2019年1月23日 水曜日

保険代理店のM&Aを実施する前に考えておきたいこと

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

M&AとはMerger and Acquisition(合併と買収)の略で、企業の合併や買収の総称です。一昔前は敵対的な印象を持つ言葉でもありましたが、近年ではお互いの利益のために協力するために行われるものとして、日本でもM&Aの利用は活発です。
様々な業界でM&Aは行われていますが、保険代理店業界においてもM&Aは広く用いられています。
今回はそんな保険代理店のM&Aについて詳しくみていきたいと思います。

 

保険代理店のM&A


保険代理店の業界でも、近年M&Aは一般的です。
まずは保険代理店の概要と、保険代理店のM&Aで代表的な方法についておさえましょう。

保険代理店とは

保険代理店とは、「保険の契約の仲介を行う事業者」を指します。街中にもよく保険を販売する代理店の店舗を見かけますし、インターネットで保険の販売をする事業者も増えているので、馴染みがある方も多いのではないでしょうか。
主な事業者は、法人・個人・財団などです。
保険代理店は保険会社と業務委託契約を結び、内閣総理大臣による登録を受け事業を行っています。

保険代理店のM&Aの代表的な方法

保険代理店のM&Aの代表的な方法は以下の2つです。

・株式譲渡(会社売却)
株式譲渡では会社そのものを譲り渡します。売り手は、大手企業や同業者などを対象として、自社の株式を売却します。この株式譲渡は比較的簡易な手続きで売買を終えられる特徴があります。株式の売買契約を交わし、対価が支払われれば、取引は完了です。従業員の雇用や保険契約も引き継がれるので、新たに個別に契約を結び直す必要がありません。

・商権譲渡(事業譲渡)
株式譲渡では会社そのものが売却対象でしたが、商権譲渡の売買の対象は営業権のみです。また注意点としては、通常の事業譲渡とは異なっており、保険代理店業務の営業権のみを譲渡します。
商権譲渡は売却・買収側の双方にメリットがある手法です。売却側は商権を譲り渡す事で、まとまった資金が会社に入ります。それによって商権譲渡した会社は主力事業の拡大を図れます。
また、買収側は、特定の事業だけを引き継げるので、その他の事業や不要な資産を引き継がずに済むというメリットもあります。

 

保険代理店がM&Aを行う理由は?


続いては保険代理店がM&Aを行う理由を考えていきましょう。
まずは簡単に保険代理店業界の現状と代表的なM&Aについて整理した上で、なぜ保険代理店がM&Aを行うのかまとめてみました。

保険代理店業界の現状

まずは少子高齢化や金融自由化、景気の低迷といった環境の変化の影響を保険代理店業界も当然受けています。
さらに近年では、従来の訪問営業による販売の他にも、お客様の来店による販売やインターネットを活用した新たなビジネスモデルも登場しており、保険代理店業界の競争は激化しています。このような状況を受けて、特に中小の保険代理店の経営環境は厳しくなってきていると言えます。

保険代理店の主なM&A

保険代理店のM&Aには主に以下の3つがあります。

・大企業のM&A
さらなる事業規模の拡大を目的とした大手企業によるM&Aです。
実例を挙げると、生命保険の大手である第一生命保険は、2018年にアルファコンサルティングを買収しています。アルファコンサルティングは乗合型保険代理店業を営んでいました。このM&Aにより、第一生命保険はよりお客様の動向に合った幅の広い商品提供が可能となっています。

・中小の保険会社同士のM&A
前述の通り、中小の保険代理店の経営は近年特に厳しくなってきています。
そんな中、事業の選択と資本の集中をして事業を継続しようと、中小の保険会社同士のM&Aも活発です。
例えば2018年には幸楽苑ホールディングスは子会社の保険代理店事業を、ヒューリック保険サービスに譲渡しています。

・事業承継目的のM&A
後継者不足で頭を悩ませるのは、何も職人の世界の話だけではありません。保険代理店においても、高齢者の経営者は目立ちます。そのため、保険代理店でも後継者が見つからず、第三者に経営を譲り渡すケースも増えてきています。

保険代理店がM&Aを行う理由(まとめ)

ここまでにもいくつか保険代理店がM&Aを行う理由は登場していますが、改めてどのような理由があるのか、以下にまとめました。

・会社のさらなる成長と拡大のため
・事業の選択と集中を進めるため
・後継者がいないため
・アーリーリタイアしたいため
・経営者の健康に問題があるため

M&Aを行う具体的な理由は会社によって様々ですが、上記の理由が当てはまるケースが多いようです。

 

保険代理店のM&Aを行うタイミングは?


