2019年7月31日 水曜日

事業承継の事例から読み解く潮流《通訳・翻訳会社》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

この記事では通訳・翻訳会社による事業承継が増えている背景や理由を解説したのちに、通訳・翻訳会社による事業承継の実施例を紹介していきます。

これから経営者がM&Aを実施するときに押さえておきたいポイントも併せて解説していきます。

 

通訳・翻訳会社における事業承継の動き

近年は多くの中小企業が後継者問題に直面しており、M&Aを用いて後継者を探す企業が増加しています。

特に後継者不足が深刻な業界として、通訳・翻訳業界があります。

通訳・翻訳会社の9割以上は中小企業とされており、分野別に特化した業者が多数存在する業界構造となっています。

従来は中小企業が多いことから競争が厳しく、シェア拡大を目的としてM&Aを実施する通訳・翻訳会社が増加しています。

人による通訳・翻訳業務以外にも、近年はAIを用いた機械翻訳の品質が急速に向上しています。

今後も機械翻訳の精度向上が続いた場合、将来的に通訳・翻訳会社の業務体系が大幅に変動する可能性があるとされています。

機械翻訳の研究には多額のコストが必要なことから、現在は通訳・翻訳の中小企業がM&Aによって大手事業者の傘下に入ることを図るケースが近年増加しつつあります。

また、通訳・翻訳会社の経営者の多くが事業承継に適した年齢に差し掛かっており、後継者の確保が急務となっています。

親族内承継や従業員・役員承継に比べてM&Aは成立すれば短期間で事業承継を行うことができるので、近年はM&Aを用いて事業承継を実施する通訳・翻訳会社が増加しています

東京五輪や大阪万博によって訪日外国人の数はしばらく増加傾向が続くと見込まれます。

需要拡大に合わせて通訳・翻訳会社によるM&Aも増加傾向にあり、今後は労働資源が少数の拠点に集約する形で業界再編が進むとみられています。

買収ニーズが高くなっている今の時期は、M&A市場に出てくる案件も増えるので、事業承継を考えている通訳・翻訳会社にとっては動きやすい環境であるといえます。

 

最近の通訳・翻訳会社の事業承継事例

それでは、事業承継の事例をさっそくご紹介していきましょう。

 

キャリアアップを目的とした事業承継の成功事例

都内で通訳・翻訳の人材派遣および語学教室の運営を手がけているA社は、翻訳業者であるB社へ事業承継を実施しました。

A社の経営者はC社の役員も務めており、C社が好調である事を受けてA社を売却することを決めたとされます。

A社は複雑な事業体系を構築しており、具体的な売却内容を把握するところから始める必要があったとされます。

承継先となったB社がA社とマッチングしたのは依頼開始から約1年後でしたが、そこから半年以上の商談を経て事業承継が成立しています。

売却スキームは法人ごとに株式譲渡と事業譲渡を使い分ける形とされており、A社の従業員は全員引き継がれているとされます。

両社が承継内容に関する書類作成に前向きであったことが主な決め手となっています。

 

ノンコア事業の売却を目的として事業承継を実施した事例

創立30年の翻訳会社であるA社は、求人広告会社であるB社へ事業承継を実施しました。

A社の経営者は創業者の息子であり、3年前に会社を引き継いだとされています。

現経営者の本職はスポーツ関連であり、急遽引き継いだ翻訳会社を外部承継したいという背景があったとされます。

近年は翻訳会社に対する買収ニーズが高く、当初は3か月ほどでスピード成立が見込める案件であったとされます。

しかし、1社目との交渉途中でA社の受注を少なくなったことが理由で業績が落ち込んでしまい、1社目との交渉は破談になってしまったとされます。

当事例ではスムーズに2社目が現れ、結果として4か月ほどで成約できたとされます。

今回の事例では立て直しに成功していますが、相手企業との交渉中に業績が悪化したことで引継ぎが破談となるケースは実際に存在します。

M&Aによる事業承継では経営とM&Aの調整を並行することになるので、経営者の年齢や健康面には充分に余裕をもって取り組むことが重要です。

 

