買収することによりVASILYの高い技術力と優秀な技術者を取り込むことでIT部門を強化できました。

VASILYが開発したアプリは2012年にAppleのベストアプリを受賞しており、2016年にはアプリ内での人工知能を実装したとして、その技術を認められGoogle Playのベストイノベーションアプリ大賞も受賞しています。こうしたVASILYの高い技術力と、ZOZOのプラットフォームの掛け合わせで、より一層便利なファッションショッピング体験が実現しました。

 

マネックスグループによるコインチェックの買収

マネックスグループは「インフラのような、身近な金融サービスを作りたい」という思いから創業された、マネックス証券を中心に、投資信託やM&A、FXなど金融関連グループを束ねる企業です。金融を再定義することで、未来の便利で自由な世の中を実現することを目指しています。

一方のコインチェックは近年急成長を見せる仮想通貨取引の取引所を運営する企業として、認知度を急拡大させてきましたが、2018年に仮想通貨であるNEMが不正送金されたことから、業務改善命令を受けました。このコインチェックをマネックスが完全子会社化し、コインチェックを支援することにより、今後の仮想通貨産業、およびフィンテック全般のビジネス基盤を強化しました。

 

株式会社メルカリによるマイケル株式会社のM&A

株式会社メルカリは、「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」をミッションに掲げ、フリマアプリの「メルカリ」を世界で展開している企業です。

一方のマイケル株式会社は自動車SNSサービスである「CARTUNE」を運営し、ユーザ同士が車のパーツや自動車本体についての情報交換をできるプラットフォームを開発してきました。それまでにも、メルカリ自身が車体の出品を開始するなど、車というカテゴリーの開拓を進めてきましたが、この買収によって、CARTUNEの運営ノウハウがメルカリに注入され、それがより一層加速した形となりました。

 

株式会社ヤフーによるdely株式会社のM&A

株式会社ヤフーは、多様なメディア・サービスを展開することで、日常に欠かせない情報を提供し、広告で収入を上げている会社です。PC時代に検索エンジンで非常に高いシェアを誇ってきた当社ですが、スマートフォンへのシフトも成功し、現在は売上の半数近くをスマートフォンの広告が占めています。また、eコマースや決済金融関連サービスなど多角的にサービス展開し、高い成長率を誇っています。

Dely株式会社は「70億人に1日3回の幸せを届ける」をミッションに掲げ、「クラシル」というレシピ動画サービスを提供している会社です。

この取組により、ヤフーが持つ多様なメディアやコマースを、delyが持つレシピ動画サービスの独自性と組み合わせることで、ヤフーのサービスユーザがレシピ動画コンテンツを利用するなど、双方でシナジー創出ができるようになりました。

 

株式会社ユニリタによる株式会社無限のM&A

企業向けに業務の改善や効率化をサポートするシステムを開発、販売している、株式会社ユニリタは同じく企業向けに業務効率化パッケージを開発している株式会社無限を買収しました。

無限が有するシステム開発力を活用することによって、ユニリタはシステム導入のコンサルティング、製品やソリューションの開発、実際のシステムの構築、運用、保守、改善のコンサルティングをワンストップで提供できるようになりました。

また、両者の技術を掛け合わせることで、新たなシステムソリューションを開発し、直接的に顧客課題を解決することができるようになりました。

 

IT企業のM&Aを実施するうえでのポイント

実際にIT業界のM&Aを実施するうえで、一般的に買収する側の企業はどのようなポイントを重視しているのでしょうか。ここでは4つのポイントをご紹介しましょう。

 

顧客基盤が安定しているか

まずは、顧客基盤が安定し、今後も成長を続けていける素地があるのか、特定の大口客を持っているかを確認します。また、顧客を分析することで、その領域でどのくらいのシェアがあるのか、今後もそのシェアを守れるだけの差別化要因があるのかも精査します。

 

優秀な技術者がいるか

次に、優秀な人材がどこにどれくらいいるのかや、エンジニアの数を確認します。技術職の社員のスキルや人数は、買収後の成長を大きく左右するファクターになり得ます。会社の売上に直結するため、非常に重要なポイントです。

特定の資格を保有しているかどうかがものを言う業界である場合、資格保有割合といった定量的な数値も見られる場合があります。

 

収益性があるか

次に、抜きん出た分野は存在しているか、独自性のある商品やサービスがあるかといった収益性をチェックします。明確な差別化要因となりうる独自の商品やサービスがあれば、競合他社の存在に関わらず、安定して収益を上げることができます。逆に、それらが存在しない場合、競合他社にいつ何時取って代わられてもおかしくない状態かもしれません。

また、現在の経営状態があまり良くなかったとしても、コストカットできそうな部分があれば、買収の対象になることもあります。例えば、業務効率化できそうな事業部、業務フローが存在するかどうかです。売上を伸ばすことだけが収益性ではありません。コストカットの余地があるかどうかも収益性と呼べるのです。

 

将来性があるか

IT業界は常にトレンドが変わり続ける業界です。AIやブロックチェーンといった最新技術を常にウォッチし、社内の技術もアップデートし続けなければ、やがては業界の成長スピードに追いつけなくなってしまうでしょう。社内の空気が停滞し、成長意欲がない社風であれば、将来性がないと思われてしまいます。

また、展開しているサービスに拡張性があるかも、将来性を占う大事な視点です。現在スマホシフトが進むIT業界において、PCで利用することに特化したツールのみを開発している企業などは注意すべきでしょう。

 

まとめ

IT業界は2020年に行われる東京オリンピックに伴うシステムのIT化で需要も多く、今最も活発にM&Aが行われている分野です。これから先も最新の技術が次々生まれている為、好調と言えます。

しかし、慢性的な人手不足を抱えています。新卒採用や中途採用を行い、従業員を増やしても、過酷な労働体制の環境が多く、長く続けられる人が少ない産業でもあります。

この問題を解決する一つの手法としてこの記事ではM&Aを今回ご紹介しました。M&Aを行うことで、売り手側は強力なバックアップが受けられ、買い手側は教育という手間を省いて、優秀な人材と新技術を手に入れることができます。IT企業で人材不足に悩む経営者は、これを機にM&Aを検討してみましょう。

M&Aの事例から読み解く潮流《IT企業》
IT業界は成長を続けている産業ですが、慢性的な人材不足の状態が続いています。この問題の解決策としてM&Aが注目されています。M&Aによってスキルを持つ人材を確保することができます。この記事では、IT企業のM&Aを行うことを検討しているオーナーに向けて、IT業界のM&Aについてご紹介します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年6月28日
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