実際にM&Aを検討している方もいらっしゃると思いますが、どのようなタイミングでM&Aは行うべきなのでしょうか?
自社と外部の要因に分けて、それぞれ考えていきましょう。
事業意欲と業績ごとにM&Aのタイミングを考える
同じ保険代理店といっても、自社の状況は様々です。以下の4つのパターンに分けて、それぞれのM&Aのタイミングをみていきましょう。

・パターン1:意欲高 業績良
需要と供給から考えるとかなり良い売り時です。
理由は当然ですが業績もよく、更に社員の士気を高める経営者自身のモチベーションが高いためです。買い手からみても魅力的に映ります。しかし実際にこの状態で売却する経営者がいるかというと、ほとんどいません。後継者問題等がなければ、特に売却する理由がないからです。

・パターン2:意欲高 業績悪
この状態の場合、業績の改善が急務のため、売却を視野に入れつつも収益性の高い事業への一本化や、他社とのアライアンスなどあらゆる選択肢を検討したいところです。よって売却については判断が分かれると思いますが、選択肢として検討しても悪くはないでしょう。

・パターン3:意欲低 業績良
現実的に考えると最も良い売り時です。
まずやはり業績が良いので、有利な条件での売却可能性が高まります。一方で、社長の意欲が低い状態が続くと、業績のキープは困難です。従業員も敏感にムードを察知するので、離職や、現場のミスの可能性も高まるかもしれません。そのような状態になって価値が下がる前に、売却という選択肢を検討すべきです。

・パターン4:意欲低 業績悪
売却の難易度では4つのパターンの中で最も難しい状態です。
しかしだからといって諦めずに常に売却のチャンスを探っておくと良いでしょう。なぜなら実際に売却できるかどうか、良い相手が見つかるかどうかはタイミングだからです。業績回復の見込みが正直難しいという判断の場合は、今後もより業績が悪くなり、倒産に追い込まれる場合も考えられます。より本格的に、そして早めの売却の検討をお勧めします。

業界の動きもタイミングに影響する

自社の経営状態も大切な要因ですが、世の中の景気や出来事もM&Aに影響します。例えば業界再編や景気が上昇すると、M&Aの需要は高まります。M&Aを成功させたいのであれば、こういった時期も逃してはいけません。
ただこういった状況はチャンスなのですが、欲をかきすぎるのは要注意です。売却価格の高騰に便乗しようと売却を引き延ばした結果、ブームが収まって結局会社を売るタイミングを逃してしまう、ということがよくあるからです。
業界の動きをこまめにチェックして、最良のM&Aのタイミングを見極めましょう。

 

保険代理店のM&Aを実施するのは誰か?


ここではM&Aを実際に行う際の主な登場人物をまとめてみたいと思います。

・会社を売りたい経営者
まずは当事者である会社を売りたいと考える経営者が挙げられます。M&Aも需要と供給で成り立つので、会社を手放したいと考える経営者がいなければ成り立ちません。

・会社を買いたい経営者
M&Aなので会社を売りたい方だけでなく、当然、会社を購入したいと考える経営者の存在は必須です。自社をより成長させ事業規模を拡大させるためにも、条件にマッチした売却を希望する会社を探さなくてはなりません。

・M&Aアドバイザリー(仲介業者)
実際のM&Aの交渉の様々な局面でサポートしてくれるのがM&Aアドバイザリーです。M&AアドバイザリーはM&Aにおけるすべての業務をサポートしてくれるスペシャリストで、実際にM&Aを行う際にM&Aアドバイザリーの存在は欠かせません。

M&A専門のコンサルタントともいえるでしょう。

 

保険代理店のM&Aの相談先は?


最後に保険代理店のM&Aを行う際の相談先について解説します。
M&Aに興味を持っているけど、何から手をつけて良いか分からないという経営者の方も多いと思います。そんな時は焦らずに最適な相談先を見つける事から始めてみましょう。

主なM&Aアドバイザリー

さきほども記載しましたが、M&AアドバイザリーというM&Aの相談を得意とするプロフェッショナルがいます。
M&AアドバイザリーはM&Aの専門家で、主に以下の二種類存在します。

・M&A仲介会社
M&A仲介会社は、文字通り買い手と売り手の間に入って仲介します。
このM&A仲介会社がM&Aアドバイザリーとして起用されるケースが多いのは、中小企業のM&Aです。M&A仲介会社の特徴としては、売り手と買い手の双方の利益をどちらも出来る限り大きくするために行動します。M&Aの一連の業務においても、M&A仲介会社の多くは、買い手と売り手の会社同士のマッチングだけではなく、クロージングまでの業務を一貫して行います。