通訳・翻訳会社の事業承継を実施するうえでのポイント

ここでは、通訳・翻訳会社を他社へ事業承継する際に知っておきたい知識や手続き上の注意点について解説していきます。

 

同業他社への売却

通訳・翻訳会社を同業他社へ売却する場合、主な事業内容が自社と同じ売却先を見つけ出すことが重要になります。

通訳・翻訳会社間のM&Aでは事業拡大が目的とされるケースが多く、同じ主力事業を持つ会社へ事業を引き継ぐことで売却側・買収側企業の双方が納得できるM&Aを実施できる可能性が上がります

なお、得意とする事業分野が同じであれば、英語、中国語といった担当言語の違いはプラス要素になることが多いです。

近年はアジア地域の言語に対応できる人材が不足しているとされるので、アジア系の言語を通訳・翻訳できる人材がいる場合は交渉を有利に進めやすくなります。

また、東京五輪や大阪万博に合わせて訪日外国人が増加しており、数が少ない言語もカバーするために通訳・翻訳会社には様々な言語に対応できる人材が多く必要とされている状況です。

 

雇用している人材の雇用年数もポイントの一つです。

目安として、10年を越えるキャリアを持つ従業員はベテランとして高く評価されやすい傾向があります。

通訳・翻訳会社の人材は常に不足しているので、売却側企業は社員の対応できる言語や勤務実績などを正確に把握しておくことがポイントです。

 

M&Aスキームの選び方

M&Aによる事業承継を実施する上で、どのM&Aスキームを用いて手続きを進めるかは重要です。

中小企業が売り手となる場合、株式譲渡、事業譲渡、会社分割といった手法が多く用いられます。

 

株式譲渡は会社の株式や事業資産を全て相手企業へ売却するものです。他のスキームに比べて比較的手続きが簡単であり、大規模なM&A案件で多く用いられる方法です。

事業譲渡は会社の目的に応じて事業運営に用いる資産の一部、もしくは全部を売却するものです。

会社分割は事業資産の全部、もしくは一部を他社へ引き継ぐ手法です。事業譲渡と類似した所がありますが、契約関係の引継ぎや税金に関する規定などが異なっています。基本的には企業再編に用いる手法ですが、場合によっては会社分割のスキームでM&Aを行うケースもあります。

 

事業承継を実施する際の状況によって最適なスキームは異なるので、M&A仲介会社のアドバイスを受けながら検討することをおすすめします。

 

タイミングが重要

事業承継を進めるうえで、適切なタイミングで実施することは重要です。

売却側企業の財務状況や経営者の年齢、市場動向などから事業承継が成立しやすいタイミングを見極めることが成約率を高くするポイントです。

逆に判断を誤ると買い手が付きづらく、仮に売却できても円満な事業承継を行える確率は低いです。

M&Aでは基本的に業績がよく、将来性がある事業であるほど買い手が付きやすいです。

つまり業績が伸びている最中がもっとも良いタイミングと言えますが、経営が順調だとM&Aに踏み切れない経営者は少なからずいるかと思われます。

しかし、競争が厳しい通訳・翻訳業界では短期間で業績が変わるリスクが高く、経営者の一存で承継タイミングを遅らせることは避けるべきことです

また、近年は通訳・翻訳会社に対する買収ニーズが拡大しており、売却側企業は様々な会社から承継先を探しやすい状況と言えます。

通訳・翻訳会社には中小企業が多く、スムーズに手続きできれば半年~1年ほどで完了できるケースが一般的です。

しかし、事業承継に必要な書類や情報を揃えるには時間が掛かります。

時間がかかると、場合によっては買い手が見つからない、条件の折り合いが付かずに交渉が振り出しに戻る、といったリスクも想定しておく必要があります。

事業承継を完了する前に経営が傾き、経営者の高齢化や病気等で会社運営が困難になってしまうことは避ける必要があります。

事業承継を考えている経営者は、年齢や健康面に充分な余裕がある状況で準備や手続きを進めることが重要です。

 