・FA(ファイナンシャルアドバイザー)
FAとは、M&Aの専門的な知識を豊富に持った専門家で、経営者などに対してアドバイス業務を行います。
FAは、会社を買う側か会社を売る側のどちらかに専任で付いた上で、M&Aの多岐にわたる専門的な業務を遂行します。FAの特徴としては、自身が付いている会社の利益がより大きくなる様に、M&Aに取り組みます。FAが起用されるケースが多いのは、上場企業同士のM&Aなどです。

M&Aアドバイザリーに相談するメリット

M&Aアドバイザリーを利用するメリットは様々ですが、今回はその中でも、代表的なメリットを紹介します。

・M&Aの知識不足を補える
M&Aを実際に行うとなると、行うべき実施項目や検討項目も多岐に渡りますし、求められる専門的な知識も膨大です。日々の経営だけでも多忙を極めるであろう経営者の方で、M&Aにも精通されている方はなかなか少ないと思います。
そんな経験や知識の補完をM&Aアドバイザリーは行ってくれます。M&AアドバイザリーはM&Aの様々な面でサポートしてくれるので、これ以上ない頼もしい味方になってくれるでしょう。

・本業に集中できる
M&Aを実際に完了させるのは簡単な事ではありません。時間もそれなりにかかってしまうケースが多く、早くても数か月、長引く場合だと1年以上かかってしまう事も珍しくはありません。ここからもM&Aには手間がかかることが伝わるかと思いますが、同時にこなさなければならない実務の量もなかなかに膨大です。このことからも分かるように、M&Aを検討する企業が誰の力も借りずに単独でM&Aを実行するのはあまり現実的ではありません。本業務もこなさなければならないのですから、尚更に困難を極めるでしょう。
そんな際にM&Aアドバイザリーを活用すれば、さきほど述べた悩みの大半は解消されます。負荷の高いM&Aの実務は基本的にM&Aアドバイザリーに任せる事が可能なので、経営者は本来の業務に集中できます

・最良のM&Aの売却先を見つけやすい
さっそくM&Aを実施しようと思っても、買い手を探す事は大変困難です。そんな際にM&Aアドバイザリーに業務を依頼すれば、最適な売却先に出会える確率が格段に上がります。
M&Aアドバイザリーは全国に広がるネットワークを持っており、自社を購入したいと考える企業を迅速に探してくれます。M&Aの成功確率をぐっと上げたいのであれば、M&Aアドバイザリーにサポートを依頼した方が賢明です。

最良なM&Aアドバイザリーを選ぶポイント

M&Aを成功させるためには、最適なM&Aアドバイザリーを選ぶのは必須と言えます。自社にマッチしたM&Aアドバイザリーを見極めるポイントはいくつかありますが、その中でも特に重要視すべき2つのポイントを以下に解説します。

・得意分野が自社に合っているか
一口にM&Aアドバイザリーといっても、それぞれ得意としている業種やM&Aの種類は異なります。事業承継に強いM&A仲介会社もあれば、医療分野のM&Aが得意なM&A仲介会もいます。自社の行いたいM&Aを明確にした上で、最適なM&Aアドバイザリーを選びましょう。

・税務知識量が豊富にあるか
M&Aを行う過程で税金の知識は必須です。大半の経営者はM&Aを実行する際に節税を検討するはずです。
したがって、税務の知識が不足しているM&Aアドバイザリーが節税を行うことは、場合によっては脱税に該当してしまうなどのリスクが高まってしまいます。
そのため、M&Aアドバイザリーの選定をする際は、公認会計士や税理士が多く在籍している会社や、その様な専門家との繋がりを持つM&A仲介会社を選んだ方が無難です。

 

まとめ

本記事では保険代理店のM&Aの現状から具体的な方法、実際にM&Aを行う際のアドバイザリーの選び方まで幅広い内容をご紹介いたしましたが、いかがでしたでしょうか。M&Aは会社の存続や更なる拡大を考えると、昔よりもずっと身近な手段になっているのだなと驚かれた方も少なくないと思います。M&Aを成功に導くためにもしっかりと情報を収集して、周到に準備を進めていきましょう。

 

保険代理店のM&Aを実施する前に考えておきたいこと
M&AとはMerger and Acquisition(合併と買収)の略で、企業の合併や買収の総称です。一昔前は敵対的な印象を持つ言葉でもありましたが、近年ではお互いの利益のために協力するために行われるものとして、日本でもM&Aの利用は活発です。
様々な業界でM&Aは行われていますが、保険代理店業界においてもM&Aは広く用いられています。
今回はそんな保険代理店のM&Aについて詳しくみていきたいと思います。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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