事業承継の相場を把握する

通訳・翻訳会社を第三者へ事業承継する場合、売却内容に応じた相場を把握しておくことで問題なく手続きを進めやすくなります。

最終的な売却価格は企業間の交渉によって決定されますが、ベースとなる希望価格は買収側・売却側企業の双方が提示する必要があります。

相場価格を知るには、過去に成立した通訳・翻訳会社による事業承継の案件を探しておくことをおすすめします。

M&Aスキーム、譲渡内容といった条件が売却側企業と似通っている事例の売却価格を見ることで、大体の参考となる相場を知ることができます。

売却する事業資産が決まっているのであれば、M&Aで実際に用いられているDCF法や修正純資産法などを用いて計算することも可能です。

いずれも専門性の高い知識を必要とする計算法なので、財務関係の専門業者にアドバイスを受けながら進めていくことをお勧めします

 

事業承継を公表する時期

M&A全般に言える話ですが、M&Aによる事業承継を進めている間は自社の従業員や取引先にも事業承継に関する話は伏せておく必要があります

M&Aは周囲に与える影響が大きい取引であり、情報を開示するタイミングを間違うと従業員の離職や取引先の減少といった問題を引き起こすリスクがあります。

書類作成やデューデリジェンスなどで必要な場合を除き、M&Aに関する情報は開示せずに進めることが一般的です。

具体的には、経営状況に関する書類が必要になった段階で経理責任者に話をするケースが多く、デューデリジェンスを受けるうえで相手企業から特定人物へのインタビューを依頼された時には情報を開示する必要があります。

従業員に計画を公表する場合、事業承継を実施する相手や条件が確定した後や引継ぎ当日に情報を開示することが比較的多いとされます。

情報が出揃ってから公表することで信憑性が高くなり、もし否定的な意見が出た場合にも対応しやすくなるなどのメリットが得られます。

なお、事業承継によって債権の支払元が変わる場合は債権者から了承を得る必要があります。

M&Aでは取引内容に応じて必要な手続きが変わってくるので、仲介会社に相談しながら情報公開の段取りも慎重に進めていくことを推奨します

 

M&A仲介会社の選び方

第三者への事業承継では多くの手続きが必要です。

トラブル無く交渉を進めるには通訳・翻訳業の特性に加えて、財務、法律面などに幅広く精通しているM&A仲介会社のサポートが不可欠です。

事業承継に必要な交渉相手との引き合わせから書類作成、経営者同士による面談の仲介役などがM&A仲介会社の主な担当業務です。

いずれも事業承継の結果を決定づけるプロセスであり、信頼できる仲介会社と契約できるかは事業承継を進めるうえで重要なポイントです。

M&A全般に言えることですが、買収側企業はM&Aの経験を積んでいるケースが多く、売却側企業との間で知識量や経験値に差が出やすい傾向があります。

仲介会社は知識や慣れによってM&Aが偏った結果にならないようにサポートを行う役どころで、仲介担当者の技量によって交渉結果が変わってくるとも言えます。

また、通訳・翻訳会社の多くは中小企業なので、中小企業のサポートを得意とするM&A仲介会社を選ぶことによって適切なサポートを受けやすくなります。

最近では完全成功報酬制の仲介会社が増加していますが、業者によっては着手金やリテイナーフィーが必要になることもあります。

依頼の結果にかかわらず、一度支払った費用は基本的に返却されません。

事業承継を成立させるまでに使うコストを抑えたい場合、完全成功報酬制である仲介会社を選ぶことをおすすめします。

 

まとめ

通訳・翻訳会社の9割以上は中小企業とされており、後継者問題や需要増加による人手不足に悩む企業が近年増加しています。

従来の通訳・翻訳業界は買収ニーズに対して売り手が少ない状況が続いていますが、今後は事業承継や経営力の強化を目的としてM&Aによる売却を実施する企業が増えてくることが想定されます。

M&Aが多く行われている時期は事業承継を実施するのに適した時期でもあります。

時期を逃さずに準備を始めること、適切な事前知識に基づいて専門家と事業継承を進めることが成功させるポイントです。

事業承継の事例から読み解く潮流《通訳・翻訳会社》
通訳・翻訳会社による事業承継が増えている背景や理由についてくわしい解説をまとめました。また、通訳・翻訳会社による事業承継の実施例を紹介し、実例をもとに、これから経営者がM&Aを実施するときに押さえておきたいポイントについてもご紹介します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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